異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「素早いですね」
「ああ。撤退も上手い」
倭国支部の兵士たちが銃撃してきた建物を双眼鏡で確認しながら、私は隣にある倒壊した建物の壁を盾にしてAK-12を構えていた副官に向かって呟いた。
本来なら我々が先行し、前進してきた敵を足止めしつつ通信兵が後方の部隊に砲撃を要請して、迫撃砲で一網打尽にする予定だった。だが市街地の中心を通過したにもかかわらず敵と遭遇しなかった時点で、私は敵が先制攻撃を諦めて待ち伏せに作戦を切り替えていることを悟った。
仮に敵が廃墟の中に陣取って待ち伏せをしていたとしても、後方の分隊に指示すれば迫撃砲で一網打尽にできる。だから作戦を変える必要はなかったのだが、敵の分隊長はかなり優秀な兵士らしく、こちらの作戦を見抜いて分隊を後方へと後退させている。
おそらく、こちらがたった4人―――――――別動隊も含めれば8人だ―――――――で前進してきたことに違和感を感じただけでなく、こちらの分隊に通信兵が含まれていたのを見て迫撃砲での殲滅を目論んでいると確信したのだろう。
素晴らしい観察力だ。それに、撤退させるタイミングも素晴らしい。
いつまでも後退を続けるわけにはいかないが、敵は部隊に損害を全く出さずに撤退に成功している。相手の指揮官がどれほど優秀な男なのかは言うまでもないだろう。
「各員、撃ち方止め」
「分隊長、次はどうしますか?」
「この模擬戦の時間は無制限だ。にらみ合いに意味はない。…………攻撃あるのみだ」
「はっ。では、後方のチャーリーチーム、デルタチーム、エコーチームにも移動を」
「いや…………ブラボーチームを先行させろ。我々は他の分隊と合流する」
このまま我々(アルファチーム)とブラボーチームが前進し、後方の味方に敵の位置を連絡して砲撃で攻めるという作戦だと思っていたのか、副官は私が別の作戦を口にした瞬間に目を丸くした。
一番最初に立案した作戦の通りに動いても効果はあるだろう。しかし、敵の指揮官はこちらの装備と編成で作戦を見抜き、無事に部下を無傷で撤退させる技術の持ち主だ。次も同じ手で攻めたら、こちらが砲撃を要請している間に前進し、前に出ている我々とブラボーチームを各個撃破するに違いない。
いくら錬度に差があるとはいえ、8対16ではいくら何でも分が悪すぎる。しかも敵は足の速い兵士で編成した偵察部隊も用意しているため、迂闊に前進すれば敵に待ち伏せされてしまう。
『こちらブラボー1。アルファ1、聞こえるか?』
「聞こえてるよ、ラスカー軍曹。どうぞ」
『当たり前だとは思うが、手は変えるんだな?』
ふん、こいつも同じことを考えていたという事か。
ラスカー軍曹の分隊には、兵士たちの中でもスタミナが多く、足も速い兵士たちばかりが集められている。前衛を担当させるのであればうってつけだろう。
それに彼らの部隊には、我々とは違う装備が支給されている。
「…………その通りだ、ブラボー1。悪いが一足先に行っててくれ」
『了解(ダー)。…………よし、前進する。俺に続け』
『『『了解(ダー)』』』
私たちは後方の部隊と合流した方が良さそうだ。
そう思いながら腰に下げている水筒を取り、蓋を外して口へと運ぶ。中に入っているのは水ではなくアイスティーで、
中にはコーヒーの方が好きな奴もいるが。
アイスティーを飲みながら周囲を警戒していると、同じように周囲を警戒しているライフルマンたちが、アイスティーを飲んでる場合なんですかと言わんばかりにこっちを見つめてきた。多分この2人は、今すぐにでも倭国支部の部隊を追撃して殲滅するべきだと思っているんだろう。
