異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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久しぶりに帰宅するとこうなる

 

 俺たちの両親は、派手な装飾だらけの豪華な屋敷よりも、質素な家を好んでいた。

 

 父親が転生者で、前世ではごく普通の会社員として生活していたからそういう派手な屋敷よりも普通の家を好む理由はよく分かる。もし俺も普通の家と屋敷を選べるとしたら、普通の家をすぐに選んでしまうだろう。広い屋敷も悪くないけれど、あの派手な黄金の装飾とか綺麗なカーペットで彩られた空間では落ち着けそうにない。

 

 王都にある実家は、質素な家を好む親父のために当時の国王が用意してくれた家だった。かつてネイリンゲンの郊外にあった家は無事だったんだが、ネイリンゲンのあの事件で大量の死者が出たことで、その血の臭いで魔物たちが集まり、瞬く間に危険地帯と化すことを見抜いていたのだろう。だからネイリンゲンには留まらずに王都へと引っ越してきたのだ。

 

 国王には「質素な家がいい」と要求したらしいが、国王は自分の娘―――――――シャルロット女王だ―――――――の命を救ってくれた傭兵に薄汚い家をプレゼントするわけにはいかないと思ったのか、少しばかり大きめの家にしてくれたという。だからラガヴァンビウスにある実家は、ごく普通の家と比べると大きい。

 

 玄関のドアへと手を伸ばし、久しぶりに家の中へと入る。前世の世界にいた頃に住んでいた家と雰囲気が似ていたけど、こっちの方が玄関もちょっと広い。俺や親父は落ち着くけれど、母さんやエリスさんは満足しているんだろうか。

 

 母さんとエリスさんは、ラトーニウス王国の貴族だったのだ。実家は既にモリガンの傭兵たちの報復によって母さんたちの父親もろとも消失しているので存在しないが、結構豪華な屋敷だったという。

 

 というか、俺にとって”祖父”にあたるエリスさんの父親まで粛清してるのか。恐ろしいギルドだな…………。

 

 ちなみに倭国支部では部屋に上がる際に靴を脱いでいたけれど、オルトバルカ王国では部屋や家の中に入る際には靴を脱がなくてもいい。なのでこっちの世界に生まれ変わった後は、玄関で靴を脱がないように細心の注意を払っていた。

 

 あの時の事を思い出しながら家に入り、リビングへと向かう。多分親父や母さんは仕事中だろうけど、もう少し待ってれば戻ってくるだろう。

 

 エリスさんはいるだろうか。

 

「ただいまー」

 

 久しぶりにリビングへと足を踏み入れる。少し大きめの木製のテーブルと6人分の椅子が置かれているリビングは、俺とラウラが冒険者の資格を取って旅に出たあの日と全く変わっていない。テーブルの向こうにある棚の上にはモリガン・カンパニーのロゴマークがこれ見よがしに刻み込まれたラジオが置かれており、フィオナちゃんが発明したそのラジオからは音楽が流れている。聞いたことのない曲だけど、オルトバルカで流行ってる曲なのだろうか。

 

 そのラジオの隣に飾られているのは、一枚の白黒の写真だ。

 

 リビングの入り口からだと何が映っているのかは分からないけれど、辛うじて集合写真だという事は分かる。

 

 あの写真に写っているのは、幼い頃の俺とラウラや、若かった頃の母さんとエリスさん。真ん中に写っているのは戦死する前の本当の速河力也で、その前にいるのが人間の姿になったガルゴニス。そう、本当の親父が写った唯一の写真である。

 

 フィオナちゃんが発明したカメラで撮影されたその白黒写真を、車椅子に乗った蒼い髪の女性が眺めていた。私服に身を包んだその女性は、リビングの入り口に俺たちがいることに気付いていなかったらしく、こっちを見た瞬間に目を見開いた。

 

 ラジオの音楽を聴いていたから気付かなかったのだろうか。それとも考え事をしていたのだろうか。

 

 写真を見つめながら悲しそうな表情をしていたエリスさんは、俺たちが家に戻ってきたことに気付くと、凄まじい速度で自分の車椅子のタイヤをぐるぐると回し始めた。まるで加速した自転車みたいな速度でドリフトした彼女は、目を輝かせながらこっちに向かって突っ込んでくる!

