異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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信号弾と焼け野原

 

 キングアラクネは、凶悪なドラゴンを切り裂いて捕食してしまう恐ろしい魔物と言われている。他のアラクネとは違って凄まじい切れ味の糸を体内で生成し、その糸を使ってあらゆるものを寸断してしまうから、この魔物を討伐するのはかなり難しい。

 

 その糸は分厚い外殻や頑丈な鎧だけでなく、高圧の魔力で形成した防壁ですら切り裂いてしまうから、実質的にあらゆる”防御”が機能しなくなる。

 

 パパが右腕を失ってしまったのは悲しい事だけど、私はパパが義手を移植してくれたおかげで、その恐ろしい糸を生成して操る能力を手に入れた。

 

 指先から伸ばした糸を樹の枝に向けて振り下ろし、枝を次々に寸断していく。この糸を目にした時は、すぐに切れてしまいそうな細い糸で物体を切断することなんて本当にできるんだろうか、と思っていたんだけど、その華奢な糸たちは容赦なく枝の表面に食い込むと、普通の樹の幹に匹敵する太さの枝を容易く切断してしまう。

 

 降り注いでくる切断された枝の残骸たちを躱しつつ、左手を突き出して指先から糸を出す。枝を切断するのではなく、次の足場になりそうな枝の上に飛び移るために糸を放出した私は、その糸が枝に絡みついたのを確認してから思い切りジャンプした。

 

 切れ味の鋭い糸だけでなく、普通の柔らかい糸も生成する事ができるの。

 

 左手に力を込めて糸の生成を維持したまま、次の枝の上に無事に着地。右手から出した糸をさらに伸ばして拡散させていき、その糸たちが十分に伸びるのを待ち続ける。

 

 すると、巨大な樹の下の方から銃声が聞こえてきた。分厚い樹の枝が十重二十重に頭上を覆っているせいで薄暗い森の中で、銃声と共に猛烈なマズルフラッシュが煌いた。

 

「ブービ君…………」

 

 彼が戦いを始めた事を察しつつ、右手を振るって糸たちを振り下ろす。迷彩模様にも似た複雑な模様で彩られた外殻から伸びた糸たちが、うっすらと白銀の光を発しながら太い枝たちを切り刻んでいく。

 

 次々に落下していく巨大な枝たち。枝とは言っても、普通の樹の幹に匹敵するくらいの太さの枝たちだから、こんな太さの枝が直撃したら人間の骨は容易く砕けてしまうかもしれない。

 

 ブービ君に当たらないだろうかと思って下を見下ろしかけたその時、ズドン、という強烈な銃声が、俺に構うなと言わんばかりに響き渡った。

 

 できるならば巨大な怪物とたった1人で戦わなければならない彼に加勢したい。けれども私たちの持っている武器で勝てる可能性は低いし、もし戦闘中に改修したフィルクシーの涙を失う羽目になってしまったら元も子もない。またこんな化け物が徘徊している危険な森の奥へと戻り、広大な森の中でこの蒼い幻想的な薬草を探し回らなければならないのだから。

 

 独断で台無しにするわけにはいかない。

 

 ブービ君の事を信じながら、糸を伸ばした状態で、目の前の空間を右手の指で引き千切ろうとしているかのように腕を振り上げる。まるでその手の動きを再現しようとしているかのように伸びた糸たちが遅れて動き始め、頭上の枝たちへと喰らい付いていった。

 

 どれだけ切り刻めば穴が開くのだろうか、と思ったけれど、まるで枝の群れを下へと押し出そうとしているかのように落下していく枝の後ろから日光が顔を出した瞬間、心の中で産声を上げようとしていた焦燥が消え失せた。

 

「よし…………!」

 

 もう少し…………!

