異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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第19章 守護者の代役
揺り籠を守る者たち


 

 新聞紙を広げながら、いつものようにジャムの入ったアイスティーを口元へと運ぶ。ちらりと時計を見上げると、もう少しで7時になるところだった。

 

 そろそろ朝食が完成する頃だな。いつまでも新聞を読んでいるわけにはいかない。俺も何か手伝えるだろうか。

 

 ティーカップを静かに置いて新聞を片付け、リビングの椅子から立ち上がる。そのまま背伸びをして目玉焼きを焼く音が聞こえてくるキッチンの方へと向かおうとすると、廊下の方にある階段から誰かが駆け下りてくるような足音が聞こえてきた。

 

 結構軽そうな足音だから、その足音を発している張本人は幼い子供だろう。

 

「パパ、おはよう」

 

「おう、おはよう」

 

 やがて、廊下からパジャマに身を包んだ赤毛の小さな男の子が顔を出した。炎を彷彿とさせる髪は短く、瞼を擦る小さくて可愛らしい手の隙間から覗く瞳も同じように赤い。一見すると普通の幼い男の子のように見えるんだが、彼の頭と腰の後ろから伸びているものを見れば、彼が普通の人間の子供ではないという事が分かる。

 

 短い髪の中からは、もう少し彼の髪が長ければ隠れてしまいそうな長さの角が伸びているのだ。更に腰の後ろからは短い尻尾が伸びていて、表面はまるでドラゴンの身体を覆う分厚い外殻のようなものに覆われている。

 

 当たり前だが、人間に角や尻尾が生えているわけがない。

 

 そう、彼はキメラの子供だ。

 

 こっちに駆け寄ってきた可愛らしい子供の頭を撫でながら、彼を椅子の上に座らせる。

 

 最愛の息子の名前を呼ぼうとしたんだけど、微笑みながら彼の顔を見つめていた俺は猛烈な違和感を感じた。

 

 ―――――――今しがた頭を撫でている息子の名前が、思い出せない。

 

 そういえば、なぜ俺はタンプル搭ではなく王都の自宅にいるのだろうか。テンプル騎士団での仕事は休みなのか? 会議で提唱して承認されたクレイドル計画は進んでいるのか?

 

 息子の名前が思い出せないことに気付くと同時に、無数の疑問が違和感と共に生まれた亀裂から噴き出していく。

 

「パパ、どうしたの?」

 

「い、いや…………」

 

 これはどういうことだ?

 

 まさか認知症にでもなってしまったのだろうか。

 

 ぞくりとしながらキッチンの方を振り向き、朝食を作っている赤毛の妻に助けを求めようとする。俺が彼女に助けを求めようとしていることに気付いたのか、フライパンで焼いた美味しそうな目玉焼きを皿の上に乗せていた赤毛の女性は、こっちを振り向きながら首を傾げた。

 

 彼女の名はラウラ・ハヤカワ。大切な俺の妻であり、弟として生まれ変わった転生者である俺を受け入れてくれた優しい腹違いの姉である。

 

「ダーリン、どうしたの?」

 

「いや…………」

 

 助けを求めようとした瞬間、俺はぞくりとした。

 

 彼女が俺の事をダーリンと呼んだことにはちょっとだけ違和感を感じたけれど、もう彼女は俺の妻になってくれたのだから問題ないだろう。そう思って結婚式の時の事を思い浮かべようとしたんだが―――――――息子の名前が思い浮かばないように、結婚式の時の事も思い出せない。

 

 腹違いの姉との結婚式を祝福してくれた仲間は誰だったのか。

 

 妻がウエディングドレスを身に纏っていた姿も、思い出せない。

 

 記憶を思い出せなくて困惑している俺に、こちらを振り向いた妻が止めを刺す。

 

「―――――――!?」

 

「ど、どうしたの?」

 

 キッチンで朝食を作っていた最愛の妻のお腹が―――――――膨らんでいた。

 

 それだけではなく、何と彼女は右手と腰の後ろから伸びた柔らかい尻尾で料理をしながら、左手で赤毛の赤ん坊を抱き抱えていたのである。

 

 リビングの椅子に座っている子供と、彼女が抱き抱えている子供。そしてラウラのお腹の中にいる、もう1人の子供。

 

「あ、あれ? 子供って3人も作ったっけ?」

 

「何言ってるの? 3人だけじゃないわよ?」

 

「……………えっ?」

 

 も、もっといるの?

