異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

542 / 560
フィルクシーの涙

 

 テンプル騎士団に入団し、陸軍や海兵隊に志願した兵士たちは、冒険者の資格を取ることが義務付けられている。冒険者の資格は17歳以上であれば簡単な手続きをするだけで交付してもらえるので、簡単に冒険者になることができるのだ。

 

 この組織の目的は世界中で人々を虐げるクソ野郎や転生者たちの殲滅である。なので兵士たちを冒険者にする必要はないように思えるけれど、冒険者の報酬は極めて高額なので、兵士たちに報酬を3割ほど組織を運営するための資金として納めてもらっている。

 

 いくら兵器や武器を端末で簡単に生産できるとはいえ、兵器の応急処置には費用がかかるし、兵士たちにもちゃんと給料を払わなければならない。もちろん食料を作ってくれている住民や工房で武器を作ってくれる職人たちにも給料を払う必要がある。

 

 ここで働いている兵士たちはもう奴隷ではない。ちゃんと人権を持った人々なのだ。

 

 しかもこの組織の兵士は、世界中のクライアントから依頼を受け、世界中で戦う傭兵でもある。現在では傭兵ギルドの仕事が減っているとはいえ、魔物の掃討作戦への協力を騎士団から依頼されることはあるし、要人の暗殺のような汚れ仕事を依頼されることも多い。

 

 少しでも資金を入手するための手段なのである。

 

 というわけで、テンプル騎士団は”複合ギルド”として機能していた。

 

 だから海兵隊や陸軍の兵士が魔物の討伐を依頼されるのは珍しくないんだけど、諜報部隊であるシュタージのメンバーがそういう仕事を依頼されるのはかなり珍しいと思う。

 

「海兵隊は?」

 

「遠征の最中だ。陸軍も魔物の掃討で大忙しらしい。…………はい、クラン」

 

「Danke(ありがと)」

 

 書類に片っ端からサインし、隣に座るクランの机の上にどんどん置いて行くケーター。隣にいるクランもその書類に立て続けにサインして、近くで待機しているシュタージのメンバーに手渡していく。

 

 テンプル騎士団の規模が大きくなり、カルガニスタンで蛮行を続けていた転生者を次々に討伐したことで、国内で人々を虐げていた転生者は絶滅しつつある。盗賊たちも陸軍の兵士たちによる掃討作戦で次々に壊滅しており、相変わらず村や集落が魔物に襲われることを除けばカルガニスタンの治安は一気に良くなった。

 

 治安が良くなるのは喜ばしい事である。先住民たちや部族たちが平穏に暮らす事ができるようになるのだから。

 

 けれども転生者や盗賊団が激減したことで、今度は兵士たちが遠征することが増えた。軍港からは海兵隊を乗せた強襲揚陸艦が出撃していくし、空軍も航空支援のためにミサイルや爆弾を搭載した戦闘機を出撃させ続けている。

 

 今のテンプル騎士団は大忙しなのだ。

 

 だから海兵隊や陸軍ではなく、シュタージに依頼が来たのだろう。

 

「”フィルクシーの森”はかなり危険度の高いダンジョンだが、大丈夫か?」

 

「大丈夫だと思う。場合によっては航空支援を要請するかもしれないが」

 

 俺が引き受けたのは、タンプル搭に住んでいる少女からの依頼だった。

 

 一緒にテンプル騎士団に受け入れられた母親が病気になってしまったらしく、苦しんでいるという。しかもその病気は少しばかり特殊らしく、あの便利なエリクサーでは治療する事ができないらしい。

 

 治療が必要なのは”フィルクシーの涙”と呼ばれる、フィルクシーの森の奥でしか採れない特別な薬草のみ。根元の方は蒼く、葉の方は水色に染まっている美しい薬草なのですぐ分かるらしいのだが、それが生えているフィルクシーの森はかなりの危険地帯だ。

 

 ディレントリア公国とカルガニスタンの国境の近くに広がっている森なんだが、春以外の季節になるとどういうわけか植物が急成長するため、車や馬では入る事ができなくなってしまうのである。しかも生息する魔物や森を訪れた冒険者を捕食する危険な植物も生息しているので、春以外に森に入る事は自殺行為としか言いようがない。

 

 あの吸血鬼たちですら、その危険地帯を無事に通過するために春に攻勢を仕掛けてきたのだ。

 

