異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
タンプル搭の地下には、モリガン・カンパニー製の魔力認証装置と武装した警備兵たちに守られた”研究区画”と呼ばれる区画がある。その中では技術者だった団員たちや錬金術が得意な団員たちが、その技術を駆使して様々な研究を行っている。
例えば薬草に詳しい技術者が、陸軍の部隊に持ってきてもらった薬草を調合して新しいエリクサーなどの回復アイテムを開発しているし、毒物に詳しい技術者たちは新しい毒ガスの開発を行っている。その毒ガスを作ろうとしている技術者たちは『どんな防護服やガスマスクでも防げない最強の毒ガスを作る』と言って様々な毒物を世界中から取り寄せているらしいんだが、そんな代物を作ったらこっちも危ないんじゃないだろうか。
回復アイテムを作ってる同志たちは善良な技術者だけど、あいつらはマッドサイエンティストだな…………。
他にも、魔物を生け捕りにして微笑みながら解剖している変態もいる。前に視察しに行った時にそいつの研究室を見たんだが、同行していた護衛の兵士が5秒くらいその部屋の中を見てからトイレに猛ダッシュし、個室の中で吐いていた。
机の上や棚の中に、変な液体と一緒に容器の中に収められた魔物の内臓や骨がこれでもかというほど並んでたんだよ。俺とラウラは顔をしかめるだけで済んだけど、戦場で死体を見た事のない新兵や警備兵が見たら九分九厘吐くだろう。
研究区画は、要するにタンプル搭の中に作られた研究所のようなものだ。毒ガスを作ろうとするマッドサイエンティストや、笑顔で魔物を解剖するド変態も所属しているが、中には錬金術を応用して防御力を上げた防具を作ろうとする熱心な錬金術師もいるし、ダンジョンの中で発掘された古代文字の書かれた本を解読しようとしている真面目な考古学者もいる。
非常に危険な研究をしている区画だし、中にはテンプル騎士団の機密情報もあるので、重要な区画である戦術区画と同等の警備が行われている。巡回している警備兵は当たり前のようにアサルトライフルやショットガンを携行しているし、中にはライオットヘルメットとがっちりしたボディアーマーに身を包み、Kord重機関銃を装備している兵士もいる。
ちなみに、天井にはちゃんと監視カメラも用意してある。それに研究区画に入るためには”魔力認証装置”で魔力の認証をしなければならないので、爆薬で分厚いゲートを吹っ飛ばさない限りこっそりと侵入するのは不可能だろう。
魔力認証は、簡単に言うと指紋認証のようなものだ。魔力にはあらゆる情報が含まれているので、それを利用して認証を行うのである。
この研究区画を建築する際に、研究区画で働いている技術者たちの7割を占めるド変態たちが『機密情報を迅速に処分するため、自爆装置を設置してほしい』という要求を円卓の騎士たちに提出したんだが、円卓の騎士たちは全員却下している。
そんなことしたら大切な団員たちを死なせる羽目になるし、研究区画を吹っ飛ばすほどの量の爆薬を使って自爆したら、他の区画にも被害が出てしまう。それに地上には炸薬がたっぷりと搭載されているタンプル砲もあるので、最悪の場合はタンプル搭そのものが自爆と一緒に吹っ飛ぶことになる。
それに、ド変態共がこんな要求をしてきた理由が『必死に脱出しようとする侵入者の顔を見て楽しみたいから』というとんでもない理由である。他の区画へ被害が出るという理由で全員で却下したが、多分他の円卓の騎士たちも、このド変態共の狂気のほうが、研究区画の自爆よりも恐ろしいと判断したからに違いない。
魔力認証を済ませ、警備兵にお礼を言ってから研究区画へと足を踏み入れる。分厚い扉の向こうへと進んだ途端、先ほどまで通路を支配していたオイルの臭いがあっさりと消滅し、薬品の臭いが俺の嗅覚を支配する。
この薬品は何の薬品なんだろうかと思いながら通路を進み、研究室の扉の前を通過していく。
『ヒヒッ…………ほら、動いちゃダメだよぉ…………。あぁ……………………最高だねぇ、
『やりましたよ主任! 新型の毒ガスが完成です!』
『どのような効果なのかね?』
『はい、ガスに10秒以上触れると肉体が急激に腐敗していくんです! しかも防護服も腐食させて無効化できるので、この毒ガスを防ぐことは不可能です!』
