異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
冒険者の資格を手に入れて旅に出た時も、家族はこうやって俺たちを見送ってくれた。
冒険者として旅に出たあの日の事を思い出しながら、俺は親父―――――――正確には親父のふりをしているガルゴニスだ―――――――のがっちりした手を握った。確かあの時はエリスさんとラウラが泣いていたし、あの母さんも涙声になっていた気がする。ヘリを使えばいつでも帰って来れるし、何度かこうやって見送ってもらってるんだからさすがにもう誰も泣かないだろう。
「元気でな」
「親父こそ」
そう言ってから親父の手を離し、俺はちらりと隣を見る。隣ではポケットからすでにハンカチを取り出していたエリスさんが、車椅子に乗ったまま必死に手を伸ばしてラウラの頭を撫でている。
も、もう既にエリスさんは泣いてました。
そしてエリスさんに撫でられているラウラも、よく見ると涙目になっている。やはり母親と別れるのは寂しいのかもしれないけど、もう18歳だよね…………?
「ママ、寂しいよぉ…………」
「グスッ…………しっかりしなさい…………。ラウラはもう………りっ、立派な冒険者…………なんだからぁ…………っ!」
「ふにゅう…………グスッ、ま、また帰ってくるからね…………!」
苦笑いしつつポケットの中に手を突っ込み、常備しているハンカチを泣いているラウラに差し出す。ラウラは俺と比べると涙を流す回数も多いし、ハンカチを使う事は結構多いので、普段からハンカチは常備するようにしているのだ。ちなみにハンカチを常備するようになったのは前世からである。
涙を流しながらハンカチを受け取り、涙を拭い去るラウラ。出来るだけ泣かないように努力しているのかもしれないけれど、目の前で泣いているエリスさんを見ているうちに、彼女の瞳の周囲が流れ出した涙で再び濡れていく。
あのハンカチはしばらく持たせておいた方が良さそうだ…………。
「タクヤ、無茶はするんじゃないぞ」
「分かってるって、母さん」
旅に出ることになった俺たちを初めて見送ってくれた時、母さんは涙声になっていた。けれども今回は涙目になる気配はない。腕を組んで微笑みながら、タンプル搭に帰る俺たちを嬉しそうに見守ってくれている。
ラウラと一緒に泣き始めちゃったエリスさんには失礼だけど、エリスさんと比べれば母さんはまともな人なんだな、と思ったんだが…………やっぱりモリガンの関係者って、まともな人が少ないらしい。
昨日渡した倭国のお土産がかなり気に入ったのか、母さんはさり気なくあの刀を腰に下げているのである。嬉しそうに微笑んでいるのは俺たちが成長していたというのを知る事ができた身体とは思うんだけど、多分2割くらいはあの刀をプレゼントしてもらえたからなのだろう。
母さんは昔から剣を使って戦っていたからなのか、剣や刀のような得物に目がない。親父の話では、綺麗な宝石や豪華なドレスをプレゼントするよりも大喜びしてくれるらしく、若い頃に親父がネイリンゲンでプレゼントしたチンクエディアを今でも大切にしているという。
さすがにエリスさんみたいなド変態というわけではないけど、まともな人でもないな…………。
早くも母さんが腰に下げている日本刀――――――”雪風”という名前らしい――――――を見下ろしながら苦笑いしていると、母さんの後ろに立っていたリディアまで苦笑いしつつ肩をすくめた。
「無茶をするのはリキヤの悪い癖だ。お前にもそれが遺伝しているらしいな?」
「そんなことないよ」
「なら大丈夫かもしれんが…………その無茶のせいで、私と姉さんは何度か泣いたことがあるんだからな? なあ、リキヤ」
「うっ」
腕を組んでいた母さんに睨まれ、熊を右のストレートで殴り殺した赤毛の巨漢がびくりと震える。前世の世界の北海道に生息してる熊よりもでかい異世界の熊を殴り殺す夫をビビらせるのだから、多分母さんはこの世界で最強の妻と言っても過言ではないだろう。
というか、多分親父をビビらせる事ができるのは母さんとエリスさんくらいだと思う。
冷や汗を拭い去りながらこっちを見てくる親父。母さんたちを心配させたあんたが悪いんだ、と思いつつ苦笑いしたけど、俺も結構ラウラやナタリアたちを心配させてるからなぁ…………。
確かに、父親の悪い癖は遺伝してますね。
「タクヤ、みんなを心配させるんじゃないぞ」