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 避けた方がいいんじゃないかなと思ったんだけど、避けたらエリスさんが壁に激突してしまう。早くも元気そうなことが分かって安心したんだけど、さすがに片足を失った人を壁に叩きつけるわけにもいかない。

 

 というわけで、俺とラウラは加速してきたエリスさんを受け止める羽目になった。

 

「ふにゃっ!?」

 

「こぶらっ!?」

 

 一緒にやってきたナタリアは辛うじて横に回避したらしい。

 

 突進してきたエリスさんを受け止める羽目になった俺とラウラは、そのまま廊下にある木製の壁に背中を叩きつける羽目になった。エリスさんは大丈夫だろうかと思ってちらりと下を見下ろしてみると、彼女はうっとりしながら俺とラウラのお腹の辺りに全力で頬ずりをしながら匂いを嗅いでいる。

 

 昔のネイリンゲンにタイムスリップした時に会った昔のエリスさんは真面目で冷たい女性だったんだけど、どうしてこんなド変態になってしまったのだろうか。モリガンに若き日のエリスさんを迎え入れた親父も、きっと同じことを考えながら搾り取られていたに違いない。

 

「うふふふっ、お帰りなさい。…………あぁ、2人ともいい匂いがするわぁ…………♪」

 

「ま、ママ…………」

 

 頬ずりを継続しながら、そのまま両手を俺のズボンのベルトへと伸ばすエリスさん。ベルトを外そうとする彼女の手を全力で止めつつ、笑顔を維持しながら問いかける。

 

「え、エリスさん、何をするつもりなんですか?」

 

「決まってるじゃないの。えっちな事よ?」

 

「あの、さすがに親子は拙いんでやめてください」

 

 姉弟も拙いと思うけどね。

 

 全力で抵抗しているうちに、エリスさんはなんともう片方の手でラウラの身にスカートへと手を伸ばし始めた。息子だけじゃなく娘まで襲うつもりなのか、この人は。

 

「ま、ママ、親子は拙いわよ」

 

 俺と同じことを言いながら全力で抵抗するラウラ。襲うのは諦めたのか、エリスさんは両手を引っ込めてから顔を上げて微笑んだ。

 

 そのまま「お帰りなさい」って言ってくれるんだろうなと思ったんだけど、自分の子供たちを襲おうとしていた光景を部外者(ナタリア)に見られていたことに気付いたらしく、エリスさんの笑みが苦笑いへと変わっていった。

 

 き、気付いてなかったのか…………。

 

「お、お帰りなさい。なんだか久しぶりね」

 

「は、はい」

 

 ハンカチを取り出して冷や汗を拭い去ってから、エリスさんは車椅子をくるりと方向転換させた。

 

「さあ、ゆっくり休んでいきなさい。お菓子もあるわよ」

 

「…………どうも」

 

 ちらりとナタリアの方を見て見ると、彼女も苦笑いしていた。てっきりぶん殴られるんじゃないかと思ってたんだけど、テンプル騎士団だけではなくモリガンの傭兵たちにもまともな人が少ないという事は知っていたらしい。

 

 エリスさんの車椅子を押し、一足先にリビングへと入っていくラウラ。俺もリビングに入ろうとすると、ナタリアは苦笑いしたまま耳元で言った。

 

「…………ラウラってお母さんにそっくりね」

 

「…………うん」

 

 戦闘中は逆に親父にそっくりになるんだけどね。

 

 苦笑いしているナタリアに道を譲り、俺も彼女の後にリビングへと足を踏み入れた。リビングにある木製の椅子に腰を下ろす前に、キッチンの近くの棚に置いてあるお菓子―――――――露店で買ってきたんだろう―――――――の乗っている皿を拾い上げ、テーブルの上に置く。

 

「元気そうですね、エリスさん」

 

「ええ。もう退役しちゃったけど、一週間に一度くらいはモリガン・カンパニーの訓練に顔を出したり、研究のお手伝いをしてるのよ」

 

 そう言いながら、私はまだ大丈夫と言わんばかりに笑うエリスさん。安心したけれど、テーブルの下をちらりと見下ろし、あの春季攻勢(カイザーシュラハト)で失う羽目になった彼女の右足を見た俺は、エリスさんに気付かれないように唇を噛み締めた。

