異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
テンプル騎士団が現時点で保有している空母は、全部で7隻となっている。
3隻の『アドミラル・クズネツォフ級』空母と、4隻の『キエフ級』空母の2種類だ。
大量の航空機を搭載し、敵艦を轟沈するための対艦ミサイルや、艦隊を脅かす敵機やミサイルを撃墜するための空対空ミサイルを搭載した艦載機をこれでもかというほど解き放つ事ができる空母よりも、強力な主砲を搭載した戦艦や重巡洋艦を重視しているテンプル騎士団の戦術は結構”古い”としか言いようがない。敵艦の装甲に大穴を穿つ戦艦の主砲よりも、爆弾を搭載した艦載機の群れの方が猛威を振るうということは、もう既にアメリカと日本の戦いで立証されているのだから。
あの戦艦大和ですら、無数の航空機が解き放つ爆弾や魚雷の集中砲火には耐え切れなかったのである。最新のミサイルやエンジンを搭載し、更にレーダーに映りにくくなるステルス性まで獲得して進化した現代の戦闘機が、それ以上に猛威を振るうのは火を見るよりも明らかだ。
だからテンプル騎士団の海軍の課題は、”空母の増強”だった。
ジャック・ド・モレーの艦橋で双眼鏡を覗き込み、輪形陣の後方を航行するキエフ級の四番艦『バクー』を見つめる。飛行甲板の上には既に艦載機が待機しており、艦隊の指揮を執るブルシーロフ提督からの出撃命令を待っているようだった。
キエフ級はソ連が保有していた軽空母だ。船体の右側にでっかい艦橋が居座っており、その左隣にはアングルドデッキが伸びている。なので傍から見れば一般的な空母のように見えるんだが、よく見ると飛行甲板として機能するのはそのアングルドデッキのみ。アメリカの空母ならば艦載機を飛び立たせるためのカタパルトを搭載している部分には、空母とは思えないほどの武装がずらりと搭載されている。
更にテンプル騎士団仕様のキエフ級は、船体後部の両サイドにスポンソンを増設して、そこにも速射砲や対空ミサイルを搭載しているため、空母の中でも攻撃的な艦となっているのだ。
空母の増強のため、このテンプル騎士団仕様のキエフ級とアドミラル・クズネツォフ級は更に4隻ずつ増産される予定である。それに、ジャック・ド・モレー級戦艦をベースにした”特殊な艦”も2隻ほど生産予定となっており、その特殊な艦はジャック・ド・モレーが率いる”テンプル騎士団主力艦隊”に編入される予定だ。
テンプル騎士団は、少しずつ大きくなっていた。
まだあの二大勢力には届かないものの、転生者が率いる組織の中ではかなり大規模な組織と言っても過言ではないだろう。
「お」
ブルシーロフ提督から出撃命令があったのか、バクーの甲板で出撃準備をしていた艦載機が、ついに飛行甲板から飛び立っていく。
形状はアメリカ軍が採用しているF-22や、ロシアのPAK-FAにそっくりだ。けれども左右へと伸びる尾翼の間から突き出ているエンジンノズルはたった1つだけだったので、俺はすぐにその機体の種類を見破った。
―――――――あの機体はF-22ではなく、F-35である。
しかもキエフ級に搭載されているF-35は、『F-35B』と呼ばれるタイプの戦闘機である。この機体はF-35の中でも特殊な機体と言えるだろう。
なんと、空を自由自在に飛び回ることができるだけでなく、戦闘機だというのにホバリングしたり、滑走路に垂直に着陸する事ができるのだ。更に従来の戦闘機よりも離陸するために必要な距離が短いので、扱いやすいという利点がある。
戦闘機なのになぜそんな事ができるかというと―――――――F-35Bのエンジンノズルは、真下へと向ける事ができるのである。更に機体に搭載されたリフトファンと呼ばれる部分から強烈な空気を噴射することで、ホバリングすることが可能なのだ。
