異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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帰宅

 

「お見事」

 

 塹壕の中で銃を構えていた兵士たちがペイント弾に被弾して脱落し、その別の場所に隠れていた兵士たちまで迫撃砲の攻撃で脱落したのを目の当たりにした柊は、双眼鏡から目を離しながらそう言った。

 

 屋外に作られた訓練場で繰り広げられた模擬戦の結果は、本部の兵士たちの勝利だった。結局倭国支部の兵士たちは本部の兵士たちを1人も脱落させる事ができなかったが―――――――彼らが成長しているという事は、知る事ができた。

 

 彼らの最大の長所は判断の素早さと防衛戦の技術だろう。

 

 模擬戦が始まってから、倭国支部の兵士たちは足の速い兵士たちに本部の兵士たちの動きを偵察させた。そして彼らが本部の兵士たちの動きが予想よりも速く、先制攻撃が非常に難しいという事を後続の部隊に伝えると、指揮官は即座に先制攻撃を断念して待ち伏せに作戦を変更。その待ち伏せは失敗してしまうが、敵兵の装備を確認して迫撃砲での砲撃を目論んでいるという事を見抜いたのだから、待ち伏せは成功しなかったとはいえ立派な指揮官と言える。

 

 倭国支部の兵士たちがこのように防衛戦を得意としているのは、彼らを構成している兵士の大半がボシン戦争の敗残兵たちだからだろう。

 

 基本的に、戦争では劣勢になると攻め込んでくる敵を迎え撃つ防衛戦が多くなる。倭国支部の兵士の大半はボシン戦争で敗北した旧幕府軍の兵士たちだから、そのような防衛戦を何度も経験しているのだ。

 

 だからこそ、どうすれば敵を効率よく迎え撃つ事ができるのか熟知しているのである。

 

 つまり倭国支部は、スオミ支部と同じく攻撃よりも防衛戦が得意な支部という事になる。攻め込んできた敵を迎え撃つのが得意なのは頼りになるが、テンプル騎士団の活動目的は転生者の討伐と、彼らに虐げられている人々の保護である。基本的に敵の拠点へと攻め込むような戦いの方が多くなるのだから、出来るのであれば攻撃も得意になって欲しいものである。

 

 武器からマガジンを抜いて安全装置(セーフティ)をかけ、訓練場の出口へと向かう兵士たち。彼らを見守ってから双眼鏡から目を離し、俺は息を吐いた。

 

 これで倭国支部との合同演習は全て終了だ。後はこの倭国支部に配備される第一打撃艦隊旗艦『ユーグ・ド・パイヤン』と他の艦艇をここに残し、ジャック・ド・モレーに乗ってカルガニスタンにあるタンプル搭に戻るだけである。

 

 けれどもその前に、ちょっとだけ寄りたい場所がある。

 

 ちらりと隣を見ると、ラウラも同時にこっちを見た。どうやらラウラも俺と同じ場所に寄りたいなと思っていたらしく、微笑みながら頷いた。

 

 小さい頃から常に彼女と一緒にいるせいなのか、話をしなくても彼女が何を考えているのかは分かる。だから戦闘中もいちいち話さなくても連携を取ることは難しくはない。

 

 多分、小さい頃から常に一緒にいた以外にも理由があるのではないだろうか。

 

 父親は同じ父親だけど、母親は違う腹違いの姉弟。けれども俺とラウラの母親は姉妹ではなく、正確に言うと、ちゃんとした人間と、その人間の遺伝子を元に生み出されたホムンクルス(クローン)。一応エリスさんと母さんは姉妹という事になっているが、遺伝子的にはほぼ同じ人間と言っても過言ではないという。

 

 だから俺たちは、腹違いの姉弟というよりは”双子”に近いのかもしれない。

 

 同じ父親と遺伝子的には同じ母親から生まれたのだから、思考がそっくりでもおかしくはないのだ。

 

「さて、兵士たちと一緒に反省会でもしてくるか」

 

「なあ、柊」

 

「ん?」

 

 梯子を下り、制服を真っ赤にされた兵士たちの元へと行こうとしていた柊を呼び止めると、彼は梯子に手を伸ばしたままこっちを振り返った。

 

