異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
テンプル騎士団で採用されたばかりの装甲列車の中は、戦車の中とあまり変わらない。車体が戦車よりも大きいので中は結構広いけれど、さすがに乗客を乗せて走り回る普通の列車に比べればはるかに狭いし殺風景だ。
周囲にいくつもモニターを取り付けられた座席に座り、そのモニターに映る映像や数値を確認しながら砲台を動かす乗組員たち。彼らの傍らに砲弾を運んだり、近くのモニターをタッチして何かを確認する兵士たち。車内の隅に腰を下ろしながら、仕事中の彼らを見つめていたフミヤは、不安そうな顔をしながら自分が手帳に書いたメモを見下ろしていた。
もしこの列車が普通の列車で、ちゃんとした座席と窓があったなら彼は安心していただろうか。堅苦しさと物騒な雰囲気で埋め尽くされている装甲列車に乗せてしまったことを申し訳なく思いつつ、乗組員が差し入れしてくれたスコーンを口へと運ぶ。
あとはこのままフランセンの国境まで彼を運び、モリガン・カンパニーに引き渡せばいい。彼は他の転生者のように人々を虐げていたわけではないので粛清されないだろうし、ちゃんとオルトバルカの王都まで戻ることができる筈だ。
「原稿は無事か?」
メモを見下ろしていたフミヤに尋ねると、彼は首を縦に振った。
最新刊を出版するために必要な原稿だからな。あの原稿が無かったら、最新刊の発売は延期する羽目になる。そうしたらこの世界にいる彼のファンを悲しませることになるだろう。
フランセンの国境まであと20分。短い旅が終われば、彼は原稿を持ったまま無事に帰国できるというわけだ。
「君たちのおかげだよ…………本当にありがとう」
「気にすんなって」
善良な転生者を保護するのも、テンプル騎士団の役目である。
フミヤは原稿の入ったカバンを抱えると、中に入っている原稿を見下ろしながら微笑んだ。
彼をモリガン・カンパニーに引き渡せば、モリガン・カンパニーがちゃんとオルトバルカまで送り届けてくれることだろう。そして彼から受け取った写真を使って管理局にアサシンズの解体を呼びかけつつ、メンバーの粛清のためにカルガニスタンへとやってくる筈だ。
数日後にはモリガン・カンパニーの部隊がカルガニスタンで大暴れするんだろうな、と思いながら、装甲列車の殺風景な通路を眺めた。戦車の中よりは広とはいえ、乗組員を守るための分厚い装甲で覆われている上に、砲台を操作するための座席やモニターなどが所狭しと並んでいるので、体格ががっちりしている兵士ならばほぼ確実に肩や頭を天井にぶつける羽目になるだろう。
外から見ればそのまま兵員輸送用の車両に使えるんじゃないかと思えるほど車両は大きいんだが、中は予想よりも狭いのである。
もちろん狭い車内の隅に座っているわけだから、俺たちが座っている場所も結構狭い。俺の左側はすぐ壁になっているし、すぐ近くには通路もあるので、隣に座っているステラは俺に密着するどころか、腰を下ろしている俺の足の上に座っている状態である。
「ところで、何でラノベを書こうと思ったんだ?」
スコーンの皿を彼の方へと寄せながら俺は尋ねる。この世界の娯楽は、前世の世界と比べるとかなり少ない。まだテレビやパソコンが発明されていないのだから、前世の世界で生活していた時のようにアニメを見たり、ゲームをプレイすることもできないのである。
だから少しでも娯楽を増やそうとしたんだろうな、と思いながらティーカップを拾い上げると、原稿を見下ろしていたフミヤが答えた。
「―――――――恩返しがしたかったんだよ」
「え?」
恩返し?