 

 何人だ? 4人くらいか?

 

 そう思っているうちに、とん、と階段の方から足音が聞こえてきた。やっぱり4人か、と思いつつ首を傾げていると、その足音がどんどん増え始めた。

 

 足音が1人分から2人分になり、どんどん分裂していく。キメラの発達した聴覚でも段々と増殖していく足音を感知しきれなくなってしまう。

 

 ちょっと待て、いったい何人子供がいるんだ……………?

 

「ら、ラウラ……………?」

 

「いっぱい作ったじゃない」

 

「い、いっぱい…………?」

 

 赤子を抱えていた妻の目が、どんどん虚ろになっていく。優しそうな微笑が段々と狂気に侵食されていくかのように豹変していき、最終的にラウラは赤子を抱きしめながら不気味な声で笑い始めた。

 

 どんどん増えていく子供たちと、不気味な声で笑う妻に挟み撃ちにされ、段々わけがわからなくなっていく。

 

 そして―――――――階段の上にある子供部屋から降りてきた子供たちが、リビングへとやって来た。

 

「パパ」

 

「パパ」

 

「パパ」

 

「パパ」

 

「パパ」

 

「パパ」

 

「パパ」

 

「パパ」

 

「パパ」

 

「パパ」

 

「パパ」

 

 虚ろな目つきでこっちを見ながら、俺を呼ぶ子供たち。

 

 廊下からやって来た子供たちの顔は、最初にやって来た赤毛の子と全く同じだった。

 

 もしここに銃があったら自分の頭に向けて引き金を引いているだろうな、と思った俺は、そのまま気を失う羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 なんだ、あの夢は。

 

 額の汗を拭い去りながら、無数の子供たちが廊下から顔を出していた光景を思い出し、反射的に部屋の入り口にあるドアを振り向く。タンプル搭の居住区にある部屋には鍵が標準装備されているし、就寝する際は必ず鍵をかけるようにしているので、強引にドアをぶっ壊そうとしない限り侵入されることはないだろう。既にカノンやステラには鍵をかけていても容易く侵入されているので困っているが。

 

 けれども、あれが夢でよかった。

 

 夢なのだから、子供の名前や結婚式の予期の事が思い出せないのは当たり前だよな。まだ経験していない未来の事だし。

 

 納得しつつ、隣で寝息を立てている腹違いの姉の寝顔を見守ることにした。

 

 今夜は同じベッドで眠っているのはラウラだけだ。いつもならイリナやカノンも一緒に寝ていることがあるんだけど、イリナは偵察任務があるし、カノンたちも昨日の訓練で疲れているのだろう。だから一人用のベッドで眠っているのは、珍しくラウラだけである。

 

 1人用のベッドを2人で使っているので、密着しながら眠るのは当たり前だ。

 

 さっきのが夢でよかったと思いつつ、ちらりとラウラのお腹を見下ろす。夢だったから当たり前なんだけど、ラウラのお腹は膨らんではいない。

 

 大丈夫だ、彼女はまだ妊娠していない。

 

「はぁ…………」

 

 妊娠していないとは言っても、いつ妊娠してもおかしくないんだよなぁ…………。

 

 最近はほぼ毎日襲われてるんだけど、母さんから貰ったあの薬を飲む前に襲われるのが当たり前になっているのだ。なので、いくら人間よりも繁殖力が劣るキメラでも、いつ妊娠してもおかしくないというわけである。

 

 だ、大丈夫だよね…………?

 

 不安になったので、左手を伸ばしてパジャマの上から彼女のお腹にそっと触る。当たり前だけど彼女のお腹はすらりとしていて、全く膨らんでいる様子はなかった。

 

「よ、よかった…………」

 

 妊娠してたらとんでもないことになるからな…………。

 

 いつモリガン・カンパニーが同盟関係を破棄してもおかしくないというのに、妊娠したラウラが戦線離脱するのはかなりの痛手だし、仮に子供が生まれたとしても子育てしながら戦うのはかなり難しい。

 

 だから、ラウラと結婚するのはせめて天秤を消滅させることに成功してからと約束していた。もちろん、子供を作るのも結婚してからである。

 