 

 森を覆っていた分厚い枝の群れの真っ只中に開いた穴から、上空で待機している航空機のエンジンの音が入り込んでくる。枝に阻まれていたその轟音は巨大な樹の幹で反響して複雑な轟音に変貌すると、あの怪物よりも恐ろしい怪物の咆哮のような音へ生まれ変わっていく。

 

 その轟音を聞きながら、私は糸を枝の群れへと振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃声が残響へと変貌し、小さくなっていくその音に終止符を打つかのように、エジェクション・ポートから排出された空の薬莢が金属音を奏でる。

 

 基本的に忙しくなる近距離戦や白兵戦では耳にする事ができない、狙撃の銃声。

 

 いつもだったら、その銃声と金属音の旋律を耳にしながらスコープから目を離し、ライフルを肩に担いだまま戦場から離れている事だろう。基本的にシュタージの任務は敵の拠点などに潜入しての情報収集だけど、俺はシュタージのメンバーの中では狙撃が得意だからなのか、ノエルちゃんほどじゃないけど暗殺に派遣されることも多い。

 

 けれども今回は、いつも引き受けてる任務のようにスコープから目を離すことは許されない。

 

 レティクルの向こう側にいる敵は―――――――12.7mm弾に撃たれた程度で力尽きる相手ではないのだから。

 

 命中した部位の外殻が吹っ飛び、レティクルの向こうで黄緑色の飛沫が飛び散る。けれども大口径の弾丸が穿った穴はそれほど大きくはないらしく、化け物は唸り声を発しながらゆっくりとこっちを振り向いた。

 

 人間だったら木っ端微塵になっているんだが、相手は人間よりもはるかに巨大な化け物である。こっちの世界にはあのような怪物が当たり前のように生息しているのだから、あのような怪物と戦う羽目になってもぶち殺せるように大口径の弾丸を使う銃を用意しておくのは正解かもしれない。

 

 かつてモリガンの傭兵たちが、大口径のライフルを好んだ理由を理解しつつ、狙撃している俺に気付いた化け物に2発目の12.7mm弾をプレゼントする。ドンッ、とマズルブレーキからでっかい弾丸が一瞬で飛び出し、人間の肉体を容易く粉砕できる運動エネルギーを纏いながら、胴体から生えている触手の付け根を直撃する。

 

 重機関銃の弾薬にも使われている12.7mm弾に喰らい付かれた触手が急に大きく揺れたかと思うと、後ろの方から黄緑色の体液が噴き出し、ぶちん、と太い触手が千切れ飛ぶ。

 

 1本の触手を捥ぎ取ったとはいえ、胴体から無数に生えている触手の内の1本を奪っただけだ。ダメージは小さいに違いない。

 

 けれどもこれは足止めだ。討伐する必要はない。

 

 相手の戦闘力を削ぎ落としつつ、注意を引かなければ。

 

 続けて照準を別の触手の付け根に合わせ、トリガーを引く。今度は揺れていたせいで狙いがずれてしまったらしく、弾丸は触手を半分ほど食い千切ってから後ろへと貫通していくと、巨大な樹の幹に小さな風穴を穿った。

 

 もう1発ぶっ放そうかなと思いつつ、照準を下へと向ける。胴体の下から伸びている触手を狙うわけではない。先ほど地面の中に埋めた地雷の位置をチェックするためだ。

 

 足を狙うのも有効かもしれないけれど、あいつの足から伸びている触手は胴体の両脇から伸びている触手とは違って、樹の根のような形状をしている。おそらく防御力も胴体と変わらないだろうから、あそこを撃っても効果は薄い筈だ。

 

 だから代わりに、対戦車地雷とC4爆弾を使うのである。

 

 対戦車地雷は2つずつ埋めてあるし、もし地雷を踏まなくても意図的に起爆させられるように、起爆スイッチ代わりにC4爆弾も一緒に埋めてある。左手を伸ばしてC4爆弾の起爆スイッチを握り、スコープを覗き込んで起爆する準備をする。いくらでっかい怪物でも、最新型の戦車ですら吹っ飛ばすほどの破壊力を秘めた対戦車地雷を踏めばひとたまりもないだろう。

 

 足は捥ぎ取れるかもしれないなと思っていると―――――――俺を喰うために接近してきた化け物が、地雷を生めておいた地点の地面を思い切り踏みつけた。

 

 その直後、何の変哲もない地面が爆炎を吐き出した。土や生えていた植物たちを抉り取りながら突き出た爆炎が、高熱と衝撃波で怪物の足を何本も容易く引き千切り、胴体に穴を穿つ。

 

『ピギィッ!?』

 

「バーカ」

 

 いきなり地面が爆発した挙句、その爆発で身体を抉られた事に驚いたらしく、植物で作られた蛸みたいな化け物が体液を撒き散らしながらよろめく。そのまま倒れれば他の地雷も起爆することになっていたんだけど、大きなダメージを受けて怒り狂ったのか、化け物が咆哮を響かせながら強引に体勢を立て直し、まだ触手が届かないにもかかわらずこっちに触手を伸ばしてくる。

