異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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「ケーター、航空支援はどうなってる?」

 

 目の前に姿を現した化け物を凝視しつつ、耳に装着した小型無線機に向かって問いかける。隣にいるノエルちゃんはその化け物に照準を合わせていたけど、刺激して俺たちが狙われるのを防ぐために発砲はしていない。

 

『安心しろ。ウィルバー海峡で演習中だった”ウリヤノフスク級”の『イリヤー・ムーロメツ』からSu-34FNが3機出撃した』

 

「よくやった。助かる」

 

 ウリヤノフスク級からか。

 

 ウリヤノフスク級はソ連が建造する予定だった原子力空母だ。アドミラル・クズネツォフ級と同じくスキージャンプ甲板を搭載しており、更にカタパルトまで装備している空母である。

 

 殲虎公司(ジェンフーコンスー)から購入した原子炉によって運用できるようになった空母であり、テンプル騎士団では現在5隻のウリヤノフスク級を保有している。演習中のイリヤー・ムーロメツは、確かテンプル騎士団が保有するウリヤノフスク級の一番艦だった筈だ。

 

 航空機に空爆してもらえればあの化け物も簡単に倒せるかもしれないと思ったが、頭上を覆っている巨大な樹の枝の群れを見上げた俺は、一般的な街路樹の幹よりも太い樹の枝たちを睨みつけながら舌打ちをする。

 

 あんなに太い枝が十重二十重(とえはたえ)に頭上を覆っている状態では、正確な空爆は困難だろう。下手をすれば爆弾やロケット弾のダメージを軽減させてしまう恐れもある。航空機に空爆を要請するならば、あの枝が極力薄い場所で要請するか、森の外に出てから化け物をおびき出して要請するのが望ましい。

 

 そう思いつつ、再び化け物を凝視する。

 

 このままの状況ならば、あのでっかい植物の化け物に襲われるのは俺たちではなく冒険者たちの方だろう。ただ単にあいつらの方が距離が近いからという理由で立てた仮説に過ぎないけど、そっちの方が狙われる確率は高い筈だ。

 

 ノエルちゃんに目配せしつつ、左手で彼女に折り畳み式のスコップを渡す。彼女は頷いてからステアーAUGを下げて背中に背負うと、そのスコップを受け取ってフィルクシーの涙の周囲の土を掘り始めた。

 

 航空支援が要請できなかった場合は、自力で逃げるしかない。何とか森の外に出る事ができればあの植物も追って来ないだろう。

 

 ただ、自力で逃げるのは困難かもしれない。

 

 ここまで来るのに、徒歩だったとはいえ1日かかってしまっているのである。訓練を受けているおかげで体力に自信があるとはいえ、ここから森の外まで全力疾走を維持できる自信はない。それにあの化け物が移動する速度によっては、全力疾走でも逃げ切ることはできないだろう。

 

 周囲は巨大な樹の根や急成長した草で囲まれているため、バイクなどの車両で逃げるわけにもいかない。

 

 くそ、どうすればいいんだ…………!?

 

 レティクルの向こうで、消化液のプールと化している化け物の口の中に浮かんでいた防具やロングソードまで消化され始めたのを見つめながら、俺は唇を噛み締める。こんなところで植物に吸収されて死ぬわけにはいかない。何としても森を脱出し、無事にクライアントに薬草を届ける必要がある。

 

「う、動くな…………刺激しなけりゃ襲って来ない筈だ」

 

 ロングソードを手にしたまま、生き残った部下たちに小声で指示を出す冒険者のリーダー。確かに、姿を現した化け物は彼らが近くにいるにもかかわらず、触手を伸ばして襲い掛かる気配はない。

 

 刺激しなければ襲われないというのは、間違っていないのかもしれない。

 

 では、どういう刺激を与えれば獲物を襲うのだろうか。

 

 仮設を組み立てながらちらりと後ろを振り向き、ノエルちゃんの様子を確認する。フィルクシーの涙を傷つけないように細心の注意を払って地面を掘った彼女は、根の周囲の土ごとフィルクシーの涙を回収して容器に収めてから、それをポーチの中に放り込んで首を縦に振った。

