異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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必要な力

 

 転生者の便利な端末は、あらゆる武器や能力をポイントを使って生産する事ができる。武器ならば剣だけではなく銃も生産できるし、強力な特殊能力やスキルも生産して装備することが可能だ。更にレベルアップした際にステータスまでどんどん上がっていくので、転生者は極めて強力な戦力になる。

 

 けれども―――――――転生者が生産できない代物も、存在する。

 

 凄まじい切れ味の剣や高性能なライフルを生産することはできても―――――――街を容易く焼け野原にし、強烈な放射能をばら撒く核兵器は、どれだけポイントがあったとしても生産することはできないのである。

 

 おかしいかもしれないけれど、当然だろう。転生者の大半は自分の力を悪用し、この世界の人々を虐げている。そんなクソ野郎共に核兵器を与えたら、奴らは自分たちの私利私欲のために躊躇なく核兵器をぶっ放してしまうに違いない。前世の世界では核戦争が勃発することはなかったけれど、自分の翼を優先するクズに渡せば間違いなく核戦争が勃発してしまうのは想像に難くない。

 

 だから端末を生み出した輪廻は、敢えて核兵器を生産できないような仕組みにしたのだろう。いくらあいつの計画がこの世界を守る”勇者(リキヤ)”の代役を人工的に生み出す事とはいえ、その代役が生まれる前に世界が滅んでしまったら元も子もないのだから。

 

 しかも生産できないのは核兵器だけではなく、原子炉も生産する事ができなくなっている。なので転生者が原子力空母を生産したとしても、機関部から原子炉のみをオミットされた”空母”しか生産する事ができないのである。

 

 テンプル騎士団でも本来ならば原子炉を搭載している筈のキーロフ級を運用しているけれど、原子炉を生産する事ができないので、通常の機関部に変更して運用している。

 

 原子炉や核兵器を使いたいのならば、自分たちでそれを作るしかないのだ。

 

 現時点で原子炉や核弾頭を生産できる設備と技術者を保有しているのは―――――――李風さんが率いる殲虎公司(ジェンフーコンスー)のみだと言われている。かつてはネイリンゲンを壊滅させやがった”勇者”に脅され、レベルの低い転生者たちを守るために核兵器の開発を行っていたらしい。

 

 そのPMCのリーダーが、俺たちにその危険な商品を売ろうとしている。

 

 容易く街を焼け野原にする事ができる、最悪な力を。

 

「…………正気ですか?」

 

 円卓の向こうで烏龍茶を飲んでいる李風さんに、俺は問いかけた。

 

 当たり前だけど、それを購入するために必要な金額は今まで兵器を買うために支払っていた金額を遥かに上回るだろう。仮に俺たちが購入すれば、殲虎公司(ジェンフーコンスー)はかなり儲かるというわけだ。

 

 しかしそんな代物を販売し、俺たちに核兵器を委ねていいのだろうか。

 

 ただ単に金が欲しいというわけではないのだろう。李風さんが率いているPMCはかなり有名で、高額の報酬を支払うクライアントは世界中にいるという。それにテンプル騎士団は兵士や民兵に支給する兵器が未だに不足しているから、武器はいくらでも買う。だから金が欲しいのであればありったけの武器を売ればいい話だ。

 

 なのに、なぜ核兵器を売る?

 

 自分たちにも核兵器があるから、俺たちが牙を剥かないと思っているのか? それとも俺がリキヤ・ハヤカワの息子だから信頼しているだけなのか?

 

 仮説を立てたが、俺はすぐにその仮説を自分でぶっ壊す。

 

 李風さんがそんな理由で核兵器を売るわけがない。

 

 何か狙いがある筈だ。

 

「正気ですよ、私は」

 

 隣に立っているチャイナドレス姿の女性に烏龍茶を注いでもらいながら、李風さんはいつも通りの声で答えた。

 

「同志リキノフから聞いていますよね? 核兵器がどのような兵器なのかを」

 

「…………ええ、最悪な兵器だと聞いています」

 

 俺の正体が転生者だという事を知っているのは、テンプル騎士団の団員たちと親父のみ。他の知り合いには、混乱させないように俺の正体は教えていない。

 

 異世界の人間のふりをしつつ、そう答える。

 