このような機体は、『
超高速で飛び回ったりホバリングできるのでかなり便利な機体に思えるかもしれないが―――――――さすがに、全ての戦闘機にこの機能を搭載するわけにはいかない。
―――――――ホバリングしたり、垂直に着陸するための装備がハンデになってしまうのである。
要するに、ホバリングや垂直に離陸する時以外に使い道がないのだ。なので従来の戦闘機と比べると機動性は劣っているのである。
画期的な戦闘機だけど弱点もあるので、従来の機体とは使い分けなければならないという事だ。なのでF-35Bはキエフ級やジャック・ド・モレー級戦艦をベースにした特殊な艦に艦載機として搭載し、敵艦隊への攻撃や地上にある敵の拠点への攻撃に投入する予定である。
無事に飛行甲板から離陸していくF-35Bたち。垂直尾翼に描かれているテンプル騎士団のエンブレムを見ていると、とん、と後ろから肩を軽く叩かれた。
やけにでかい手だな、と思いつつ後ろを振り向くと、蒼と黒の二色で彩られた制服と軍帽を身に着けた、がっちりとした体格の巨漢が後ろに立っていた。一見すると巨漢の多いオークに見えるかもしれないけれど、オークにしては背が小さい。けれども平均的な身長が2mに達するオークにも負けないほどの威圧感を放っているように思えるのは、彼が大きな戦果をあげてきたテンプル騎士団の誇る名将だからだろう。
彼の名はイワン・ブルシーロフ。テンプル騎士団艦隊の指揮を執る提督である。
オークやハーフエルフに間違えられるほど身体が大きいが、彼の種族は人間だ。ヴリシアの戦いでは艦隊の指揮を執ったウラルの補佐を担当し、吸血鬼たちの春季攻勢(カイザーシュラハト)ではテンプル騎士団艦隊旗艦となったジャック・ド・モレーの艦長を担当。敵艦隊旗艦『ビスマルク』を撃沈し、吸血鬼たちの艦隊を壊滅させるという大きな戦果をあげている。
その後もテンプル騎士団艦隊の指揮を執り、あらゆる戦いに勝利した名将である。
「同志団長、そろそろCICへ」
「了解」
ブルシーロフ提督と共に、ジャック・ド・モレーのでっかい艦橋を後にする。タラップを降りて狭い通路を進み、大慌てで戦闘配置につく乗組員たちを見守りながら、提督と一緒にCICへと向かう。
タラップを駆け上がり、通路を突っ走っていく様々な種族の乗組員たち。彼らが身に纏っている制服は蒼と黒の二色で彩られており、陸軍や空軍の制服とは違って全員同じデザインなので、テンプル騎士団の中では唯一統一感を維持していた。
これから始まるのは、沿岸部にある敵の拠点を襲撃する事を想定した演習である。まず艦隊からのミサイル攻撃で先制攻撃を実施し、更に先ほど出撃したF-35Bたちが更に攻撃を行って敵の戦力を削る。その後に戦艦の艦砲射撃を実施して沿岸砲台群を撃滅し、本部と倭国支部の海兵隊が上陸して敵の拠点を制圧するのだ。
しかも訓練の最中に、倭国支部の飛行場から
それを知っているのは俺たちくらいだろう。
演習の内容を確認しているうちに、ジャック・ド・モレーの広大なCICへと辿り着いていた。
拡張されて更に広くなったジャック・ド・モレーのCICの中には、様々なパネルやモニターが所狭しと並んでいた。様々な色の光を発するパネルやモニターが薄暗いCICの中で煌き、座席に座った乗組員たちがその光が形成する図や数値を凝視している。
改装前と比べると、このCICは1.5倍ほど広くなっているという。場合によってはジャック・ド・モレーが全ての艦隊の指揮を執らなければならないため、指揮を執るための設備は可能な限り拡張する必要があったのだ。
