異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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クレイドル計画

 

 湿った地面に掘った穴の中へと、次々に死体を放り込んでいく。

 

 散弾に上顎から上を抉り取られ、血まみれの舌と歯があらわになった死体。14.5mm弾が直撃したせいで上半身を抉り取られ、グチャグチャになった肉と背骨の断面が見えている死体。グレネード弾の爆風でバラバラになった肉片。爆風か弾丸で吹っ飛ばされた、人間の頭。

 

 雨が降るだけで崩れてしまいそうな穴の中へと、濃密な血の臭いを発する死体たちを放り込んでいく。肉片や死体の一部を投げ込む度に、べちゃ、という音が穴の中から聞こえてきて、鼓膜の中へと流れ込んでくる。

 

 基本的に、討伐を行ったクソ野郎の死体はそのまま放置することにしている。人々を虐げていたようなクソ野郎の死体は、しっかりと埋葬してやる価値もない。そのまま腐臭と血の臭いを発しながら腐敗し、魔物の餌になるのがお似合いである。

 

 けれども死体を片付けなければならないケースもある。例えば敵にそのクソ野郎が排除されたということを知られたくない場合や、近隣に街などがある場合である。

 

 今回の理由は後者だ。街が近くにある状態で死体を放置すれば、猛烈な血の臭いで魔物たちが寄ってきてしまう。最悪の場合はそのまま近くの街へと攻撃を始めることもあるので、何の罪もない人々に被害が出ないように処理しておく必要がある。

 

 というわけで、俺たちは湿った地面をスコップで必死に掘り、その中に麻薬カルテルの連中の死体をひたすら放り込んでいた。死体の4割は原形をとどめていないので、場合によっては死体の手足ではなく、泥まみれになった肉片や内臓を掴んで放り込まなければならなかった。

 

 仕留めたクソ野郎たちの死体を放り込み終えたスペツナズの兵士たちは、今度はカルテルの連中が倉庫の中に保管していた麻薬の入った木箱を、その穴の中へと放り込み始める。

 

『お、おい、止めろ! 放せ、この奴隷共が!』

 

 兵士たちが容赦なく麻薬の入った木箱を穴へと放り込んでいくのを見守っていると、フランセン語の罵声が聞こえてきた。メニュー画面を開いて火炎瓶を10個ほど生産し、仲間たちに渡す準備をしながらちらりとそちらの方を見て見ると、2人のハーフエルフの兵士に押さえつけられた中年の男性が、死体や麻薬の入った木箱で埋め尽くされている穴の近くへと連れて行かれているところだった。

 

 カルテルの生き残りだろうか。薄汚れたズボンの太腿の辺りには弾丸が空けたと思われる穴と血痕があり、そこを弾丸で撃たれていることが分かる。もし仮にあの屈強な兵士たちを振り払ったとしても、両足を撃たれているのだから逃げられるわけがない。

 

 火炎瓶を左手に持ったまま、俺はそっちの方へと向かった。

 

『てめえら、よくも俺たちの拠点を…………! 絶対皆殺しにしてやるからな、この薄汚いハーフエルフ共が!』

 

「なあ、こいつなんて言ってんだ?」

 

「さあ? 同志団長なら分かるんじゃないか? あの人いろんな言葉を喋れるし」

 

 どうやらあの兵士たちはフランセン語が分からないらしい。

 

 首を傾げながらその生き残りを穴へと運んでいく兵士たちを呼び止めると、罵声を発していたカルテルの生き残りがこっちを睨みつけてきた。

 

「こいつは?」

 

「倉庫の屋根裏部屋に隠れてたんです。奴隷かと思って助けようと思ったんですが、カルテルの連中の生き残りだったみたいで、いきなりナイフを引き抜いて襲い掛かってきたものですから発砲しました」

 

「…………他に残ってる奴はいないだろうな?」

 

「はい、こいつが最後の生き残りです」

 

「……………念のためもう一度確認してきてくれ。こいつらはここで根絶やしにする」

 

「了解です、同志団長」

 

 クソ野郎共は根絶やしにするべきだ。

 

 こいつを運んできた2名のハーフエルフの兵士は俺に敬礼すると、踵を返してAN-94を構え、再び他に生き残っている敵がいないか確認するために建物の中へと入っていく。カルテルの兵士たちが壊滅したとはいえ、生き残っている兵士が待伏せしようとしている可能性もあるため、しっかりと警戒しながら建物の中へと入っていった。

 

 兵士たちが油断していないことを確認して安心しつつ、目を細めながら傍らに座っている中年の男性を見下ろす。

 

『おいおい、女の子がリーダーなのかよ』

 

 俺がリーダーだと誤解しているらしいけれど、残念ながらスペツナズの指揮を執るのは吸血鬼の巨漢(ウラル)だ。それに俺は男だからな。

 

 自分たちのカルテルを壊滅させた謎の部隊の隊長が女だった上に、まだ未成年だったから侮っているのだろう。ニヤニヤ笑いながらこっちを見上げてくるクソ野郎をぶん殴ってやろうかと思ったが、俺はそのままクソ野郎を見下ろし続けることにした。

