異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「こちらハルバード1、目標地点上空まであと180秒」
『了解! …………くそ、こっちは化け物と森の中で鬼ごっこ中だ!』
「了解。こちらはいつでも攻撃できます」
そう言いながら、俺はキャノピーの外に広がる広大なフィルクシーの森を見下ろす。カルガニスタンとの国境に広がっているフィルクシーの森は、まるで他国の侵略からディレントリアを守る防壁のようだ。異常としか言いようがないほど成長した植物はただの雑草ですら成人男性に匹敵する高さになるため、ここを馬や馬車に乗って突破するのは不可能と言っていいだろう。
そのためここを突破するには、そういった植物が枯れる春まで待つか、馬車で移動するのを諦めて徒歩で突破するしかないのだが、春以外の季節にこの森の中へと足を踏み入れれば、凶暴な動物や植物たちが”来客”たちに容赦なく牙を剥く。
ディレントリアがヴリシア帝国から独立することになったあの戦争でも、ヴリシア側から派遣された騎士たちの大半が森の中で植物の餌食となったという。
列強国の騎士団ですら大きな損害を出してしまうダンジョンに、我が騎士団の同志たちはたった2人で飛び込み、フィルクシーの涙を入手して脱出している最中だ。このまま無事に森から脱出すれば、同志ブービと同志ノエルはかなり大きな戦果をあげたことになるだろう。
クライアントだけでなく、騎士団の同志たちもあの2人を称えるに違いない。
だからこそ我々は、何としてもあの2人を無事に森から脱出させる必要がある。
空母『イリヤー・ムーロメツ』から出撃したのは、3機のSu-34FNたち。俺は元々タンプル搭の航空隊に所属していたし、あの吸血鬼共が始めた春季攻勢(カイザーシュラハト)の時はブレスト要塞上空で敵の航空隊と戦った経験があるから、機体を操縦する技術には自信がある。けれどもハルバード2とハルバード3に乗っているのはまだ飛行時間の少ない新米たちだ。訓練では問題はなかったが、こいつらを実戦に参加させて大丈夫だったのだろうか。
いくら上空から爆弾やロケット弾を叩き込むだけの任務とはいえ、攻撃する目標を間違えれば取り返しのつかないことになる。
同志ブービと同志ノエルを吹っ飛ばすわけにはいかないのだ。
念のため、ケーター少佐が同志ブービに信号弾を携行させたらしいし、空母を飛び立つ前も『信号弾の真下を徹底的に攻撃せよ』という命令を受けている。同志ブービも、その信号弾が真下を吹っ飛ばせという合図だという事は把握している筈だ。
「攻撃準備はできてるな?」
操縦桿を握ったまま、俺は隣に座る相棒に問いかける。
このSu-34FNは2人乗りの戦闘爆撃機だ。けれどもこの機体は他の複座型の機体とはちょっとばかり変わっていて、2名のパイロットは横に並んで座ることになっている。
隣に座っているのは、主翼に搭載されている爆弾やロケット弾での攻撃を担当する相棒のウィリアムだ。
「いつでも大丈夫だ」
「間違えて味方を吹っ飛ばすなよ、ウィリアム。同志たちを吹っ飛ばしたらウォッカ禁止だからな」
「その前に同志団長に粛清されちゃう」
そう言いながら、最終チェックを続けるウィリアム。ちらりとレーダーを確認してから、左右を飛んでいるハルバード2とハルバード3もちゃんと飛んでいるか確認しておく。
ウィリアムも春季攻勢(カイザーシュラハト)で実戦を経験しているし、何度も一緒に出撃してこいつが敵を的確に吹っ飛ばしているのを目の当たりにしているから安心している。だが、一緒についてきた新兵たちは大丈夫だろうか。
提督は何を考えているんだろうか、と思っていると、無線機の向こうからその提督の声が聞こえてきた。
『同志諸君、聞こえているか?』
「こちらハルバード1、どうぞ」