 最初は20歳になってから結婚しようと思ってたんだけど、多分ラウラは吸血鬼の細胞の移植で自分の寿命が大幅に短くなってしまったから焦っているんだろう。

 

「大丈夫」

 

 ちゃんと約束は守るよ、お姉ちゃん。

 

 彼女の頭を撫でてからもう一度眠ろうとしていると、ラウラの尻尾が伸びてきて、俺の頭を撫でてくれた。

 

 寝相なんだろうか。それとも起きているんだろうか。

 

 どっちなんだろうな、と思いつつ、瞼を閉じてもう一度眠ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウィルバー海峡へと続く巨大な河を、8隻の巨大な艦が進んでいく。

 

 超弩級戦艦が並走できるほど広く、大型の潜水艦が潜航したまま航行できるほどの水深がある大きな河を進んでいくのは、テンプル騎士団海軍が保有する艦隊たちだった。

 

 先頭を進むのは、テンプル騎士団艦隊総旗艦を務める戦艦『ジャック・ド・モレー』。ソ連の24号計画艦をベースにした超弩級戦艦であり、ジャック・ド・モレー級戦艦のネームシップである。艦橋の両脇にずらりと並んだ4連装型のキャニスターと多数の4連装40cm砲を兼ね備えた強力な戦艦であり、あらゆる海戦で戦果をあげているテンプル騎士団の力の象徴だ。

 

 第二次転生者戦争や春季攻勢(カイザーシュラハト)で奮戦したジャック・ド・モレーは、またしても改修を受けて強化されている。

 

 ―――――――なんと、殲虎公司(ジェンフーコンスー)から購入した原子炉を搭載してしまったのである。

 

 更に船体を延長し、後部甲板に4連装40cm砲を1基増設した。そのため全ての主砲を斉射すれば、敵に向かって16発の40cm砲の砲弾が飛来するという事になる。ちなみに旧日本軍が運用していたあの戦艦長門の主砲は連装型の40cm砲で、それを4基搭載していたのだから、あの改修を受けたジャック・ド・モレーは主砲の火力では戦艦長門の2倍の火力を持っているという事になる。

 

 更に原子炉を搭載したことによって速度も大幅に上がっており、艦長を務めるヴィンスキー艦長からの報告では35.6ノットも速度が出たという。

 

 改修を受けてからはまだ実戦を経験していないが、より強化された火力と速力はテンプル騎士団海軍の矛となってくれるに違いない。

 

 ジャック・ド・モレー(ネームシップ)の受けた改修と同じ改修を、他の同型艦も受ける予定になっている。

 

 強化されたジャック・ド・モレーの後ろに続くのは、2隻のジャック・ド・モレーの同型艦だ。前部甲板に居座る巨大な4連装砲が特徴的で、艦橋の脇には対艦ミサイルが装填された4連装型のキャニスターを装備している。他にも副砲の代わりに搭載した速射砲やCIWSをこれでもかというほど搭載している化け物だが―――――――先頭を進む”姉(ジャック・ド・モレー)”と比べると、後部甲板のデザインがかなり違う。

 

 後部甲板に搭載されている4連装40cm砲が撤去されており、代わりに空母のような飛行甲板が搭載されているのだ。とはいっても搭載されているのはアングルドデッキであり、その甲板の上ではF-35Bたちが待機しているのが見える。船体の後部の両脇にはスポンソンが搭載されており、その上にはCIWSや対空ミサイルなどの対空兵器が装備されているため、航空機やミサイルの接近が困難なのは火を見るよりも明らかだ。

 

 そう、あの艦はジャック・ド・モレー級をベースにして俺の能力で建造した”航空戦艦”であった。

 

 主砲の数が減ってしまった挙句、戦艦と比べると防御力が落ちてしまっているとはいえ、戦艦でありながら航空機を出撃させる事ができるし、主砲が減ってしまったとはいっても火力だけならば長門型戦艦と同格である。

 

 ジャック・ド・モレーの後に続くのは、航空戦艦となった六番艦『アンドレ・ド・モンバール』、七番艦『ベルトラン・ド・ブランシュフォール』の2隻で、どちらも既に原子炉を搭載されている。

 

 あの2隻は他の姉妹(同型艦)のように艦隊の旗艦とするのではなく、ジャック・ド・モレーが率いる”主力艦隊”に編入する予定だ。

 

