異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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フィルクシーの森

 

 かつてディレントリア公国の独立を阻むために戦っていたヴリシア帝国の騎士たちは、森の向こうで待ち受けているディレントリア側の騎士たちと戦う前に、フィルクシーの森で命を落としていった。

 

 ディレントリア公国の領土を守る防壁にように広がっている森の植物は、春以外の季節になるとあらゆる植物が急激に成長してしまう。ただの雑草でも成人男性の身長に匹敵するほどの高さになるし、あらゆる場所へと伸びた巨大な樹の根のせいで地面は常にでこぼこだ。だからヴリシアの騎士たちは渋々荷馬車から物資を下ろして人力で運び―――――――片っ端から危険な植物たちの餌食になっていったという。

 

 無事に森を突破する事ができたのは、派遣された部隊の4割程度だったらしい。

 

 ディレントリアが、オルトバルカ王国に匹敵する国力を誇るヴリシア帝国から独立する事ができたのは、この森のおかげと言っても過言ではないのだ。とはいっても森の植物たちはディレントリアの民にも牙を剥いているので、他国との交流が消極的になる原因にもなっているが。

 

 乗ってきたピックアップトラックのエンジンを切り、運転席から降りた俺は、荷台に積んである木箱の中から装備を取り出しながら森を見つめた。確かに、巨大な樹が乱立するあの森の中へと車両で突撃するのは不可能だろう。巨大すぎる樹の根が地面から突き出て複雑なバリケードを形成しているので、徒歩で森に入るしかない。

 

 吸血鬼たちは春季攻勢(カイザーシュラハト)の際にここを越えてきたのだろう。どうやって戦車を持ってきたのか、と思ったけれど、転生者は武器や兵器を自由に装備したり消すことができるので、その能力を有効活用すればどんな所にも兵器を持って行くことはできるのだから不可能ではないだろう。

 

 木箱の中からスコップを取り出し、折り畳んでからホルダーの中へと収める。C4爆弾も5つほど手に取り、ポーチの中へと放り込んだ。

 

 できるならば魔物や植物とは戦わずに奥へと進みたいので、敵を刺激しないように銃にはサプレッサーを装着してきたんだけど、場合によってはC4爆弾が必要になるかもしれないので一応持ってきたのだ。

 

 ノエルちゃんもC4爆弾をポーチへと放り込み、ソ連製の対戦車手榴弾をホルダーへと収める。現代の戦車との戦いでは対戦車ミサイルやロケットランチャーが主流になったので、そういった武器よりも射程距離が短い上に破壊力も劣る対戦車手榴弾は廃れてしまったけれど、ロケットランチャーよりも小さいし、魔物にも大きなダメージを与える事ができるので、大型の魔物にも大ダメージを与えられるお手軽な武器としてテンプル騎士団では採用され続けている。

 

 ちなみに、ステアーAUGの準備をしているノエルちゃんが身に着けているのは、迷彩模様に塗装されたタイプのテンプル騎士団の制服だ。テンプル騎士団の制服は基本的に黒か黒と灰色の迷彩模様なんだけど、これは灰色の砂で覆われたカルガニスタンでの活動や夜襲を想定しているため、そのような色になっている。

 

 けれども黒い制服をスオミ支部のように雪で覆われた場所にいる兵士に着させてしまったら目立ってしまうので、様々な模様や色の制服がいくつも用意されている。

 

 オリーブグリーン、ライトグリーン、ブラウンの3色で彩られた迷彩模様のこの制服は、森林地帯や密林での戦闘を想定したタイプの制服である。

 

 嗅覚や聴覚で獲物を狙う魔物には全く効果がないけれど、視覚で標的を探知するタイプの魔物や他の冒険者には有効な装備だろう。

 

 俺よりも一足先に準備を終えたノエルちゃんは、ステアーAUGのマガジンをポーチの中へと収めてから、俺が身に着けている服を見て苦笑いした。

 

「なんだか、そういう魔物が森に棲んでそうだよね…………」

 

「誤射(フレンドリーファイア)はやめてね?」

 

「うふふっ、大丈夫だよ」

 