 その”寄りたい場所”に寄ってから帰る前に、土産でも買っていくべきだと思う。産業革命で技術が発達し、あらゆるものが国中の工場で生産できるようになったとはいえ、倭国でしか手に入らないものもあるのだ。ここから商人たちがオルトバルカへと物を売りに行くには、危険な魔物が生息している海域を超えなければならないのだから。

 

「近くに倭国の土産を売ってる店はないか?」

 

「ああ、閉会式が終わったら部下に案内させるよ」

 

「Спасибо(ありがとよ)」

 

 軍帽をかぶり直してから梯子を下りていく柊。俺たちもそろそろ下に降りようと思いつつ、俺も梯子へと手を伸ばす。

 

「お土産でも買っていくの?」

 

「ああ」

 

「合同演習の記念に?」

 

「いや、ちょっと寄りたいところがあってね」

 

「寄りたいところ?」

 

 そのままタンプル搭へと帰るのだろうと思っていたらしく、ナタリアは首を傾げた。説明した方がいいだろうな、と思いながら踵を返したけれど、小さい頃から一緒にいたお姉ちゃんもやっぱり同じことを考えていたらしく、俺の代わりに説明してくれる。

 

「ええ、ちょっと実家に寄ってから帰ろうかなって」

 

「実家…………ああ、王都の」

 

「そういうこと」

 

 やっぱり、彼女が考えていたことは俺と同じだった。

 

 そう、帰る前にラガヴァンビウスにある実家に寄ってから帰ろうと思っていたのだ。あの春季攻勢(カイザーシュラハト)が終わってからは数回しか両親に会っていないから、倭国の珍しい土産を持って帰れば両親も喜んでくれる筈である。

 

 倭国のお土産は何がいいかな、と問いかけてきたラウラと一緒にどんな土産を買うか話し合いつつ、俺はエリスさんの事を考え始めた。

 

 ―――――――春季攻勢(カイザーシュラハト)で、エリスさんは右足を失う重傷を負ってしまったのである。

 

 戦闘中に身動きが取れなくなった新兵を助けようとして、右足を失ってしまったらしい。

 

 本人は親父のように義足を移植して復帰するつもりだったが、親父はエリスさんを説得して退役させた。妻に義足を移植させてまた最前線で戦わせたら、大切な妻が戦死してしまうかもしれないと思ったのだろうか。

 

 俺もそのような気持ちは味わった。

 

 利き手と左足を失い、身体に包帯を巻いたラウラがベッドの上から虚ろな瞳で見上げてきた時の事を思い出し、こっそりと唇を噛み締める。

 

 隣で微笑んでいる大切な姉を、戦死させるわけにはいかない。

 

 だから俺もラウラを退役させようとした。同じ気持ちを味わっているからこそ、親父(ガルゴニス)がエリスさんを退役させた理由は分かる。

 

 あの後にも家を訪れたけれど、片足を失って車椅子に乗っているとはいえ、エリスさんは元気なままだった。下手なのに料理をしようとしたり、部屋に隠しているエロ本を読んでニヤニヤしていた。片足を失う前どころか俺たちが旅に出る前と全然変わらなかったから大丈夫だとは思うけれど、心の中では戦場で親父と戦えないことを悔しがっているに違いない。

 

 土産を持って顔を出せば、少しはその悔しさも薄められるだろう。

 

 ラウラとナタリアを先に下ろしてから、俺も梯子へと手を伸ばす。

 

 そうだ、母さんにも土産を買っていこう。親父たちと一緒に剣の素振りをしていた時に、「サムライの刀に興味がある」と言っていたから、倭国の鍛冶屋で刀を買っていったら喜ぶかもしれない。

 

 エリスさんにはどんな土産がいいだろうか、と思いながら、俺も見張り台の下へと伸びる梯子を下り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、本部と倭国支部の合同演習は無事に終わった。

 

 最終日で行われた模擬戦では本部の兵士に損害を与えることはできなかったものの、倭国支部の兵士たちの錬度も上がっていることを知る事ができたし、倭国支部が攻撃よりも防衛戦を得意とする支部だという事を把握する事ができた。

 

 それに、倭国支部にユーグ・ド・パイヤンを旗艦とする”テンプル騎士団第一打撃艦隊”も無事に配備された。既に倭国支部に配備されている金剛型戦艦と共に倭国支部を母港としつつ、倭国支部の兵士たちやオルトバルカへと向かう商人たちを救ってくれるに違いない。

