異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「例の通達、見た?」
前世の世界では7歳も年下だった弟が、エミリアが焼いてくれたミートパイを口へと運びながら尋ねる。新聞に載っていた演劇の広告を見ながら皿へと手を伸ばしていた俺は、休日の前日にあんなメールを送られてうんざりした事を思い出して溜息をついてから、妻が作ってくれたミートパイを手に取った。
多分、昨日の夜のメールを目にした転生者は目を丸くしたことだろう。
―――――――たった1人の転生者を消すだけで、レベルが上限の9999まで無条件でレベルアップするのだから。更にポイントを消費せずに武器や能力を作ることが可能な”フリーパス”まで手に入れる事ができるのである。
力を悪用し、この世界を支配しようとしているような大馬鹿野郎共は確実にタクヤを狙うだろう。
ミートパイを齧りながら首を縦に振る。このパイに入っているのはミノタウロスの肉かな、と思いつつミートパイを咀嚼し、新聞を折り畳んでからテーブルの上に置いた。
「―――――――下らんな」
「はははっ、兄さんは興味ないのかい?」
「当たり前だ。レベル9999へのレベルアップとフリーパスなんか、もうとっくの昔に手に入れてる」
そう、俺は既にどちらも手にしている。
タクヤのような第二世代型転生者はどうかは分からんが、少なくとも端末を持つ第一世代型転生者のレベルの上限は”9999”だ。この上限に達すると全てのステータスが9の羅列と化し、どれだけ敵を殺してもそれ以上はレベルアップしなくなる。
転生者がポイントを手にする事ができるのは、レベルアップした時のみ。なので上限に達してしまえばポイントを手に入れる手段がなくなってしまう。だからこそポイントを消費せずにあらゆる装備や能力を生産できる”フリーパス”を、上限に達した者への報酬として用意しておいたんだろう。
そしてレベル9999に達すると同時に、『王権拘束(マグナ・カルタ)』というスキルも自動的に装備される。
全てのステータスが9の羅列と化せば、ドラゴンを殴り殺すこともできるほどの力を手にする事ができる。戦闘では非常に役に立つかもしれないが―――――――普段の生活では、まさに無用の長物だ。
スプーンを拾い上げただけでもそれをへし折ってしまうし、防御力のステータスのせいで、躓いて壁に激突すればその壁が木っ端微塵になってしまう。
だから全てのステータスを5分の1にする王権拘束(マグナ・カルタ)は、レベルが上限に達した転生者には必需品なのだ。
レベルは既に上限に達したし、その報酬であるフリーパスも手に入れた。だから今の俺はポイントを使わずにかなりの数の武器や兵器を生産し、数多の兵士たちにしっかりと支給する事ができるのである。モリガン・カンパニーが全盛期のソ連軍を上回るほどの規模に成長する事ができたのも、このフリーパスのおかげと言える。
「それにな…………そんな下らない利益のために”子供”を殺しに行く親がいるわけがないだろう」
「確かに…………。兄さんらしいね」
自分の利益のために、大切な子供を殺しに行くのは論外だ。
俺はタクヤとラウラの本物の父親ではない。一応血は繋がっているけれど、これはあくまでも本物のリキヤから託された情報を元にして再現しているだけだ。
けれども―――――――俺も、子育てを経験した。父親と名乗るのは許されないことかもしれないけれど、エミリアやエリスたちと共にあの子供たちを育ててきたのだ。
あいつらは、大切な家族なのである。いくら輪廻が報酬を用意したと言っても、その報酬を手に入れるために家族を殺しに行くわけがない。
「シンヤは?」
「僕も興味はないね…………フリーパスは魅力的だと思うけど」
そう言いながらティーカップを拾い上げ、口へと運ぶシンヤ。確かにフリーパスは魅力的な報酬だとは思うが、シンヤもそろそろレベルやステータスがカンストする頃だろう。それに彼もタクヤの叔父だ。身内を殺そうとするわけがない。
