異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
転生したばかりの頃はびっくりしたけれど、この異世界にもラノベやマンガは存在する。書店に行けば当たり前のように本棚に並んでいて、銀貨1枚くらいで購入する事ができるのだ。昔の紙は貴重品だったからもっと値段が高かったらしいけれど、モリガン・カンパニーが、それまで売られていた紙の価格をバカにしているかのような安い値段で大量に紙を売り始めたため、今では本の値段は急激に安くなっている。
こっちの世界では、まだテレビやパソコンは発明されていない。もちろんゲーム機も開発されていないので、前世の世界のようにインターネットを使ったり、ゲームをプレイすることはできないのだ。なのでマンガやラノベは貴重な娯楽なのである。
とはいっても、大半のマンガは演劇の題材にもされているレリエルと大天使の戦いや、ガルゴニスが率いていたドラゴンたちの反乱などの昔の戦いを題材にすることが多い。最近ではモリガンの傭兵たちの戦いが勝手にマンガの題材にされているようだ。
けれどもラノベをコミカライズした作品も段々と増えている。タンプル搭の自室にあるマンガの大半は、ラノベをコミカライズした作品ばかりだ。
多分、こういうラノベは転生者がこっちの世界で書いたのではないだろうか。前世の世界と比べると娯楽があまりにも少なすぎるので、転生者たちがマンガやラノベを書いて出版し、少しでもこの世界の娯楽を増やそうとしてくれたに違いない。
そのような転生者たちは偉いと思う。彼らのおかげで、この世界の娯楽が増えているのだから。
とはいっても、先進国ですら読み書きができない国民がいるのが当たり前なので、あくまでも読者は教育を受けたおかげで読み書きができる人だけになるけど。
「あ、ありがとう…………」
そう言いながら俺が拾い上げたラノベの原稿を受け取り、茶色いカバンの中へと収めるラノベの作者。俺は微笑みながら他の原稿も拾い上げて彼に渡したんだけど―――――――出来るならば、この原稿と一緒に作者を燃やしてやりたかった。
この作者らしき少年が書いているラノベの内容は、俺や親父がキレるような内容だからである。
ラノベのタイトルは『異世界で魔術師が禁術を使うとこうなる』。要するに、こっちの異世界から俺たちの前世の世界に転生した天才魔術師が、自分の習得した魔術を駆使して様々なトラブルを解決していくという内容だ。
作者は俺たちと同じく前世の世界に住んでいた転生者だからなのか、前世の世界の描写はかなり正確だ。挿絵には高いビルが支配する都会の風景が描かれているし、文章にもちゃんとこっちの世界の都市と前世の世界の都市の違いが描写されている。
面白いとは思うんだが―――――――魔術で現代兵器が瞬殺されていくシーンは、絶対に許せない。
書店で立ち読みした時に目にしたシーンを思い出しつつ、俺は微笑みながら拾い上げた原稿を次々に彼に渡していった。
主人公はこちらの世界で騎士団の魔術師部隊にスカウトされたばかりの天才魔術師だ。なので様々な魔術を習得しており、非常に戦闘力は高いのだが―――――――いくら天才魔術師でも、ファイアーボールごときでアメリカ軍のエイブラムスの正面装甲を貫通させるのは不可能だと思う。
仲間がファイアーボールを使っているのを見たことはあるけれど、ファイアーボールの攻撃力は間違いなくロケットランチャーの対戦車榴弾以下だ。優秀な魔術師がぶっ放しても、グレネードランチャーの対人榴弾くらいの威力なのではないだろうか。
しかもそれをぶち込んだのは、装甲が最も分厚い正面装甲。ロケットランチャーの対戦車榴弾ですらそれを貫通するのは難しいので、側面や後部にぶち込むのが鉄則と言っても過言ではない。なのにこのラノベの作中ではファイアーボールで分厚い正面装甲を貫き、あっさりとエイブラムスを撃破しているのである。
犠牲になった現代兵器はエイブラムスだけではない。
アメリカ軍のF-22もファイアーボールであっさりと撃墜されているし、ロシアのT-14も同じく正面装甲を貫通されたり、土属性の魔術で発生した地殻変動で各座しているシーンもあるのだ。他にもT-90やPAK-FAが撃破されているシーンもある。
数日前に発売された新刊を書店で立ち読みしたんだが、今度はロシアのアドミラル・クズネツォフ級が巨大な水の槍で串刺しにされて轟沈したり、ラーダ級が海域ごと氷漬けにされていた。
そう、俺の大好きな兵器たちが作中で蹂躙されているのであるッ!!