 ふ、不安だな…………。ノエルちゃんに撃たれませんように。

 

 俺も苦笑いしながら、自分が身に着けている服を見下ろす。3種類の色で彩られているノエルちゃんの迷彩服とは違って、俺の服にはこれでもかというほど草が取り付けられていた。もしこの格好のまま森の中や草原で雑草の中に紛れ込めば、敵に見破られる可能性は劇的に低くなるだろう。

 

 これは、”ギリースーツ”と呼ばれる服だ。

 

 今回の依頼では魔物や植物だけでなく、フィルクシーの涙を狙う他の冒険者との戦闘になる可能性もあるので、対人戦を考慮してギリースーツを着る事にしたのだ。少しでも敵にバレるのを防ぐため、メインアームのステアー・スカウトにも邪魔にならない場所に草を取り付けている。

 

 森の中で落としたら紛失しそうだ…………。

 

 草の塊にスコープを取り付けたような外見になったステアー・スカウトを背中に背負った俺は、持ってきた装備をちゃんと身に着けたかチェックしてから端末を取り出し、ピックアップトラックを装備している兵器の中から解除した。

 

 何の前触れもなく迷彩模様のピックアップトラックが姿を消し、タイヤの跡が刻まれた地面が置き去りにされる。

 

「よし、行こう」

 

「うんっ」

 

 迷彩模様のフードをかぶったノエルちゃんと一緒に、森の中へと向けて歩き出す。

 

 テンプル騎士団では昔のドイツ軍が採用していたシュタールヘルムにそっくりなヘルメットを採用しており、それを兵士たちに支給しているんだけど、ノエルちゃんやタクヤたちはあまりそのヘルメットをかぶらない。

 

 体内の魔物の遺伝子にもよるらしいんだけど、キメラは基本的に頭から角や触覚が伸びているらしく、ヘルメットをかぶると邪魔になってしまうという。それに外殻を生成すれば銃弾からは身を守れるので、どちらかというと防御力よりも敵に見つかりにくくなるようなデザインを好むようだ。

 

 ノエルちゃんの頭にも、よく見ると2本の触覚が生えている。何度か触らせてもらったことがあるけど、どうやら触覚を触られると頭がムズムズするらしい。

 

 というわけで、ノエルちゃんもタクヤのようにヘルメットはあまりかぶらないのだ。

 

 巨大な樹の根の脇を通過して、森の中へと足を踏み入れる。

 

 いたるところから巨大な樹の根が突き出ていて、雑草は成人男性の身長に匹敵するほどの高さに成長している。倒木からは一般的な街路樹のような大きさに成長したキノコが何本も生えていて、奇妙な香りを周囲にばら撒いていた。

 

 幻想的な雰囲気だなと思いながら進んでいたけれど―――――――苔で覆われた地面の上に錆び付いた剣が転がっていたのを発見した俺は、息を呑みながら腰のホルスターへと手を伸ばす。

 

 苔の上に転がっていたのは、産業革命以前に生産されたと思われる一般的なロングソードだった。昔の騎士団か冒険者が装備していた物なんだろうなと思いながら柄の方を見てみると、その剣の柄には持ち主の白骨化した手が、この剣は俺のものだ、と言わんばかりに未だにくっついている。

 

 とはいっても手首から先だけで、それ以外の部位は見当たらない。

 

 切断されたのだろうか。それとも魔物や植物の食べ残しだったのだろうか。

 

「…………ヤバそうだね、この森は」

 

「ああ。俺たちじゃなくてタクヤやラウラが来るべきだと思う」

 

 あいつらだったら1時間くらいで奥まで行って、フィルクシーの涙を回収して帰還できた事だろう。けれども残念なことに、俺はあの2人のように強いわけじゃないので、フィルクシーの涙の回収には時間がかかりそうだ。下手したら3日はかかるかもしれない。

 

 一刻も早く涙を回収してタンプル搭に戻るのが望ましいけど、ここの魔物や植物の餌食になるのはごめんだ。

 