 

 あの化け物は肉食だから、やはり”あれ”が一番効果があるかもしれない。

 

 試してみるとしよう。

 

「ノエルちゃん」

 

「何?」

 

「俺が撃ったら、全力で森の出口まで走れ」

 

 仮に全力疾走したとしても、すぐに森の外には出られないだろう。そのまま逃げれば、突っ走っている最中にあの化け物に襲われるのが関の山である。

 

 けれどもあの化け物が他のものを襲っていれば―――――――逃げ切ることはできるだろう。

 

 というわけで俺は、逃げるための囮を用意する事にした。

 

 ライフルを化け物にではなく、その化け物を見上げて怯えている冒険者たちに向け、トリガーを引いたのである。

 

「―――――――ぐあっ!?」

 

 サプレッサーによって随分と小さくなった銃声が一瞬だけ響き、辛うじて残った残響が男の苦しそうな声にかき消される。

 

 今しがたステアー・スカウトの銃口から飛び出して行った5.56mm弾が貫いたのは―――――――冒険者の副官の太腿だった。

 

「て、てめえ、何を…………!?」

 

 素早くボルトハンドルを引き、薬莢を排出。銃口の向きを変えて今度は女の魔術師の太腿に照準を合わせ、躊躇なくトリガーを引いた。

 

 やけに小さな銃声を置き去りにし、小口径の5.56mm弾が飛翔する。口径が小さいのでストッピングパワーや殺傷力は不十分かもしれないが、こういう使い方は殺傷力の低い小口径の弾丸でしかできないだろう。

 

 5.56mm弾が女性の魔術師の太腿にめり込み、皮膚と太腿の肉を食い荒らす。鮮血や細かい肉片が周囲に飛び散り、緑色の苔や草で覆われた地面の一角を赤く染めた。

 

「きゃああああああああっ!?」

 

 またしてもボルトハンドルを引きつつ、化け物の様子を確認する。もしこの仮説が外れていたら、俺は植物だけでなくあの冒険者たちまで刺激することになるからな。

 

 当たっていますようにと祈りつつ化け物を見上げると―――――――植物で作られた蛸みたいなでっかい怪物は、サプレッサーで小さくなっていたとはいえ銃声を発する銃を使った俺ではなく、すぐ近くで血を流している冒険者たちの方を見下ろしながらぴくりと触手を動かしていた。

 

 ―――――――やっぱり、こいつを刺激するのに有効なのは血の臭いか。

 

 肉食である以上はそういう臭いに弱いと思っていたんだが、仮説は当たったらしい。

 

 俺が考えていたことを察したのか、まだ無傷で済んでいた冒険者のリーダーが冷や汗を流しながらこっちを睨みつけてきた。

 

「て、てめえ、俺たちを餌にするつもりかッ!?」

 

「正解」

 

 化け物があの冒険者たちを襲っている隙に、俺たちはフィルクシーの涙を持って全力で逃げればいいというわけだ。あの植物が冒険者共を捕食しているうちに逃げれば襲われている彼らに時間を稼いでもらうこともできるし、運がよければ化け物から逃げ切ることもできる筈だ。

 

 それに、装填していたのが大口径の弾丸ではなく小口径の弾丸だったため、彼らの太腿に開いた風穴は非常に小さく、足を引きずる羽目になるとはいえまだ辛うじて移動できる程度の傷で済んでいる。もしこれが大口径の弾丸や、重機関銃で使っているようなでっかい弾丸を放つアンチマテリアルライフルだったら、彼らの片足を捥ぎ取ってしまっていた事だろう。

 

 ノエルちゃんと弾薬を分け合うために選んだ5.56mm弾が功を奏したというわけだ。

 

 というわけで、俺たちが逃げるための囮になってください。

 

 ボルトハンドルを引くと、こっちが攻撃の準備をしているという事を悟ったリーダーが慌てて叫んだ。

 

「よ、よせ! も、もう”囮”は2人もいる! 3人もいらないだろう!?」

 

「おい、ボス…………俺たちを見殺しにするのか!?」

 

「い、嫌…………あんな化け物に食われるのは嫌よ…………! ボス、見捨てないで…………!」

 