さすがに書店の中でラノベを燃やすわけにはいかなかったので、ちゃんとお金を払ってその新刊を購入し、街の郊外でこっそりと燃やしました。
作者に会ったら粛清してやろうと思ってたんだが、こいつが作者なのだろうか。
「もしかして、”異世界で魔術師が禁術を使うとこうなる”の作者さんですか?」
微笑みながら尋ねると、最後の原稿をカバンの中にしまっていた黒髪の少年は顔を上げた。俺をファンだと勘違いしたのか、恥ずかしそうに微笑みながら首を縦に振る。
もしお会いできたら是非
「え、ええ。そうです」
「本当ですか!? ファンなんですよ!!」
「あ、ありがとうございます…………あははっ」
あのカバンを燃やせば最新刊の発売は延期する羽目になるだろうな、と思いつつファンのふりをしていた俺は、違和感を感じた。
基本的にラノベは、オルトバルカにある出版社から出版されている。けれどもここはフランセンのおかげで少しは発展したとはいえ、まだオルトバルカ王国には及ばない発展途上国のカルガニスタンである。原稿をこんなところに持ってきたとしても、それを出版するための会社と設備はオルトバルカにあるのだから全く意味は無い筈である。
ならば、なぜこの作者はカルガニスタンにいるのだろうか。
原稿を拾っているうちに高くなっていた皿の塔を見上げてぎょっとしながら、俺は首を傾げる。というかステラちゃんはまだ食べるつもりなんですかね?
「ところで、なぜカルガニスタンに? 出版社はラガヴァンビウスでは?」
「えっ? ああ、今度小説で砂漠を移動するシーンを書こうと思ってたんです。なのでカルガニスタンを旅行すれば参考になるかなと思って」
「熱心なんですねぇ…………」
できれば現代兵器の性能をもうちょっと調べて欲しかったですけどね。戦車を撃破したいなら、限界まで加圧した魔術で側面か後方を狙わないと撃破できませんよ。
魔術で戦車を撃破する方法を考えているうちに、その作者は懐から懐中時計を取り出した。
本物の親父が母さんとデートに行った時に貰った懐中時計と似ているけれど、デザインが違う。もしかしたら親父の懐中時計と同じ代物なんじゃないかと思ったけれど、あの懐中時計は違うメーカーのものらしい。
「あっ、そろそろ馬車に乗らないと。明後日にはオルトバルカに戻るので」
「もう戻っちゃうんですか?」
「ええ。もう砂漠のシーンは書き終えましたし」
そう言いながら立ち上がり、懐中時計を懐へと戻す作者。その時、彼の上着の内ポケットの中に真っ白な物体が収まっているのが一瞬だけ見えた。
―――――――”第一世代型”の転生者の証である、あの端末だ。
異世界の両親から生まれるわけではなく、17歳の状態まで若返ってこの異世界へとやってくる第一世代型の転生者たちは、あの携帯電話を彷彿とさせる端末で自分の武器や能力を生産したり、ステータスを確認する事ができる。
常に身に着けていないとステータスが下がってしまう上に、あれを破壊されれば全てのステータスと武器や能力が消えてしまうという欠点がある。だから第二世代型の転生者は端末を廃止し、その機能を使う能力を身に着けた状態で転生するという方式に変えたのだろう。
なので、あの端末を持っているのは転生者なのである。第二世代型と違ってすぐに見分ける事ができるのだ。
やっぱりこのラノベの作者は転生者だったか。
ぺこりと頭を下げたラノベの作者がこっちに背を向けると同時に、反射的に目を細めた。
けれどもあの転生者は俺たちが狩っているようなクソ野郎ではないのかもしれない。以前に善良だと思っていた転生者がナタリアを殺そうとしたことがあったから、無意識のうちに警戒してしまったけれど、もし仮にあいつもそういう奴ならばすぐに狩ればいいだろう。
当たり前のように転生者を狩っているせいで、”転生者は敵”と思うようになってしまった。どうしてこの世界にはクソ野郎が多いのだろうか?