安心してティーカップへと手を伸ばし、まだ熱いミートパイを後ろに立って話を聞いていたリディアに手渡す。日本刀を腰に下げたまま待機していた彼女はミートパイを受け取ると、それを口に運んで咀嚼し始めた。
相変わらず全く喋らないホムンクルスの女性を見つめていたシンヤは、さっきまで俺が読んでいた新聞を拾い上げながら言った。
「―――――――でも、同盟は破棄するんでしょ?」
「…………ああ、そうだ」
タクヤは殺さない。もし今回の一件で大量の転生者がカルガニスタンへと集結することになれば、モリガン・カンパニーもテンプル騎士団を守るために参戦することになるかもしれない。
父として、俺は全力で子を守るつもりだ。
だが、矛盾するかもしれないが味方ではない。
災禍の紅月まであと一ヵ月。その前にテンプル騎士団から何としても鍵を奪い、タクヤたちがこれ以上天秤に関わる前に、俺は天秤を使って願いを叶える。
最古の竜ガルゴニスを対価に、本物のリキヤを蘇らせるのだ。
あの男は悲しむかもしれないが、あいつが子供たちと一緒に過ごす事ができたのはたった6年間だけ。成長した子供たちの姿を見れば、少しは喜んでくれるだろう。
リキヤ・ハヤカワとして幸せになるべきなのは偽物ではない。幸せになるのは本物の役割なのだ。
「その争奪戦には、
「そうしてくれ。これはあくまでも個人的な願いのためだ」
シンヤは俺が叶えようとしている願いを知らない。というより、何が目的なのかと問いかけてきたことは一度もない。ただ単に興味がないだけなのかもしれないが、モリガンを何度も勝利に導いてきた参謀であるこいつは、もしかしたらもう見透かしているのではないだろうか。
何年もリキヤ・ハヤカワのふりをしてきたことがバレているのかもしれないと思ってぞっとしつつ、ミートパイへと手を伸ばす。
吸血鬼たちがブラドを失って大損害を被った以上、またしても天秤を奪うために攻撃してくる可能性はかなり低いだろう。この争奪戦は、実質的にモリガン・カンパニーとテンプル騎士団の一騎討ちと化している。
この争奪戦には、我々が勝利しなければならない。
「なあ、こんなところに本当にターゲットがいるのかよ」
「静かにしろよ。この辺りにいる筈だ。反応もちゃんとあるんだからな」
転生した時に作った大剣を肩に担ぎながら砂漠のど真ん中で舌打ちをする。念のため水はたっぷりと持ってきたし、食料も多めに持ってきたんだが、そのせいで荷物が非常に重い。そんな状態で灼熱の砂漠をひたすら歩いているせいで、俺はうんざりしていた。
どうしてこの端末が強化してくれるのは攻撃力と防御力とスピードだけなのだろうか。スタミナを強化してくれれば疲れることはなくなるかもしれないのに。
不親切な端末だな、と思いつつ、端末でレベルを確認する。
今の俺のレベルは2040。結構レベルは上げたんだが、”切り裂きジャック”と名乗っているタクヤ・ハヤカワのレベルは4752。俺の倍以上のレベルである。
リンネが送ってくれたデータによると、そいつは主に銃を使う転生者らしい。
銃の事はあまり詳しくないんだが、俺も最初の頃は銃を作って使ってみたことがある。けれども連射してるとすぐに弾切れになってしまうし、種類が大量にあり過ぎたから使うのを止めてしまった。
確かに前世の世界では強力な武器だけど、俺たちの身体能力は強化されているんだし、銃弾を弾きながら強引に突っ込むこともできるだろう。それにこっちには転生者が8人もいるんだから。
タクヤのレベルを超えている奴は1人しかいないが、こっちは8人もいるんだからこっちの方が有利な筈だ。
「それにしても、これのレベルの上限って9999だったんだな」
「ああ。俺は100までだと思ってた」
レベル9999になればどんな力が手に入るんだろうか。凶悪なドラゴンですら一撃で両断できるかな?