 ハンドガンを構えたまま、ノエルちゃんと一緒に奥へと進んでいく。地面から突き出た巨大な樹の根をよじ登り、まだ下にいるノエルちゃんに手を貸して彼女も樹の根の上まで引っ張り上げる。

 

「ありがと」

 

「どういたしまして。…………ところで、魔物とか敵の気配はする?」

 

「うーん…………私はお姉ちゃんみたいに聴覚が発達してるわけじゃないからあてにならないと思うけど…………」

 

 そういいながら、目を瞑って周囲に敵がいないか索敵を始めるノエルちゃん。キメラの五感は常人よりも発達しているので、敵の索敵などにかなり役に立つのである。

 

 信じられない話だが、タクヤは発達した自分の嗅覚を活用して敵の臭いを嗅ぎ分け、ラウラから手足を奪った敵の狙撃手に復讐を果たしたという。

 

 ノエルちゃんの場合は発達してるのはどれなんだろうなと思いながら周囲を警戒していると―――――――急に目を開いたノエルちゃんに突き飛ばされた。

 

「えっ?」

 

 突き飛ばされた俺と一緒に、こっちへとジャンプするノエルちゃん。

 

 次の瞬間、ジャンプしたばかりのノエルちゃんのすぐ後ろに、人間の腕よりもはるかに太いオリーブグリーンの触手が突き刺さる。魔物が近くに潜んでいたのか、と思いながらその触手を見上げたけど、よく見ると表面からは無数の芽のようなものが伸びていたことに気付いた俺は、その触手は植物の触手なのだという事を理解した。

 

 襲ってきたのは魔物ではなく、この森をダンジョンに指定する原因となった危険な植物らしい。

 

 ハンドガンをホルスターに戻しつつ、横へと転がってステアー・スカウトを背中から取り出す。スコープを覆っていたハッチを開いて触手が伸びている場所へと照準を合わせた俺は、レティクルの向こうに見えた異形の植物を目にして凍り付いてしまう。

 

「な、何だあいつは…………」

 

 レティクルの向こうに見えたのは、百合の花をそのまま巨大化させたかのような姿の”花”だった。花の周囲にはまるで女王を守ろうとする騎士のように分厚い葉が伸びていて、本体である花を守るシールドとして機能している。そしてその葉の先端部から、今しがた俺たちに牙を剥いた触手が伸びていた。

 

 人間に牙を剥かなれば美しい花にも見えるけど―――――――よく見ると白い花の内側には無数の牙や緑色の長い舌が伸びており、早く肉を食わせろと言わんばかりによだれを垂らしている。

 

 き、キモい花だなぁ…………。

 

「本体はあの花ね」

 

「じゃあ狙撃が有効だね」

 

 ノエルちゃんの銃は狙撃用のライフルじゃないからね。

 

 触手はよろしく、と言う前にノエルちゃんはステアーAUGを構え、地面から引き抜かれようとしていた触手に5.56mm弾をぶっ放した。

 

 やっぱり植物は外殻に覆われているわけではないから、防御力はそれほど高くはないらしい。小口径の5.56mm弾はあっさりとオリーブグリーンの触手の表面を貫通すると、ライトグリーンの粘液―――――――多分あの植物の”血”なのだろう―――――――を周囲へとまき散らす。

 

 敵の防御力がそれほど高くないことを確認してから、この5.56mm弾でも十分だと確信する。

 

 ハンドガードの一部と化していたバイポッドを展開し、地面に伏せたまま照準を白い花へと合わせる。レンジファインダーによると、標的との距離はおよそ200mほど。スナイパーライフルやマークスマンライフルどころか、一般的なアサルトライフルでも十分に狙撃できる距離である。

 

 無数の触手が動き出し、ステアーAUGのセミオート射撃で触手に穴を開けたノエルちゃんへと牙を剥く。

 

 けれどもノエルちゃんは迫り来る触手をあっさりと左へ回避し、至近距離でステアーAUGを連射。触手たちに風穴を開けながら攻撃を回避し、外殻で覆われた左腕から糸を放出する。

 

 キングアラクネの糸だ。

 