『いいか? 徹底的な殲滅こそ最高の誉れである! 同志たちに牙を剥く野蛮な怪物共を蹂躙し、森を焼け野原にせよッ! 爆炎で全てを薙ぎ払うのだぁッ!』
「了解(ダー)」
やれやれ。たった3機の戦闘爆撃機で広大な森を焼け野原にできるわけがないだろう。
この組織は居心地がいいけれど、少しばかり変な人が多いのではないだろうか。もちろん、ウィルバー海峡で待機する第一機動艦隊旗艦『イリヤー・ムーロメツ』のCICに居座り、モニターを睨みつけながら指揮を執っている『アーロン提督』は、テンプル騎士団海軍の中で一番ヤバい提督と言っても過言ではない。
元オルトバルカ王国騎士団の奴隷部隊にいたハーフエルフの騎士で、魔物の掃討作戦では魔物たちの巣を火炎瓶で徹底的に焼き払い、その群れを根絶やしにするのが当たり前だったという。中にはアーロン提督が率いる部隊の活躍で絶滅してしまった魔物も何種類かいるという。
当たり前のように戦場を焼け野原にしていた提督は、仲間たちから『煉獄のアーロン』と呼ばれていたらしい。
貴族たちは、奴隷部隊がちゃんとした人権を与えられている人間たちの部隊よりも戦果をあげて有名になっているのが面白くなかったらしく、アーロン提督を騎士団から追放して部隊を解体した。騎士団から追放されてしまった提督は1人で傭兵となり、世界中で魔物たちを掃討する依頼を受けながら旅をしてカルガニスタンへと辿り着き、テンプル騎士団に入団したのだ。
どうして陸軍じゃなくて海軍に配属されたのだろうか。
「たった3機でどうやって焼け野原にするのかねぇ」
アーロン提督からの通信が終わったのを確認してから、ウィリアムが悪態をつく。この森を焼け野原にしたいのならば、これでもかというほどナパーム弾をぶち込むしかないだろう。たった3機の戦闘爆撃機で焼け野原にするのは不可能である。
「この騎士団ってさ、攻撃的な人が多いよな」
「確かに」
呼吸を整え、キャノピーの下に広がる森を睨みつける。
この森を焼き払うのは無理だけど、信号弾の真下は焼け野原になっちまうんだろうなと思いつつ、俺は操縦桿を握り続けた。
十重二十重に頭上を覆う巨大な枝の群れの向こうから、戦闘機のエンジンの音が聞こえてくる。もう既にフィルクシーの森へと到着し、上空で待機しているのだろうか。
背後から伸びてくる触手を躱しつつ、頭上の枝の群れを見上げた俺は舌打ちをした。航空隊に攻撃を要請する際は、空爆してほしい地点の真上に向けて赤い信号弾を打ち上げることになっているのだが、分厚い枝の群れが頭上を覆っているから、上空の航空隊がそれを確認するのは難しいだろう。
仮に光を確認して攻撃しても、攻撃する地点がずれてしまう恐れがある。攻撃する場所がずれれば敵にしっかりとダメージを与える事ができなくなるうえに、下手をすればこっちまで巻き込まれる恐れがある。
だから支援要請をする俺たちも、航空機に正確に攻撃する位置を伝えなければならない。
理想的なのは森の外まで脱出し、頭上に遮蔽物がない場所で支援要請をするか、極力頭上の樹の枝の数が少ない場所で信号弾を打ち上げることだが、現時点ではどちらも不可能だろう。いくらステータスで身体能力が強化された転生者と、身体能力が高い上に訓練を受けたキメラとはいえ、奥へと到達するのに1日もかかった森を数十分で脱出するのは不可能である。
しかも後方には、俺たちが囮にした冒険者たちを捕食して追いついた化け物がいる。あの触手に捕らわれれば消化液のプールに放り込まれる羽目になるのは想像に難くない。
化け物から逃げ回りながら、頭上の枝の薄い場所を探すのは不可能だ。
「くっ!」
「ブービ君、右!」
「了解!」
一瞬だけ速度を落とし、ノエルちゃんの指示通りに思い切り右へとジャンプする。その直後、まるで砲弾が飛翔するかのような音を発しながら伸びてきた太い触手が、巨大な樹の幹に突き刺さる。
ちょ、ちょっと待って。あんなのが当たったら木っ端微塵になるんじゃない…………?