「分かったよ」
というか、無茶をする悪い癖が遺伝してるのは俺だけじゃないよね? ラウラも稀に無茶をするんですが、何で俺にだけそんなことを言うんでしょうか。
こんな悪い癖を遺伝子と一緒にプレゼントしてくれたお父さんの顔を見上げていると、親父は俺たちの後ろで荷物のチェックをしていたナタリアの方を向いた。
「ナタリアちゃん」
「えっ? は、はいっ、なんでしょうか?」
ナタリアにとって、速河力也は命の恩人である。
ネイリンゲンが転生者たちによって襲撃された際に、母親であるエマさんとはぐれてしまった幼いナタリアを、転生者たちから救って母親の所へと送り届けたのだという。壊滅したネイリンゲンからエイナ・ドルレアンへと引っ越した彼女は、その時に助けてくれた傭兵――――――俺たちの親父だとは知らなかったらしい――――――に憧れていたらしく、親父のような傭兵になって人々を助けようと思ったらしい。
結果的に、傭兵ではなく冒険者になったんだけどね。でも傭兵の仕事は激減しているし、各国がダンジョンの調査に本腰を入れ始めた時代なので、冒険者になったのは正解なのではないだろうか。
いきなり親父に声をかけられたナタリアは、びくりとしながら大慌てで返事をする。また緊張しているようだ。
「すまないが…………子供たちを頼んだ」
「は、はいっ」
「ふふふっ…………ラウラとタクヤが送ってくれる手紙に”ナタリアはしっかり者だ”って書いてあったぞ」
「えぇっ!? ちょ、ちょっとタクヤ! あんたそんなこと書いてたの!?」
「えぇ!?」
た、確かに書きましたぁ!
というか、何で今そんなこと言うんだよ!?
「ふっふっふっふっ、若い頃の私たちみたい♪」
「懐かしいなぁ」
いつの間にか泣き止んでいたエリスさんが、親父の隣で微笑みながらそう言う。けれどもエリスさんは俺とナタリアの会話を笑いながら聞いていたラウラの顔を見た途端、再び手にしていた白いハンカチで目の辺りを拭い始めた。
この人は何回泣くつもりなんだろうか。
「それじゃ、元気でな」
「ああ」
そろそろタンプル搭に戻らないと。
クレイドル計画も始まっている。俺が生きているうちにこの計画が成功することはないだろうが、可能な限りこの計画を進めてから子孫に任せなければ、子孫たちの負担が増えてしまう。
旅に出た時のように、親父たちに親指を立ててから踵を返し、防壁の外へと向かって歩き始める。
ラガヴァンビウスを取り囲んでいる分厚い防壁の外へと出るための”門”は、防壁が分厚過ぎるせいで、門というよりは防壁の中に穿たれたトンネルにしか見えない。王都へと出入りする荷馬車に轢かれないように道の端に寄りながら外へと向かい、スチームライフルを背負って警備している騎士たちに挨拶してから、俺たちは草原へと出た。
緑と蒼が支配する、開放的な世界。
ある程度王都から離れてからメニュー画面を出現させ、生産済みの兵器の中からカサートカを選択。それをタッチする。
何の前触れもなく姿を現したロシア製のヘリに乗り込んだ俺は、ラウラとナタリアが兵員室に乗り込んだのを確認してから、カサートカのメインローターを回転させ始めた。
一応このカサートカにはスタブウイングを搭載し、そこに空対空ミサイルを搭載している。ドラゴンが襲い掛かってきても返り討ちにする事ができるが、できるならば敵に遭遇せずにタンプル搭へと戻りたいものである。
『ねえ、タクヤ』
「なんだ?」
機体のチェックをしていると、兵員室に乗っているナタリアが無線を使って声をかけてきた。
『わ、私ってそんなにしっかりしてる?』
「ああ、正直言うと滅茶苦茶頼りになる」
もちろん本音だ。しっかりしている彼女が仲間をまとめてくれているからこそ、俺たちはあらゆる戦いに勝利する事ができた。
『そっ…………そうかな…………っ?』
「おう。…………それに、照れてるナタリアも可愛いぞ」
『えっ? …………ば、ばっ、バカ! さり気なく何言ってんのよ!?』
可愛いじゃん。
慌てている彼女の声を聞いてニヤニヤしつつ、カサートカを離陸させた。がくん、と機体が揺れ、カサートカが緑色の草原からゆっくりと浮き上がり始める。
ラガヴァンビウスはモリガン・カンパニーの本拠地ともいえる場所で、郊外や本社の近くにはモリガン・カンパニーのレーダーサイトが設置されている。だからもちろんこのヘリもしっかりと探知されている筈なんだが、親父が事前に社員たちに俺たちが帰ることを通達してくれているらしいので、飛行場から即座に離陸したモリガン・カンパニーのSu-27たちに警告されることはないだろう。
