異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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抑止力

 

 この判断は、正しかったのだろうか。

 

 そう思いながら、俺は軍港に停泊する艦艇の群れに仲間入りした真っ黒な巨体を見つめていた。背中には大型のミサイルを搭載するためのハッチがいくつも用意されており、天井に設置された巨大なクレーンが、傍から見ればエンジンノズルを柱の後端部に取り付けたようにも見えるミサイルを、そのハッチの中へと下ろしていく。

 

 ミサイルに描かれているのは、テンプル騎士団のエンブレム。そのミサイルを搭載されている巨大な潜水艦のセイルの側面にも、同じくテンプル騎士団のエンブレムがこれ見よがしに描かれているのが見える。

 

 軍港の中で整備を受けている潜水艦は―――『ボレイ級』と呼ばれる、ロシア製の最新型の原子力潜水艦だった。巨体と言えるけれどもすらりとした船体に16発も核ミサイルを搭載することが可能で、搭載されている原子炉のおかげで航行可能な距離は極めて長い。

 

 搭載されている原子炉と核ミサイルは、もちろん殲虎公司(ジェンフーコンスー)から購入したものだ。テンプル騎士団では原子炉を搭載した兵器を運用したことはないし、当然ながらそれのメンテナンスもした事がないので、殲虎公司(ジェンフーコンスー)から派遣された技術者たちや乗組員たちがこちらの技術者や乗組員への指導を行うことになっている。

 

 原子力潜水艦や原子力空母の性能は極めて高いが、リスクも極めて高いのだ。

 

 下手をすれば周囲に放射能をばら撒く恐れもあるのだから、しっかりと管理しなければならない。もちろんボレイ級の背中のハッチへと飲み込まれつつある核ミサイルをぶっ放すつもりはないが、事故を起こして放射能を周囲の海域にぶちまけるわけにはいかないのだから。

 

 なので、原子力潜水艦や原子力空母が本格的に実戦に参加するのはもっと後だ。それまでは通常の戦力を増強しつつ、購入した核弾頭を抑止力にするしかない。

 

 ちなみにあのボレイ級は、現時点では4隻保有している。けれどもボレイ級に搭載可能な原子炉はまだあるし、核燃料も殲虎公司(ジェンフーコンスー)から購入してあるので、その気になればボレイ級を8隻ほど保有する事ができるだろう。とはいっても全てのボレイ級をあらゆる海域に派遣するわけではなく、4隻ずつのチームに分け、片方のチームが世界中に派遣されている間にもう片方のチームが補給や休息を受けることになるが。

 

 原子力潜水艦は、普通の潜水艦と比べるとかなり長い間海中に潜っている事ができる。当たり前の話だけど、潜水艦が潜航すれば艦内に空気は入ってこない。なのでずっと潜航していれば、普通では考えられないけれど潜水艦の乗組員たちが窒息死してしまう。

 

 けれども原子力潜水艦は、なんと海水を電気分解することで酸素を作り、乗組員たちの窒息死を防ぐ事ができるため、通常の潜水艦よりも長い間潜航している事ができるのだ。

 

「同志タクヤ」

 

 整備を受けているボレイ級を見つめていると、後ろから声をかけられた。

 

 後ろに立っていたのは、殲虎公司(ジェンフーコンスー)の特徴でもある蒼い制服に身を包み、頭にウシャンカをかぶったエルフの男性だった。左腕には歯車に噛みついている虎のエンブレムが描かれた腕章が付いており、彼も殲虎公司(ジェンフーコンスー)が派遣した技術者の1人だという事を告げている。

 

 彼の隣には、彼を俺のところまで案内してくれたのか、制服姿のラウラが立っていた。

 

「我々から原子炉と核弾頭を購入していただき、ありがとうございます」

 

「こちらこそ、強力な兵器を売って頂けた上に技術や運用方法の指導までして頂いて助かってますよ。感謝します」

 

 そう言いながらぺこりと頭を下げると、ウシャンカをかぶった技術者の男性は俺の隣へとやってきて、腕を組みながらボレイ級を眺め始めた。

 

 情報では、モリガン・カンパニーが保有する原子力潜水艦はボレイ級よりも旧式の”デルタ級”だという。同じくロシアの原子力潜水艦だが、こっちのボレイ級の方が性能が上だし、モリガン・カンパニーが殲虎公司(ジェンフーコンスー)から核弾頭を”補充”していなければ、向こうが保有する核ミサイルは3発のみ。しかもその核ミサイルは勇者から15年前に接収したものだ。

 

 でも、さすがにそれは廃棄して新しいミサイルを用意しているだろうな……………。

 

「これでテンプル騎士団も、強者の仲間入りですな」

 

「ええ。…………ですが、実戦を経験していない兵士が多過ぎる。あなた方と並ぶのはまだまだ先ですよ」

 

「そうでしょうか。我々は、その気になれば”魔王”すら食い殺す怪物に思えますがね」

 

 魔王すら食い殺す怪物だと?

