異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ダズル迷彩の怪物

 

 多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)の中から生まれた爆炎が、近くにいた暗殺者の肉体を木っ端微塵にするついでに、灰色の砂で埋め尽くされたカルガニスタンの砂漠を照らす。

 

 照準器の向こうで爆風に食い千切られていくアサシンズの連中を見つめつつ、自動装填装置が奏でる音を聴きながら、可哀そうな奴らだな、と思った。

 

 テンプル騎士団仕様のチョールヌイ・オリョールが搭載しているのは、一般的なロシア製の戦車に搭載されている125mm滑腔砲ではなく、より大口径の152mm砲である。それを搭載したことによって砲塔が大型化してしまったものの、従来の戦車砲よりも大型の主砲の破壊力は、砲弾の種類にもよるものの、最新型の戦車の正面装甲を貫通するほどの圧倒的な破壊力を誇る。

 

 こんな大口径の主砲を搭載しているのは、このテンプル騎士団仕様のチョールヌイ・オリョールは通常の戦車ではなく、より分厚い複合装甲と大口径の主砲を兼ね備えた超重戦車との戦闘を想定した代物だからである。もちろん戦車との戦闘は想定しているし、歩兵とも戦うことはできるが、こいつが152mm滑腔砲を搭載した理由は強力な超重戦車を撃破するためなのだ。

 

 なので、その大口径の主砲からぶっ放された砲弾を叩き込まれた敵兵の死体が原形を留めているわけがない。主砲同軸に搭載されている機銃すら、かつては対戦車ライフルの弾薬にも使用されていた14.5mm弾をフルオートでぶっ放す重機関銃なのだから、このチョールヌイ・オリョールと遭遇した敵兵が五体満足で死ねるのは有り得ないのである。

 

 射程距離外から砲撃されて慌てふためいているんだろうな、と思いつつ、淡々と近くのパネルをタッチ。自動装填装置を操作し、次の砲弾を主砲へと装填していく。

 

 そのまま伏せているのは危険だと判断したのか、アサシンズのメンバーたちは伏せるのを止めて立ち上がると、多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)の爆風でまとめて粉々にされるのを防ぐために散開し、待機している馬の方へと走っていく。

 

 悪くないな。仲間たちと一緒に移動しようとすれば、多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)の爆発で一網打尽にされるのを察して散開したんだろう。おかげでこっちは敵を木っ端微塵にするために、想定以上の砲弾と弾丸をぶっ放さなければならなくなる。

 

 それに、他の誰かが狙われている隙に、狙われずに済んだ連中が移動する隙を作ることができるというわけだ。

 

 とはいえ戦車の速度は全力疾走する馬を置き去りにできるほどだ。それに馬にはスタミナがあるが、こっちにはスタミナは存在しない。エンジンを動かすための燃料が残っている限り、この機械で造られた化け物は全力疾走を続けるのである。

 

 機械の強みだ。

 

 なので仮に馬で追いかけてきても、あの間抜けな暗殺者共がチョールヌイ・オリョールに追いついて砲塔によじ登り、俺たちを皆殺しにできる可能性は殆どないと言っても過言ではない。

 

 というわけで、散開した暗殺者のうちの1人に狙いを定め、機銃で容赦なく木っ端微塵にすることにした。大口径の14.5mm弾が肉体を直撃すると同時に暗殺者の胴体が抉れ、肉や内臓の一部がこびりついた肋骨らしき骨と千切れ飛んだ肉片が舞う。

 

 人間が粉々になるのは何度も見たことがあるから、飛び散った内臓やズタズタになった死体を目にしても俺は問題はない。けれども、多分一緒に乗っているフミヤがあの死体を見たら吐くだろうな。

 

 そう思いつつ、ちらりとフミヤの方を見る。彼はキューポラから外を覗きつつ、こっちが発砲する度にびくりとしているようだった。暗殺者たちの死体を目にしていないことを知って安心しつつ、引き続き14.5mm弾のフルオート射撃で弾幕を張る。

 

「ステラ、合流地点まであとどのくらいだ?」

 

 耳に装着している小型無線機に向かってそう言う。さっきまではエンジンの音くらいしか聞こえなかったので、無線機を使わなくてもそれなりに大きな声を出せば操縦手と会話は会話ができたけれど、今は砲弾の轟音と機銃の銃声のせいで、戦車の中でちょっとしたパーティーが始まっている。

 

 発射スイッチから指を離し、一旦機銃の連射を止める。敵の様子を確認するために照準器を凝視していると、攻撃しやすいように減速させた戦車を運転していたステラが質問に答えてくれた。