巨大な樹の幹に突き刺さった触手を見てぞっとしながら、ポーチから取り出したスタングレネードの安全ピンを引っこ抜く。走りながらその金属音を聞いていたのか、ノエルちゃんはこっちを見て頷いた。
後方にスタングレネードを放り投げる。先ほどもスタングレネードを使ったけれど、ほんの数秒だけあの化け物の動きが鈍くなった程度だった。足止めとは言えないかもしれないが、使わないよりはマシだろう。
次はスモークグレネードを試してみるかな、と思っているうちに、後方で置き去りにされたスタングレネードが炸裂する。猛烈な閃光が一瞬だけ化け物の巨体を包み込み、爆音がフィルクシーの森の中へと轟いていく。
『こちらハルバード1。こちらはいつでも支援できるぞ』
「了解! …………くそ、あの枝たちが邪魔で信号弾を打ち上げられない!」
全力疾走しつつ頭上を見上げ、枝の太さを確認する。一般的な街路樹の幹と同じくらいの太さの枝ばかりだ。中には他の枝よりも細い枝もあるけれど、その細い枝も普通の樹の枝とは思えないほどの太さである。
5.56mm弾をぶっ放せば千切れるだろうかと思ったけれど、5.56mm弾では表面に穴を穿つのが精一杯だろう。これでもかというほどぶち込めば千切れるかもしれないけど、1本の枝を千切るためにマガジンをいくつか使ってしまう羽目になるかもしれない。
それほどの太さの枝が、頭上にこれでもかというほど連なっているのである。
全部切断する手段はないのだろうか。
「…………んっ?」
切断…………。
シュタージのメンバーたちと一緒に、ヴリシア帝国で情報収集をするために潜入した時の事を思い出す。あの時は吸血鬼たちに潜入したのが気付かれて交戦する羽目になり、ノエルちゃんが敵の吸血鬼を撃破する戦果をあげている。
その際に、彼女は体内に取り込んだ水銀を使って水銀の糸を生成し、それで吸血鬼の肉体を容易く寸断していた。
―――――――もしかしたら、ノエルちゃんの糸ならばあの枝を切り裂けるのではないだろうか。
しかも、彼女は糸の扱いに長けたキングアラクネのキメラ。木をよじ登ったり、糸を使って枝の上を飛び回るのは朝飯前だろう。
銃などの現代兵器ばかりを使ってきた俺には装備している武器を使う事しか選択肢はないが、隣にいる魔物の遺伝子を受け継いだ黒髪の美少女には、受け継いだ遺伝子を有効活用するというキメラならではの選択肢もあるのだ。
「ノエルちゃん、樹は登れる?」
突っ走りながら問いかけると、ノエルちゃんはすぐに首を縦に振った。
タクヤから聞いた話なんだが、ハヤカワ家では壁や木をよじ登る訓練を絶対にやるという。タクヤとラウラは幼少の頃から家の壁をよじ登って屋根に上がることができたらしいし、最終的には工場の煙突に命綱を使わずにあっさりと上れるようになったという。
何も使わずに壁や木を登ることができる身体能力は、市街地や森の中での戦闘で大きなアドバンテージを生み出す。だからこそ彼らの両親たちはそのような訓練をやらせていたのかもしれない。
「ど、どうしたの?」
「頼みがあるんだけどさ」
頭上の樹の枝を指差しながら彼女に言うと、ノエルちゃんは頭上の樹の枝を見上げてから目を見開き、微笑みながら首を縦に振る。
俺が考えた作戦を、理解してくれたのだ。
まず、俺があの化け物を何とかして足止めする。あれだけ大きければかなりの体重だろうから、戦車を撃破するほどの破壊力を秘めた対戦車地雷も有効な武器になるだろう。さすがに真っ向から戦えばあの触手で木っ端微塵にされるか、口の中に放り込まれて消化されるのが関の山だけど、何とか時間を稼ぐ事ができればいい。
その隙にノエルちゃんは樹を上り、体内で生成した糸で頭上の枝を片っ端から切断。邪魔な枝を切り裂き、パイロットたちが空爆する地点を確認できる状況を作り出してもらう事ができれば、後は信号弾を打ち上げ、味方に攻撃する目標を教える事ができる。