『素晴らしいじゃないか! 同志団長に表彰してもらえるぞ!』
『光栄です!』
『……………ところで、君の肌がちょっとずつ変色してるんだが大丈夫なのかね?』
『ご安心ください、ちゃんと治療薬も準備してあります。……………すみません、主任。その容器取ってください…………ガフッ、まだ死にたくないんで』
大丈夫かこいつら。
や、やっぱり自爆装置は付けた方が良さそうだな。毒ガスが漏れた時に処分できそうだし……………。
研究室の前を通過しつつ、やっぱり自爆装置を用意してもらった方がよかったんじゃないだろうかと思いながら奥へと進んでいく。
「お疲れ様です、同志団長」
「お疲れ様。ステラは?」
研究室の中から出てきたハイエルフの女性の技術者に尋ねることにしよう。
彼女はまともな技術者らしく、両手で薬草の入った木箱を抱えている。さっき扉が開いた時に中からエリクサーの匂いもしたし、彼女はエリクサーの開発を担当しているのだろうか。
「ステラさんだったらいつもの研究室ですよ」
「ありがとう」
やっぱりステラはあの研究室か。
ハイエルフの女性にお礼を言ってから、更に研究区画の通路を進んでいく。研究区画の構造は居住区にそっくりで、通路の左右にここで働いている研究者たちのための研究室がずらりと並んでいる。ある程度奥へと進むと大きめの研究室もあるんだけど、そういう研究室では数名の技術者が共同で研究をしていたり、大規模な研究を行っているのだ。
ここにいる研究者たちにも個室は与えているんだけど、熱心なド変態たちは逆に私物を研究室に持ち込んで寝泊まりし、ずっとそこで研究をしているという。中には解剖された魔物の死体の隣にベッドを置いて眠るド変態もいるらしい。
通路をしばらく進んでいると、薬品や実験用の道具ではなく、古文書や錬金術の教本がずらりと並んでいる大きめの研究室に辿り着いた。いつもステラはこの研究室でメサイアの天秤が保管されている”天空都市ネイリンゲン”の調査をしているのだ。
部屋の中を覗いてみると、やっぱり白衣に身を包んだ銀髪の幼女が、木箱の上に乗って本棚の上に並んでいる分厚い古文書を抱え、机の上でそれを読んでいるのが見えた。
「よう、ステラ」
「あ、タクヤ。お疲れ様です」
「調査の方は順調かな?」
彼女に尋ねると、ステラはやっぱり首を横に振った。どうやらまだ天空都市ネイリンゲンがある場所は分かっていないらしい。
テンプル騎士団はもう既に天秤の鍵を4つ確保している。後はメサイアの天秤が保管されている天空都市ネイリンゲンへと向かえば、願いと同じ価値の対価が無ければ願いを叶える事ができない不完全な天秤を手に入れる事ができるというわけだ。
俺たちの目的は天秤で願いを叶える事ではなく、この不完全な天秤を消滅させ、天秤の正体を知らずにメサイアの天秤を手に入れようとしている冒険者たちや、自分の命と引き換えに親父を生き返らせようとしているガルゴニスを救うことである。
とはいっても、消す前に願いを叶えてもらう予定だけどね。対価は用意できてるし。
あとはステラが天空都市ネイリンゲンの場所を突き止めるだけで、メサイアの天秤の争奪戦に終止符を打つ事ができるというわけだ。天秤に関する資料は古代語で書かれているので、その難解な古代語が母語のステラでなければ場所の調査どころか解読すらできない。
だからステラは、いつもこの研究室で調査を続けているのだ。
「俺も手伝おうか?」
そう言いながら近くの古文書を手に取り、中を見てみる。少しなら理解できるんじゃないかと思いながらページを見て見たんだけど、そこに記載されている古代文字の群れを見た瞬間に、俺はステラの手伝いをするのは多分無理だということを悟った。
古文書を埋め尽くしているのは、ハングルにそっくりな古代語の群れだった。古代語は現代の言語よりもはるかに複雑な言語で、考古学者たちも解読するのにかなり時間をかけると言われている。俺もちょっとだけ勉強してみたんだけど、全く分からなかった。
古代文字はハングルにそっくりなんだけど、ステラの発音はスペイン語かロシア語に近いんだよな。
「………読めるのですか?」
「無理です」
やっぱり、この複雑な古代語が母語だったステラに任せるしかなさそうだ。そう思いながら苦笑いし、古文書をテーブルの上に置いた。