 キングアラクネは他のアラクネとは異なり、標的を絡め取る糸ではなく、標的を寸断してしまうほど鋭い糸を放出する。その糸でドラゴンすらバラバラにして捕食してしまう事も珍しくない。

 

 その気になれば戦車の装甲すら両断できるほどの糸が、襲い掛かってきた身の程知らずの植物に猛威を振るう。

 

 触手の表面に細い何かが食い込んだかと思うと、その食い込んだ個所からライトグリーンの粘液が噴き出し、両断された触手が痙攣しながら宙を舞う。粘液の飛沫を突き破って飛翔した5.56mm弾が後続の触手を薙ぎ倒し、苔で覆われた地面の上に空の薬莢が落下していく。

 

 熟練の冒険者ですら瞬く間に捕食してしまう植物の猛攻を、俺よりも年下の少女がたった1人で食い止めているのだ。彼女の正体や戦い方を教えた両親を知らない人たちが見れば、間違いなく絶句するだろう。

 

 その隙に、俺は本体を狙う。

 

 シールドとして機能する葉は、全てノエルちゃんへと向けられている。

 

 標的は―――――――あの醜い口の中。

 

 息を吐き、レティクルを睨みつける。

 

 俺の本職はマークスマンだけど、スナイパーライフルで遠距離狙撃を経験したこともある。この程度の距離からの狙撃なら朝飯前だ。

 

 外さねえよ、絶対に。

 

「―――――――あばよ」

 

 標的を睨みつけながら、トリガーを引いた。

 

 やっぱり5.56mm弾は大口径の弾丸と比べると反動が小さい。サプレッサーを取り付けられた銃口から飛び出した5.56mm弾は、いつもよりも小さくなった銃声を置き去りにしながら飛翔すると、巨大な醜い白い花がノエルちゃんを狙っている隙に分厚い葉の隙間をすり抜け―――――――よだれで覆われた口の中を直撃する。

 

 小口径の弾丸だったけれど、ストッピングパワーの小さな弾丸でも、急所を狙えば一撃で標的を仕留めることは可能である。

 

 やはり口の中が急所だったらしく、口の中へと弾丸をお見舞いされた白い花は、まだ残っている触手や分厚い葉を振り回しながら大暴れし始めた。周囲の大木に触手を叩きつけ、周囲の地面をよだれで濡らしながらもがき続ける白い花。無様な化け物を睨みつけながらボルトハンドルを引き、次の弾丸を粗点してから、お構いなしにもう一発ぶっ放す。

 

 またしても葉の間をすり抜けた1発の弾丸が、化け物に引導を渡すことになった。

 

 急に花が大人しくなったかと思うと、周囲で暴れ回っていた触手たちがぴたりと止まり―――――――そのまま本体と一緒に崩れ落ちた。

 

「撃破を確認」

 

「さすがブービ君」

 

 このくらいの距離だったから楽勝だったよ。

 

 それに、ノエルちゃんが触手を引きつけてくれていたから狙撃に専念できた。ノエルちゃんのおかげさ。

 

 ボルトハンドルを引き、排出された薬莢を回収してから、俺はノエルちゃんと一緒に森の奥へと進む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの武器…………」

 

「ああ、テンプル騎士団だな。あれがフランセンの連中を蹴散らした武器か」

 

 望遠鏡でテンプル騎士団の団員の戦いを見ていた俺たちは、奇妙な服に身を包んだまま去っていく2人を監視しながら息を呑んだ。

 

 フィルクシーの涙を回収して売り捌けば一攫千金だが、テンプル騎士団の武器も回収して売れればフィルクシーの涙以上に価値になるだろう。それに売らずに俺たちがその武器を使えば、あいつら圧倒的な力を手に入れる事ができるかもしれない。

 

「ボス、どうする?」

 

「このまま追跡しろ。あいつらが植物共の餌食になったら武器を回収すればいいし、フィルクシーの涙の場所までたどり着いたら奇襲して殺し、涙と武器を奪えばいい」

 

「了解だ」

 

 最高のチャンスだ。

 

 仲間たちと一緒にニヤリと笑いながら、俺は望遠鏡を覗くのを止めて走り出した。

 

 

 

 

 

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