悪い手じゃない。多分、そっちの方が戦いはすぐに終わるだろう。
だが、そんな作戦を実行すれば確実に損害が出るだろう。実戦では犠牲を覚悟しなければならない局面もあるから、全ての兵士を無傷で帰還させるというのは至難の業だ。そんな事ができる指揮官なんか存在しない。
戦死した部下のドックタグを持って帰って葬式をするよりも、全員で帰って酒を飲んだ方がいいに決まってる。
だから私は損害を被る可能性が低い作戦を選ぶ。
まだ若いライフルマンたちに向けてニヤリと笑った私は、コンコン、と腰に下げているスコップを手で軽く叩いた。
兵士たちに支給されているこのスコップは、なんと軽迫撃砲にもなるかなり特殊なスコップなのである。さすがに従来の迫撃砲のように射程距離は長くないし、照準器は搭載されていないので命中精度は劣悪としか言いようがないが、最前線で即座に迫撃砲に早変わりしてくれる頼もしい得物である。
それに白兵戦でも大活躍してくれるからな。
アイスティーを飲みつつ周囲を警戒し、ブラボーチームの連中はそろそろ配置についただろうかと思っていると、警戒していた私たちの後方から他の分隊の連中がやってくるのが見えた。相変わらず種族や制服のデザインはバラバラで、かぶっているヘルメットにバイザーを装備している慎重な奴もいれば、ただでさえ重いヘルメットがさらに重くなるからという理由でバイザーを外したり、そもそもヘルメットをかぶっている兵士もいる。
やっと来てくれたか。
「お待たせ、ディミトリ」
「遅かったな、軍曹」
俺たちが装備している軽迫撃砲よりもでかい迫撃砲を肩に担いでやってきたのは、バイザーを取り付けたテンプル騎士団仕様のピッケルハウベをかぶり、ボディアーマーに身を包んだオークの男性だった。ピッケルハウベをかぶることが許されるのは分隊長のみという規則があるので、この男が分隊長だという事は一目で分かる。
エコーチームの連中だ。彼の後ろで迫撃砲の砲弾がたっぷりと入った箱を抱えているのは2人のハーフエルフの兵士で、その2人を若いライフルマンが護衛しているのが見える。
更に、エコーチームの後ろからデルタチームとチャーリーチームの兵士たちもやって来た。デルタチームの兵士たちも同じように迫撃砲と砲弾の入った箱を持っているが、チャーリーチームの兵士たちは彼らのサポートや、もし敵に突破された時の迎撃を担当する予定だったため、ライフルマンや選抜射手(マークスマン)で構成されている。もちろん、腰に下げているのは軽迫撃砲にもなる便利なスコップだ。
「ブラボーチームの連中は?」
「進軍した。そろそろ配置につくだろ」
「よし、じゃあ俺たちも前進するとしますか」
そう言いながら、エコーチームの分隊長は肩に担いでいた迫撃砲の砲身をでっかい手で叩いた。
彼が担いでいるのは、異世界―――――――同志団長の前世の世界らしい―――――――の”ソビエト連邦”という国で設計された『BM-37』という迫撃砲だ。旧式の迫撃砲らしいが、発射される82mmの砲弾の破壊力は非常に高いため、新型の兵器で武装した敵にも通用することだろう。
テンプル騎士団ではこの迫撃砲が正式採用されており、様々な部隊に配備されている。
今回の模擬戦では、この2門の迫撃砲とブラボーチームの連中が切り札になるだろう。
頼んだぞ、ブラボー1。
「こちらブラボーチーム。配置についた、どうぞ」
後方の味方に報告しつつ、ブラボーチームの指揮を執るラスカー軍曹は双眼鏡へと手を伸ばし、前方に居座る大きな溝を睨みつけていた。
大通りの下を通っていた下水の配管を掘り起こした跡なのか、まるでしっかりと舗装された大通りを巨大な剣で両断したかのように、荒々しい溝が刻み込まれている。深さは成人の男性が立ったまま身を隠す事ができるくらいだろうか。足元に踏み台を用意すれば、胸から上を出して射撃することも不可能ではないだろう。
