異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
ヴリシアの戦いまで、テンプル騎士団ではエイブラムスを採用していた。
けれどもヴリシアの戦いで、連合軍を迎撃するために吸血鬼たちが投入した近代化改修型マウスとラーテの猛攻によって、そのエイブラムスたちは大損害を被ることになったのである。エイブラムスは高い防御力と攻撃力を兼ね備えた高性能な戦車で、世界中の戦車の中でもトップクラスの戦闘力を誇ると言っても過言ではなかったんだけど、吸血鬼共が投入した超重戦車の攻撃力と防御力は、エイブラムスの性能を大きく上回っていたのだ。
機動性ではエイブラムスが圧勝していたけれど、マウスたちが搭載していた複合装甲はエイブラムスよりも分厚く、搭載していた主砲はエイブラムスよりも大口径であったのである。
なのでこちらの主砲は殆ど通用しなかったうえに、向こうの主砲はエイブラムスの正面装甲を易々と貫通してしまったのだ。辛うじて数両のエイブラムスが生還したものの、あまりにも損害が大きすぎたため、テンプル騎士団は戦車部隊を再編成する羽目になってしまった。
しかし戦車部隊の再編成にはコストがかかるし、もしまた近代化改修型マウスやラーテのような怪物が襲い掛かってきたら、”普通の”戦車では勝ち目がなくなってしまう。それゆえにコストが低く、新型の戦車にも対応できるような通常の戦車と、超重戦車を撃破できるほどの火力を搭載した戦車の2種類を採用することとなったのである。
このチョールヌイ・オリョールは、後者の戦車だ。
複合装甲の増設や爆発反応装甲の搭載で防御力を底上げしつつ、主砲を大口径の152mm砲に換装することで、側面であれば吸血鬼たちの近代化改修型超重戦車の装甲を貫通する事ができる火力を誇る。さすがに超重戦車たちが搭載している160mm滑腔砲の直撃には耐えられないものの、通常の
とはいえこちらはコストが高くなってしまうため、重要拠点の守備隊や海兵隊の一部にしか配備されていない。出来るならば戦車をこのチョールヌイ・オリョールで統一するのが理想的なんだが、そんなことをしたら俺やクランたちの持っているポイントが底をついてしまう。戦車以外にも生産しなければならない兵器は山ほどあるので、ポイントの残量には注意しなければならない。
なので、他の部隊にはロシアのT-90やT-72B3などの戦車が大量に配備されている。
テンプル騎士団仕様のチョールヌイ・オリョールは、対超重戦車戦闘を想定して生み出された戦車なんだが、現在ではより強力な武装を満載したシャール2Cも増産されているため、敵の超重戦車との戦闘にはほとんど投入されていない。
とはいえ現時点ではシャール2Cはたった20両しか配備されていないので、もしシャール2Cが対応できなくなってしまった場合はチョールヌイ・オリョールが対処することになるだろう。それに武装は通常の戦車よりも強力なので、敵の戦車部隊との戦闘に投入すれば猛威を振るうに違いない。
「ほい、紅茶」
「あ、どうも」
車長の席で興味深そうに車内のモニターを見つめていたフミヤに、車内に置いてあるティーカップに紅茶を注いで渡す。戦車の中でいきなり紅茶を渡されるとは思っていなかったらしく、モニターを見ていたフミヤは湯気と熱を発しているティーカップを見て目を丸くしたけれども、すぐにティーカップを受け取って冷まし始めた。
テンプル騎士団では紅茶が大人気なので、戦車やヘリの中にもティーカップやティーポットが用意してあるのだ。
「…………ごめんね、さっきは」
「あ?」
「あの…………殺人鬼なんて言っちゃってさ。俺の事守ってくれてるのに」
「…………気にすんな」
紅茶を飲みながら謝ったフミヤにそう言いながら、手元にあるモニターをもう一度チェックする。
この世界で敵を殺すのは当たり前だ。前世の世界のように治安がいいわけではないし、平和というわけではない。未だに当たり前のように戦争をしている国もあるし、先進国の中にも殺人鬼や盗賊は当たり前のように存在している。
この世界は、殺されないように武装するのが当たり前の世界なのだ。
平和な世界で生活していたからこそ、転生者はこの異世界の常識に慣れるまでに時間がかかってしまう。俺たちの親父は容赦のない男だったけれど、転生したばかりの頃はジョシュアに止めを刺さずに見逃していたという。
仕方がない事だけど、元の世界に戻る方法がない以上、早くこの世界の常識に慣れなければならない。それに転生者に牙を剥くのはこっちの世界のクソ野郎だけではないのだから。
「俺もやっぱり、強くなった方がいいのかな?」
「いや、あんたは武器を持つ必要はないよ」
「え?」
敵の殺し方を覚えろと言われると思っていたのか、フミヤはびっくりしながらこっちを見る。
「あんたの仕事はラノベを書くことだろ? だったらペンを握る手を血で汚しちゃダメだ」