 

 大人しく倒れてろよ、と悪態をつきながら、俺は容赦なくC4爆弾の起爆スイッチを押した。

 

 立て続けに大地が弾け飛び、巨大な爆炎が産声を上げる。2個の対戦車地雷と1個のC4爆弾が生み出した爆炎は容赦なく化け物の巨躯を貫き、胴体から伸びる触手を容赦なく千切っていく。

 

 起爆スイッチをポケットの中へと戻し、傍らのでっかい樹の根に立てかけておいたRPG-7へと手を伸ばす。化け物は今の爆発で何本も足を千切られたらしく、まるで水中で溺れているかのように手足―――――――正確に言うと無数の触手だ―――――――を振り回しながら、必死に起き上がろうとしている。

 

 その隙にRPG-7の対戦車榴弾の発射準備を終えたが―――――――多分、こいつの出番はないだろう。

 

 ぼとん、と少し離れたところに落ちてきたやけにでっかい樹の枝が、もう時間稼ぎは十分だという事を教えてくれた。

 

 安心しながら頭上を見上げ、枝で覆われていた筈の頭上に姿を現した穴を見上げる。薄暗い森の中へと流れ込んでくる太陽の光。ノエルちゃんが穿った穴の向こうから聞こえてくるのは、強力な兵器を搭載した航空機たちの飛翔する轟音だった。

 

「お疲れ様」

 

 樹の枝にぶら下がりながら手を振るノエルちゃんに向かって微笑みながら、左手をカンプピストルの収まっているホルスターへと手を伸ばす。まるで古めかしいリボルバーからシリンダーを取り外してシンプルにしたような形状の銃を引き抜いた俺は、それを化け物ではなく、ノエルちゃんが明けてくれた頭上の穴へと向ける。

 

 青空へと照準を合わせてから、トリガーを引いた。

 

 装填されていた信号弾が銃口から躍り出て、巨大な樹の幹が乱立する森を置き去りにする。植物に埋め尽くされた大地から飛び出し、そのまま天空へと舞い上がった信号弾は、青空の真っ只中で真っ赤な光を撒き散らす。

 

 航空機が放つ熾烈な攻撃を導くための光が、森の上空で煌く。

 

 その光は、「この真下を火の海にしろ」という合図だ。

 

『―――――――信号弾確認。これより航空支援を開始する。直ちに退避せよ』

 

「了解。―――――――ノエルちゃん」

 

 ついに、3機のSu-34FNがあの化け物に襲い掛かる。

 

 樹の上から俺のすぐ隣へと降り立ったノエルちゃんと共に、信号弾の真下から離れつつ、地雷に足を何本も食い千切られてもがき続ける化け物の方を振り向く。やっぱり対戦車地雷と一緒にC4爆弾も入れておいたのは正解らしく、呻き声を上げながら触手を振り回して近くの樹の幹を打ち据えているところだった。

 

 口を開く度に消化液が漏れ出し、まだ消化されていなかった冒険者たちの装備品の一部が地面に零れ落ちていく。

 

 これであいつの餌食になった連中も報われるだろうか、と思っているうちに、無線機の向こうから『爆弾投下!』という声が聞こえてきた。ウリヤノフスク級から飛び立った3機のSu-34FNが、ついに主翼に搭載していた爆弾を森のど真ん中にぶちまけるのである。

 

 やがて、段々と消えていく信号弾のすぐ脇を掠めた爆弾の群れが、ノエルちゃんの穿った穴を通過して化け物の巨体の上に降り注いだ。中には強引に頭上の枝の群れを突き破ってから化け物の上に落下してきた爆弾もあった。

 

 起爆した爆弾たちが生み出した爆炎が、もがいていた化け物を包み込む。産声を上げた爆炎の激流は化け物の巨体もろとも地面を抉り取ると、衝撃波で木っ端微塵にし、粉々になった化け物の肉片を焼き尽くしていった。

 

 瞬く間に黒煙が生まれ、爆弾が降り注いだ地点を覆い尽くす。黒煙の中ではまだうっすらと赤い光が煌いていて、随分と小さくなった爆炎の残滓がまだ生き残っている事を告げている。けれどもその爆炎の激流に呑み込まれる羽目になった化け物は、もう死んでしまったことだろう。