 

 これからも今回のような合同演習は積極的に行う予定だし、場合によっては倭国支部に協力を要請することも多くなるだろう。テンプル騎士団の目的のためには、この組織を世界規模の組織に成長させなければならないのだから。

 

 今は、揺り籠(クレイドル)を守るための武力が必要だ。

 

 どんな勢力でも、こちらの軍備を目にしただけで攻撃を諦めてしまうような武力が。そうしなければ、絶対に安寧は得られない。

 

 二週間前の会議で、俺の提唱した『クレイドル計画』が採決され、円卓の騎士全員に可決してもらう事ができた。既に計画のために軍拡が始まっており、タンプル搭の周囲にはかなりの数の前哨基地やレーダーサイトが建設されている。

 

 クレイドル計画とは、人々を虐げるクソ野郎共のいる世界を捨て、絶対に虐げられることのない”揺り籠”を作る計画だ。既に武装したテンプル騎士団の歩兵だけでも、相手が単独ならば転生者を討伐できるようになりつつある。しかし転生者を生み出している輪廻は、どういうわけか未だに転生者たちをこの世界へと送り込み、蛮行を続けさせている。

 

 人々を虐げているのは転生者だけではない。貴族や領主たちも奴隷たちを酷使しているし、一部の貴族は税金の金額を高くして住民たちを苦しめている。

 

 どれだけクソ野郎共に風穴を開けても、彼らの数は減らない。

 

 ならばクソ野郎の殲滅を諦めて、俺たちが人々のための”揺り籠”を作ればいい。

 

 その揺り籠を圧倒的な武力で守れば、クソ野郎共はもう人々を虐げる事ができなくなる。後はそのまま揺り籠の中で平和に暮らせばいいし、もし揺り籠の外に置き去りにされたクソ野郎共が手を組んで攻め込んできても、積極的な軍拡で強化された部隊で粉砕してやればいい。

 

 けれども、私腹を肥やすことを優先するクソ野郎が他の連中と手を組めるとは思えないけどね。そのまま交渉が決裂して、クソ野郎同士の殺し合いになって全滅してくれれば最高だ。もし本当にそんなことになったら、俺は一番最初に殺し合いを始めてくれたクソ野郎のために記念碑でも作ってやるつもりだ。

 

 記念碑には『最初に殺し合いを始めてくれた大馬鹿野郎』と刻み込んでやろう。

 

 そんな過激な事を考えているうちに、やけに分厚い防壁が見えてきた。一般的な要塞の防壁の5倍くらいの厚さがあるのではないだろうかと思ってしまうほどの防壁には、巨大な魔方陣が描かれているのが見える。防壁の上には最新型のスチーム・カノン砲がずらりと並び、その周囲にはそれをぶっ放す砲兵たちが立っているのが分かる。

 

 あの壁面の魔法陣は、魔術を増幅させるための代物だ。あの防壁の中には床や壁にびっしりと魔法陣が描かれた小部屋があるらしく、そこで魔術師が魔術を発動させることにより、あの巨大な魔法陣から増幅された強力な魔術が飛び出す仕組みになっているらしい。

 

 魔物が襲撃してくるのが当たり前だった昔は頻繁に火を噴いていたらしいが、今では射程の長いスチーム・カノン砲の砲撃で決着がついてしまう事が当たり前で、そもそも魔物がラガヴァンビウスを襲撃してくる事が稀なので、単なる壁面に描かれた変な模様に成り下がっているけどね。

 

 要は、魔術が敵を蹴散らしていた時代の産物だ。

 

 キャノピーから大地を見下ろし、着陸できそうな平らな場所を探す。もうモリガン・カンパニーのレーダーには察知されているだろうな、と思いながらカサートカの高度を落とした俺は、防壁の近くにある平らな場所にヘリを着陸させた。

 

 メインローターが生み出す風が足元の草を揺らし続ける。

 

 兵員室からラウラとナタリアが降りたのを確認してから、俺もコクピットから降り、メニュー画面を開いてヘリを装備していた兵器の中から解除した。

 

