異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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閑話 覇者たちの密会

 

 モリガン・カンパニーの本社は、王都ラガヴァンビウスの中にある。

 

 かつてはオルトバルカ王国騎士団の本部として使われていた建物を改装して本社として使っているせいなのか、企業の本社というよりも、古めかしい騎士団の砦のような外見をしている。しかし、その伝統的な建築様式の建物へと出入りしていくのは防具に身を包んだ騎士たちではなく、スーツや制服に身を包んだ社員たちだ。中には迷彩服の上にボディアーマーを装備し、がっちりしたヘルメットをかぶった兵士たちもいる。

 

 テンプル騎士団と同じように、モリガン・カンパニーの社員たちの種族はバラバラだった。

 

 人間やエルフたちだけではなく、異世界で最も多く奴隷にされていると言われているハーフエルフやオークの兵士もいる。モリガン・カンパニーが経営する鍛冶屋で働いているハイエルフやドワーフの労働者も、モリガン・カンパニーの社員たちであった。

 

 制服に身を包み、AK-12を抱えて警備している警備兵たちの様子を窓から見下ろしていたリキヤは、曇り始めた空を見上げて顔をしかめた。これからアフタヌーンティーを始めようとしていたというのに、曇り空に楽しみを邪魔されてしまった彼は溜息をつきながら踵を返す。

 

 いくら最強の転生者と呼ばれているとはいえ、かつて転生者たちを絶滅寸前まで追い込んだ転生者でも天候を変えることは不可能である。リキヤのふりをするのを止め、本来の姿(ガルゴニス)に戻ることができたのであれば天候を変えることはできるのだが、そんなことをすれば12年間の努力が水の泡になってしまう。

 

 個人的な楽しみのために、親友との誓いを台無しにすることは絶対に許されない。

 

 席に腰を下ろすと、窓の外を眺める前までは誰もいなかった筈の反対側の席に、いつの間にか白髪の幼い少女が腰を下ろし、リキヤが作ったクッキーへと手を伸ばしていた。

 

 白衣ではなくドレスに身を包んでいたのであれば、初めて彼女の姿を目にした者は貴族の娘と勘違いしてしまうだろう。しかし彼女が身を包んでいるのは研究者が身に纏う白衣であり、胸の小さなポケットには既に奇妙な色の液体が入った試験管が3本ほど居座っていて、彼女が研究室の中で実験ばかりしている人間なのだという事を告げている。

 

 一足先にクッキーを食べ始めていたフィオナを見つめながら、リキヤも自分の作ったクッキーへと手を伸ばした。

 

「遅かったじゃないか、博士」

 

『ごめんなさい。新型フィオナ機関の試運転に夢中になってました』

 

「完成はいつ頃だね?」

 

『そうですね…………魔王様が”休暇を取れ”と言わなければ、明後日にでも試作型が完成します』

 

 フィオナ博士は、全く休暇を取らない技術者である。強引に休暇を取らせたとしても勝手に研究室に忍び込み、休暇中にもかかわらず新しい発明品を完成させ、新しい特許を生み出しているのである。

 

 仲間が新しい発明をするのは喜ばしい事なのだが、休暇を取らせないわけにはいかない。だが、フィオナはどれだけ休暇を取るように命令しても研究を続けるので、リキヤはそろそろ彼女に休暇を取らせることを諦めるべきなのではないかと考え始めていた。

 

 この産業革命の発端となったのは、目の前にいる幼い幽霊の少女なのである。彼女が研究を望むのであれば、その研究のためにバックアップをするべきだ。

 

 そう思いつつティーカップへと手を伸ばしたリキヤは、両手でティーカップを持って口へと運んでいるフィオナを見つめながら微笑んだ。

 

「分かった、休暇を取れとは言わん。必要なものがあればすぐに用意しよう」

 

『ありがとうございます、魔王様♪』

 

「ところで―――――――ラウラに移植した細胞について聞きたいことがある」

 

 オルトバルカ産の紅茶が入ったティーカップをテーブルの上に置いてから尋ねると、ティーカップを置こうとしていたフィオナの白い手がぴたりと止まった。

 

『あの細胞ですか』

 

「ああ」

 

 吸血鬼たちの春季攻勢を迎え撃った際に、リキヤの愛娘であるラウラは、吸血鬼の狙撃手による反撃によって利き手の左腕と左足を失い、一時的に戦線を離脱するという重傷を負っていた。

 