薄暗いCICには、もう既にラウラとナタリアがいた。でっかいモニターに映し出されている映像を凝視している彼女たちの隣に立つと、遅いわよと言わんばかりにナタリアがじろりと睨みつけてきた。
苦笑いしつつ頭を下げ、俺も目の前に設置されているパネルを見つめる。
『全艦、攻撃準備完了』
「攻撃目標、敵拠点のレーダー及び対空兵器。航空隊が攻撃をした後に艦砲射撃に移る」
「了解(ダー)。―――――――ッ!?」
ブルシーロフ提督が下した命令を復唱しようとしていたハイエルフの乗組員が、何の前触れもなく目を見開いた。
「どうした?」
「に、2時方向より所属不明の航空機が接近中…………!? 提督、こんなの予定には―――――――」
「馬鹿者、敵が予定通りに動くわけがなかろう」
腕を組みながらその乗組員を見下ろすブルシーロフ提督。俺やラウラはこの襲撃があるという事を予め知っていたのだが、艦隊の指揮を執るブルシーロフ提督にはこの襲撃は知らせていなかった。
しかし提督は、乗組員たちと違って全く狼狽する気配がなかった。実はこの人も知ってたんじゃないだろうかと思ってしまうほど冷静にパネルを見つめてから、こっちをじろりと見る提督。俺たちが抜き打ちで
一瞬だけニヤリと笑った提督は、黒と蒼の軍帽をかぶり直してから乗組員に問いかける。
「主砲にはまだ装填してないな?」
「は、はい。主砲の出番はまだ後でしたので…………」
「好都合だ。本艦とユーグ・ド・パイヤンの主砲に”艦対空キャニスター弾”を装填せよ、急げ」
「はっ! 第一、第二砲塔、艦対空キャニスター弾装填!」
『第一、第二砲塔、艦対空キャニスター弾!』
なるほど、対空ミサイルではなく”あれ”で迎撃するつもりか。
全ての戦艦やスターリングラード級に搭載した砲弾の事を思い出しつつ、俺もニヤリと笑う。まだあの砲弾は戦艦『ソビエツカヤ・ロシア』でテストをしただけだが、そのテストは見事に成功しており、標的を撃墜している。
おそらくジャック・ド・モレー級でも大丈夫だろう。ソビエツキー・ソユーズ級とは違ってこっちの主砲は4連装なのだから、成功率も高い筈だ。
甲板の上に居座る巨大な砲塔が、ゆっくりと旋回を始める。4本も突き出ている4連装砲の砲身が、砲塔の旋回する最中にゆっくりと上へ持ち上げられ、艦の眼前に立ちはだかる海原ではなく天空へと向けられる。
いくら戦艦の主砲が強力とはいえ、空を自由自在に飛び回る航空機に直撃させることは困難としか言いようがない。小回りの利かない巨大な砲塔で、素早い上に小さな標的である航空機を撃墜することはできないのだ。なので航空機の相手は船体にびっしりと搭載された対空機銃や高角砲の仕事とされており、レーダーやミサイルの発達で、航空機を撃ち落とす仕事はCIWSや対空ミサイルに取って代わられていった。
だから、接近してくる航空機に主砲を向けるのは愚の骨頂でしかない。
旧日本軍では対空用の砲弾も開発されたが、アメリカ軍の航空隊を食い止めることはできなかったのである。
しかし―――――――ジャック・ド・モレーとユーグ・ド・パイヤンの主砲に装填された砲弾は、”主砲では航空機を落とせない”という現実を打ち砕く性能を秘めていた。
『砲撃準備よし!』
『こちらユーグ・ド・パイヤン。こちらも砲撃準備よし、いつでもどうぞ』
敵の航空機へと向けられた砲口の数は合計で16門。ジャック・ド・モレーとユーグ・ド・パイヤンの前部甲板に搭載された2基の4連装砲がほぼ同時に火を噴くのだから、40cmの巨大な砲弾が16発も敵機に牙を剥くという事になる。
もし標的が沿岸砲台群だったのならば、沿岸部は火の海と化していただろう。
しかし装填された砲弾は、地上や敵艦を火の海にするのではなく、空を炎で埋め尽くす事ができる特殊な砲弾なのだ。
「――――――