「黙れぇッ! お、おい、俺も助けてくれ。助けてくれたら何でもくれてやる。今回の報酬もお前らに譲―――――――」

 

 男が喋っている最中に、容赦なくそいつの太腿を5.56mm弾で撃ち抜く。

 

 太腿の肉に風穴が開き、傷口から溢れ出す鮮血の臭いが植物の化け物をさらに刺激した。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「―――――――仲間を見捨てるクズなんか、助けるわけないだろ」

 

 ボルトハンドルを引いてからステアー・スカウトを背中に背負い、ノエルちゃんと一緒に踵を返して走り始める。

 

 仲間を見捨てるのは論外だ。一緒に戦てきた仲間を、自分が助かるためだけに見捨てるなんて考えられない。俺もタクヤのように汚い手を使うけれど、仲間は絶対に売らない。

 

 お前は黙って化け物に食われてろ、クソ野郎め。

 

「ま、待て…………置いて行かないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「諦めろよ、ボス…………もう逃げられない」

 

「裏切り者…………! 私たちを見捨てようとするなんて…………!」

 

「くっ…………す、すまなかった…………。なあ、俺にもエリクサーを分けてくれないか?」

 

「誰が裏切り者にエリクサーを分けるか! ほら、アンドレイ! 急いで回復して!」

 

 あーあ、エリクサーで回復する気か。囮の数が減っちゃうのは最悪だけど、エリクサーで傷口を塞いでも服に付着した鮮血は消えないだろう。それが発する血の臭いで植物を刺激し続けるに違いない。

 

 しかもその状態で走り回ってくれるのだから、こっちの方が好都合かもしれないな…………。

 

 囮にされた連中の罵声や断末魔を聞きながら、俺たちはそのまま森の出口へと向けて突っ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら”ハルバード1”、目標地点まであと20分』

 

「演習中にすまない、ハルバード1。よく来てくれた」

 

 森の中を全力疾走しつつ、こっちに向かってくれているSu-34FNのパイロットと連絡する。爆弾やミサイルを搭載した”戦闘爆撃機”が3機もやってきてくれたのだから、あの化け物を木っ端微塵にするのは容易い筈だ。

 

 空軍や海軍と交渉してくれたケーターには後で感謝しておかないと。

 

「現在、こっちは森から脱出している最中だ。脱出したら赤い信号弾を打ち上げるから、その周囲を徹底的に攻撃してくれ」

 

『了解(ダー)。クレーターだらけにしてやります』

 

 多分、彼らの方が到着するのは先だろう。こちらも急いで脱出する必要がある。

 

 森の外へ近づいているせいなのか、巨大な樹の根の数がちょっとだけ減っているような気がする。これならばバイクで一気に脱出する事ができるかもしれない。

 

 そう思って端末を取り出そうとした次の瞬間、隣を走っていたノエルちゃんの華奢な身体が、がくん、と揺れた。

 

「―――――――えっ?」

 

 樹の根に躓いたのだろうかと思って後ろを見たけど、転倒している筈のノエルちゃんは見当たらない。

 

 どこに行ったのかと思いつつ後ろを振り向いた俺は、そこに鎮座していた巨体を見上げながら絶句した。

 

 胴体の下部から無数に伸びている樹の根のような足からは細い根がまるで体毛のように伸びているけれど、その上に生えているずんぐりした胴体のせいで樹の根というよりは蛸の足を思わせる。胴体の左右からは植物の蔦をそのまま太くしたような外見の触手が伸びており、その根元に居座る胴体には、ゴーレムですら丸呑みにできそうなほど巨大な口があった。

 

 口の中はまるでウツボカズラのようになっていて、中には水色の消火液がたっぷりと詰まっているのが分かる。

 

 その消化液の中を漂っているのは、餌食になった者たちの装備品だ。ロングソードや魔女を彷彿とさせるデザインの帽子が消化液の表面に浮かんでいるのが見える。

 

 あの帽子は、先ほど囮にさせてもらった女の魔術師の物だろうか。という事は隣に浮かんでいるロングソードは仲間を見捨てようとしたボスの物に違いない。彼らはもうこの化け物の餌食になってしまったとでも言うのか。