 

『このままの速度ならあと15分です。最高速度を出すのであれば6分で到着できますが』

 

「よし、じゃあこのままの速度で頼む」

 

『了解(ダー)』

 

「あ、それとドリフト禁止だからな」

 

『なぜですか!?』

 

「もう轢き殺されるのは嫌です」

 

 トレーニングモードだったとはいえ、俺はステラのせいで一度”戦死”してるんだよね。ステラが唐突にドリフトしたせいで、キューポラから身を乗り出して指揮を執っていた俺は戦車から投げ出され、そのまま敵の戦車に轢き殺されたというわけだ。

 

 ですので、ドリフトは禁止です。

 

 やっぱり俺が操縦手をやった方が良かったんじゃないだろうか…………。

 

 彼女に操縦手を任せたのは失敗だったなと思いつつ、照準器を覗き込んで敵の動きを確認する。先ほどの攻撃を生き延びた連中はやっぱり岩場の後ろに隠していた馬たちに乗り、こっちを追撃するつもりらしい。砂まみれになった男たちが馬に跨って追撃してくるが、戦車に追いつくにはもう少し時間がかかりそうだ。

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

 ティーポットの中に入っていた紅茶をティーカップに注ぎながら返事をする。ティーポットの中に入っていた紅茶はやっぱり温くなっていて、ティーカップに注いでも全く湯気を上げない。

 

 湯気を上げなくなった紅茶の中にナタリア特製のジャムを入れ、小さなスプーンでかき混ぜてから、一旦そのティーカップを座席の近くに置いた。この温い紅茶を飲むのはフミヤの質問に答えてからにしよう。

 

「速度を変えないままでいいの? 最高速度で一気に逃げた方がいいんじゃないの?」

 

「そうしたら装甲列車との合流予定時間がずれる。早く到着しちまっても列車を待つ羽目になるからな」

 

 以前に麻薬カルテルの討伐に向かった際は、カルテルの拠点の制圧が早く終わり過ぎてしまったせいで、派遣されたボレイチームのメンバーたちと共にヘリの到着を待つ羽目になったのだ。予定よりも早く敵を殲滅できたのはボレイチームの隊員たちが成長したということを意味しているんだが、予定がずれれば他の仲間に負担をかけることになってしまう。

 

 今回は多少早く到着しても線路に沿って移動していれば装甲列車とは合流できるかもしれないが、最悪の場合は追ってくる暗殺者共に追いつかれる恐れもある。出来るならば極力予定通りに行動することが望ましい。

 

 というわけで、速度はそのままだ。

 

 フミヤにも紅茶を淹れてやろうと思いつつ、彼のティーカップに手を伸ばす。紅茶を注いでからナタリア特製のジャム―――――――テンプル騎士団の団員たちに人気なのである―――――――を入れてかき混ぜ、フミヤに渡してから席から立ち上がった。

 

 頭上のハッチを開け、チョールヌイ・オリョールを追撃してくるアサシンズの連中との距離と彼らの動きを確認するために身を乗り出す。後ろを振り向いて双眼鏡を覗き込もうと思ったんだが、風上から冷たい風や砂と一緒に流れてきた”臭い”が鼻孔へと流れ込んでくると同時に、はっとして進行方向へと双眼鏡を向ける。

 

 鉄の臭いと毒薬の臭い。

 

 ―――――――待ち伏せか。

 

「ステラ、12時方向に警戒」

 

『進路は?』

 

「変更なし。踏み潰してやれ」

 

 無線機で指示を出しているうちに、チョールヌイ・オリョールの進路上に対魔物用のトラバサミを仕掛けている男の姿が見えた。背中には矢筒とコンパウンドボウを背負っていて、そのコンパウンドボウには照準器と思われるレンズのようなものが取り付けられている。

 

 狙撃を想定したモデルなのだろうか。

 

 スチームライフルに取って代わられたとはいえ、モリガン・カンパニー製のコンパウンドボウは未だに多くの冒険者が愛用している。信頼性が高く、従来の弓矢よりも貫通力が高いという長所があるのだが、いくら優れた弓矢でもさすがに戦車を撃破するのは無理だろう。

 

 こっちは砲弾が直撃しても耐える事ができる程分厚い装甲があるのだから。

 

 奴らが設置したトラバサミも、さっきと同じように踏み潰す事ができるだろう。トラップは無視して問題ない筈だ。

 

 そう思いつつ車内に引っ込もうとしたんだが、その暗殺者がこっちに向かって片手を突き出し、その手のひらで赤い光を形成し始めたのを目にした俺は、目を細めながら息を吐いた。