 本来ならば退役させるか、義手と義足を移植してリハビリをさせるために戦線を離脱させるべきである。リハビリを済ませれば復帰することはできるものの、当たり前だが移植する義手や義足は自分の本来の手足とは感覚がかなり異なるのだ。以前と同じ感覚で手足を動かしても、実際に移植した義手と義足は予想通りに動いてくれないのは珍しくないのである。

 

 ラウラが最も得意とするのは超遠距離狙撃である。義手と義足の移植が、彼女の戦い方に大きな影響を与えることになるのは想像に難くない。移植すればラウラは間違いなく復帰できるだろうが、技術は彼女の中に刻み込まれていても、その技術を生かすための手足の感覚が大きく変わってしまうのである。

 

 それゆえにラウラの本格的な復帰には、かなり時間がかかるだろうと言われていた。

 

 しかし、向かいの席でクッキーを噛み砕いている天才技術者は、あっさりとラウラを元通りの身体にしてしまった。

 

 ―――――――吸血鬼の細胞を移植することで、彼女に彼らの再生能力を身に付けさせてしまったのである。

 

 リキヤがその細胞の事を聞いているのだと理解したフィオナは、微笑むのを止めてからリキヤの赤い瞳を見つめた。

 

「気になっていたんだが、あれは誰の細胞だ?」

 

『…………タクヤ君が仕留めた、吸血鬼のスナイパーですよ。”アリーシャ”っていう女の子だそうです』

 

「いつの間に遺体を回収した?」

 

『タンプル搭に行く前ですよ。ラウラさんが手足を失ったという情報は聞いていたので』

 

 愛娘の手足を奪った狙撃手の遺体を、春季攻勢の最終局面の最中に堂々と回収していたという話を聞いたリキヤは、タクヤによって惨殺されたアリーシャの死体をどうやって回収したのかという疑問を、答えの外れた仮説たちと共に投げ捨ててから苦笑した。

 

 転生者戦争ほどではなかったとはいえ、あの春季攻勢も現代兵器を装備した勢力同士が激突した、熾烈な死闘の1つである。

 

「…………確かに、”部品”にはうってつけだな。愛娘の手足を奪ったのだから、きちんと”返して”もらわなければ」

 

『ええ、皮肉ですね』

 

 ラウラを排除するために派遣された狙撃手が、ラウラが再生能力を身に着けるための部品にされてしまったのだから。きっと彼女の身体に細胞を移植する羽目になったアリーシャは、地獄で悔しがっているに違いない。

 

 男性の吸血鬼の細胞よりはマシだろう、と思いつつ、リキヤはクッキーへと手を伸ばした。

 

 しかし、逆に言えば彼女の手足を奪った狙撃手のおかげでラウラは迅速に戦線に復帰する事ができたということになる。敵にとっても皮肉だが、ラウラにとっても皮肉になってしまう。

 

 だからリキヤは頷かなかった。

 

 愛娘が自分のように手足を失う羽目になってしまったとはいえ、復讐のために独断で出撃したタクヤと、無断でその死体を回収したフィオナによってラウラは復帰できたのである。

 

 そのための部品に使われたのがラウラの手足を奪った張本人だという事を確認したリキヤは、彼の脳の中で出番を待っていたもう1つの疑問を解き放つことにした。

 

「…………それで、次の”災禍の紅月”はいつになる?」

 

『…………3ヶ月後でしょうか』

 

 ―――テンプル騎士団との同盟を破棄する日は、近付きつつあった。

 

 彼らから鍵を手に入れ、天空都市ネイリンゲンにあるメサイアの天秤を使って、12年前に命を落とした親友を蘇らせるというガルゴニスの計画が、ついに終着点へ到達しようとしている。

 

 きっと春季攻勢で片足を失ったエリスを見れば、本物のリキヤは悲しむだろう。大切な妻が車椅子に乗って生活しているのを目の当たりにして驚愕する彼の姿を想像したガルゴニスは、溜息をつきながら背中を椅子に押し付けた。

 

 自分が命を引き換えにしたら、リキヤは怒るだろう。

 

 けれどもあの男ならば、受け入れてくれる筈だ。

 

 彼はかつてガルゴニスを倒し、レリエル・クロフォードを超えた最強の男なのだから。

 

 たった6年しか子供たちと過ごせなかった哀れな男のために、何としても彼を生き返らせなければならない。

 

 社長室の天井にぶら下がっているシャンデリアを見上げたガルゴニスは、腕を組みながら目を瞑った。

 

「では、テンプル騎士団との同盟の破棄は”災禍の紅月”の2週間前にしよう」

 

 

 

 

 

 

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