CICでモニターを睨みつけていたブルシーロフ提督が発射命令を下した直後、史実のテンプル騎士団の団長の名を冠した超弩級戦艦の主砲が、倭国の海の上で火を噴いた。
砲弾と共に躍り出た爆炎が真下の海面を紅く染め、衝撃波がその海面を抉る。衝撃波であっという間にズタズタにされた海面を置き去りにして飛翔していくのは、獰猛な4連装砲たちから解き放たれた合計16発もの特殊な砲弾たちだった。
虎の子の超弩級戦艦たちがが居座る輪形陣を置き去りにし、天空に風穴を穿ちながら飛翔する砲弾たち。彼らが起爆して役目を離すことになる”終着点”には、それを探知したレーダーの反応通りに、演習海域へと乱入した余所者が居座っていた。
たった3機で編隊を組み、艦隊へと一直線に進んでいく
数秒後に、その標的たちは2隻の超弩級戦艦から放たれた砲弾の餌食となるのである。
4連装砲から放たれた砲弾が通常の砲弾だったのならば、そのまま接近してくる
だが―――――――それを実現するテストには、ソビエツカヤ・ロシアが既に成功している。
そう、結果は既に出ているのだ。散々戦艦に爆弾や魚雷を叩き込んだ天敵に、一矢報いるどころか、逆に彼らを脅かしてしまうほどの最高の結果が。
敵機を撃墜する前に立て続けに自爆してしまった砲弾たち。爆風で敵機の撃墜を狙っていたのであれば、近接信管の故障としか言いようがないほど、肝心な爆風と敵機の距離は離れ過ぎていた。荒れ狂う獰猛な爆風に呑み込まれれば航空機は間違いなく粉砕されてしまうだろうが、その荒々しい爆炎は標的を飲み込む事ができず、悔しそうに標的の装甲を紅い光で照らしている。
その爆炎を、炸裂した砲弾の中から生まれ落ちた無数の小型の砲弾たちが食い破った。
炎を纏いながら、標的の眼前へとばら撒かれた小さな砲弾たち。まるで火山から飛び出したマグマの飛沫のように紅い残光を残しながら飛翔した小型の砲弾たちは、内蔵された近接信管が標的を感知できる距離まで飛翔してから―――――――無数の爆炎で、青空を蹂躙した。
ばら撒かれた砲弾の一発一発が爆発し、他の爆発と結びついて爆炎の防壁を形成する。戦艦の主砲が当たるわけがないと高を括っていた標的たちは、その爆炎の中へと突っ込む羽目になってしまう。
小型とはいえ、戦闘機の主翼を捥ぎ取ってしまうほどの威力の爆風を浴びる羽目になった標的たちは、あっという間に爆風に表面の装甲を引き剥がされ、融解する装甲の破片を空に撒き散らしながら、ぐるぐると回転しつつ墜落していった。
ジャック・ド・モレーとユーグ・ド・パイヤンの主砲から解き放たれたのは、旧日本軍が使用していた”三式弾”と呼ばれる砲弾をベースにタクヤが生産した、”艦対空キャニスター弾”と呼ばれる砲弾である。
無数の炸裂弾を内蔵した砲弾を発射し、それを敵機の眼前で起爆させて炸裂弾をばら撒くことで爆風の壁を生み出し、高速で飛行する敵機を撃墜するのである。炸裂弾は広範囲にばら撒かれる上に、内蔵されている一発一発に近接信管が搭載されているので、敵機に接近すればたちまち起爆して爆炎の壁を形成するのだ。
爆炎が猛威を振るう範囲が広いため、いくら戦闘機でも回避するのは極めて困難である。
この砲弾を戦艦やスターリングラード級に装備すれば、航空機やミサイルを瞬時に迎撃することが可能になるだろう。
「ひょ、標的の撃墜を確認!」
CICで乗組員が叫んだ瞬間、モニターを見つめていた乗組員たちが歓声を上げた。
戦艦の主砲が、
合同演習の真っ最中であるにもかかわらず歓声を上げる乗組員たちを微笑みながら見守っていたブルシーロフ提督は、抜き打ちでの襲撃というプレゼントを用意していたタクヤに最高のお返しをしてニヤリと笑うと、「さあ、演習を続けるぞ」と言いながら腕を組むのだった。