お前は作家なのだから。
血まみれになって戦うのは俺たちの仕事なんだから、汚れるのは俺たちに任せていればいい。
「タクヤ…………」
「新刊期待してるぜ、先生」
そう言いながら笑い、俺も紅茶の入ったカップを口へと運ぶ。ナタリアが作ってくれた特製のジャムで甘くなった紅茶で口の中を温めてから、カップをモニターの隣に置いて立ち上がり、砲手用のハッチへと手を伸ばす。
このチョールヌイ・オリョールには自動装填装置が搭載されているので、砲弾を主砲に装填する装填手は乗る必要がない。その代わりに砲塔の中には自動装填装置が居座っているし、主砲も大口径の152mm砲に換装したので、砲塔が大型化した割には中は狭くなっているが。
きっと親父やギュンターさんが乗ったら大変なことになるだろうな。あの2人はモリガンの傭兵の中で体格ががっちりしてるし。
ハッチを開けると、冷たい風が容赦なく砲塔の中へと流れ込んでくる。そのままハッチから身を乗り出して首に下げていた双眼鏡を覗き込み、灰色の砂漠を見渡す。
今のところアサシンズの連中が襲撃してくる気配はない。さっきフミヤを拾った街の中でも襲撃してくることはなかったのだから、下手したら1発も砲弾をぶっ放さずに装甲列車と合流できそうだ。
それにもし仮に襲撃してきたとしても、向こうは暗殺に特化した傭兵たちの集団。敵と真っ向から戦うような戦闘は避けようとする筈だし、武装もとっくに騎士団から退役した剣やコンパウンドボウ程度だろう。魔術師もいるかもしれないが、ファイアーボールごときでチョールヌイ・オリョールの装甲を貫通できるわけがない。
口から吐き出した息が真っ白に染まり、戦車の砲塔の上から置き去りにされていく。冷たい風の中に含まれていた砂粒が双眼鏡や手袋に付着し、どんどんざらざらした感触へと変わっていった。
顔をしかめながら頬に付着した砂粒を払い落としていると、車長用のハッチが開いた。車内でモニターを眺めていることに飽きたのか、フミヤがチョールヌイ・オリョールのハッチから顔を出し、走行している戦車の上から周囲の砂漠を見渡す。
前世の世界では戦車に乗る機会はほとんどないからな。
「す、すごい…………! 戦車ってこんなに速いの!?」
「意外だろ?」
戦車の速度は意外と速いのである。ちなみにこのチョールヌイ・オリョールの最高速度は70km/hほどだ。確かに昔の戦車の速度は非常に遅かったけれど、現代の戦車は当たり前のように60km/hや70km/hくらいの速度で走行することが可能なのである。
「もっと戦車って動きが鈍いと思ってたよ」
「そりゃ昔の戦車だ。第一次世界大戦の頃のイギリスの戦車は、大体6km/hくらいしか出せなかったらしいぜ」
第一次世界大戦で登場した戦車という怪物は、100年後には当たり前のように50km/h以上の速度で走行し、分厚い装甲と大口径の主砲を搭載する鋼鉄の化け物へと進化したのだ。
戦車が予想以上に速かったことに驚きながら、砂漠を見渡すフミヤ。戦車での旅を楽しんでいる彼を見守りつつ、俺も周囲に敵がいないか警戒を続ける。
相手は暗殺に特化した傭兵ギルドだ。さすがに標的と真っ向から戦うのは愚の骨頂だという事は知っている筈である。だが、このままフミヤをモリガン・カンパニーへと引き渡すことを許せば、麻薬の取引をしていたギルドを解体するという大義名分を手に入れたモリガン・カンパニーによって”粛清”されるのは火を見るよりも明らかだ。
是が非でも食い止めようとする筈だが、なぜなにも仕掛けて来ないのだろうか。
違和感を感じながら前方を凝視していたその時、鼻腔の中へと錆び付いた金属が発するような臭いが、冷たい風と共に流れ込んできた。発達した嗅覚のおかげで瞬時にその臭いの発生源を特定する事ができたんだが、この戦車は最高速度で走行している最中だ。今すぐにステラに停車を命じても間に合わないだろう。
戦車が損傷しませんように、と祈った直後、がちん、と金属が激突するような金属音が、戦車の下部にあるキャタピラの方から聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
「中に戻れ、フミヤ!」
身を乗り出していた彼にそう叫びながら、置き去りにされたその音の発生源を凝視する。
砂の中に埋まっていた何かを、チョールヌイ・オリョールのキャタピラが踏みつけたのだ。爆発しなかったから対戦車地雷ではないとは思うが、もし対戦車地雷だったらこの戦車は擱座していた事だろう。
ぞっとしながら後ろを確認すると、キャタピラに抉られた砂の轍(わだち)の中に、確かに金属製の何かが埋まっているのが分かった。円形の金具にサメの牙を思わせる棘を何本も溶接したような外見だが、戦車の重量に耐え切れなかったのか、ひしゃげてただのスクラップと化している。
―――――――対魔物用のトラバサミだ。