偶然廃墟の中に生まれた、荒々しい塹壕である。
倭国支部の兵士たちは未だに損害を出していないものの、本部の兵士たちの迅速な進軍と迫撃砲の投入により、徐々に訓練場の隅へと追い詰められつつあった。このまま砲撃を要請すれば勝つことはできるだろうが、敵兵たちは既に本部の切り札が迫撃砲だという事と、ほぼ全ての兵士に軽迫撃砲にもなる便利なスコップが支給されていることを知っている。敵に知られている手を使っても効果は薄いだろう。
そこで、ブラボーチームが新たな切り札となるのだ。
双眼鏡から目を離して露店の陰に隠れた直後、その塹壕の中から飛来した数発のペイント弾たちが、亀裂の入ったレンガの壁に真っ赤な模様を刻み付けた。ぎょっとしながら反射的に頭を下げたラスカー軍曹は、苦笑いしながらショットガンに搭載されている折り畳み式のスパイク型銃剣を展開する。
ブラボーチームの兵士たちに支給されている武器は、全て同じだった。
メインアームはテンプル騎士団で正式採用された、ロシア製ショットガンのKS-23。銃床とグリップをAK-15と同じものに換装し、折り畳み式のスパイク型銃剣を装備してスラムファイアができるように改造した、”テンプル騎士団仕様”である。
サイドアームはテンプル騎士団で正式採用されているPL-14と、『PP-91ケダール』と呼ばれるロシア製の小型SMGである。
折り畳むことが可能な銃床と、まるでハンドガンのグリップの前方に細いマガジンを突き刺したような外見のSMG(サブマシンガン)である。本来であれば、マカロフなどの弾薬である”9×18mmマカロフ弾”を使用する代物だが、テンプル騎士団で採用されているSMG(サブマシンガン)やハンドガンの大半が9×19mmパラベラム弾を使用しているため、こちらも9×19mmパラベラム弾が発射できるように改造されている。
そう、ブラボーチームの兵士たちは、ショットガン、SMG(サブマシンガン)、ハンドガンの3つを与えられているのだ。
普通の兵士とは違い、アサルトライフルやマークスマンライフルは支給されていない。装備している武装が接近戦を想定したものばかりとなっているため、遠距離や中距離から狙撃されれば手も足も出ないのは火を見るよりも明らかだ。
ブラボーチームの兵士たちは―――――――突撃歩兵たちなのである。
味方の支援砲撃の直後に敵陣に突撃し、防衛戦を突破して後方の司令部などを攻撃するのが目的の部隊だ。春季攻勢(カイザーシュラハト)で吸血鬼たちが投入した突撃歩兵と比べると、テンプル騎士団の方が比較的重装備であり、より攻撃力を重視していることが分かる。
『こちらアルファ1、準備完了』
「了解」
折り畳み式の銃剣をチェックしながら副官に目配せしたラスカー軍曹は、頭上の青空を見上げながら息を吐いた。
副官が要請を終えれば、すぐに後方の部隊が迫撃砲による支援砲撃を始めるだろう。敵がその砲撃で慌てふためいている隙に遮蔽物の陰から飛び出し、反撃を受ける前に塹壕へと肉薄。そのまま塹壕へと突入し、倭国支部の部隊を撃滅することになる。
砲撃を要請する副官の低い声を聞きながら、かぶっているピッケルハウベをコンコンと叩く。他の部隊の兵士たちの中には、仮に弾丸が頭や顔面へと飛んできても身を守ることができるようにただでさえ重いヘルメットにバイザーを取り付ける兵士もいるが、突撃歩兵は普通のライフルマンよりも身軽さを要求される部隊である。それゆえに、彼が率いる部隊の兵士たちは誰もヘルメットにバイザーを付けていない。
『こちらアルファチーム。これより砲撃を開始する』