 建造されたばかりの航空戦艦を護衛するのは、2隻のネウストラシムイ級フリゲートと3隻のアドミラル・グリゴロヴィチ級フリゲートたち。これからあの艦隊は、ウィルバー海峡で商船を攻撃している海賊たちの拠点を焼け野原にしに行くらしい。

 

 そういう任務にはもっと小規模な艦隊でも十分な気がするんだが、改修後のジャック・ド・モレーのテストや航空戦艦のテストも兼ねているんだろう。

 

「ふにゃあ…………大きい艦だね」

 

「海軍も強大になりつつあるからな」

 

 これからは、遠征することが多くなるだろう。

 

 積極的な軍拡を行ったおかげなのか、カルガニスタン国内で転生者が人々を虐げているという話は聞かなくなった。更に盗賊などによる襲撃も激減しており、中には盗賊団を解散してテンプル騎士団に投降する者たちもいたという。

 

 なので、魔物の襲撃を除けばカルガニスタンの治安はかなり良くなったといる。他の部族たちとの関係も親密になっているし、部族同士のトラブルが起こった際はテンプル騎士団が仲介しているので、部族同士の紛争も起こっていない。

 

 カルガニスタンでのトラブルはほぼなくなり、巨大な揺り籠と化したと言ってもいいだろう。

 

 なのでこの状況を維持しつつ、遠征に向かう部隊の錬度の底上げを図らなければならない。

 

 トラックの助手席で艦隊に向かって手を振るラウラを見守っていると、後ろの荷台から木箱をぶん殴る音や少年の罵声が聞こえてきた。

 

『くそ、なんだこりゃ!? おい、早くここから出せ! ぶっ殺すぞぉっ!』

 

「ありゃ、目が覚めたみたい」

 

「ふにゅ、うるさいねー」

 

 ああ、本当にうるさい。あいつの罵声を聞きながらタンプル搭まで戻らなければならないのか。あと10分くらいで到着するけど、到着するまでずっとやかましい罵声を聞かなければならないのは本当に辛い。

 

 もっと強烈な麻酔薬を使えばよかったと後悔しつつ、俺はトラックを走らせた。

 

 トラックの荷台に積まれているのは、カルガニスタンの集落を襲撃しようとしていた転生者(おバカさん)と、そいつの隠れ家から”接収”させてもらった食料などの物資である。集落の住民たちから物資が欲しいという要請があったので、費用をこちらで払って商人に向かってもらったんだが、その最中に転生者によって襲撃されてしまったのだ。

 

 幸い護衛の兵士たちと商人は無事だったが、運んでいた物資は奪われてしまった。なので俺とラウラが2人で奪還に向かったというわけである。

 

「ねえ、もう殺しちゃおうよ」

 

「そうしたいところだけど、技術者(マッドサイエンティスト)共が生け捕りにしろって言ってるし…………」

 

 珍しく転生者を生け捕りにしたのは、研究区画にいるマッドサイエンティストたちが「転生者を使って人体実験をやりたい」と言い出したのが発端である。人体実験は忌まわしい実験と言えるかもしれないが、それの犠牲になってくれるのは何の価値もないクソ野郎なのだから問題はないだろう。

 

 人々を苦しめたのだから、人体実験の犠牲になって罪を償ってもらいたいものである。

 

 それに、転生者を使っての人体実験を行えば、様々な結果が明らかになるだろう。レベルの高い転生者を転生者ではない兵士たちが簡単に殺せる方法や、転生者の弱点などを調べる事ができるかもしれない。

 

 そう、恩恵はあるのだ。

 

 もし被験者が何の罪もない人々だったら全力で止めたけど、商人から物資を強奪し、集落を襲撃しようとしていたクソ野郎なのでむしろ推奨する。しかもどうやらこいつはカルガニスタンにやってくる前もこういう事を繰り返していたらしい。

 

 マッドサイエンティストに引き渡す前に、シュタージが色々と”取り調べ”もしたいといっているので、その前にシュタージの所で”尋問”を受けてもらうことになる。彼はマッドサイエンティストの所に引き渡されるまで五体満足でいられるだろうか。

 

 どんな実験の犠牲になるんだろうな、と思いながら、俺はタンプル搭へと向かってトラックを全速力で走らせるのだった。

 

 

 

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