圧倒的な力を手に入れた時の事を想像してニヤニヤしていると――――――ぼとん、と、足元に何かが落下してきた。
「ん?」
砂まみれの、湿った変な物体。表面を覆っている皮みたいなものは引き裂かれていて、そこから脳味噌にそっくりなグロテスクな物体が零れ出ている。
その物体の正体に気付くよりも先に、”答え合わせ”が始まってしまった。
俺の右斜め前を進んでいた仲間の転生者が、鮮血や肉片を周囲に撒き散らしながら仰向けに崩れ落ちたのだ。
足元に落下してきたグロテスクな物体が、千切れ飛んだそいつの頭だという事を知った俺は、ぞっとして絶叫してしまう。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「くそ、健太がやられた!」
「なんだ!? 魔術か!?」
いや、魔力の反応は全くしなかった。
転生者の首から上を吹っ飛ばすほどの威力の魔術を放つには、体内の魔力をかなり加圧しなければならない。けれどもそんなことをすれば魔力の反応でこっちも攻撃を察知する事ができる筈だ。魔力を使う以上、その反応を消すには感知されないほど小規模な魔力を使うしかないのである。
反応がなかったという事は―――――――今のは銃撃に違いない。
タクヤ・ハヤカワが、こっちを狙撃しているのだ。
「くそ、タクヤだ! 狙われてる!」
「どうすんだよ!? ここ砂漠だぞ!? 隠れる場所がな―――――――」
飛翔した一発の弾丸が、またしても仲間の転生者の頭を直撃する。仲間の身体が後ろに仰け反ると同時に頭が砕け散って、粉々になった頭蓋骨の破片や脳味噌の一部が砂塵の舞う砂漠の中へと舞い上がる。
敵はどこから狙っているのか。
反射的に地面に伏せつつ、端末を使ってリンネのメールを開く。添付されていたデータでタクヤの位置を確認した俺は、標的がどこから狙っているのかを知って驚愕してしまう。
タクヤ・ハヤカワがいるのは、なんと2.2kmも先なのである。そんな超遠距離からこっちを探知し、2人の転生者を正確に狙撃したとでも言うのか。
俺たちの標的は、そんな化け物なのだ。
「おい、ビビってる場合か! 距離を詰めないと勝てないぞ!」
「銃を使える奴はいるか!?」
「俺の専門は接近戦なんだよぉ!」
突撃すれば殺される。敵はこっちを一撃で殺せる武器を装備し、砂漠の向こうでスコープを覗き込みながら待ち受けているのだから。
仲間たちは全員地面に伏せたまま、息を呑みつつ端末を確認している。タクヤの位置を調べているのだろうか。それとも、あの狙撃手を何とかするための能力や武器でも探しているのだろうか。
威嚇するつもりなのか、一発の弾丸が仲間の頭上を掠める。それに気付いた仲間はびくりとすると、叫びながら立ち上がり、タクヤが隠れている方向とは全く違う方向へと走り出す。
「お、おい、どこに行くんだ!?」
「もう嫌だ! レベルアップなんかどうでもいい! 死にたくないんだ!!」
俺たちは、鍛え上げられた兵士じゃない。
2年前までは友達と一緒に学校に通い、勉強していた高校生でしかないのだ。少しは異世界での生活に慣れたとはいえ、何百人も転生者を消している奴と殺し合いをできるわけがない。
あいつは殺し合いをする恐怖に耐えられなくなったのだ。
仲間たちが逃げ出した馬鹿を咎めるが―――――――そいつがちらりとこっちを振り向こうとした次の瞬間、パンッ、とそいつの足元から爆発したような音が聞こえてかと思うと、小さな金属の塊が灰色の砂の中からいきなり飛び出した。
ぎょっとした仲間がそっちを振り向くよりも先に、その金属の塊が爆発する。
その爆風と破片を至近距離で叩き込まれた仲間の身体がズタズタになり、崩れ落ちていく。
「な、何だ今の!? 地雷なのか!?」
地雷が埋めてあった…………!?