「来るぞ、準備しろ」
ラスカー軍曹がそう言うと、兵士たちが一斉に銃剣を展開した。
テンプル騎士団の兵士たちは、どういうわけか白兵戦を好む。中にはアサルトライフルなどの新型の装備を支給されているにもかかわらず、鉄パイプや棍棒を装備して敵と白兵戦を繰り広げる兵士も多いという。
白兵戦を好む兵士が非常に多いため、テンプル騎士団で採用されているほぼ全ての銃には銃剣が取り付けられるようになっているのだ。
「…………撃ちましたね」
瓦礫の山の陰に隠れていたハーフエルフの兵士が、そう言いながら微笑んだ。人間よりも聴覚が発達しているハーフエルフだからこそ、後方で迫撃砲が発射された音を聞き取ることができたのだろう。
ショットガンを抱えたまま空を見上げていたラスカー軍曹は、深呼吸をしてから姿勢を低くし、すぐに突撃できるように準備をする。すでに彼の分隊は訓練だけではなく実戦も経験しており、魔物の群れや転生者の潜んでいる小屋への突入を行って戦果をあげている。しかも部下たちは一度も負傷したことがないため、この分隊が編成された頃からメンバーは変わっていない。
突撃歩兵たちの中でも、錬度の高い分隊である。
とはいえ、突撃直前はいつも緊張するものだ。もしかしたら走っている最中に飛来した弾丸に身体を食い破られ、激痛を感じながら死ぬ羽目になるのではないかと考えてしまう。今回は模擬戦であるため飛来するのはペイント弾だが、それに被弾したという事は、実戦で戦死してしまったという事を意味する。
もちろん、敵の塹壕へと無事に突入できても緊張し続ける羽目になる。装備した銃をぶっ放し、敵兵と近距離で殺し合いをしなければならないのだから。
安心できるのはしばらく後だろうな、と思った次の瞬間、後方から飛来した2発の砲弾が、塹壕のすぐ近くに真っ赤なペンキをぶちまけた。鮮血にそっくりな色の飛沫が至る所に飛び散り、物騒な模様を描く。
爆音が聞こえないと寂しいものだ、と思いつつ、ラスカー軍曹が率いるブラボーチームの兵士たちは、極限まで姿勢を低くしながら、前傾姿勢で走り出した。
抱えているショットガンから伸びる銃剣で時折地面にラインを刻み付けながら、そのまま転倒してしまいそうなほどの前傾姿勢で突っ走っていく。頭上やすぐ脇を容赦なく89式小銃の5.56mm弾が掠めていくが、テンプル騎士団の突撃歩兵たちは全く速度を落とさずに、驚異的な速度で塹壕へと向かっていく。
ラスカー軍曹と距離を取りながら走っていた副官が、腰にぶら下げていた模擬戦用の手榴弾を掴み取った。安全ピンを引いた彼に、やれ、と命じると、副官は前傾姿勢で突っ走ったままその手榴弾を塹壕の中へと放り投げた。
数秒後、パンッ、と火薬が炸裂するような音が響くと同時に、真っ赤な液体が塹壕の中で荒れ狂う。内蔵されていた少量の火薬によって飛び散った紅い飛沫は弾幕を張っていた分隊支援兵とライフルマンの制服に付着し、彼らに今の爆発で戦死したという事を告げた。
容赦なく距離を詰め、そのまま塹壕の中へと転がり込む。真っ赤になった制服に身を包みながら両手を上げて苦笑いする兵士たちを一瞥し、まだ応戦している兵士を探す。塹壕の縁で89式小銃のバイボットを展開してフルオート射撃を続けているライフルマンたちは、まだラスカー軍曹が塹壕の中へと無事に侵入したことに気付いていないらしい。
「うわっ……!」
そのうちの1人が慌てて絶叫し、仲間に敵が侵入したという事を知らせる。しかし弾幕を張ることに勤しんでいた倭国支部の兵士たちが気付く頃には、ラスカー軍曹と共に塹壕へと侵入した兵士たちの容赦のないスラムファイアとPP-91ケダールのフルオート射撃が荒れ狂い、訓練用の赤いペンキで彼らの制服を真っ赤に染めていたのだった。