 実際に俺は、核兵器は最悪な兵器だと思っている。使用されれば放射能が容赦なくぶちまけられるし、使用されなくても冷戦の時のような状態になりかねない。いくら核戦争が起こらずに済んだとはいえ、核ミサイルの発射準備をしながら相手を監視し、核ミサイルが飛んでくるんじゃないかと怯えながら生活する気にはなれない。

 

「最悪な兵器ですか…………確かにそうですね。核兵器は非常に危険だ」

 

「では、なぜそれを売ろうとしたのですか?」

 

 問いかけると、李風さんは烏龍茶を飲んでから微笑んだ。

 

「―――――――あなた方が強者の仲間入りをしたからですよ、同志」

 

「仲間入り?」

 

「ええ」

 

 まるで自分の子供が成長していることを知って喜んでいる親のように微笑む李風さん。テンプル騎士団が急激に成長し、他の勢力の支援を受けたとはいえ、吸血鬼たちを撃退するという大きな戦果をあげたことがそれほど嬉しいのだろうか。

 

 彼の様子を見ながらそう予想したけれど、その予測は外れてしまったのだという事を数秒後に知る羽目になった。

 

 李風さんの笑みが、ちょっとずつ変質していく。喜んでいるようにも見える微笑みの中に冷たい雰囲気がちょっとずつ混ざっていく。

 

「吸血鬼たちを退け、フランセンの連中を蹂躙してカルガニスタンを独立させた…………………。きっと同志リキノフも大喜びしている事でしょう。そして―――――――テンプル騎士団を警戒し始めるに違いありません」

 

「警戒? あの親父が?」

 

「ええ。……………噂では、タクヤ君と同志リキノフは伝説の”メサイアの天秤”を狙っているそうですね」

 

 ああ、俺たちはその天秤を狙っている。目的はそれで願いを叶えることではなく、願いを叶えるためにはその願いと同じ価値の対価が無ければ願いの叶わないクソッタレな天秤を消し去ることだが。

 

 そうすれば、ガルゴニスも救われるのだ。

 

「…………はい」

 

「下手をすれば同志リキノフと戦うことになるでしょう。もしモリガン・カンパニーに同盟を破棄された挙句、天秤を渡さなければ核ミサイルを発射すると脅されたらどうするつもりです?」

 

 息子たちに向かって核ミサイルを撃つなんて馬鹿げている。確かに子供に虐待をするクソ野郎としか言いようのない親はいるが、自分の子供に核ミサイルを撃つ親は絶対にいない。

 

 そんな事ができる親は、ただの悪魔だ。

 

 そう答える自信があったから、俺は狼狽えずに答えた。

 

「考えられません。自分の子供に核を撃つなんて正気の沙汰じゃない」

 

「どうでしょうね? 人間の欲望とは恐ろしいものですよ」

 

「その欲に負けて我が子を殺すような輩は、親とは言えませんね」

 

「その通りです。ですが、同志リキノフは容赦のない男です。ご存知でしょう?」

 

「……………」

 

 反論はできそうだった。けれども、堂々と反論する自信はなかなか生まれない。

 

 確かに親父は容赦のない男だし、その記憶を受け継いでいるガルゴニスも容赦がない。ヴリシアの戦いや春季攻勢(カイザーシュラハト)でも投降した捕虜を容赦なく撃ち殺していたという。

 

 さすがに自分の子供たちに向かって核ミサイルを撃つような男ではないが―――――――そのミサイルで、脅してくる可能性はある。

 

 けれどもモリガン・カンパニーは、核弾頭は保有していない筈だ。原子力空母を保有しているのは見たことがあるけれど、現時点で核弾頭を保有しているのは殲虎公司(ジェンフーコンスー)だけではないのだろうか。

 

 だから核ミサイルで脅してくるなんてありえない。

 

 これなら反論できるぞ、と自信が産声を上げたのも束の間、李風さんが容赦なく言った。

 

「―――――――モリガン・カンパニーは、核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を保有しています」

 

 そんなわけがない、と反論することはできなかった。

 

 できるならば反論し、親父たちがあんな兵器を保有しているわけがないと否定したい。死に物狂いでファルリュー島に上陸し、核ミサイルの発射を阻止した親父たちだからこそ核ミサイルの恐ろしさは知っている筈だ。なのに、なぜその恐ろしさを知っている張本人が核兵器なんかに手を出しているのか。

