異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
フィルクシーの森は結構広い。
地図ではまるでディレントリアの国境を守る防壁のように広がっているので、森の中を歩いていれば日が沈む前には森を抜けられるんじゃないかと予測していたんだが、あの地図が不正確だったのか、それとも俺たちの歩く速度が遅いだけなのか、どうやらもう日が沈み始めているようだった。
しかも俺たちはこの危険な森を”通過”するのではなく、この森の奥にあるフィルクシーの涙を探し出して回収し、タンプル搭へと持ち帰らなければならない。
3日はかかるだろうと思ってそれなりに食料は持ってきたし、足りなくなったら魔物の肉や食べられそうなキノコを調達すればいいだろう。さすがに最初に遭遇した花みたいな植物は食べられないだろうけど。
というか、食いたくない。
森に入ってから遭遇した気色悪い植物の姿を思い出して顔をしかめつつ、クレイモア地雷から伸ばしたワイヤーを草むらの中へと仕掛けておく。地雷も敵に見つかりにくい場所に仕掛け、こいつから解き放たれた小さな鉄球たちが俺たちに牙を剥かないかチェックする。
奇襲するために寄ってきた敵をズタズタにするために仕掛けてるのだから、俺たちまでズタズタになってしまうような位置に仕掛けるわけにはいかない。
こっちの世界で普及しているトラバサミを仕掛けるという手もあったけれど、俺たちは使い慣れているクレイモア地雷を守護者(ガーディアン)に選んだ。理由は、トラバサミと違ってこいつは爆発するので、眠っている最中に敵がこいつに引っかかったらその爆音が”目覚まし時計”として機能するからである。
物騒な目覚まし時計だけど、眠っている最中に魔物や他の冒険者に殺されるよりははるかにマシだ。
なので、獲物の絶叫以外はそれほど大きな音を立てないトラバサミではなく、こっちを選んだのである。
最後のクレイモア地雷を巨大な樹の根の陰に仕掛けた俺は、敵に見つかりにくそうな場所に仕掛けたことを確認してから踵を返し、ノエルちゃんの所へと歩き始める。こういう遮蔽物が多い場所では地雷を見つけにくいので、クレイモア地雷は猛威を振るってくれるだろう。
「終わった?」
「うん、仕掛けた」
ノエルちゃんが待っていたのは、地面から突き出た巨大な樹の根が連なったことによって形成された、ちょっとした洞窟だった。洞窟と言っても入り口から奥までは5mくらいしかない小さな穴だけど、魔物や他の冒険者から身を隠すにはうってつけだろう。
近くで拾ってきた倒木を椅子代わりにして腰を下ろし、ライフルを肩に担いだまま息を吐く。よく見ると倒木の後ろからは青白い小さなキノコがいくつか生えていて、ボロボロになった倒木をちょっとばかり華やかに彩っていた。
もう夜になってしまったため、フィルクシーの涙の回収は明日にすることになった。魔物の中には夜になると活動を開始する奴らや、夜間に更に獰猛になる危険な魔物もいるので、夜にダンジョンの中へと入るのは自殺行為と言われることもある。
いくら現代兵器があるとはいえ、ただでさえ遮蔽物の多い森の中で、夜中にそういう連中と戦うのは危険である。
なので日没までにダンジョンから脱出できない場合は、調査を中止して魔物が襲撃してこないように警戒しつつ休息をとるのが鉄則だ。パーティーのメンバーで後退しながら警戒することになるので、単独でダンジョンの調査をしている場合は日没前にダンジョンから脱出するのが望ましい。
俺たちは2人だから問題はないけど。
冒険者の教本や管理局が制作している冒険者向けのパンフレットでは、夜のダンジョンで休息する際は焚火をして光源を確保する事が推奨されている。もし仮に魔物が襲い掛かってきたとしても、暗闇の中で腰に小さなランタンを吊るしたまま魔物と戦うよりも標的を発見しやすいし、いざとなったら松明を用意することもできるからである。
けれども俺たちは、今回は焚火はしないことにしていた。
確かに焚火で光源は確保できるが、暗闇の中で焚火をするという事は―――――――他の冒険者たちに「ここにも冒険者がいる」と教えてしまう事になる。
基本的にダンジョンの中では、パーティーを組んでいる仲間以外の冒険者は敵である。優しい人ならば協力して調査してくれるかもしれないが、ダンジョンの中で手に入れた貴重なアイテムや調査の成果が報酬の金額を左右する仕組みになっている以上、他の冒険者から成果を横取りする輩の方が遥かに多いのだ。