 

 冒険者たちを捕食して俺たちを追ってきた化け物は、左側の触手で絡め取った小柄な少女を口へと運ぼうとしているところだった。

 

「ノエルちゃんッ!」

 

「くっ!」

 

 彼女は片手でステアーAUGを連射するけれど、樹の幹のようにがっちりとした化け物を仕留めるには火力が足りないらしい。弾丸は胴体にめり込んでいるんだけど、全くダメージを与えられていないようだった。

 

 ウツボカズラみたいな口を大きく開け、餌食になった者たちの装備品を見せつけながらノエルちゃんをその中へと放り込もうとする化け物。俺は大慌てでステアー・スカウトを構えて触手にレティクルを合わせ、トリガーを引いた。

 

 あんなに太い触手に通用するのかどうか心配だったけど、火力が足りないのであればこれでもかというほどぶち込んでやるしかない。

 

 触手に喰らい付いた5.56mm弾が表面を食い荒らし、巨大な職種の表面に小さな穴を穿つ。あの蔦みたいな触手は胴体とは違ってそれほど防御力は高くないらしく、その小さな穴からはぬるぬるした黄緑色の体液らしき液体が噴き出していた。

 

 さすがにその一撃でノエルちゃんを助け出すことはできなかったけど、囚われているノエルちゃんにその触手はそれほど防御力がないという事を教えることはできたらしい。

 

 ステアーAUGを自分の左足に絡みついている触手に押し付け、フルオート射撃を叩き込むノエルちゃん。立て続けに体液が触手から噴き出し、排出された薬莢と共に地面へと落ちていく。

 

 さすがに5.56mm弾を連続で叩き込まれたのはひとたまりもなかったらしく、彼女を喰おうとしていた化け物は呻き声を発しながら彼女から触手を離す。

 

「!」

 

 ライフルを背負い、俺は落下してくるノエルちゃんを受け止めるために走り出す。両手を伸ばし、落下してくるノエルちゃんを受け止めるためにジャンプしたんだけど―――――――ノエルちゃんは着地する準備を整えていたらしく、ほんの少しだけ受け止める位置がずれてしまった。

 

 俺に頼らずに自分で着地する準備をしてたのか。しっかり者だなぁ。

 

 もしかしたら余計なお世話だったかもしれない、と思った次の瞬間、落下してきたノエルちゃんと激突する羽目になってしまった。

 

「ぐあっ!?」

 

「きゃんっ!?」

 

 大慌てでノエルちゃんを受け止め、自分の背中を下にして落下する。

 

 エリクサーを飲んだ方がいいのではないかと思ってしまうほどの激痛を感じながら、俺はゆっくりと目を開けて彼女の安否を確認しようとした。けれどもノエルちゃんに大丈夫かと問いかける前に、自分の右手が触れている場所を見てぎょっとする羽目になる。

 

 ―――――――なんと、ノエルちゃんの胸に触ってしまっていたのである。

 

 さすがにラウラとかクランみたいに大きいわけではない。ほんの少し膨らんでいる程度だけど、ノエルちゃんは俺よりも年下の女の子なんだから当たり前だろう。もう少しすればきっと大きくなっている筈だ。

 

 だから大丈夫だな、と思ったけど、大丈夫じゃないかもしれない。

 

 年下の女の子のおっぱいに触ってしまったのだから。

 

「ぶ、ブービ君…………!?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 戦闘中にこんなことしてる場合か!

 

 大慌てで立ち上がりつつ、ポケットの中へと手を突っ込む。念のために持ってきたスタングレネードの安全ピンを引き抜きつつノエルちゃんの手を引き、化け物から距離を取る。

 

 これが植物に効果があるかは不明だけど、時間稼ぎになってくれるに違いない。

 

 足止めできますように、と祈りながら投擲した俺は、ノエルちゃんと一緒に走り出す。

 

 その直後、俺たちの背後でスタングレネードが起爆し―――――――フィルクシーの森の一角を、一瞬だけ猛烈な閃光で呑み込んだ。

 

 

 

 

 

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