その気になれば魔物の外殻を貫通し、数分間は足止めできるほどの鋭さを誇るスパイクが付いたトラップで、魔物の進撃が想定される地域に大量に設置されていることがある。対戦車地雷とは違って人間が踏みつけても作動するのが厄介な点で、人間の足にあんな太いスパイクが突き刺されば、足止めされるどころか足が食い千切られる。
幸い戦車のキャタピラを食い破るほどの殺傷力はないらしい。魔物用のトラバサミを堂々と踏み潰したにも関わらず、俺たちの乗るチョールヌイ・オリョールは何事もなかったかのように70km/hで走行を続けていた。
頑丈だよな、戦車って。
異常がないことに安心しつつ、素早く砲塔の中へと引っ込む。頭上のハッチを閉めて冷たい風とおさらばしつつ右手をモニターへと伸ばし、タッチして主砲へと砲弾を装填する準備をする。
「戦闘準備!」
「せ、戦闘!? あいつらなのか!?」
「多分な」
残ってた紅茶を飲み干してモニターをタッチし、
トラップがあったという事は、あそこで俺たちを待ち伏せするつもりだったという事を意味する。つまりアサシンズの連中は、モリガン・カンパニーとの合流を防ぐためにここで攻撃を仕掛けてくる事だろう。
10秒ぶりに冷たい風と再会しつつ、嗅覚を総動員して探知を開始。ラウラのように視覚や聴覚が発達しているわけではないのだが、俺の場合は嗅覚が発達しているのだ。なのでラウラよりも索敵の精度は劣るものの、匂いで敵を探す事ができるのだ。
鼻腔に流れ込んでくるのは、ハッチから溢れ出す紅茶の匂いと砲弾の臭い。車体から溢れ出しているのは、格納庫で染みついた猛烈なオイルの臭い。
ここじゃない、俺が探したい場所は。
もっと遠くへ。円形状に索敵範囲をどんどん広げ、その外周部の匂いを探る。
「…………なんだ、この程度か」
暗殺に特化した傭兵傭兵ギルドだから、気配を消すことにも慣れてるんだろうなと思ってたんだが―――――――臭ってるんだよ、剣が発する鉄の臭いが。
幻滅しちまいそうだ。自分の得物の匂いも消せない三流の暗殺者だとは。
再びハッチの中へと滑り込む。再び冷たい風とおさらばしてモニターへと手を伸ばしつつ、ステラに「速度落とせ」と指示を出す。ステラの返事が聞こえると同時にチョールヌイ・オリョールは速度を落とし始めた。
「フミヤ、教えてやるよ」
「何を?」
車長の座席の上で震えていたフミヤに、ニヤリと笑いながら宣言する。
「――――――戦車の強さをだ」
戦車は強いんだよ。ファイアーボール程度じゃ撃破できない怪物なんだ。
モニターをタッチして自動装填装置に
昔の砲弾は人力でも簡単に装填できるくらいのサイズだったんだけどね。
がこん、と砲弾が主砲に装填される音が響き渡る。その音の残響を聞きながら砲塔を旋回させつつ、主砲同軸に搭載されている14.5mm機関銃も準備する。
「タクヤ、敵の場所は?」
「把握した」
問いかけてきたステラにそう答えつつ、敵が潜んでいる地点を思い出す。
それほど遠くはなかった。敵の位置は3時方向で、距離は1.5kmほどである。それなりに射程の長いスナイパーライフルやアンチマテリアルライフルならば、容易く狙撃できる距離だ。
もちろん主砲と機銃で蹂躙できる距離でもある。
照準器を覗き込むと、やっぱり臭ってきた地点に標的が見えた。
カルガニスタンの砂と同じく灰色の服に身を包み、同じように灰色に塗装したコンパウンドボウを傍らに置いて、望遠鏡をこっちへと向けている。あのコンパウンドボウに搭載されているレンズらしきものは、狙撃するための照準器なのだろうか。
まるでギリースーツに身を包んだスナイパーみたいな奴だ。
そいつの周囲にも、数名ほど同じ格好の男たちが伏せているのが分かる。近くの岩場の陰からは馬の臭いもするから、おそらくそこに馬を繋いでいるのだろう。こっちに逃げられたらあいつらは騎兵に早変わりし、こっちを追撃するという作戦か。
やっぱり戦車できたのは正解だったな。
装甲が厚い兵器だし―――――――ああいう敵を蹂躙できるのだから。
「―――――――発射(アゴーニ)」
そう告げて発射スイッチを押した瞬間、チョールヌイ・オリョールの152mm滑腔砲が火を噴いた。砲弾と一緒に飛び出した衝撃波が砲身の周囲の砂を抉り、熱風が一時的に冷たい風の群れを断ち切る。蹂躙される砂と風を置き去りにして飛翔していくのは、一撃で歩兵の群れを容易く吹き飛ばしてしまう破壊力を誇る
アサシンズの連中は、多分潜んでいる位置がバレていた事を知って驚いている事だろう。
大慌てで立ち上がり、逃げようとした男の肉体が木っ端微塵に吹っ飛んだのを見つめながら、俺は次の砲弾を装填するために自動装填装置へと手を伸ばすのだった。
※エイブラムスの主砲は120mm滑腔砲で、T-90の主砲は125mm砲です。テンプル騎士団仕様のチョールヌイ・オリョールの主砲は試作型の152mm滑腔砲となっております。