焚火をしながら警戒していた冒険者が真っ先に殺され、仲間たちも眠っている隙に殺されてパーティーが全滅するのは珍しい話ではない。
なので焚火はせず、クレイモア地雷を設置して奇襲しようとしていた連中を返り討ちにする事にしたのである。
ダンジョンの中で冒険者が成果を横取りするために殺し合いをするのはよくある事だ。冒険者管理局も冒険者同士の殺し合いは禁止しているものの、基本的に死体は回収が困難なダンジョンの中に置き去りにされてしまう上に、証拠も残りにくいため何も対策ができていない。
現状では冒険者同士の殺し合いは禁止されているが、実質的には放置されているだけなのである。
「ご飯食べる?」
「そうしようか」
クレイモア地雷の設置も終わったから、後は持ってきた装備の整理や残弾のチェックをしながら休んでいいだろう。とはいえ2人同時に休んだら敵の奇襲を受けた時に対応できないので、片方は起きて警備をしていなければならない。
敵がクレイモア地雷に必ず引っかかるとは限らないからだ。もしかしたら空を飛んでいるタイプの魔物が襲ってくるかもしれないし、地雷に気付いた敵が回避して接近してくる可能性もある。
とりあえず、俺が先に警備をしよう。ノエルちゃんは索敵も担当してたから疲れている筈だ。
そう思いながら、荷物の中からレーションの入った袋を取り出す。
以前まではテンプル騎士団の兵士には”鉄球パン”と呼ばれるかなり硬いパンが食料として支給されていた。人に向かって放り投げたら骨折するほど硬いパンで、水に漬けておくとお粥になるという変わったパンで、信じられないことに100年以上も保存できるという。
けれども、新たにテンプル騎士団に入団した料理人たちのおかげで、前世の世界の軍隊で支給されていたレーションに近い代物がついに開発されたのである。
袋の中から缶詰を取り出し、蓋を開けてから袋の中に入っているフォークへと手を伸ばす。缶詰の中身はオルトバルカ名物のウナギゼリーで、缶の中にはぎっしりとゼリーに包まれたウナギの切り身たちが詰まっていた。
前世の世界ではイギリスの料理だったんだけど、こっちの世界ではオルトバルカ王国の伝統的な料理らしい。
「そういえば、ノエルちゃんはどうして冒険者になろうと思ったの?」
「えっ?」
問いかけると、レーションに入っていたミートパイを口へと運ぼうとしていたノエルちゃんの手がぴたりと止まった。
彼女はキメラになる前は、身体の弱いハーフエルフの女の子だったという。ハーフエルフは人類の中では身体が屈強な種族で、5.56mm弾が身体に命中してもそのまま戦闘を続けられるほどだと言われている。でもノエルちゃんはハーフエルフとは思えないほど身体が弱く、幼少の頃からキメラになるまではベッドの上で暮らしていたらしい。
けれども彼女が生まれる前に、父親であるシンヤ・ハヤカワがキングアラクネの義手を移植していたことにより、彼女は両親の遺伝子だけでなくキングアラクネの遺伝子まで受け継いだ”第二世代型”のキメラとなってしまったのである。
キメラになったことで身体が一気に頑丈になったのは喜ばしい事だけど、彼女はどうして冒険者になったのだろうか。人気の職業とはいえ、危険な魔物と遭遇するのが日常茶飯事なのだから、ダンジョンの中で命を落としてしまう可能性も高いというのに。
「…………私ね、ベッドの上から窓の外を眺めるのはもう嫌だったの」
「外に出たかったって事?」
「そう。お兄ちゃんやお姉ちゃんがよく手紙をくれたんだけどね、それを読む度に私も冒険してみたいなって思ったの…………」
だから両親から訓練を受けて、テンプル騎士団に合流したのか。
身体が弱いせいで外に出ることが許されなかったからこそ、冒険者になっていろんな場所を冒険してみたいと思っていたのかもしれない。確かに小さい頃からずっとベッドの上でばかり生活し、窓から外を眺めているだけの生活は嫌だろう。
彼女の中にある天秤は、その好奇心を危険なダンジョンよりも重いものだと判断したのだろうか。
「パパには反対されたんだけど、ママは応援してくれたわ。私のパパって過保護なのよね」
か、過保護かぁ…………。
まだ彼女に告白したわけじゃないけど、もし仮にノエルちゃんと付き合い始めたとしたら、その過保護なノエルちゃんのお父さんに邪魔されるかもしれないな。
しかもノエルちゃんのお父さんってあのモリガンの傭兵だよね? 世界最強の傭兵ギルドの1人が過保護なパパなのかよ…………。