 

 戦闘の最中に身動きが取れなくなった新兵を救った際に、敵の戦車に右足を潰されたらしい。

 

 本人は義足を移植して復帰するつもりだったらしいが、親父は退役するように説得したという。大切な妻を戦死させてしまうのが怖かったんだろう。

 

 俺もラウラが手足を失った際に、同じ決断を下そうとした。だから親父の気持ちはよく分かる。

 

 自分が死ぬよりも、大切な人が死んでしまう事の方が遥かに怖い。戦場ではそれが日常茶飯事なのだから、少しでもそうなるのを防ごうとするのは当たり前だろう。

 

 けれども俺はラウラの復帰を許し、親父はエリスさんの復帰を許さなかった。

 

 俺たちが選んだのは、逆の選択肢だったのだ。

 

 楽しそうな雰囲気は壊したくなかったので、足の事については触れないことにしよう。土産話でもして盛り上げた方がいいに違いない。

 

 そう思いながらちらりと時計を見上げると、もう既に午後5時になっていた。残業が無ければ親父たちが戻ってくる頃だなと思ったその時、玄関のドアが開く音と、王都中に響き渡る教会の鐘の音が家の中へと流れ込んできた。

 

 ラガヴァンビウスでは、正午、午後5時、深夜12時に教会の鐘を鳴らすことになっているのである。

 

 廊下から聞こえてくる3人分の足音。重々しい足音は1つで、残りの2つは軽い足音だから、がっちりした巨漢1名と女性2名だという事が分かる。発達した聴覚でその音を聞きながら、やっぱりキメラの身体って便利だなと思っていると、その足音を響かせていた張本人たちもリビングの入り口から顔を出した。

 

「ただいま。…………お、お前らも帰ってたのか」

 

「ふふっ、久しぶりだな」

 

「…………」

 

 家に入ってきたのは、親父、母さん、リディアの3人。最強の傭兵ギルドと言われたモリガンのトップクラスの実力者と、その猛者たちに手塩に掛けて育てられた親父の弟子である。

 

 スーツの上着を脱いでから壁にかけ、真っ赤な髪で覆われた頭を掻きながらエリスさんの隣に腰を下ろす親父。母さんは夕飯の準備をする前に着替えるためなのか、親父のスーツの上着を持って2階へと上がっていった。

 

 男性用のスーツとやけにボロボロなシルクハットを身に着け、腰に日本刀を下げたまま親父の後ろに立つリディア。俺たちを警戒してるんだろうかと思ったが、彼女はラウラの方を見つめながらニコニコと笑っていた。

 

 ラウラが懲罰部隊にいた時は彼女がラウラの監視をしていたらしい。その時に仲良くなったんだろうか。

 

「リディア、座っていいんだぞ」

 

「…………」

 

 相変わらず、親父の護衛を担当するリディアは何も喋らない。ちゃんと親父の言う事は聞いているので、現代の言語が理解できないというわけではないらしい。

 

 どうして彼女は一言も喋らないのだろうか。

 

「久しぶりだな、タクヤ。そっちの調子はどうだ?」

 

 親父の隣で無言で紅茶を飲んでいるリディアを眺めていると、腕を組んでいた親父に話しかけられた。

 

「今のところ問題はないよ」

 

「問題なしか…………。そういえば、フランセンの連中とやりあったそうだな」

 

「ああ、立派な領土をプレゼントしてもらえた。親切な総督だったよ」

 

 彼のおかげでカルガニスタンは独立する事ができたからな。素敵なプレゼントだ。

 

「だが、カルガニスタンには言語や文化が全く異なる部族がいくつもあるんだろう? そういうのは大丈夫なのか?」

 

「大丈夫。彼らの言語はもう大体喋れるようになったし、公用語はオルトバルカ語にしてるから」

 

 オルトバルカ語の勉強を義務化しているとはいえ、言語の問題はかなり大きい。出身地が異なる奴隷たちが所属しているだけでなく、全く違う言語を使う部族の中から志願してきた兵士たちまで所属しているので、テンプル騎士団の団員たちが使う言語の種類は合計で35種類もある。

 

 親父たちが小さい頃から色んな言語を教えてくれたおかげだよ、と言おうと思っていると、話を聞いていた親父とエリスさんが目を丸くしていた。

 

 ん? どうしたの?