どうやら彼は、ただ単に娯楽を増やそうとしていたわけではないらしい。誰に恩返しをしようとしていたんだろうか。
「恩返し?」
「ああ。転生してきたばかりの頃の話なんだけど…………いきなりこんな世界にやってきたから、行くあてがなかったんだ。こっちの世界のお金も持ってなかったから食べ物も買えなかったし、宿に泊まることもできなかった…………」
第一世代型の転生者は、17歳に若返った状態でこの異世界のどこかへと転生してくるという。その際にあの便利な端末を持っているわけなんだが、この世界で生活するために必要な資金を持っていない状態で異世界へと放り込まれる。
当たり前だが、この世界の通貨を持っていないという事は食べ物を買うこともできないし、安い宿に泊まる事すらできない。若き日の親父も騎士団から脱走したばかりの母さんを連れてラトーニウスの国境を越え、オルトバルカ王国へと亡命したわけだが、あの旧モリガン本部へと辿り着くまでは銀貨どころか銅貨すら持っていなかったという。
やはり、最初に金を持っていないせいで生活する事ができなくなり、端末の能力を使って略奪をする転生者も多いのだろう。
「でも、1人の転生者が俺を拾ってくれたんだ」
「転生者?」
「ああ。その人もラノベを書いてたんだよ」
ラノベの作者が命の恩人ってわけか。
「その人が書いてたのが、この作品だよ」
そう言いながら、自分が抱えているカバンを指差すフミヤ。そのカバンの中に入っているのはあいつの作品ではないのだろうか。
「―――――――受け継いだのですか? その命の恩人から」
「ああ」
俺の足の上に座っていたステラが言うと、フミヤは微笑みながら頷いた。
「だから正確に言うと、これは俺の作品じゃないんだよ…………”先生”が書いてた作品を、俺が受け継いで続けてるだけだ」
「その”先生”は?」
フミヤに作品を任せたという事が何を意味しているのかは予想できたけれど、敢えて質問する。するとフミヤはまるで俺の予想が正しかったことを証明するかのように一瞬だけ悲しそうな顔をすると、再び現行の入っているカバンを見下ろした。
「…………亡くなったよ、病気で」
「そうか…………」
病気で亡くなった命の恩人に恩を返すために、作品を受け継いで連載を続けてるってことか。
カバンをすぐ隣に置き、スコーンへと手を伸ばすフミヤ。まだ温かいスコーンにジャムを塗ってから口へと放り込み、噛み砕いてからティーカップへと手を伸ばす。
娯楽を増やし、人々を楽しませるために努力をしていた転生者から、彼は作品を受け継いでいる。
俺も虐げられている人々を救うために戦い続けていた男から技術を受け継いで、仲間たちと共に世界中で戦っている。
―――――――同じじゃないか。
物騒な武器を持って血まみれになりながら戦う俺らよりも、鉛筆を持って作品の内容を考えながら原稿用紙に小説を書く彼らの方が立派だと思うけれど。
「立派だよ、お前」
「ははっ、ありがとう。…………でも、君たちも立派だと思うよ。いつも戦場で悪い奴らと戦ってるんだろう?」
ああ、そうだ。いつも俺たちは血まみれになりながら戦っている。敵兵を蜂の巣にしながら塹壕へと飛び込んで、敵兵の肉体に銃剣を突き立て、返り血を浴びている。
けれども俺は、フミヤの方が立派だと思う。
彼は命を奪っているわけではなく、人々を楽しませるために作品を書いているのだから。
とは言ってもこの世界では読み書きができない人がいるのが当たり前だから、前世の世界のように読者がたくさんいるわけではないみたいだけど。
俺たちよりも立派だよ、フミヤ。
そう思いながらティーカップへと手を伸ばし、残っていた紅茶を飲み干した。
これが本当に”哨戒部隊”なのだろうか。
そう思いながら、フランセン共和国との国境に陣取るT-14の群れを見つめる。T-14の砲塔には砲手や車長が乗り込む必要はないため、乗組員たちは車体の方のハッチから顔を出す。戦車の指揮を執る車長は砲塔のハッチから顔を出すイメージが強いからなのか、操縦手と一緒に車体のハッチから顔を出す車長を見ていると、猛烈な違和感を感じてしまう。
同じ違和感を放っているT-14たちが、国境に10両も居座っている。その後ろには機関砲と対戦車ミサイルを装備したT-15の群れが15両も並んでおり、その車両の周囲ではAK-12を手にしてウシャンカをかぶったモリガン・カンパニーの兵士たちが、アサシンズの生き残りが襲って来ないか警戒している。
しかもその哨戒部隊の頭上を旋回しているのは、スタブウイングにこれでもかというほど武装を搭載したスーパーハインドたち。兵員室のハッチからは、アサルトライフルを手にした兵士たちが顔を出しているのが見える。