 奇妙かもしれないが、転生者の端末やこのメニュー画面では、武器だけでなく兵器も”装備”していることになっているらしい。しかも兵士たちに支給している兵器や銃は、仲間が装備しているのではなく俺1人が装備していることになっているので、こっちのメニュー画面では俺が装備している武器や兵器はとんでもないことになっている。1000丁以上のAK-12やAK-15を装備するのは、いくらキメラでも不可能です。

 

 念のため、護身用にスペツナズ・ナイフと水平二連型のソードオフショットガンを装備しておこう。ここはモリガン・カンパニーの総本山と言っても過言ではない場所で、こんなところで強盗をすればたちまちモリガン・カンパニーの兵士たちに蜂の巣にされるから武装する必要はないんだが、そのモリガン・カンパニーがいつ同盟を破棄するか分からない状態なので、一応装備しておいた方がいいだろう。

 

 ラウラとナタリアにもナイフとハンドガンを渡す。ナタリアはこんなに治安の良い王都でも武装する必要があるのかと言わんばかりにこっちを見てきたが、「念のためだ」と言うとホルスターごとPL-14を受け取り、それを腰に下げた。

 

 ちなみに俺が装備したソードオフショットガンは、後部から撃鉄(ハンマー)が伸びている”有鶏頭(ゆうけいとう)”と呼ばれるタイプだ。しかも発射する散弾を12ゲージの散弾から、KS-23と同じく23×75mmR弾に変更しているので、至近距離での破壊力は絶大としか言いようがない。

 

 小さい武器だが、破壊力はある。

 

 それを1丁だけ腰の後ろに下げ、乗ってきたヘリが草原から姿を消していることを確認してから防壁の方へと向かう。分厚い防壁には街の中に入るための門が用意されているんだが、防壁があまりにも分厚過ぎるせいで、門というよりはトンネルにしか見えない。

 

 その”トンネル”の前には、数名の騎士が立って警備していた。俺たちが身に着けている黒い制服を目にした瞬間に、俺たちがテンプル騎士団だという事を見破ったらしく、彼らはすぐに警戒するのを止めて道を開けてくれた。

 

 テンプル騎士団も有名になったんだな…………。

 

「お疲れ様、テンプル騎士団の諸君」

 

「どうも」

 

 親父たちの頃は制服の上に防具を身に着け、剣を装備した騎士が警備していたらしいんだが、今では真っ赤な制服に身を包んだ騎士が銃剣付きのスチームライフルを肩に担いで警備している。そのうち異世界版のアサルトライフルを装備した”兵士”が警備をするのではないだろうか。

 

 こっちの世界でアサルトライフルが生まれるのはまだ先だろうな、と思いつつ、防壁に穿たれたトンネルの中へと進んでいく。道の真ん中は馬車が通ることになっているので、端を歩かなければ馬に踏みつけられてしまう。

 

 トンネルを通過し、以前に訪れた時よりも高い建物が増えている王都の中を進んでいく。建物の間には鉄道の線路が敷かれていて、その上をフィオナ機関を搭載した列車が蒸気にも似た魔力の残滓をまき散らしながら走っていた。遠くに見える塔のような工場の煙突からは真っ白な煙が噴き上がっていて、頭上の青空へと流れ込んでいる。

 

 あの工場には、ちゃんと有害な物質を取り除く装置が付いているらしい。

 

 大きな馬車や立派な服を着た市民たちが行き交う大通りを進んでいるうちに、大通りの向こうに巨大な駅が見えてきた。華やかな橙色のレンガと鉄骨を組み合わせて建造されており、2階にある駅のホームの天井は華やかな装飾が施されたガラスで覆われている。

 

 ラガヴァンビウス駅だ。

 

 確か、最初に転生者を討伐した時の出発点はあそこだったな…………。

 

 昔の事を思い出しつつ、ここで大通りとお別れする。道を左に曲がって真っ直ぐ進み、水路の上にかかっている小さな橋を渡ると、普通の家にしては随分と大きな建物が見えてきた。

 

 大きいとは言っても、屋敷と言える程ではない。どちらかというと”大きめの普通の家”だろうか。

 

「ふにゃー……久々だね」

 

「ああ」

 

 ネイリンゲンから引っ越してきた際に、親父と仲の良かった国王が用意してくれた新しい家。

 

 目の前に鎮座しているのは、俺たちの実家だった。

 

 

 

 

 

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