 

 現在のテンプル騎士団でも、モリガン・カンパニーを打ち破ることができるとでもいうのだろうか。今のテンプル騎士団の戦力とモリガン・カンパニーの戦力の差はあまりにも違い過ぎる。向こうは全盛期のソ連軍を凌駕するほどの物量と、実戦経験が豊富な兵士が何人もいるのだ。

 

 全盛期のソ連軍と壊滅寸前のレジスタンスくらいの戦力差があるのではないだろうか。もちろん、壊滅寸前のレジスタンスの方がテンプル騎士団である。

 

 否定しようとするよりも先に、隣へとやって来た技術者はこう言った。

 

「モリガン・カンパニーは大きくなり過ぎました。武器を貴族に横流ししようとして粛清される社員も多いと聞きます」

 

「…………そうですか」

 

 幸いなことに、テンプル騎士団は一枚岩だ。未だにそんなことが起こったことはないし、武器庫は警備隊が厳重に管理している。更にシュタージによって常に監視されているため、武器の横流しも実質的に不可能だ。

 

 けれども規模の大きなモリガン・カンパニーでは、貴族に銃を横流ししようとして粛清される裏切り者や、貴族が派遣したスパイも多いという。実際に、懲罰部隊に所属していた頃のラウラも何人もそういった裏切り者を”処分”していたらしいが、俺の予想よりも多いという事なのだろうか。

 

 粛清を担当したことがある張本人(ラウラ)の方をちらりと見ると、彼女は首を縦に振った。

 

「だが、張子の虎というわけでもないでしょう。ノーガードは危険です」

 

「その通りですね。…………あなたのような慎重な指導者ならば、核兵器の使い方を間違うことはない筈だ」

 

 慎重じゃない指導者が核兵器を手に入れれば、十中八九使い方を間違う。最悪の場合は核ミサイルを発射し、全ての武装勢力や列強国を敵に回しかねない。

 

 だからあんな事を言ったのだろうか。

 

 彼に言うつもりはないが、テンプル騎士団は核兵器を決して使うことはない。

 

 円卓の騎士全員の承認によって、テンプル騎士団はこうして核兵器と原子炉を購入し、運用する準備を始めた。中には核兵器や原子炉の説明を聞き、危険な代物だから購入は止めるべきだと主張した円卓の騎士もいたが、”核兵器は絶対に撃たない”ことと、”殲虎公司(ジェンフーコンスー)の技術者から徹底的な教育を受ける”という条件で、核兵器の購入を承認してもらったのだ。

 

 だからテンプル騎士団は、核兵器を抑止力としてしか使わない。

 

「では、私は同志李風の所に戻ります。また今度」

 

「今回はありがとうございました」

 

 ウシャンカを取り、俺たちに頭を下げてから去っていくエルフの男性。軍港の奥へと戻っていく彼を見送った俺は、拳を握り締めながら軍港に居座る4隻のボレイ級を睨みつける。

 

 俺は、敢えて前世の世界の人類と同じ轍を踏んだ。

 

 大切な同志たちを敵から守り、クレイドル計画を成功させるために愚者になった。

 

 強力な力がなければ敵に勝てないのは当たり前である。だから圧倒的な破壊力を秘めた兵器を保有して抑止力にしなければならない。

 

「…………ラウラ」

 

 彼女はどう思っているのだろうか。

 

 ラウラには、やはり俺は愚者に見えているのだろうか。

 

「俺、間違ってたのかな」

 

 ボレイ級を見つめたまま、後ろにいる彼女に尋ねる。普段なら彼女の紅い瞳を見つめながら問いかけるんだけど、今回は彼女が何を考えているのかを察してしまうのが怖かったから、彼女の方を振り向かずにそのまま問いかけてしまった。

 

 円卓の騎士全員の承認を受けて購入したとはいえ、あくまでも兵士や住民の中から選ばれた30人の”議員”たちに承認されただけだ。テンプル騎士団に所属する全ての兵士や住民たちにも賛同してもらったわけではない。

 