けれどもステラはずっとここで調査を続けているという。他の技術者や考古学者も手伝おうとしたらしいんだけど、大半の資料がステラの母語である古代文字で書かれているせいで全く読む事ができなかったため、彼女は1人で作業をしなければならなかったのである。
必死に調査してくれるのはありがたいんだけど、気分転換も必要なのかもしれない。
「なあ、ステラ」
「なんですか?」
「一緒にダンジョンに行かないか?」
「ステラは調査をしなければならないのですが…………」
そう言いながらさっきの古文書を本棚に戻し、木箱に上ってから背伸びしたステラは、小さな手で別の古文書を引っ張り出す。それをテーブルの上に持ってきてから開き、近くに置いてある手帳に古代文字を書き込み始めた。
「暴れたいだろ?」
けれどもそう尋ねると、ステラの小さな手はあっさりと止まった。
最近はここで調査をしているせいで、ステラは殆ど魔物の掃討作戦に参加できていない。訓練には参加しているので錬度は問題ないと思うが、急いで天空都市ネイリンゲンの場所を突き止めなければならないというプレッシャーを感じながら調査を続ければすぐにストレスが溜まってしまうのは想像に難くない。
「…………ええ」
首を縦に振りながら微笑み、再び手帳に古代文字を書き込むステラ。俺は彼女を見守りながら、ニヤリと笑うのだった。
凄まじい数の7.62mm弾が、猛烈なマズルフラッシュに一瞬だけ照らされながら解き放たれ、洞窟の奥から襲い掛かってきたアラクネたちの外殻を容赦なく貫いていく。やはり外殻を持っている魔物に有効なのは大口径の弾丸だな、と思いながら、アラクネたちの体液をまき散らされたせいで紫色に染まった岩たちを照らし出すマズルフラッシュを見つめる。
銃声が反響するせいで、魔物たちの断末魔は全く聞こえない。洞窟の中を支配しているのは銀髪の幼女が無表情でぶっ放している機関銃の銃声と、凄まじい勢いで排出される7.62mmの薬莢の音だけだ。
普段なら14.5mm弾を発射できるように改造したKord重機関銃やガトリング機関砲を使うのだが、今回ステラが使っている機関銃は、テンプル騎士団に配備されている銃の中ではかなり変わった外見をしている。
なんと、銃身とマガジンが2つもあるのである。すらりとした細い銃身の上へとマガジンが伸びており、銃口の近くにはバイポッドが取り付けられているのが見える。
ステラが使っている機関銃は、『ビラール・ペロサM1915』というかなり旧式のイタリア製の機関銃だった。第一次世界大戦に投入された機関銃なんだけど、元々は歩兵が装備する機関銃ではなく戦闘機に搭載されていた機銃だったのだ。
使用する弾薬は大口径の弾丸ではなく、イタリアのハンドガンで採用されていた”9×19mmグリセンティ弾”。ライフル用の弾丸ではなくハンドガン用の弾丸だったので、非常に威力が低いという欠点があったのである。
なので第一次世界大戦に参加したイタリア軍は、こいつを戦闘機から取り外して歩兵に装備させたのだ。
ハンドガン用の弾薬を使うので威力は低いものの、当時の機関銃の中では凄まじい連射速度を誇っていた上に銃身が2つもあったので、これをぶっ放すだけでこれでもかというほど弾丸をぶちまける事ができたというわけだ。
余談だけど、イタリア軍はこのビラール・ペロサM1915をベースに、最初期のSMG(サブマシンガン)の1つである『ベレッタM1918』を開発して第一次世界大戦に投入し、猛威を振るっている。
けれどもさすがに第一次世界大戦に投入されていたかなり旧式の銃だし、使用する弾薬も威力が低いので、テンプル騎士団で採用しているこの機関銃はかなりカスタマイズされている。
まず、使用する弾薬を9×19mmグリセンティ弾から7.62mm弾へと変更し、他の部品も大口径の弾丸を撃てるように変更しておく。マガジンはAK-15のマガジンを使えるように変更しているので、その気になればステラからマガジンを分けてもらうこともできるけれど、連射速度が非常に速い得物なので、多分ステラが弾薬を使い果たす方が早いのではないだろうか。
というわけで、彼女には60発入りのマガジンを支給している。