 

「…………そんなバカな」

 

「本当の話です。…………ファルリュー島にあった3発の核ミサイルを、そのまま放置するわけがないでしょう?」

 

 3発。

 

 親父たちが手にした最悪の兵器は、3発の核ミサイル。

 

 それを、原子力で動く巨大な潜水艦の中に詰め込んで配備していると言うのか。

 

「モリガン・カンパニーには、現時点で18隻の”デルタ級”があります。核ミサイルは3発のままですが、もしかしたら我々から購入して増やすかもしれませんね」

 

 理不尽過ぎる。

 

 こっちは核兵器を持っていないというのに、向こうは核兵器を保有している。しかも18隻の潜水艦の内の3隻にそのミサイルを搭載してあらゆる海域に出撃させているのだから、その気になればミサイルをぶっ放すこともできるし、それで脅すこともできるというわけだ。

 

 けれどもテンプル騎士団に核弾頭はない。MOABという切り札があるが、核兵器の破壊力と放射能の危険性はMOABの爆炎を遥かに上回る。核兵器は圧倒的な破壊力の爆炎で全てを焼き尽くすだけでなく、あらゆる生物を根絶やしにして環境をズタズタにする放射能まで秘めているのだから。

 

 だから、我々にモリガン・カンパニーは脅せない。

 

「…………我々にも核兵器を装備し、モリガン・カンパニーと冷戦を始めろと仰るのですか?」

 

「いえいえ、アメリカとソ連の冷戦を再現してもらうつもりはありませんよ。ただ、”保険(抑止力)”は必要でしょう?」

 

「物騒な保険ですね」

 

 最悪の場合は敵の本拠地を消し飛ばした挙句、放射能をぶちまける事ができる恐ろしい保険。前世の世界では、その保険をこれでもかというほど装備した大国が冷戦を繰り広げていたのだ。

 

 確かに核兵器を購入すればモリガン・カンパニーと対等の立場になるし、他の転生者たちに対しても極めて強力な抑止力になる。その抑止力は、きっとクレイドル計画にも役立ってくれるに違いない。

 

 けれども―――――――あの恐ろしい兵器を、俺たちが保有していいのだろうか。

 

 恩恵は確かに大きいが、リスクもデカい。事故が起きれば大切な団員たちを被曝させてしまう恐れもある。テンプル騎士団を率いる団長として、団員たちの安全は確実に確保しなければならない。

 

 それに、核兵器に手を出してしまったら前世の世界の人類と同じ轍を踏んでしまう。

 

 ちらりと隣を見ると、ラウラとナタリアが心配そうにこっちを見ていた。

 

 俺は前世の世界で生活していたから、核兵器がどれほど恐ろしいものなのかは知っている。けれどもこの2人は転生者ではないし、実際に核兵器を目にした事は無い筈だ。だからあの最悪な兵器の恐ろしさは知らない。

 

 そう思ったけれど、前に親父から聞いた話を思い出した俺は、ナタリアの顔を見ながら唇を噛み締めた。

 

 正確に言うと、ナタリアは核兵器の恐ろしさを知っているかもしれない。

 

 ―――――――ネイリンゲンを焼け野原にしたのは、”勇者”と呼ばれていた転生者が使った核兵器なのだから。

 

 そう、ネイリンゲンは核兵器の爆発で焼け野原になり、防護服を身に着けた転生者たちの襲撃で完全に壊滅してしまったのである。だから幼い頃にネイリンゲンに住んでいたナタリアは、核兵器がどれほど恐ろしい破壊力を秘めた兵器なのかを知っている筈なのだ。

 

 俺たちはそれをぶちかました連中と同じ代物を手に入れようとしている。

 

 本当にいいのか。

 

 前世の世界の人間たちと、同じ轍を踏んでも。

 

「…………タクヤ君」

 

 悩んでいると、向かいの席でこっちを見守っていた李風さんが言った。

 

 モリガン・カンパニーまで核兵器を保有しているという話を聞いて不利だということを悟った俺たちならば、もう少し説得すれば核兵器を購入すると予測したに違いない。実際に今の俺は、核兵器を購入するべきなんじゃないだろうかと考えている。

 