 できるならば春まで待ちたいところだけど、今の季節は夏だ。次の春まで待っていたらクライアントのお母さんが病気で命を落としてしまう恐れがある。

 

 つまり、今すぐに森へと行かなければならない。

 

「安心しろ、坊や(ブービ)。念のためノエルも同行させる」

 

「助かるよ」

 

 ノエルちゃんも来てくれるのか。

 

 ノエルちゃんはキメラの1人で、シュタージのメンバーでもある。昔は身体が弱くてベッドの上で生活していたらしいんだけど、信じられないことに今はキメラの能力を駆使して何人も転生者や要人を葬っている最強の暗殺者である。

 

 テンプル騎士団の特殊部隊であるスペツナズは彼女を欲しがってるみたいなんだけど、クランは何度も断り続けているという。要人の暗殺ならばそういう仕事を引き受けることが多いスペツナズにいてもおかしくはないんだけど、彼女はクランが命令するだけで迅速に対象を暗殺させる事ができる貴重な存在だ。

 

 それに彼女の能力を使えば、標的を”殺す”のではなく”自殺”したように見せかけられる。殺した痕跡を残さずに済むから、クランは彼女を手放そうとしないのだろう。

 

 実は、ノエルちゃんは俺よりも強い。

 

 狙撃だったら勝てるけれど、隠密行動では両親から暗殺や隠密行動に特化した訓練を受けていたノエルちゃんが遥かに上だし、ナイフを使った近接戦闘の訓練ではいつもノエルちゃんにナイフを突き付けられて敗北してしまう。

 

 彼女に負けるのは悔しいけれど、ノエルちゃんが一緒に来てくれるのはかなり頼もしい。

 

「準備してくるよ」

 

「ああ。それと、オペレーターは俺が担当する」

 

「分かった」

 

 彼に礼を言ってから、ノエルちゃんと打ち合わせして装備を用意しないとなと思いつつ、俺はシュタージの執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィルクシーの森は、まるでディレントリア公国を他国から守る防壁のように広がっている。この危険な森のおかげでディレントリアは侵略してきた他の国の騎士団を何度も返り討ちにしているけれど、ディレントリアに住む人々にとってもこの森は障壁となっている。

 

 春は植物がそれほど成長しておらず、人間を捕食するような危険な植物も非常に小さい時期なので危険度は低い。というか、春だけはダンジョンに指定されず、それ以外の季節になった時だけダンジョンに指定されるという変わったダンジョンだ。

 

 ディレントリア公国は暖かい国で、冬になっても雪は全く降らない。危険な植物が枯れるのは大体2月頃と言われており、森が安全になるのは3月から5月までの間だけだ。

 

「ヘリから森の奥に降下して、薬草を回収して撤退するのはどう?」

 

「うーん、周囲の樹とか枝が大きすぎるから降下は難しいと思う」

 

「…………徒歩で森の奥まで行くしかないのかなぁ」

 

「それしかなさそうだね…………」

 

 どうやら森の奥までは徒歩で行くしかないらしい。

 

 巨大な植物や樹の根のせいで車両では森に入れないし、巨大な樹の枝が乱立しているせいでヘリからの降下も不可能。魔物や植物を排除するために爆撃すれば希少な”フィルクシーの涙”まで吹っ飛ばしてしまう恐れがある。

 

 2時間ほどノエルちゃんと打ち合わせをしてたんだけど、最終的には武器を持って徒歩で森に突入し、薬草を採ってから再び徒歩で森を脱出するという原始的な作戦となった。しかも車両は森に入ってくる事ができないので装甲車や戦車に支援してもらう事ができない。

 

 歩兵が装備できる武装で魔物を返り討ちにするしかないのだ。

 

 とはいっても、森に生息しているのは獣のような魔物ばかりで、人間を捕食する危険な植物たちもそれほど防御力は高くないらしい。

 

 倭国支部の周囲には獣のような姿の魔物が頻繁に姿を現すらしいんだけど、そういった魔物は頭や心臓などの急所を狙うか、数名の兵士で集中砲火をすれば、小口径の5.56mm弾でも撃破するのは難しくないと言われている。

 

 なので、今回の装備は5.56mm弾を使用する装備でいいだろう。森の中だから接近戦を重視するべきなのかもしれないけど、場合によっては狙撃が必要になることもあるかもしれないので、俺はスナイパーライフルを使わせてもらうけどね。