ステラが積み上げた皿の塔の高さでも確認しようと思って息を吐いたその時、俺とステラは同時にぴたりと止まった。
この宿屋の食堂の中には、他にも冒険者や旅行客がいる。だから椅子から立ち上がったり開いている席に腰を下ろす人を目にするのは珍しくはないのだが―――――――先ほど食堂から作者が出ていくと同時に、2人の男が目配せしてから立ち上がり、店員に金を払ってから食堂を出て行ったのである。
不自然だな。
その2人の男が立ち上がったタイミングに違和感を感じた俺は、ステラと目配せする。
もう食事は終わりだ、ステラ。
「すいませーん」
「はーい!」
店員を呼ぶと、銀髪のハーフエルフの女性がこっちへと駆け寄ってきた。
「会計お願いします」
「はい。ええと…………金貨1枚と銀貨20枚です!」
ステラが積み上げた皿の塔の傍らで、微笑みながらとんでもない金額を告げるハーフエルフの店員。財布の中に入っているのは金貨1枚と銀貨25枚なので、ステラの食費のせいで俺の所持金は銀貨5枚のみになってしまうということだ。
早くもダンジョンを調査して手に入れた報酬が消滅してしまった。
落胆しつつ財布を取り出し、テーブルの上に金貨1枚と銀貨20枚を置く。ちなみにこの世界の一般的な労働者の年収は金貨4枚か5枚ほどで、金貨が3枚あれば一般的な家をローン無しで建てることができる。
なので、金貨はかなり高額なのだ。
唇を噛み締めながらステラを見下ろすと、彼女はすらりとした自分のお腹をさすりながらうっとりしていた。料理の味が気に入ったらしい。
溜息をつきながらステラと手を繋ぎ、食堂を後にする。
ちょっとばかり尾行してみるとしよう。
「ちょっと運動しようか」
「ええ」
宿屋の外へと出て、内ポケットの中を探るふりをし、当たり前のようにその中に納まっているPSMにサプレッサーを装着しておく。俺のサイドアームはPL-14なんだが、PSMはがっちりしたPL-14よりも小さい。なのでホルスターの中にぶち込んでおくのではなく、こうやって内ポケットの中に放り込んでいるのだ。
もしメインアームとサイドアームを使い果たしてしまっても、俺は敵兵を殺害して装備を鹵獲し、戦闘を継続できるように、いくつも小型の武器を携行している。昔のネイリンゲンにタイムスリップした時に使ったけれど、身に着けているこのベルトにも銃が仕込んであるし、首に下げてある銃の形の首飾りは”コリブリ”と呼ばれる超小型のハンドガンなのだ。
商人の馬車が俺たちのすぐ隣を通過し、灰色の砂煙を巻き上げる。その隙に素早くサプレッサー付きのPSMを取り出してステラに渡し、彼女から手を離した。
茶色いカバンを抱えたまま、馬車がやってくる筈の場所へと向かう。その馬車に乗ってフランセン共和国の国境まで連れて行ってもらい、フランセンからオルトバルカ王国行きの列車に乗れば、明後日の昼間にはラガヴァンビウスに戻れるはずだ。
一旦フランセンに行かなければならないので、それなりに費用がかかってしまうけれど、カルガニスタンに来たおかげで砂漠を移動するシーンをリアルに書くことができたと思う。後はこれを担当の編集者に渡してチェックしてもらえば、締め切りには間に合うだろう。
ほっとしながら、俺はもう一度懐中時計を取り出す。
それにしても、さっき食堂でファンに会えたのは嬉しかったなぁ…………。
この世界ではまだ義務教育がないから、読み書きができない人は予想以上に多い。ファンレターを送ってくれる人もいるんだけど、読み書きができない人が多いせいでそれほど送ってもらったことはなかったんだ。だからなのか、ファンと話ができたのはかなり嬉しかった。
時間があればもっと話がしたかったなと思いつつ、懐中時計の針を凝視する。そろそろ馬車が来てもおかしくない筈なんだけど、遅いな。遅れてるんだろうか?