 もし”勇者”のように核兵器を保有している転生者が現れても、核兵器があれば対抗できる。それにテンプル騎士団にはタンプル砲という強力な切り札があるのだ。その気になればあらゆる場所にミサイルをぶち込む事ができるタンプル砲から核ミサイルを撃てるようになれば、モリガン・カンパニーですら動けなくなるほどの抑止力となるだろう。

 

 けれども、前世の世界の人類と同じことをしていいのだろうか。

 

「…………あなたは団長だ。確かに核兵器を持つことは愚かなことかもしれないが、核兵器があればあなたと一緒に戦っている同志たちを抑止力で守ることができるのです。大切な仲間を守るためにも、決断していただきたい」

 

 大切な同志たちのために。

 

 クレイドル計画に賛同してくれた同志たちを守るために、核兵器を保有する。

 

 もしかしたら親父は、仲間を守るために敢えて同じ轍を踏んだと言うのか。

 

「タクヤ…………」

 

 強力な力で、大切な仲間を守ることができるというのであれば―――――――核兵器を購入してもいいかもしれない。

 

 ただ、テンプル騎士団の団長の権力はそれほど強くはない。何かしらの法案を成立させたり、部隊を派遣して戦争をするためには30人の円卓の騎士全員に承認されなければならないのだ。だからこの件は、会議を開いて話し合った方がいいだろう。

 

 今は決断できない。

 

「…………李風さん、3日だけ待ってください」

 

「分かりました」

 

 もちろん、核兵器を購入するには円卓の騎士全員に承認されなければならない。誰か1人が反対すれば、即座にその意見は否決されてしまう。

 

「ねえ、タクヤ」

 

「ん?」

 

 李風さんと交渉をしていたのは、核兵器がどういう代物なのかを知っている俺だった。だから李風さんは全く説明しなかったわけなんだが、そのせいでナタリアやラウラはどれほど恐ろしい代物をテンプル騎士団が購入しようとしているのか想像できなかったらしい。

 

 円卓に投影されている蒼い光で形成されたテンプル騎士団のエンブレムを見つめていると、ナタリアが声をかけてきた。

 

「”カクヘイキ”ってどういう兵器なの?」

 

「ああ、私が説明しますよ」

 

 三大勢力の中で唯一核兵器を製造できる組織のリーダーなのだから、この中で一番詳しいのは間違いなく李風さんだ。彼に説明をお願いした方がいいだろう。

 

 何度もここを訪れているおかげで、李風さんは立体映像を変える方法を熟知している。手元にある制御装置に手をかざした李風さんは、体内の魔力―――――――転生者には魔力がないので、魔力を手に入れるには能力を装備する必要がある―――――――を制御装置へと流し込んでいく。

 

 すると、テンプル騎士団のエンブレムが一瞬で崩壊し、円卓の上に蒼いキノコ雲を再現した映像が浮かび上がった。きっとこれは核兵器が炸裂した瞬間の映像を再現したのだろう。一体どこで核兵器が爆発した瞬間なのだろうか。

 

「要するに、従来の爆弾や砲弾の破壊力を遥かに上回る兵器です。これを使えば―――――――」

 

「これって…………」

 

「ナタリア?」

 

 キノコ雲が投影された直後、それを目にしたナタリアが目を細めながら片手で頭を押さえ始めた。

 

「どうした?」

 

「あ、あぁ…………っ! あの…………光…………やだ、ママ……………ママ……………!」

 

 おい、どうしたんだ!?

 

 急に苦しそうな顔をしながら頭を抱えるナタリア。慌てて椅子から立ち上がって彼女の傍らで声をかけるが、ナタリアは返事をせずに苦しみ続けている。

 

 もしかして、幼少の頃に見たネイリンゲンの核爆発を今の映像で思い出してしまったのだろうか。

 

 まだ幼かった頃のナタリアが住んでいた故郷を吹き飛ばしてしまった核爆発。何の罪もない人々を、一瞬で消し飛ばしていった爆炎。今から15年前に起こった惨劇が彼女の頭の中で目を覚まし、苦しめているのだ。

 

 やがて、ナタリアは気を失ってしまった。

 

「ナタリア!」

 

「ナタリアちゃん!」

 

 話し合いどころじゃないぞ、これは。

 

「李風さん、少し時間をください。今回の件はその時に答えます」

 