 

「それと……………ノエルちゃん、場合によっては対人戦になるよ」

 

「うん、分かってる」

 

 フィルクシーの涙は希少な薬草だ。もしそれを管理局へと持ち帰れば、貴族が住んでいるような豪華な屋敷を建てられるほどの金額を手に入れる事ができるだろう。

 

 それゆえに、フィルクシーの涙を狙い冒険者もいる筈だ。

 

 基本的にダンジョンの中では、冒険者同士の争奪戦が繰り広げられる。パーティーを組んでいる冒険者は味方だけど、それ以外の冒険者は”競争相手”や”敵”なのだ。なので、貴重なアイテムや財宝が保管されているダンジョンで冒険者同士の殺し合いが勃発するのは珍しい事ではない。

 

 なので俺は、対人戦も想定して小口径の弾薬を選ぶことにしたのだ。

 

 フィルクシーの涙は春でも奥に生えているため、安全な春に手に入れようとする冒険者や商人は多いんだけど、敢えて裏をかいてそれ以外の季節に森へと入っていく冒険者もいることだろう。リスクは大きいけれど、下手したら春に他の冒険者や商人たちと争奪戦を繰り広げるよりも、こっちの方が手に入れる確率は大きいかもしれない。

 

「とりあえず、明日には出発しよう。森の近くまでは車両で行って、薬草を採ったらすぐに撤退だ」

 

「了解っ」

 

 そう言いながら、フィルクシーの森の地図の真ん中に鉛筆で印を書いていく。フィルクシーの涙があるのは森の奥と言われているから、おそらくこの辺りの筈だ。

 

 鉛筆で地図に印を書いてから、ポケットから端末を取り出してメニュー画面を開く。明日には出発するのは、今のうちに彼女に武器を支給して試し撃ちや調整をしてもらわなければならない。

 

 彼女に支給する武器を決め、タッチして装備する。唐突に姿を現したブルパップ式のアサルトライフルを彼女に渡すと、それを受け取ったノエルちゃんは「あ、これ前に撃ったことある」と言いながらチェックを始めた。

 

 彼女に渡したのは、オーストリアで開発された『ステアーAUG』と呼ばれるブルパップ式のアサルトライフルだ。M16やM4と同じく、西側のアサルトライフルで使用されている5.56mm弾を使用する代物で、命中精度が高い上に汎用性まで高く、信頼性もかなり優秀な銃である。

 

 ノエルちゃんに支給したのは、改良型の”A3”と呼ばれるモデルだ。既にオープンタイプのドットサイトとフォアグリップが搭載されており、銃口には森の魔物や植物を極力刺激しないようにサプレッサーが装着してある。それと、他の冒険者を排除しなければならなくなった時の事も考慮して、ライフル本体はモスグリーン、ライトグリーン、ブラウンの3色で迷彩模様に塗装されていた。

 

 彼女には前衛を担当してもらおう。

 

 というわけで、俺もスナイパーライフルをタッチして装備する。

 

 俺がメインアームに選んだのは、彼女のステアーAUGと同じくオーストリアで開発された『ステアー・スカウト』と呼ばれるボルトアクション式のスナイパーライフルだ。非常に軽量で、様々な弾薬を使用する事ができるボルトアクションライフルで、ハンドガードの一部がバイポッドになるという変わったライフルである。

 

 使用する弾薬は、場合によってはノエルちゃんと弾薬を分け合えるように5.56mm弾にする事にした。ボルトアクションライフル用の弾薬にすれば威力不足かもしれないけど、今回の敵は他の冒険者や防御力の低い魔物なので問題は無い筈だ。

 

 ちゃんと弱点にぶち込めば、一撃でぶっ殺せることに変わりはないのだから。

 

 ライフルには、ノエルちゃんと同じく魔物や植物を刺激しないようにサプレッサーを装備しておく。やかましい銃声を小さくしておけば魔物を刺激せずに済むだろう。

 

 サイドアームはテンプル騎士団で正式採用されているPL-14でいいだろう。サバイバルナイフも装備していく予定だし、念のためスコップも持って行くつもりだ。

 

 諜報活動をすることが多いシュタージに入ってからは、こういう仕事をすることは減ったからな。久しぶりに暴れてくるとするか。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。