テンプル騎士団にもまともな人は少ないけど、どうやらモリガンにもまともな人は少ないらしい。
合同演習の時に何度かノエルちゃんの父親を見たことがあるけど、思ったよりもがっちりした体格の黒髪の男性だった。けれども大きめの軍帽とメガネを身に着けていたせいなのか、最前線で戦う兵士というよりは司令部で作戦を立案し、前線で戦う兵士たちを指揮する参謀みたいな感じの人だったけど。
そのモリガンの参謀がノエルちゃんに抱き着いている姿を想像して苦笑いしつつ、ウナギゼリーにフォークを突き刺して口へと運んだ。
「ねえ、私も気になってることがあるんだけどいいかな?」
「どうぞ」
「ブービ君って、どうして”ブービ”って呼ばれてるの?」
「ああ、これは前世からのあだ名だよ。クランが留学してくる前までは”ショータ”って呼ばれてた」
「ショータ?」
「そう」
ちなみに俺の本当の名前は
「身長が小さい上に童顔だからさ、ケーターにはよく”ショタ”って呼ばれてた」
「しょ、ショタ…………」
ケーターは結構失礼な奴だと思う。でもここで無線を使って彼にあの時の事を講義したら空爆の支援要請をしてもらえなくなるかもしれないので、抗議するのはタンプル搭に戻ってからにしよう。
「しばらくしてからクランが大学に留学してきたんだけどさ、その時に
「そ、そうなんだ」
「はっきり言うと、身長が高い奴らが羨ましいよ。身長が小さいと子供にしか見えないじゃないか」
「そんなことないと思うよ? ブービ君ってしっかりしてるし、結構大人びてるように見えるもん」
そうかなぁ…………?
頭を掻きながらちらりと彼女の方を見ると、ノエルちゃんはミートパイを食べながら微笑んでいた。
ウナギゼリーを食べるのを一旦止めて手を伸ばし、ノエルちゃんの頭を撫でる。すると彼女の黒髪の中から伸びていた長いハーフエルフの耳がぴくぴくと動き始めた。
これは彼女の癖らしく、嬉しかったり満足すると無意識のうちに耳が動いてしまうらしい。
「ああ、食べ終わったら俺が警備してるから、ノエルちゃんは先に休んでてよ」
「いいの?」
「うん。索敵で疲れたでしょ?」
「ごめんね、ありがとう」
空になった缶を袋の中に戻し、ステアー・スカウトのマガジンをチェックする。今日はまだ2発しか発砲してないのでマガジンはまだ問題なさそうだ。でもノエルちゃんはマガジンをいくつか使ってしまったので、こっちの弾をあげた方がいいかもしれない。
何発あればいいだろうかと考えていると、ミートパイを食べ終えたノエルちゃんは自分の装備を素早くチェックすると、眠そうに瞼を擦りながらあくびをして―――――――どういうわけか、倒木の上で装備のチェックをしていた俺の膝を枕にして眠ってしまったのである。
「!?」
ちょ、ちょっと、ノエルちゃん!?
そんなに眠かったんだろうか。でも荷物の中に寝袋も入ってる筈だから、出来ればそっちに寝て欲しいものである。
でも起こすわけにはいかないよな…………。
仕方がない、このままチェックを続けよう。
PL-14のマガジンは1つ使ってしまったから、残りはあと5個か。スコップとかナイフは使ってないし、他の武装も問題はなさそうだな。念のためにC4爆弾を持ってきたけど、今回はこれを使わずに済むかもしれない。
もう1つの大きなホルスターの中から、ドイツ製のカンプピストルを取り出す。装填されているのは攻撃用の榴弾ではなく、航空機に攻撃目標を指示するための信号弾だ。もしかしたら航空支援をしてもらえるかもしれないので念のために持ってきたんだが、ケーターは空軍に支援を要請してくれたのだろうか。
今のテンプル騎士団は遠征で大忙しだ。下手したら航空支援なしで何とかするしかなさそうだな。
「にゃあ…………」
膝の上でノエルちゃんの頭を撫でた俺は、ホルスターの中のPL-14を引き抜き、魔物や冒険者が近寄って来ないように警備を始めるのだった。
幸運なことに、昨日のうちに森の奥へと到達することはできていたらしい。
ステアー・スカウトを構えながら周囲を警戒しつつ、フィルクシーの涙を探す。フィルクシーの涙はこの森の奥にしか生えていない希少な薬草で、根元の方はダークブルーになっており、葉先へと行くにつれてライトブルーになっているというグラデーションが特徴的な美しい薬草である。
この森にはいろんな植物があるけれど、今のところは蒼い植物は見ていない。だからフィルクシーの涙はすぐに分かる筈だ。