「―――――――よう、馬車を待ってるのか?」
「え?」
白い石で造られた建物に寄り掛かりながら馬車を待っていると、こっちに向かって歩いてきた男に唐突に声をかけられた。
その人も旅をしているんだろうか? でも、旅をしているには荷物が少なすぎる。というか手ぶらだ。旅をしているのであれば道具の入ったカバンを持っているのではないのだろうか。
「は、はい」
「クックックッ…………残念ながら、馬車は来ねえよ」
「え?」
ど、どういうこと?
困惑しながらその男を凝視していると―――――――声をかけてきたその男は、ニヤニヤと笑いながらコートの内ポケットの中に手を突っ込み、その中から真っ黒なナイフを引き抜いた!
「―――――――”お迎え”はもう来てるがなぁ」
「ひっ…………!」
な、なんだこいつ!? 俺を殺す気か!?
反射的に建物の壁から手を離しつつ、後ろへとゆっくり下がる。
カルガニスタンに出発する前に、編集部のみんなやイラストレーターの友人に『カルガニスタンはまだ治安が悪いから、護身用の武器を持って行け』と言われたので、ポケットに入ってる端末でナイフを生産したんだけど、それを引き抜いて反撃する勇気はない。
はっきり言うと、俺はかなり弱い。運動が苦手な上に体力もないから、ラノベに出てくるキャラクターのようにこういう奴らを瞬殺できるような力もないのだ。だから護身用にナイフを装備してたけど、間違いなくこれを持っている意味はない。
「ん? 俺に殺してほしいのか?」
「ッ!?」
ぎょっとしながら振り向くと、後ろからももう1人の男が近づいて来ていた。その男も既にナイフを引き抜いており、怯えている俺を見ながらニヤニヤと笑っている。
こっちもナイフを引き抜いて脅したら逃げるだろうか? そう思ったけれど、多分こいつらを脅しても意味はないだろう。
前世の世界で虐められていた時にも、虐めていた奴らの目の前でバットを拾い上げ、こいつでぶん殴るぞ、と脅したことがある。けれどもあっさりとそのバットを奪い取られてボコボコにされてしまった。
”脅し”は、ある程度力を持っていなければ意味がないのだ。だから弱い俺がナイフでこいつらを脅しても、こいつらは怯えずに襲い掛かってくるだろう。
どうしよう…………!
ここで殺されたら、小説を書くことができなくなる。
ファンたちのために最新刊を出版する事ができなくなる。
いっそのこと、このナイフで反撃してやろうか。
そう思いながらナイフへと手を伸ばしたんだけど―――――――鞘の中から刀身が躍り出る前に、ごきっ、と骨が折れるような音が後ろから近づいてくる男の方から聞こえてきて、俺はびっくりしながら後ろを振り返った。
「え…………?」
ニヤニヤしながら近づいてきた男の顔が右へと向けられており―――――――その下にある首が、捻じれていたのだ。
ただ単に右を向いているだけなのだろうかと思ったけれど、首の皮膚がかなり捻じれているから、右を向いたのではなく、首が反時計回りに270度ほど強制的に急旋回させられたことが分かる。
明らかに首の骨が折れているその男の頭を押さえているのは、人間の首をへし折れるほど鍛え上げた男の剛腕ではなく、真っ白で華奢な、小さな2本の腕だった。
呆然としているうちに、もう1人の男の方からも呻き声が聞こえてくる。
ゆっくりとそっちを振り向いてみると、最初に俺に声をかけてきた男が、背後から忍び寄っていた何者かに押さえつけられ、喉元にナイフを突きつけられていた。彼を押さえつけている人物があのナイフをちょっとだけ押し込めば、間違いなく切っ先が頸動脈を貫いてしまうだろう。
振り払おうとするよりも先に殺されるということが分かったのか、俺を殺そうとしていた男は持っていたナイフをあっさりと投げ捨てる。
「な、なんだ、てめえは…………?」
「さあ、誰だろうな」
ん?
ちょっと待て、今の声はさっきの食堂にいたファンの女の子じゃないか…………?
この男たちがナイフを持って近付いてきた時よりもぞっとしながら、男を押さえつけている人物の顔を凝視する。深紅の羽根が付いている大きめのフードをかぶっているせいで顔がよく見えないけれど、頬の両脇からはまるで大空を彷彿とさせる蒼い髪が覗いていた。
か、彼女は何者なんだ…………?