哨戒どころか、前哨基地を攻め落とせる兵力である。モリガン・カンパニーはその部隊を”哨戒”に使っているのだ。
信じられない話だが、モリガン・カンパニーの兵力は全盛期のソ連軍の兵力を上回っているという。そのため全ての戦力を集めて最前線に投入しても、全軍の指揮を執り切ることは困難らしい。
あの企業は、最強の転生者に率いられた怪物なのだ。
フミヤを連れて装甲列車から降りると、停車していたT-14の車体のハッチから車長と思われる兵士が降りた。他の兵士たちとは違って赤いベレー帽をかぶっており、そのベレー帽のすぐ下からは人間よりも長い耳が伸びているのが分かる。
エルフの兵士か。
「お疲れさまであります、同志」
「任務中に申し訳ない。彼の保護をお願いしたい」
こっちに敬礼しながら挨拶してくれた彼にそう言うと、エルフの兵士は俺の後ろで原稿の入ったカバンを持っているフミヤの方をじろりと見た。
「分かりました。あとは任せてください」
「申し訳ない、同志。…………フミヤ」
「ああ…………お別れだね」
哨戒部隊の隊長が耳に装着している小型無線機で指示を出すと、上空を旋回していたスーパーハインドがゆっくりと高度を落とし始めた。あの重装備のヘリでフミヤをオルトバルカまで送るつもりなのだろうか。
ヘリが高度を落としている間に隣へとやってきたフミヤは、俺に右手を差し出してきた。
「君たちのおかげで助かったよ」
「新刊期待してるからな」
「うん」
彼の手を握りながら微笑むと、スーパーハインドがお構いなしに高度を下げ始めたせいで灰色の砂が一気に舞い上がった。やがて真っ黒に塗装されたモリガン・カンパニーのヘリが砂漠の上に降り立ち、兵員室のハッチを開く。
中にはすでに黒服の兵士たちが乗り込んでおり、早く乗れと言わんばかりにこっちに向かって手を振っていた。
行け、フミヤ。
頷きながら手を離し、ヘリが舞い上げる砂を浴びながら兵員室の方へと歩き始めたフミヤを見送る。彼は兵員室に乗り込む前にこっちを振り向いてから手を振ると、兵員室へと乗り込んで開いていた座席に腰を下ろし、再びカバンを抱えた。
彼に手を振っているうちにハッチが閉まり、まるで武装を満載した攻撃機の主翼を縮めてメインローターとテイルローターを取り付けたような形状のスーパーハインドが、再び高度を上げ始めた。お構いなしに灰色の砂塵を舞い上げ、メインローターの残響を砂漠の真っ只中にぶちまけながら飛び立ったスーパーハインドは、同型の機体たちの編隊から離れて進路を変え、オルトバルカのある方向へと飛び立っていった。
多分フミヤが撮影してしまったあの写真は、モリガン・カンパニーに接収され、アサシンズ解体のための証拠に使われることだろう。いくら暗殺などの汚れ仕事を請け負っていた傭兵ギルドとはいえ、麻薬カルテルとの取引はアウトである。
普通ならばギルドの解体とメンバー全員の身柄の拘束で済むのだが、よりにもよって取引していたという証拠を手に入れてしまったのは、敵に全く容赦をしないモリガン・カンパニーである。彼らならばメンバーを拘束するのではなく、弾丸を使って粛清してしまう事だろう。
やりすぎかもしれないが、アサシンズの連中を擁護するつもりはない。今回の一件には介入しないことにしよう。
スーパーハインドを見送っているうちに、哨戒部隊の指揮官は俺とステラに敬礼をしてから踵を返して自分の戦車へと戻った。車体のハッチを閉めた音が響くと同時に、周囲を警戒していた歩兵たちが停車している戦車によじ登ってタンクデサントを始める。
兵士たちが乗り終えたのを確認してから、前哨基地の攻略に投入できそうな規模の哨戒部隊は、再びフランセン側へと引き換えしていった。
彼らが大地に刻み付けたばかりの轍を見下ろしながら、俺は溜息をつく。
「新刊が楽しみですね」
「ああ」
今度本屋に寄ったら、最新刊を購入するとしよう。今回の一件で描写がよりリアルになっていると良いな。
「そうだ、ステラ。眠くないか?」
「ええ、ステラは大丈夫ですが」
「じゃあ、タンプル搭に戻る前に少し買い物でもしてから帰らないか?」
「いいのですか?」
「ああ」
近くに生息している魔物の素材を回収して売れば、少しは金になるだろう。さすがにダンジョンを調査した時の報酬のような金額にはならないかもしれないけれど、ステラと買い物をするくらいはできる筈である。
どんどん崩れていく轍を一瞥し、ステラと手を繋いでから踵を返す。
ステラと買い物をしてから帰ることにした俺は、装甲列車の運転手に先にタンプル搭へと帰還するように伝えるために、機関車へと向けて歩き出すのだった。