2つの銃身の間にピストルグリップを装備し、キャリングハンドルも搭載。照準器も搭載しているんだけど、2つの銃身の間にレーザーサイトを搭載しているので、大半の兵士たちはそのレーザーサイトを有効活用しながらピストルグリップとキャリングハンドルを握り、弾丸をぶちまけることになるだろう。
銃身の先端部には、白兵戦を好む兵士たちの要望でスパイク型銃剣が1本ずつ搭載されている。
テンプル騎士団の兵士たちは、最新のライフルを使っているにもかかわらず銃剣突撃を好むド変態たちなのだ。
ちなみにこの近代化改修型のビラール・ペロサM1915はテンプル騎士団では
空になったマガジンを取り外し、ポーチの中から60発入りのマガジンを2つ取り出すステラ。マガジンを2つ交換してコッキングレバーを引いている内に、俺もAK-15のフルオート射撃をお見舞いし、逃げようとしているアラクネを蜂の巣にする。
そして再装填(リロード)を終えたステラのビラール・ペロサM1915が火を噴き、洞窟の奥へと逃げようとしていたアラクネを2体ほど一気にミンチにしてしまった。
「す、すげえ連射力だな…………」
弾丸を大口径の弾丸に変更したせいで、ちょっとしたミニガンのような得物と化している。ヘリに搭載しても猛威を振るうかもしれないな。
キャリングハンドルから小さな左手を外し、2つの銃身が伸びている旧式の機関銃を肩に担ぐステラ。くるりとこっちを振り向いた彼女は、俺の顔を見上げながら微笑んだ。
「調査完了ですね」
「ああ」
彼女と一緒に調査に来ていたのは、タンプル搭から少し離れたところにある洞窟の中だ。危険度はそれほど高くないダンジョンなので、新しい武器の試し撃ちにうってつけである。
ビラール・ペロサM1915を肩に担いだステラと手を繋ぎながら、踵を返して洞窟の出口へと向かう。
洞窟の外はもう真っ暗になりつつあり、灰色の砂漠を駆け抜けていく風も熱風から冷たい風に変貌しつつあった。タンプル搭に戻るよりも、最寄りの街にある宿屋で一泊してから戻った方が良さそうだ。
ラウラには後でそのことを伝えておこうと思いながら、俺はステラを連れて最寄りの街へと向かうことにした。
「あの機関銃は素晴らしいです! これからステラはあの銃を使いますっ!」
「あ、ああ。頼もしいな」
「はいっ♪」
次から次へとハーピーの串焼きを掴み、口へと運んでいくステラ。彼女の傍らに積み上げられているのは、様々な料理が乗っていた皿の塔だ。このままステラが食事を続ければ、この皿の塔が天井へと達して柱と化すに違いない。
ダンジョンを調査したことで、カルガニスタン領内に残っていた冒険者管理局の施設で報酬を貰う事ができたんだけど、その報酬は多分この夕食の食費で消える事だろう。余ったらラノベでも買おうと思ってたんだが。
というか、ステラは主食の魔力以外は吸収できない体質なんだから、こうやって普通の食べ物を食べる必要はないと思う。
旅をしていた頃の出費の3割はステラの食費だったからな…………。
野菜炒めを次々に口の中へと放り込み、ソーセージも放り込んでいくステラ。空になった皿を積み上げて塔をどんどん高くしていく彼女を見つめながら、ポケットの中の財布の中にある金額をチェックする。
ラノベは後で買いに行くべきだろう。
ステラが食事を終えるまで待っていようと思った俺は、テーブルの上に残っているウナギゼリーへと手を伸ばす。
その時、隣のテーブルにある席に腰を下ろそうとしていた黒髪の少年が、持っていたカバンをテーブルの下に落としてしまった。落下した衝撃で開いてしまったカバンの中から、次から次へとびっしりと文字が書かれた何かの原稿が躍り出て、テーブルの下を覆い尽くしてしまう。
「わっ…………!」
「大丈夫ですか?」
そう言いながら席から立ち上がり、俺もその原稿へと手を伸ばす。
原稿に書かれていた文字は、こっちの世界での俺の母語であるオルトバルカ語だった。ちらりと内容を確認してみたんだが、どうやら論文ではなく小説らしい。ラノベだろうか。
「ん?」
タイトルも書いてある。
原稿に書かれていた作品のタイトルを見た俺は、その原稿を見下ろしたまま凍り付いた。
《異世界で魔術師が禁術を使うとこうなる》
そう、ファイアーボールでエイブラムスが破壊されていたあのラノベである。
俺たちの隣で原稿をぶちまけた少年は―――――――このラノベの作者だったのだ。