 もしかしたら中には反対している団員もいるかもしれないし、賛成した円卓の騎士たちも不安なのかもしれない。

 

 この選択が正しかった、と言い切ることは、多分できないだろう。

 

「何言ってるのよ」

 

 大人びた凛々しい声が、心を侵食していた不安を穿った。

 

 普段の幼い性格の姉ではなく、しっかりしている時の姉の声。22年前のネイリンゲンにタイムスリップした時に出会った若き日のエリスさんにそっくりだな、と思っていると、隣にやってきた彼女が手を握ってくれた。

 

「まだ答えすら出てないんだから、正しいかどうか分かるわけないじゃない」

 

「…………」

 

「これから私たちがあの力をどう使うかで答えは変わるわ。世界を救う英雄になれるかもしれないし、世界を滅ぼす魔王になるかもしれない。…………だから、まだ答えは分からない」

 

 まだ、答えは分からない…………。

 

「ラウラ…………」

 

「頑張らないとね。力を正しく使って、英雄になれるように」

 

 そう言いながら手をぎゅっと握り、ウインクするラウラ。ミニスカートの中から伸びている彼女の柔らかい尻尾が、狼狽えてる場合じゃないよと言わんばかりに俺の背中をとんっ、と叩く。

 

 …………そうだよな。まだ答えは出てない。

 

 答えが出ていないのだから、過程はまだ変えられる。

 

 核兵器という最終兵器の使い方を間違えなければ、きっと大丈夫だ。絶対に使い方は間違えないと誓ったからこそ敢えて同じ轍を踏み、愚者としか言いようがない選択をしたのではないか。

 

 絶対に、間違えない。

 

「…………ありがとう、ラウラ」

 

「どういたしまして♪」

 

 彼女のおかげで、気付く事ができた。まだ答えすら出ていなかったという事に。

 

 いつも一緒にいてくれる優しいお姉ちゃんに感謝しながら、俺は彼女の手をぎゅっと握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、ヴリシア帝国の帝都サン・クヴァントで繰り広げられた”第二次転生者戦争”で敗北した吸血鬼たちは、テンプル騎士団に奪われた天秤の鍵を手に入れるため、生き残った吸血鬼たちで部隊を再編成し、テンプル騎士団へと攻め込んだ。

 

 現在は、その戦いは”春季攻勢(カイザーシュラハト)”と呼ばれている。

 

 浸透戦術と列車砲の砲撃を駆使した猛攻で、一番最初に襲撃されたブレスト要塞は制圧され、吸血鬼たちの橋頭保と化してしまった。そのままタンプル搭へと進撃を始めた吸血鬼たちだったが、作戦を実行する前にテンプル騎士団を弱体化させるために行っていた”無制限潜水艦作戦”の最中に、誤って輸送船ではなく豪華客船を撃沈し、無関係なオルトバルカ人たちを殺害してしまったことにより、モリガン・カンパニーの逆鱗に触れることになってしまう。

 

 結果的に、吸血鬼たちへと宣戦布告し、モリガン・カンパニーが容赦なく圧倒的な兵力を投入したことで一気に形勢は逆転。吸血鬼たちの虎の子のイージス艦もイージスシステムですら対処しきれないほどの数のミサイルの飽和攻撃によって粉砕され、橋頭保となったブレスト要塞に立て籠もっていた部隊も容赦なく粉砕された。

 

 そして、総大将であるブラドの戦死によって、熾烈な戦いはテンプル騎士団の勝利という事になった。

 

 現在では壊滅したブレスト要塞も再び建造され、旧ブレスト要塞よりも更に強固な防壁と、その戦いを経験したベテランの兵士たちによってしっかりと守られており、人々を守るための”揺り籠(クレイドル)”の防壁として機能している。

 

 けれども、その新しいブレスト要塞が建造された位置は、旧ブレスト要塞のあった位置と少しばかりずれていた。

 

 旧ブレスト要塞へと逆に攻撃を仕掛けた”ブラスベルグ攻勢”の際に、地下に設置されたMOABの爆発によって地盤に大穴を開けられた挙句、海戦に勝利したテンプル騎士団艦隊の艦砲射撃によって徹底的に破壊されているため、いくら要塞を建造したドワーフたちでもブレスト要塞を元に戻すことはできなかったためである。

 

 なのでちょっとずれた場所に新しい要塞を作ったのだ。

 

 だから新しいブレスト要塞の防壁の上からは、春季攻勢(カイザーシュラハト)の終結からずっと放置されている旧ブレスト要塞の廃墟が見える。

 