スコープから目を離して周囲を確認したり、時折スコープを覗き込んで遠くを見渡しながらフィルクシーの涙を探す。
危険な森の奥へと到達したからなのか、白骨化した死体や魔物たちの”食べ残し”も増えつつある。時々森の向こうからは冒険者と思われる男たちの断末魔や、巨大な植物の触手が伸びていく音が聞こえてきて、また冒険者が森の植物の餌食になったという事を告げる。
植物なんかに急襲されて死ぬのはごめんだ。死ぬなら老衰がいい。
「他の冒険者が採取しちゃったのかな?」
「うーん…………もしそうだとしたら、この依頼は失―――――――」
そう言いながら周囲を見渡した俺は、ぎょっとしながらスコープを覗き込み、何の変哲もない巨大な樹の根の一角を凝視する。
周囲に乱立する巨大な樹が養分を吸収するために伸ばした根の一本が―――――――どこからか、蒼い光で照らされているのである。
フィルクシーの森は巨大な樹の枝によって天井が埋め尽くされているため、日光はそれほど入ってこない。なので森の中で光るものがあれば、昼間であってもかなり目立ってしまうのである。
薄暗い森の中だからこそ、その光に気付く事ができたと言ってもいいだろう。
「ブービ君っ、どうしたの!?」
「ノエルちゃん、あれ…………!」
「あれって…………!」
巨大な樹の根の一角を照らす、蒼い光。
ライフルを下ろしながらその根の近くへと向かった俺は、そこで光を放ち続けていた小さな植物を見下ろしながら息を呑んだ。
大きさは、前世の世界で何度も目にしたタンポポと同じくらいだろうか。茎の根元の方はダークブルーに染まっており、葉先や花へと行くにつれてライトブルーに変色している。美しい蒼のグラデーションに彩られた茎の頂点に居座る花にはタンポポの綿毛にそっくりなものがいくつも生えており、そこからまるで蒼い火の粉のような美しい光を放っている。
その光は、まるで涙の雫のようだった。
だからこそこの薬草は―――――――フィルクシーの”涙”と呼ばれているのだろうか。
「これだ…………!」
「じゃあ、早速これを―――――――」
「―――――――おっと、待てよ」
フィルクシーの涙を持ち帰ろうとしたその時、後ろから男の声が聞こえてきた。
男の声の中に敵意が含まれている事を瞬時に察知した俺とノエルちゃんは、反射的に銃へと手を伸ばして振り向きつつ、銃の照準を俺たちに声をかけてきた男へと合わせる。こういう時に声をかけてくる部外者は大体敵だろう。他の冒険者が手に入れた成果を横取りするために殺し合いをするのは日常茶飯事なのだから。
こいつもそう言う類の連中なんだろうな、と思いつつ、スコープのレティクルを睨みつける。
後ろに立っていたのは、がっちりした体格の人間の男性だった。革で作られた防具を身に纏っており、腰にはやけにでかいマチェットを下げているのが見える。どちらも明らかに騎士団で支給されている装備ではなく、一般的な鍛冶屋で購入したものだろう。
こいつも冒険者なのだろうか。
しかもその男の後ろには、そいつのパーティーのメンバーらしき男たちや女の魔術師もいる。剣や槍を手にした奴らがいるのはよく目にするが、魔術師までいるのか。このパーティーはそれなりに恵まれていると言ってもいいだろう。
スチームライフルが支給されている騎士団と違って、冒険者のパーティーの強さは所属している魔術師の質や人数によって左右されると言っても過言ではないのだから。
「何の用だ?」
「まず武器を下ろしてくれって。…………それ、フィルクシーの涙だよな?」
「ああ、そうだ。だが譲る気はない」
「そうよ。これを必要としている人がいるんだから」
ノエルちゃんがそういうと、リーダーらしき男は笑った。
「クックックックッ…………俺たちも必要としてるんだよなぁ。それ1つでどれだけの価値があると思う? それを必要としているクライアントは、フィルクシーの涙の価値と同等の報酬を支払ってくれるのか?」
「それよりも、それを譲ってくれれば金を分けてやるよ。どうだ?」
「断る」
もうトリガーを引いてもいいだろうか。
やっぱりこいつらの目的はフィルクシーの涙だ。分け前をやると言っているが、こういう連中に限って要求したものを手に入れた後に、こっちを消そうとするものである。諜報活動をするシュタージに配属されてから色々と経験してきたから、こいつらが言っていることは信用できないという事はすぐに分かった。
それに、狙いはフィルクシーの涙だけではない筈だ。