 

 やがて生き残っている兵士がいないか確認しに行った兵士たちも戻ってくる。どうやら他に隠れている生き残りの連中はいないらしい。

 

 なので、こいつをぶち殺せばカルテルの殲滅は完了ということだ。ヘリが到着するまではあと3分ほど時間があるので、その前に火を放てばヘリの着陸地点の目印にもなるだろう。

 

『おい、分かってるのか? 俺たちの後ろ盾には議会の議員が―――――――』

 

『ああ、残念だけどその議員はついさっき死んだらしい。馬車の”事故”でな』

 

『…………え?』

 

 先ほどからニヤニヤ笑っていたカルテルの生き残りの顔が青ざめる。どうせカルテルと取引をしている議員にこの襲撃を報告し、テンプル騎士団へと報復してもらうつもりだったのだろう。議員が後ろ盾だからこそ、仲間を皆殺しにされてもこっちを見ながらニヤニヤする事ができていたに違いない。

 

 けれども残念ながらその議員は、数分前に馬車で崖から転落するという”事故”で死亡したという。なのでこのカルテルにはもう後ろ盾など存在しないし、構成員の大半が死亡しているのだから、もうこのカルテルは機能しないだろう。

 

 それに、もし仮に議員に今回の剣を報告したとしても、フランセン共和国はテンプル騎士団に惨敗したばかりだ。騎士団の装備ではテンプル騎士団に勝利することはできないということが実証されたばかりだし、騎士団を派遣したとしても、他国からは「フランセンが武力で強引に植民地を取り戻そうとしている」と見なされ、また避難される羽目になるだろう。

 

 というわけで、こいつらの後ろ盾が議員だったとしても全く意味はないのだ。もちろん、麻薬カルテルを支援するようなクソ野郎にも消えてもらったが。

 

『う、嘘だ……………』

 

『安心しろ、これからあんたらの後ろ盾と再会させてやる』

 

 狼狽するカルテルの生き残りにフランセン語でそう告げた直後、近くでアンチマテリアルライフルを担いだままカルテルの生き残りを冷たい目つきで見下ろしていたボレイ8が、OSV-96の銃床を、その中年の男性の顎へと思い切り振り上げた。

 

 筋肉で覆われた剛腕によって振り上げられた長大なライフルの銃床を叩き込まれた男の首が、がくん、と後ろに大きく揺れたかと思うと、そのまま身体が浮かび上がる。荒々しい運動エネルギーに突き飛ばされた男はあっさりと吹っ飛ばされると、そのまま穴の縁に激突し、泥まみれになりながら仲間たちの死体の上へと転がり落ちていった。

 

 そのうちに、他の仲間達へとさっき生産した火炎瓶を支給しておく。60人分の死体と大量の麻薬が収まった穴なのでそれなりに大きいが、火炎瓶が10本くらいあれば焼き尽くすことはできるだろう。それに煙がヘリの着陸地点の目印になるに違いない。

 

 仲間たちの死体や内臓の一部がぎっしりと放り込まれた穴の中から、さっき突き落とした男の叫び声が聞こえてくる。穴の中には60人分の死体―――――――正確には59人だろう。これから1人追加されるけど―――――――の死体が転がっているし、穴の中は湿っているから這い上がるのは困難だ。俺たちが彼を助けるためにロープを降ろしてやらない限り、脱出することはできない。

 

 けれども、もちろんそいつを助けるつもりはない。

 

 あんな死体と内臓だらけの穴の中に落ちたらトラウマになるだろうな、と思いながら、俺たちは着火した火炎瓶を容赦なく穴の中へと放り込んだ。

 

 パリン、と瓶が割れる音が何度か聞こえてきたかと思うと、バラバラになった死体や麻薬の入った木箱に燃え移った炎が、瞬く間に穴の中の死体を燃やしていく。10秒足らずで火の海と化した穴の中で、火達磨になりながら暴れ回る1名の生存者を一瞥した俺は、息を吐いてから踵を返す。

 

 焼かれてろ、クソ野郎が―――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボレイチームの連中も成長したな」

 

 市街地での戦闘を想定した訓練区画の訓練場の中で、編成されたばかりのシエラチームの兵士たちと訓練をするボレイチームを見守りながら、隣に立っているウラルがそう言った。

 

 数時間前に参加した麻薬カルテルの殲滅作戦では、敵が60名もいたにもかかわらず負傷者は0名で、当たり前だけど戦死者も出ていない。それにあいつらに捕らえられていた奴隷たちを全員救出することにも成功している。

 

 最高の戦果だ。

 

 救出目標を全員無傷で助け出した上に、排除しなければならない標的も全て排除し、負傷者を出さずに戻ってきたのだから。

 

 まだ未熟な兵士たちだが、もう俺があいつらと一緒に戦場に行く必要はないだろう。

 

「すまないな、団長。あんたまで行かせてしまって」

 

「気にするな。大事な仲間を失うよりはマシだよ。新しいショットガンもアンロックできたしな」

 