 崩落した巨大な防壁や、砂嵐によって埋まりつつある無数の塹壕。防壁の向こうには穴だらけになった飛行場の滑走路があり、倒壊した管制塔の向こうにはMOABの爆発が穿った巨大な穴が広がっていて、そこの地下でどれほどの破壊力を秘めた爆弾が炸裂したのかを晒し続けていた。

 

 要塞の中にある設備の大半はあの戦いの時のままになっていたが―――――――飛行場のすぐ脇に、墓石の列がずらりと並んでいる。もちろん、あの戦いの時からあったわけではない。戦いが終結して両軍の兵士の遺体を全て回収してから、破壊された要塞の一角に用意されたものだ。

 

 ここに埋葬されているのは、あの戦いで戦死した全ての兵士たちである。

 

 テンプル騎士団の兵士たちだけでなく、敵だった吸血鬼たちや、加勢してくれたモリガン・カンパニーなどの兵士たちがここに眠っているのである。ずらりと並んでいる墓石たちの中央には巨大な石碑が鎮座しており、真っ白な石碑の表面にはあらゆる国の言語で『勇敢なる兵士たちよ、安らかに眠れ』と刻まれている。

 

 そう、ここは春季攻勢(カイザーシュラハト)で戦死した全ての兵士たちの墓地だ。

 

「…………」

 

 かぶっていたフードを取り、腰に小さなランタンをぶら下げたまま、俺はその墓地の中にある1つの墓石を探し始めた。周囲には墓参りに来た兵士の遺族たちが夜でもお墓を見つけやすいように少し大きめのランタンが用意されているが、そのランタンの群れや頭上の月明かりでもちょっとばかり不十分だ。

 

 まるで幽霊でも出てきそうな雰囲気だけど、もし幽霊になって出てきたのであれば彼に問いかけてみたい。

 

 核兵器を運用するという選択をお前はどう思うのか、と。

 

 中央の石碑の手前にある墓石の前に立った俺は、腰のランタンを傍らに置き、右手に持っていた花束をそっと墓石の前に置いてから、その墓石に刻まれている名前を凝視する。

 

《ブラド・ドラクル・クロフォード》

 

「よお、ヒロト。遊びに来たぞ」

 

 ここに眠っているのは、前世の世界で親友だった男である。

 

 アイスティーの入った水筒も墓石の前に置いてから、俺は溜息をついた。

 

 異世界に転生する原因となったあの飛行機事故で、ヒロトも俺と同じく死亡し、”第二世代型転生者”の試作型(プロトタイプ)としてこの異世界へと転生した。しかも彼が生まれ変わることになったのは、よりにもよって俺の親父の宿敵であったレリエル・クロフォードの息子である。

 

 もしもキメラと吸血鬼の戦いに関係のない人間の子供として生まれ変わっていたら、また友達になれただろうか。

 

 前世の世界のように一緒に遊んだり、一緒に冒険者の資格を取って楽しく暮らせただろうか。

 

 あの戦いの最後で、ブラドは死んだ。

 

 俺を助けるために自分の手を千切り、死んだのだ。

 

 もう少しで助かったかもしれないのに、あいつは怨敵に成り果てた俺を助けることを選んだのである。

 

「なあ、お前だったらどっちを選んでた?」

 

 墓石に向かって問いかけながら、もしあいつならどちらを選んだのか予想し始める。前世の世界では仲の良かった親友だけど、あいつならばどっちを選んだのかは分からない。

 

 きっと、俺のように悩みながら選んだに違いない。

 

 仲間の命と、放射能のリスク。

 

 彼の天秤は、どちらが重いと判断するのか。

 

「…………安心してくれ。俺はもう、絶対に間違わない」

 

 彼の墓石を撫でてから、足元に置いていた自分のランタンを拾い上げながら立ち上がる。

 

 じゃあな、ヒロト。また会いに来るよ。

 

 死んでしまった親友の墓石に向かって微笑んでから、俺は踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の天秤が選んだのは、仲間の命だった。

 

 だからこそ、軽いと判断された放射能のリスクが牙を剥かないように慎重に判断しなければならない。

 

 その放射能が仲間に牙を剥けば、元も子もないのだから。

 

 それゆえに、絶対に間違えることは許されない。

 

 この力の使い方は、絶対に間違えない。

 

 同じ轍は踏んだが、それ以上踏み続けるわけにはいかないのだから。

 

 

 

 

 第十八章『火薬と日常』 完

 

 第十九章『守護者の代役』へ続く

 

 

 

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