 

「…………行こう。他の魔物が集まってきたら面倒なことになる」

 

「うん」

 

 今の爆音で他の魔物を刺激してしまった可能性がある。もしまたでっかい化け物が襲い掛かってきたら、またノエルちゃんに穴を開けてもらって航空支援をしなければならない。

 

 気色悪い怪物たちと戦うのはもうごめんだ。

 

 RPG-7を肩に担いだまま、俺はノエルちゃんと共に森の外を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兵隊さん、本当にありがとうございました」

 

 幼いエルフの少女と手を繋いだまま、テンプル騎士団の狙撃兵の制服に身を包んだエルフの女性は愛娘と一緒にぺこりと頭を下げる。

 

 その女性と手を繋いでいるエルフの女の子がクライアントだったわけなんだが、病気になっていた母親もテンプル騎士団の兵士だったのは予想外だ。しかも身に着けているのはフードのついたシンプルなデザインの制服で、左肩には狙撃手部隊のエンブレムが描かれているのが見える。

 

 この人もラウラの教え子なのだろうか。明らかに教官よりも年上だから”教え子”と言うのは違和感を感じてしまうけど。

 

 病室に持ち込んでいたモシンナガンを背負った女性は、母親を救うために依頼してくれた娘と手を繋いだまま敬礼をすると、腰のポーチの中から革で作った袋を取り出す。揺れる度に中から金属音がするから、多分中身は銀貨だろう。金貨はあまりにも高額すぎるからな。

 

 女性は袋を差し出してきたけど、俺は首を横に振った。

 

「大切な同志の命を守るのは、兵士の義務です」

 

「ですが…………あんなに危険な任務だったのですから、無償というわけにはいかないでしょう」

 

「気にしないでください。それより、そのお金は娘さんを育てるために使ってあげてください。では」

 

 そう言って断ったノエルちゃんと一緒に敬礼し、踵を返して通路を歩き始める。

 

 はっきり言うと、今回の依頼で報酬を受け取らないのはかなり痛手になる。けれどもあの女性の兵士は、これから兵士として戦場で戦いながら大切な娘を育てていかなければならない。だから甘いかもしれないけれど、あの報酬は子育てのために使うべきだ。

 

 それに今回の分の報酬なら、後でダンジョンの調査や別の依頼を引き受ければ何とかなるだろう。今回の一件が痛手になることに変わりはないけれど。

 

「待ってください」

 

「?」

 

 エレベーターに乗ろうとしたその時、後ろの方から女性が走ってくる足音と、先ほど報酬を渡そうとしていた女性の声が聞こえてきた。

 

 無視してエレベーターに乗るわけはいかない。ノエルちゃんと一緒に後ろを振り向くと、モシンナガンを背負ったクライアントの母親が、愛娘を見守る優しい目つきではなく戦場で敵兵を狙う時のような鋭い目つきで立っていた。

 

 報酬を受け取らなかったのは拙かったかと思っていると、女性が凛とした声で言う。

 

「第2狙撃大隊所属の”アリス・ボチカリョーワ”大尉であります。狙撃による支援が必要ならばいつでも要請を。ダンジョンの最深部や別の大陸でも、すぐに駆けつけて支援いたします」

 

 アリス・ボチカリョーワ大尉…………?

 

 確か、ラウラの教え子の中でも優秀な狙撃兵だった筈だ。新しい狙撃兵の中では最年長で、他の若い狙撃兵たちと比べると非常に慎重な女性だという。狙撃の技術は他の兵士と変わらなかったらしいけど、ラウラから受けた訓練でどんどん彼女の技術を身につけていったらしく、陸軍や海兵隊では”第二のラウラ”と言われているらしい。

 

 こっちに敬礼をしている彼女に、俺たちも敬礼する。

 

 ボチカリョーワ大尉は敬礼を止めると、先ほど愛娘と一緒に浮かべていた優しそうな笑みを浮かべ、踵を返して娘の所へと戻っていった。

 

「す、すごい人だったんだね…………」

 

「ああ…………」

 

 ちなみに、ボチカリョーワ大尉は現時点で転生者を6人ほど狙撃で仕留めているという。戦闘機のパイロットだったらもうエースパイロットの仲間入りというわけだ。しかも得物は背中に背負っているモシンナガンだという。