ちらりと後ろを振り向きつつ、化け物との距離を確認する。どうやらさっきのスタングレネードはすぐ近くで炸裂してくれたらしく、あの化け物との距離は予想以上に開いていた。端末を取り出して対戦車用の兵器を装備し、足止めの準備を整える余裕はあるだろう。
「足止めは任せて」
「ブービ君…………」
端末を使って対戦車地雷とRPG-7を装備しつつそう言うと、ノエルちゃんは心配そうな顔をしながらポーチへと手を伸ばした。革のホルダーに入っている試験管にも似たガラスの容器を3本取り出した彼女は、それを俺のポーチの中にそっと入れると、華奢な手で俺の手をぎゅっと握りながら告げる。
「無理しちゃダメだよ?」
「大丈夫。俺はタクヤと違って無茶はしないさ」
無茶をして仲間に心配をかけるわけにはいかない。
彼女の手をぎゅっと握ると、ノエルちゃんは微笑んでから真っ白な手を離し、右手を頭上へと振り上げた。
華奢な手が、まるで蜘蛛のような外殻に段々と覆われていく。爪や皮膚まで外殻に覆われた鋭利な指先から銀色の糸が勢い良く飛び出したかと思うと、まるで白銀の針のようにすぐ近くの樹の幹に突き刺さる。
ステアーAUGを背中に背負ったノエルちゃんは、そのまま幹の表面を踏みつけながら糸を急激に縮めると、まるで壁の表面を全力疾走しているかのような凄まじい速度で、巨大な樹の幹を上り始めた。
さて、俺は時間稼ぎだな。
対戦車地雷を2つほど重ね、地面に埋めておく。すぐ近くの草むらに飛び込んでRPG-7の対戦車榴弾の準備をしつつ、俺は端末を操作してもう1つ得物を準備する事にした。
正確に言うと、こいつは対戦車用の兵器ではないんだがな。
画面をタッチしてその武器を装備すると、何の前触れもなく傍らに長い銃身とマズルブレーキを装着した、やけにでっかいライフルが姿を現した。スコープが搭載されているから狙撃用の得物だという事は一目で分かるが、そのライフルのサイズは従来のスナイパーライフルよりもでかい。
今しがた装備したライフルは、アメリカ製アンチマテリアルライフルの『バレットM82A3』。アメリカ軍で正式採用されている強烈なアンチマテリアルライフルで、ブローニングM2重機関銃が使用する12.7mm弾を使用する。従来のスナイパーライフルよりも射程距離が長い上に、セミオートマチック式なので、強烈な弾丸を次々に標的へと叩き込むことが可能というわけだ。
標的の防御力は非常に高く、5.56mm弾では歯が立たないのは明らかだ。だが、人体を容易く木っ端微塵にしてしまうこいつならば通用はするだろう。
少なくとも、あの触手を引き千切ることはできる筈だ。
バイポッドを展開し、スコープの蓋を開けて狙撃する準備をする。もう既にタンプル搭で調整は済ませてあるから、このまま狙撃しても問題ない筈だ。
息を呑みつつ、一旦ライフルから手を離す。針金で2つに束ねた対戦車地雷たちを運びつつ、化け物の様子を窺う。
巨大な樹で作った蛸みたいな化け物は、さっきのスタングレネードで俺たちを見失ったらしい。
このまま逃げた方がいいのではないかと思ったけど、あの化け物は出血した冒険者たちを全員食った後に俺たちを追いかけてきた。ということは、ここで攻撃を中断して逃げてもまた見つかって追いつかれる可能性があるという事である。
どうやってこっちを探知したのかは分からないが、ここで倒しておいた方がいいかもしれない。
スコップで小さな穴を掘り、その中に地雷を仕掛けておく。もし標的が地雷を踏まなくても意図的に起爆できるように、一緒にC4爆弾も埋めておこう。こうすれば地雷を踏まなかったとしてもC4の起爆スイッチを押すことで、この可愛らしいC4爆弾たちは素敵な起爆スイッチと化す。
ニヤニヤしながら地雷とC4爆弾を埋め、スコップを折り畳んでホルダーへとぶち込む。再び先ほどの草むらの中へと飛び込んでバレットM82A3のグリップを握り、スコープを覗き込んだ。
傍らにC4爆弾の起爆スイッチを準備しつつ、レティクルを化け物の後頭部に合わせる。
トリガーに指を近づけながら呼吸を整え―――――――俺は、ライフルのトリガーを引いた。