 そう言いながらウラルにアイスティー入りのカップを手渡し、シエラチームが立て籠もっている建物の中へと容赦なくスモークグレネードを放り込むボレイチームの兵士たちを見つめた。

 

 彼らが救い出した奴隷たちの中には、カルテルの連中から暴行を受けて衰弱していた奴隷もいたため、現在はタンプル搭で一時的に受け入れて治療している。基本的には回復次第すぐに故郷へと送り返す予定だし、もし故郷がすでに壊滅していたり、タンプル搭に残ることを希望するのであれば受け入れる予定である。

 

 既に売られてしまった奴隷たちを捜索するため、あの拠点で回収してきたカルテルの奴隷の販売記録をシュタージが確認中だ。派遣しているエージェントからの情報が送られてくれば、すぐにボレイチームとアクーラチームが派遣されることになるだろう。

 

 奴隷を助けるだけでなく、ちゃんと家族と再会させてあげなければならない。

 

「それにしても、クソ野郎ばかりだな」

 

「全くだ」

 

 人々を虐げているのは、転生者だけではない。街や村に住んでいる住民たちを苦しめている領主や貴族もいるし、植民地の人々を奴隷として販売し、私腹を肥やす商人共もいる。

 

 だからこそ、そういう奴らを蹂躙する絶対的な力が無ければならない。

 

「―――――――なあ、ウラル」

 

「なんだ?」

 

 声をかけると、訓練を見守っているウラルは腕を組んだまま答えた。

 

「苦しんでいる人たちを救うにはさ……………俺たちが”揺り籠(クレイドル)”を作る必要があると思うんだ」

 

「揺り籠?」

 

「ああ」

 

 未だに先進国や発展途上国では、当たり前のように奴隷たちが販売されている。植民地から連れて来られた人々や、戦争で敗れた騎士団の捕虜たち。男たちは過酷な労働をさせられたり、粗末な装備を支給されて最前線へと送られるのが当たり前で、女の奴隷たちはクソ野郎共に犯されるしかないのである。

 

 モリガンの傭兵たちはその世界を変えるために努力し続けているが、未だに奴隷が違法になっている地域はエイナ・ドルレアンか、このカルガニスタンのみ。

 

 だから俺はもう、この世界を変えることを諦めようと思う。

 

「虐げられている人々を救って、この世界を捨てようと思うんだ」

 

「何だって?」

 

 正確には、人々を虐げていたクソ野郎だけを世界に置き去りにする。そして救った奴隷たちだけで、決してクソ野郎共に支配されることのない楽園を作るのだ。

 

「―――――――俺たちの力で人々を救って、”揺り籠(クレイドル)”を作りたい」

 

「…………おい、正気か? この世界には何百万人も奴隷がいるんだぞ?」

 

「分かってるよ。少なくとも、俺が棺の中で眠る前に達成できる計画ではない。……………だからさ、この計画を子供たちや子孫たちに託したいんだよ。それにお前は寿命が長いから、きっと子孫たちと一緒にこの計画を成功させてくれる筈だ」

 

 キメラは圧倒的な身体能力を誇る新しい種族だが、他の種族よりも寿命が短い。平均的な寿命は65歳らしく、50歳に達すると急激に身体が老いて行くという。つまりキメラたちにとっては、50歳が”定年”ということだ。

 

 だからこの計画が成功するのは、子孫たちの時代になるに違いない。

 

 逆に吸血鬼たちの寿命は非常に長い。信じられない話だが、中には1000年も生きた吸血鬼もいるという。だからきっとイリナやウラルは、俺や俺たちの子孫たちが次々に老衰で死んでしまったとしても、ずっと若い姿のままなのだろう。

 

 どれだけクソ野郎を消してもこの世界が変わらないというのであれば、こんな世界をとっとと捨てて、自分たちで新しい世界を作るしかない。

 

「ふん……………だが面白い計画だ。確かに世界が変わらないなら、俺たちで新しい世界を作ってしまったほうがいいのかもしれん」

 

「付き合ってくれるか?」

 

「安心しろ、吸血鬼はキメラと違って寿命が長い。計画はお前らの子孫と一緒に成功させてみせるさ」

 

 そう言いながらこっちを振り向き、ニヤリと笑うウラル。俺は安心しながらティーカップに手を伸ばすと、ジャムの入ったアイスティーを飲み干してから椅子から立ち上がった。

 

「Спасибо(ありがとよ)」

 

「おう、任せろ」

 

 彼に礼を言ってから、俺は訓練区画を後にした。

 

 この計画が成功するのが何年後になるのかは分からないけれど、きっと俺やラウラの子孫たちならばやり遂げてくれる筈だ。虐げられていた人々を救うための揺り籠を作り上げ、計画を成功させてくれるに違いない。

 

 その”揺り籠(クレイドル)”を作るために、俺たちは血まみれになりながら戦うのだ。

 

 ”鉄”と”血”で作られた少しばかり物騒な揺り籠だけど―――――――少なくとも、その中に安寧がある筈なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

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