レーダーを確認して周囲に敵や魔物がいないことを確認してから、俺たちはタンプル搭へと向かうのだった。
『住民の皆さん、おはようございます。今日は射撃訓練の日です。登録された銃を持ち、射撃訓練場で兵士たちから指導を受けてください』
ラジオから聞こえてくる団員の声を聞きながら、いつもの転生者ハンターのコートを身に纏う。鏡の前で紅いネクタイをチェックしているうちにラジオから聞こえてくる言語が別の言語へと変わり、オルトバルカ語が分からない住民たちに今日は射撃訓練の日だという事を知らせ始めた。
テンプル騎士団では、12歳以上で60歳未満の住民に1丁の銃の所持と一週間に一度の射撃訓練を義務化しているのである。
住民たちの中には、安全なタンプル搭の外へと出て街で買い物をしたり、品物や収穫できた作物を売りに行く者たちもいる。基本的には外出する住民を守るために兵士たちが護衛をするんだが、場合によっては護衛の兵士が手配できない場合もある。そのような状態で魔物や盗賊に襲われたらひとたまりもない。
そこで、自分で身を守ることができるように銃の使い方を教えているのだ。
フランセンの連中がいなくなったことでカルガニスタンは独立できたが、逆に言えばフランセンの騎士たちにはもう守ってもらうことはできない。テンプル騎士団の兵士を頼るか、自分たちで身を守るしかないのである。
服装のチェックを終え、洗面所を後にする。ラジオの音声はフランセン語からヴリシア語に変わり、今度は中国語にそっくりなジャングオ語が聞こえてくる。テンプル騎士団での公用語はオルトバルカ語となっており、住民や兵士たちにもオルトバルカ語の教育を義務化しているとはいえ、未だに全ての団員や住民とオルトバルカ語で意思の疎通ができるわけではないのだ。
「ふにゅー…………」
腰にPL-14の収まったホルスターを下げていると、ラジオの前でマンガを読みながら待っていたラウラが、自分の胸を見下ろしながら首を傾げた。
「どうした?」
「なんだか、最近ブラジャーが小さくなったような気がするの………」
「…………」
超弩級戦艦が更に大型化されたという事なんでしょうか、お姉ちゃん。
そんなことを考えつつラウラの胸をちらりと見下ろした俺は、反射的に手を頭から生えている角へと伸ばした。相変わらず胸元が開いている彼女の制服と、その制服の中に納まっている大きな胸を見てしまったせいで、やっぱり角は伸びているようだった。
不便な身体だなぁ…………。
「えへへっ、でもタクヤは大きなおっぱいが好きなんでしょ?」
「…………はい」
「じゃあ大丈夫だね♪」
多分、今夜からはより強力なお姉ちゃんのおっぱいが猛威を振るう事でしょう。
というか、ラウラがニコニコしながら左腕にしがみついてきたせいで早くも猛威を振るった。しかも尻尾まで腰に巻き付けており、俺を逃がすつもりはないらしい。
仕方がないので、そのまま部屋を後にした。
他の部屋からは射撃訓練に参加する住民たちが、タンプル搭の中の治安を維持する警備隊から支給された武器を背負い、ぞろぞろと訓練区画へと向かっているところだった。住民たちに支給されているのは旧式のモシンナガンやPPSh-41などで、中にはAK-47を背負っている住民も見受けられる。
けれども住民たちの大半は、代わった銃を背中に背負っていた。
銃身の左側から真っ直ぐにマガジンが伸びており、銃身の後端部からはかなり簡単な形状の銃床が伸びているのである。辛うじてSMG(サブマシンガン)だという事は分かるけれど、徹底的としか言いようがないほどシンプルな外見をしており、大量生産のし易さを最優先にした代物だという事が分かる。
住民たちが背負っているのは、『ステンガン』と呼ばれるイギリス製のSMG(サブマシンガン)だった。
このステンガンが産声を上げたのは、第二次世界大戦の頃である。進撃してくるドイツ軍を食い止める事ができなかったイギリス軍は撤退する羽目になったんだが、撤退する際に兵士たちが装備していた無数の銃を戦場に残したまま撤退することになってしまったため、兵士たちに装備させる銃が足りなくなってしまった。
そこでイギリスは、性能を二の次にし、簡単に大量生産できるSMG(サブマシンガン)を開発することになったのである。