「分かりました」

 

「ラウラ、治療魔術師(ヒーラー)にすぐ連絡を」

 

「う、うん!」

 

 気を失ったナタリアを抱え、李風さんに頭を下げてから、俺たちは会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、迷惑かけちゃったわね…………」

 

 ベッドの上に横になりながら申し訳なさそうに言った彼女を見下ろしつつ、首を横に振る。悪いのはナタリアではなく、ネイリンゲンを消し飛ばしやがった勇者だ。ナタリアは犠牲者なのだから気にしなくていい。

 

 お前は悪くない。

 

 苦笑いしながらティーカップに手を伸ばした彼女を見て安心した俺は、彼女を診てくれた治療魔術師(ヒーラー)をちらりと見た。すると中年のエルフの治療魔術師(ヒーラー)は頷いてから、説明を始める。

 

「昔の辛い記憶がフラッシュバックしたようです。今後は大丈夫だとは思いますが、無理をさせない方がいいですね」

 

「ありがとう、同志」

 

 安心してくれ。仮に核兵器を購入したとしても、それを使うことはない。

 

 説明してくれた治療魔術師(ヒーラー)に礼を言ってから、フードの上から頭を掻く。ナタリアの身体に異常があるわけではないので、彼女はすぐに退院できるだろう。

 

「…………あの兵器、ネイリンゲンを焼き尽くした兵器なのね?」

 

「…………」

 

 話を聞くべきではないと判断したのか、中年の治療魔術師(ヒーラー)は助手のナースに目配せをすると、俺たちにぺこりと頭を下げてから医務室を後にしてくれた。

 

 ばたん、と医務室のドアが閉じられた音が完全に消えてから、首を縦に振る。

 

 この世界に存在する筈がなかった最悪の兵器。15年前の惨劇を引き起こして、ネイリンゲンを恐ろしいダンジョンへと変えた元凶。

 

 李風さんが売ろうとしていたのは、その元凶だ。

 

「……………………大丈夫だ、あれがなくても軍拡を進めれば戦力は補えるし、抑止力にもなるさ」

 

 10000人の兵士を訓練して一人前の兵士にするよりも、1発の核ミサイルを用意した方が手っ取り早く抑止力として機能するだろう。回り道としか言いようがないけれど、10000人の兵士に訓練をして一人前の兵士にしても抑止力として機能する筈だ。

 

 核ミサイルほどの抑止力ではないかもしれないが。

 

 今回の件は断るべきなのかなと思っていると、ベッドに横になっていたナタリアが手を伸ばし、真っ白な手で俺の手をぎゅっと握ってきた。

 

「弱気になってる場合じゃないでしょ?」

 

「何で分かったの?」

 

「…………私はあんたの参謀よ?」

 

 微笑みながら、ちょっとばかり恥ずかしそうにウインクするナタリア。俺も彼女の手をぎゅっと握ると、ナタリアの顔が赤くなった。

 

 確かに大丈夫そうだ。

 

「……………で、タクヤはどうするつもりなの?」

 

 先ほどまで話し合っていた核兵器と原子炉の件だろう。

 

 正直に言うと、既に前世の世界の人類と同じ轍を踏む覚悟を決めた。だから殲虎公司(ジェンフーコンスー)から核兵器を購入し、それをテンプル騎士団の抑止力にするべきだと思っている。

 

 愚かな事なのは分かっているが、核兵器を持っている敵に対する抑止力として機能するのは同じ核兵器だ。だからこそアメリカとソ連は、冷戦の最中に敵国へと核ミサイルをぶちかますことはなかった。

 

 それに強力な抑止力は、クレイドル計画の力にもなる。

 

「…………あの力は必要だと思う」

 

「…………じゃあ、約束して」

 

 ベッドからそっと起き上がったナタリアは、俺の手を握りながら言った。

 

「―――――――絶対に、使い方を間違えないって」

 

「―――――――分かってる」

 

 前世の世界の人類ですら踏んでいない轍まで踏むつもりはない。抑止力としては使わせてもらうが、それを実際に敵にぶち込むことは絶対にしない。

 

 この使い方は会議でも主張するつもりだ。

 

 彼女の手を握りながら誓った俺は、優しくナタリアを抱きしめた。

 

 

 

 

 

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