 

 弓矢ではなく魔術で攻撃するつもりか。

 

 悪い判断じゃない。魔術に自信があるのであれば、中距離から近距離での射撃でない限り魔物の外殻を貫通できない弓矢よりも、強力な魔術の方が確実に標的を仕留められるからだ。殺せるかどうか分からない殺し方ではなく、獲物を確実に殺す手を選んでいるのは、彼らが何度も暗殺を経験している証拠だろう。

 

 しかし―――――――判断が正しかったからと言って、その攻撃が戦車に通用するわけじゃない。

 

 チョールヌイ・オリョールの前に立ちはだかった男が放ったのは、おそらくファイアーボールだろう。長い詠唱は不要だし、魔力の圧力を調整すればそれなりに破壊力も上がる。長くて面倒な詠唱が必要な魔術よりも、威力が低い代わりに素早く発動できる魔術の方が暗殺に向いているのだ。

 

 赤い光と火の粉をまき散らしながら、男の手のひらから炎の球体が解き放たれる。魔力の圧力をちょっとばかり弄ったのか、一般的な魔術師がぶっ放すファイアーボールよりも弾速が速い。ロケットランチャーよりもちょっと遅い程度だろうか。

 

 冷たい風を高熱と場違いな陽炎で寸断しながら疾駆した炎の塊は、砂漠に轍を刻み付けながら前進するチョールヌイ・オリョールの正面装甲へと突撃してくる。もしそれが敵の戦車の放ったAPFSDSだったのならばダメージを受けていたかもしれないが―――――――加圧したとはいえ、所詮は多くの魔術師が最初の頃に習得する初歩的な魔術である。

 

 新型の戦車が、その程度の攻撃で撃破されるわけがなかった。

 

 装甲が赤い光に照らされ、黒と灰色のダズル迷彩に塗装された複合装甲の表面があらわになる。

 

 その装甲に、お構いなしに無謀なファイアーボールが飛び込んできたが―――――――装甲に弾かれた弾丸が奏でる跳弾の音を重々しくしたかのような音を響かせると同時に、そのファイアーボールは無数の火の粉と化してしまった。

 

 もちろんチョールヌイ・オリョールはびくともしない。そのファイアーボールが生み出した火の粉をあっという間に置き去りにしながら、待ち伏せしていた暗殺者の魔術を意に介さずに前進するだけである。

 

 今の一撃でチョールヌイ・オリョールを止められると思っていたのか、ファイアーボールを放った暗殺者がぎょっとしながら目を見開いたのが見えた。

 

 あばよ、とその暗殺者に別れを告げてから、俺は再び車内へと滑り込む。大急ぎでハッチを閉め、彼の断末魔が車内へと流れ込んでこないようにしてから、砲手の席に腰を下ろしてティーカップを拾い上げる。

 

「さ、さっき何かあったの? 赤い光が見えたんだけど…………」

 

「ファイアーボールを喰らった」

 

「ふ、ファイアーボールだって!? 大丈夫なのか!?」

 

 ぎょっとしながらそう言うフミヤ。確かに彼が書いているラノベの作中では、エイブラムスやT-90が正面装甲にファイアーボールを叩き込まれ、一撃で撃破されたり擱座させられているシーンがあるし、信じ難いことにファイアーボールでF-22を撃墜するという凄まじいシーンもある。

 

 けれども正面装甲は、最も装甲が分厚い部分だ。ロケットランチャーの対戦車榴弾が直撃しても防いでしまうほどの防御力があるのだから、初歩的な魔術で簡単に貫通できるわけがない。

 

 ファイアーボールを喰らったという話を聞いて狼狽するフミヤを見て苦笑いしながら、俺は彼に説明することにした。

 

「あのな、正面の装甲は一番分厚いんだよ。だからファイアーボールを喰らった程度じゃ全くダメージはない。もちろん銃弾も効かないんだよ」

 

「え? じゃあ、対戦車ライフルも効かないのか?」

 

「ああ。というか、対戦車ライフルはとっくに廃れてるんだぜ?」

 

「そうなの?」

 

「ああ。弾丸が戦車を撃破する時代は終わったってことだ」

 

 対戦車ライフルが活躍したのは第二次世界大戦の中盤までだな。

 

「もしファイアーボールで戦車を撃破するんだったら、限界まで加圧して弾速を上げて、極力至近距離から側面とか後部に向かって撃つべきだろうな。側面と後部は狙いやすいし、正面装甲よりも装甲は薄い」