そして、このステンガンが生み出された。
性能よりも簡単に大量生産することが優先されたせいで信頼性や性能は高くはなかったものの、非常に容易く大量生産する事ができたため、イギリス軍の兵士どころかドイツ軍に抵抗を続けるレジスタンスにもステンガンが支給されていたという。
使用する弾薬はテンプル騎士団でも採用されている9×19mmパラベラム弾だ。住民たちに支給されているのは、一番最初に生産されたステンMk.Ⅰを簡略化した”ステンMk.Ⅱと呼ばれるモデルである。
非常に低コストで生産できた事が反映されているのか、転生者の能力で生産に使うポイントはなんとたったの80ポイント。一般的なハンドガンの生産に使うポイントですら300ポイントから400ポイントである。
おかげで住民たちにもちゃんと銃を支給する事ができた。
ステンガンを背負って訓練場へと向かう住民たちを見守りつつ、未だに左腕にしがみついているラウラを連れたまま俺は会議室へと向かう。会議室を使うのは円卓の騎士たちで会議をする時や、大規模な作戦の説明の時くらいなんだが――――――今日は”お客さん”が来ることになっている。
エレベーターには乗らず、脇にある階段で会議室のある区画へと向かう。階段を駆け上がって通路を走っているうちに、しがみついていたラウラも甘えるのを止め、真面目な表情に変わっていた。
タンプル搭を訪れているお客さんは、それほど重要な人なのである。
テンプル騎士団に兵器を売ってくれている人なのだから。
「お疲れ様です、同志団長」
「お疲れ様。お客さんは?」
「中でお待ちです」
会議室の前でPP-2000を装備して警備していた警備兵と話をしてから、彼に礼を言って会議室の扉をノックする。大きな扉を開けてラウラと一緒に中へと入ると、蒼い照明に照らされた薄暗い会議室と、魔力で立体映像を映し出す事ができる装置を内蔵された巨大な円卓が目の前に姿を現した。
座席にある制御装置に魔力を流し込むことで、投影する立体映像を自由自在に変える事ができるのである。なので作戦を説明する時にナタリアはあれを有効活用している。
「遅かったわね」
中に入ると、既にナタリアが席に座って待っていた。どうやら彼女よりもちょっとばかり遅れてしまったらしい。
すまん、と謝ってから、俺とラウラは巨大な円卓の向こうにある席に座っている男性を見つめた。その人物は蒼い制服に身を包んだ東洋人で、後ろには紺色のチャイナドレスに身を包んだ2人の女性が立っているのが見える。
あの女性たちは護衛なのか、腰にハンドガンの収まったホルスターを下げていた。
「遅れて申し訳ありません、李風(リーフェン)さん」
「いえいえ、気にしてませんよ。団長なのですから多忙なのは仕方のない事です」
円卓の向こうに座って待っていたのは、この異世界で二番目に巨大な武装勢力である”殲虎公司(ジェンフーコンスー)”を率いる転生者の張李風(チャン・リーフェン)さんだった。
かつて親父たちと共に勇者に反旗を翻した英雄の1人であり、珍しい中国出身の転生者である。しかも第一次転生者戦争と第二次転生者戦争を経験したベテランで、転生者たちの中でもかなりの実力を誇ると言っても過言ではないだろう。
殲虎公司(ジェンフーコンスー)のトップがここを訪れることは珍しくはない。李風さんはよくテンプル騎士団に中国製の兵器を販売するために護衛の兵士と共にここへとやってきて、俺たちと直接商談する。
中国製の兵器はコストも低いので、前哨基地に支給する武器が足りない場合はかなり助かる。中には中国製の銃や兵器のみで武装した前哨基地の守備隊もいるらしい。
今日も武器を売りに来たのだろう。
ラウラと一緒に座席に腰を下ろし、俺は話を始めた。
「ところで、今日はどのような兵器を売ってくださるのでしょうか」
ステルス機や戦車だろうかと思いながらそう問いかけたんだが―――――――巨大な円卓の向こうで、いつもと同じ表情を浮かべていた李風さんは、傍らに用意されていた烏龍茶を一口だけ飲んでから告げた。
「―――――――艦艇用の原子炉と、核兵器です」
「…………!?」
艦艇用の原子炉と、核兵器。
この世界では殲虎公司(ジェンフーコンスー)のみが生産する事ができる極めて強力な兵器であり、最悪の兵器。
下手をすればこの世界でも冷戦を引き起こしかねない、危険な兵器だった。