 

「ちょ、ちょっと、タクヤ…………? あなた、部族の言葉も喋れるようになったの…………?」

 

「俺はお前に先進国の言語しか教えた覚えはなかったんだが…………」

 

「えっ? べ、勉強しただけなんですけど…………」

 

 そう答えると、エリスさんは車椅子のタイヤを回して親父の耳元で話し始めた。

 

「ダーリン、この子天才なんじゃない?」

 

「ああ、小さい頃から魔物の図鑑とか魔術の本を読んでたからな…………冒険者よりも学者の方が向いてるんじゃないか?」

 

 小さな声でそう言ってから、もう一度こっちを同時に見る親父とエリスさん。苦笑いしながら目を合わせると、その2人も苦笑いし始めた。

 

 だって、言語を勉強しないと仲間とコミュニケーションが取れないじゃん。戦場で仲間が何て言ってるか理解できなければ連携できないし、下手したら全滅しちまうだろ?

 

 すると、苦笑いしていた親父はちらりとナタリアの方を見た。

 

「久しぶりだね、ナタリアちゃん」

 

「はっ、はい。お、お久しぶりです」

 

 緊張してるのか?

 

 そういえば戦勝記念パレードの時も緊張してたよな。ナタリアって緊張しやすいのか?

 

「よ、傭兵さんもお元気そうですね」

 

「ありがとう。実はこの前、山の中で熊と殴り合ってきてな」

 

「熊と!?」

 

「ああ。右のストレートを顎にお見舞いしたら熊がぶっ倒れちまったよ。それにしてもこっちの世界の熊って北海道の熊よりも一回りデカいんだな」

 

 銃を使わなくても熊をぶっ殺す男だからな、この親父は。幼少の頃に狩りに連れて行ってもらった時も熊を丸腰でぶっ殺してたし。

 

 ちなみに親父は転生する前は北海道に住んでたらしい。高校を卒業した後は東京の企業に就職したらしいけど。

 

「あ、その時仕留めた熊の毛皮あるけど見る?」

 

「い、いえ、結構ですっ!」

 

 親父が熊と殴り合った話をしているうちに、上の部屋で着替えを済ませた母さんが降りてきた。エプロンを身に着けた母さんを見るのは久しぶりだな、と思いながら俺も席から立ち上がり、キッチンへと向かう。

 

 今日は母さんの手伝いをしよう。昔はお世話になったからな。

 

「母さん、俺も手伝うよ」

 

「ふふふっ、ではお願いしようか」

 

「ちなみに今夜のメニューは?」

 

「ビーフシチューだ」

 

 エリスさんの大好物じゃないか。母さんもエリスさんを元気づけようとしているんだろうか。

 

 母さんの隣で包丁へと手を伸ばそうとしていると、リビングの椅子に座って親父と話をしていたラウラがこっちを見ながら言った。

 

「ふにゅう、エミリアさんが2人いる」

 

「「えっ?」」

 

「本当だ、見分けがつかん」

 

「あらあら、エミリアちゃんが増えちゃった」

 

 リボンと服装で見分けつくだろうが。

 

 そう思いつつわざとらしくリボンへと手を伸ばすけど、みんなはそれに気付いてないのか、それともわざと気付かないふりをしているのか、どっちが母さんでどっちが俺なのか変な推理を始めている。

 

 確かに背も俺の方が若干高い程度だし、髪の色と髪型まで全く同じだ。胸を見れば見分けはつくだろうけど、後ろを向いてる状態だから胸は見えないよな。

 

 そんなにそっくりだろうか。

 

 そう思いつつ、俺は母さんと一緒に夕飯の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 みんなの出身地

 

タクヤ「そういえばお前らの出身地ってどこだったんだ? 俺は群馬だけど」

 

ケーター「俺は神奈川」

 

木村「私も神奈川です」

 

フミヤ「僕は栃木」

 

柊「俺は三重県」

 

坊や(ブービ)「俺は秋田県…………って、東北俺だけ!?」

 

 完

 

 

 

 

 

 

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