 

「そうなんだ…………小説の参考になるかも」

 

「今更描写を変えろというわけではないぞ?」

 

 笑いながらそう言った直後、微かに断末魔のような絶叫と、チョールヌイ・オリョールのキャタピラが人間の肉体をミンチにする音が聞こえてきた。巨大な金属の怪物に踏みつけられた人間の骨が折れる音や、内臓が潰れる音。その潰れた肉体を容赦なく動くキャタピラが攪拌して、ベチャベチャとグロテスクな湿った音を奏でる。

 

 さっきの暗殺者が潰された音なんだろうな、と思いつつ、ティーカップの中に残っていた紅茶を飲み干した。

 

 今の音はキメラの聴覚でなければ聞こえないだろうから、きっとフミヤには聞こえていないだろう。

 

「じゃ、じゃあ、その装甲の薄い場所なら弾丸でも貫通できる?」

 

「いや、無理だ。ロケットランチャーでなんとか風穴を開けられるくらいだな」

 

「戦車ってそんなに頑丈なんだ…………!」

 

「ああ」

 

 他にも弱点はあるけどね。対戦車地雷を踏んだらあっという間に擱座しちまうし。

 

 待ち伏せはないみたいだし、このまま雑談してても大丈夫なんじゃないだろうか。馬に乗って追いかけてきている筈の連中も追いついてくる気配がないし。

 

 あ、でもそろそろ合流地点だな。俺たちの方が早く着いちまったか?

 

 心配になってきたな…………。

 

 目を細めながらちらりと頭上のハッチを見上げ、外を確認するべきか悩んでいるうちに、フミヤはカバンの中から鉛筆と手帳を取り出した。手帳のページを開いて素早く鉛筆で何かをメモしているらしい。さっきの戦車についての話だろうか。

 

 真面目な奴なんだな、こいつは。

 

 感心しながら頭上のハッチへと手を伸ばし、身を乗り出して外の様子を確認する。後方から追いかけてきている筈のアサシンズの連中はうっすらと見えるけれど、先ほどよりも距離が開いているのがよく分かる。やはり燃料がある限り走り続ける機械の怪物に、馬が追いつけるわけがなかったという事か。

 

 引導でも渡してやるかと思い、ハッチのすぐ近くに居座るKord重機関銃を後方へと向けようと思ったその時だった。

 

 ―――――――何の前触れもなく、こっちを追いかけていた連中の周囲の砂が舞い上がったのである。

 

 やがてその舞い上がった砂の幕を、紅蓮の爆炎たちが突き破っていく。その紅い煌きが微かに戦車の装甲を照らした頃に、ドン、とやっと爆音が聞こえてきた。

 

『タクヤ、今の音は何ですか?』

 

「砲撃だ」

 

 もちろん、ぶっ放したのは俺たちじゃない。砲塔は正面へと向けられていたのだから。

 

 あの連中を一掃したのは―――――――このチョールヌイ・オリョールの火力を遥かに凌駕する、テンプル騎士団の切り札。

 

 Kord重機関銃のグリップから手を離しつつ、ちらりと右側を見下ろす。50km/hで疾駆するチョールヌイ・オリョールの隣には、しっかりと分厚い鉄板に固定された太いレールが2本横たわっており、そのレールの向こうから、レールを使って移動する兵器の車輪の音が聞こえてくる。

 

 レールを踏みつけて移動するのは、テンプル騎士団で採用されたばかりの新たな切り札。

 

 前世の世界では廃れ、先進国では殆ど採用されることのなくなった”世界大戦の産物”。

 

 時代遅れになってしまった哀れな怪物が―――――――異世界で蘇ったのである。

 

 風に舞い上げられていく砂の向こうに、うっすらと巨大な車体が見えた。戦車よりも車高が高く、このチョールヌイ・オリョールの砲塔を2つ上下に重ねて溶接したかのような大きさの砲塔を搭載した車両が連結されている。ダズル迷彩に塗装された車両の後ろに連なるのは、ツングースカの砲塔とレーダーを移植された車両だ。ミサイルと機関砲を兼ね備えた砲塔が2基も搭載されているのだから、この化け物に航空機が接近するのは自殺行為でしかない。

 

 その車体にオルトバルカ語で”シミャウィ”と書かれているのを確認した俺は、ニヤリと笑った。

 

「―――――――予定通りだ、シミャウィ」

 

 砂漠のど真ん中に刻まれた線路を通ってやってきたのは―――――――テンプル騎士団の装甲列車だった。

 

 

 

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