 

 愛娘の所へと戻った彼女が、大喜びしている娘と一緒に居住区へと戻っていくのを見守ってから、俺たちもエレベーターに乗る。そのまま自室がある階までエレベーターで移動し、すれ違った兵士たちに敬礼をしながら自室を目指す。

 

 俺とノエルちゃんは同じ部屋なので、帰る部屋は同じである。

 

 自分たちの名前と部屋の番号が書かれたプレートが取り付けてあるドアの鍵を開け、中へと入る。前世の世界のホテルみたいな部屋に戻ってきた俺は、背負っていたステアー・スカウトを部屋の壁に立てかけると、リビングにある椅子の上に座ってからラジオへと手を伸ばした。

 

 明日は休日だった筈だから、ゆっくり休むことにしよう…………。

 

「ブービ君、お疲れ様」

 

「ノエルちゃんこそお疲れ様。身体は大丈夫?」

 

「うん、私の身体はとっても頑丈なの♪」

 

 そう言いながら耳をぴくぴくと動かすノエルちゃん。ティーカップへと手を伸ばそうとした彼女は、何の前触れもなくぴたりと手を止めてから、どういうわけか自分の胸を見下ろした。

 

 何があったんだろうかと思って見守っていたんだが、ノエルちゃんの顔が赤くなっていったのを見た俺は、彼女がどうして動きを止めたのかを察した。

 

 ―――――――”身体”は大丈夫かと問いかけたせいで、胸を触られたことを思い出してしまったらしい。

 

「…………ね、ねえ、ブービ君って大きい方が好きなの?」

 

「は、はいっ? …………え、ええと、俺は小さいのも大好きですよ?」

 

 正直に言うと、これは本音である。

 

 巨乳も好きだけどね。

 

「そ、そうなんだ……………♪」

 

「ノエルちゃん?」

 

 隣に座り、俺の手をぎゅっと握るノエルちゃん。先ほどまで恥ずかしそうに顔を赤くしていた彼女は、嬉しそうに微笑みながらこっちに寄りかかってくる。

 

 甘えたがっているのだろうか。

 

 飼い主に甘えようとする猫のように甘えてくる彼女を受け入れつつ、優しく彼女の頭を撫でる。満足してくれたのか、人間よりも長い耳をぴくぴくと動かし始めた彼女はそっと顔を離す。

 

 もう甘えるのは終わりなのかなと思ったんだけど―――――――ノエルちゃんは少しだけ恥ずかしそうな顔をしてから、こっちを見つめた。

 

「……………ブービ君、今回は助けてくれてありがとね」

 

「えっ? ああ、当たり前だよ」

 

 大事な仲間だからね、ノエルちゃんは。

 

「ふふっ。カッコ良かったよ♪」

 

「…………そ、そうかな」

 

「うんっ。だから………………私ね、ブービ君に惚れちゃった」

 

 ………………ちょっと待って。

 

 ほ、惚れたってどういうことですか? 

 

 ノエルちゃんの瞳を見つめながら、どういうことなのか考え始める。けれどもかなり狼狽してしまっているせいなのか、全然答えは出ない。

 

 つまり、俺にも彼女ができたという事なのだろうか。

 

 前世の世界ではドイツからやって来たクランと付き合い始めたケーターの話を聞きながら羨ましがるだけだったけど、ついに俺にもケーターたちの仲間入りという事か。

 

 深呼吸してから、俺も答える。

 

「お、おっ、俺も……………好きだよ、ノエルちゃんの事」

 

「…………っ!」

 

 傍らで告白してくれたノエルちゃんの顔が、更に赤くなっていく。多分森の中で胸を触ってしまった時や、さっき胸を触られたことを思い出していた時よりも赤いのではないだろうか。

 

 の、ノエルちゃん、大丈夫…………?

 

 目を逸らしてから頭を振り、深呼吸するノエルちゃん。慌ててる彼女も可愛いなと思っているうちに、彼女は手をぎゅっと握りながら、顔をそっと近づけてきた。

 

 俺まで慌てそうになってしまったけれど、拒むわけにはいかない。

 

 というわけで、俺は彼女の唇を奪った。

 

 今まで彼女がいたことがないから当たり前だけど、ファーストキスだった。

 

 

 

 

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