多分、こいつらは俺たちを尾行していたのだろう。
「ハッ…………お前ら、テンプル騎士団のメンバーだろぉ? 随分と強い武器を持ってるみてえだが、フランセンの奴らを潰した程度で調子に乗ってんじゃねえぞ」
「強力な飛び道具を持っているとはいえ、俺たちに勝てると思ってんのか? こっちは20人もいるんだぜ?」
「その武器と涙を渡してくれれば、命は助けてあげるわよ?」
副リーダーと女の魔術師も、俺たちにフィルクシーの涙と武器を渡すように要求してくる。
銃をこんな奴らに渡すのは論外だ。こんな連中に渡せば、この力を悪用して私腹を肥やすのが目に見えている。
それに―――――――現代兵器は、人数が多いとはいえ、剣や槍で武装した程度の連中に負けるほど貧弱な武器じゃない。
「もういい…………。ぶっ殺して奪うまでだ。―――――――おいてめえら、こいつらをぶっ殺せッ!」
腰の鞘からでっかいマチェットを引き抜いて号令を発する冒険者のリーダー。俺とノエルちゃんはその号令で突っ込んでくる連中を片っ端から射殺してやるために銃を構えたが―――――――そのリーダーの命令に従った冒険者は、1人もいなかった。
彼らの後方にいた筈の冒険者たちが、飛び出してくる気配がないのである。
俺たちに勝ち目がないと判断したわけではないだろう。こういう連中は威圧した程度では逃げ出さないのだから。
「おい、どうしたんだ!? てめえら命令違反だぞ!?」
リーダーがそう叫んだ直後、茂みの中から剣を手にした1人の冒険者が飛び出してきた。
ずいぶん遅かったなと思いながらレティクルをそいつの頭に合わせたけど、スナイパーライフルのスコープの向こうに映ったその冒険者の顔を見た瞬間、俺はかなり強烈な違和感を感じてしまう。
普通なら、敵に突っ込んでいく時は猛烈な殺気を放つものである。なのにこっちに突っ込んできた冒険者が放っていたのは俺たちへの殺気ではなく―――――――恐怖だった。
リーダーの声が恐ろしかったからという情けない理由ではない。その冒険者は、別の何かに怯えていた。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃっ!」
その時、茂みの中から大蛇にも似た大きな触手が伸びてきたかと思うと、全力疾走していたその冒険者の右足にあっという間に絡みついた。逃げようとしていた冒険者はすぐに体勢を崩してしまい、巨大な触手によってあっさりと茂みの中へと引きずり込まれてしまう。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 嫌だっ、止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 助け―――――――」
「な、何だ…………!?」
茂みへと冒険者が引きずり込まれていった直後、どぼん、とプールに大きめの石を投げ込んだかのような音と、何かが溶けるような音が聞こえてきた。
茂みの向こうから流れてくるのは、人間の血の臭いと、昨日交戦した植物の体液が混ざり合った奇妙な臭いである。
ライフルを茂みへと向けながら、俺とノエルちゃんは確信した。
冒険者たちが襲い掛かってこなかったのは、リーダーの命令を無視したわけではない。
茂みに潜んでいるうちに―――――――忍び寄っていた植物に、やられていたのだ。
次の瞬間、その大きな茂みが膨らみ、中から巨大な化け物が姿を現した。
樹や草などの植物で作られた”蛸(タコ)”とでも言うべきだろうか。胴体の下からはその辺の巨大な樹の根より一回り細い樹の根のような無数の足が伸びており、上半身からも植物の蔦をそのまま太くしたような触手が何本も伸びている。その胴体にかなり巨大な口があり、中には無数の牙が生えているんだが―――――――よく見ると口の中はウツボカズラのようになっており、ゴーレムを容易く丸呑みにできそうな口の中は消化液のプールと化している。
その消化液の中を漂っているのは、先ほどの冒険者が装備していたと思われるロングソードや防具の一部だ。
新種の魔物だろうか…………?
「な、何だこいつ!? 見たことねえぞ!?」
「新種…………?」
大きな口をゆっくりと閉じた化け物は、近くに俺たちがいることを確認すると咆哮した。
さすがにC4爆弾を仕掛けるのは不可能みたいだな。
こりゃ航空支援を要請した方が良さそうだ、と思いつつ、俺は唇を噛み締めるのだった。