ぞっとして、反射的に自分の足元を確認する。
もしかしたら、地雷を踏んであいつと同じようにズタズタにされてしまうかもしれないと思いつつ、銃弾が飛んできた方向を睨みつけた。
あいつはこの砂漠で待ち構えていたのだ。
砂漠に地雷を仕掛けて、待ち伏せしていたのである。
こっちの仲間はもう3人もやられているし、あいつに反撃できる能力や武器を持っている奴もいない。銃を使えばいいんじゃないかと思うけど、この中で銃に詳しい仲間はいない。銃は剣や特殊な能力とは違ってちゃんと使い方を把握してから使わなければ役に立たないので、転生者の中で銃を好んで使っているのはミリオタくらいだろう。
どうすれば反撃できるのだろうか。あいつの討伐を諦めて撤退した方がいいのではないだろうか。
そう思って後ろに下がろうとしたその時、何かが降ってくるような音が聞こえた。
「?」
ぞくりとしながら、砂塵の舞う空を見上げる。
その砂塵の幕を突き破って落下してきたのは―――――――砲弾だった。
迫撃砲が着弾したのを確認してから、風上から漂ってくる血の臭いの中にクソ野郎共の臭いが混じっていないか確認する。猛烈な血の臭いばかりだという事を確認してから、傍らに置いてある潜望鏡を拾い上げて立ち上がる。
輪廻から例のメールが送られてきてから、俺はタンプル搭を離れた。俺の居場所まであのデータで表示されてしまうため、タンプル搭の中に引きこもっていれば大切な仲間たちを危険に晒してしまう恐れがあるからである。
もちろん円卓の騎士たちには猛反対されたが、無理だと判断したらいつでも支援要請をする事と、すぐ仲間が救援に来れるようにテンプル騎士団の勢力圏内に潜伏するという条件を出して何とか認めてもらう事ができた。
というわけで俺は、タンプル搭から持ってきたスコップと余った木材を使って、砂漠の真っ只中に小ぢんまりとした塹壕を作り、その中に潜伏していた。砂嵐から身を守れるようにちょっと深めの穴も用意してあるし、中には予備の武器の弾薬、食料、寝袋も用意してある。
分隊の兵士たちが全員ここで生活できそうな広さの塹壕にいるのは、俺だけだ。
一般的な双眼鏡を、まるで上へと伸ばしてしまったかのような形状の潜望鏡を覗き込み、塹壕の外の様子を確認する。ついさっき塹壕の中で用意した迫撃砲による砲撃で転生者の連中は壊滅してしまったらしく、これ以上進軍してくる様子はないらしい。
風向きにもよるけれど、この嗅覚で転生者の襲撃や味方の増援は探知できるし、塹壕の周囲にはドイツ製の地雷である”Sマイン”もびっしりと埋めてある。どこに埋めたかはちゃんと地図に書いてあるし、それと同じものをシュタージにも預けてあるから、増援部隊がそれに引っかかることはない筈だ。
迫撃砲の砲弾の残りをチェックしてから、先ほど狙撃に使っていた愛用のOSV-96を折り畳んで背中に背負い、塹壕の中にある深い穴の中へと戻る。ここなら砂の混じった風や砂嵐もしのげるし、木材を使って天井も用意してあるから直射日光も当たらない。もし現代兵器に詳しいミリオタの転生者が砲撃とか空爆を始めればひとたまりもないが、さっきみたいな連中が相手ならこれで十分だろう。
OSV-96を傍らに置いてから寝袋の上に横になり、タンプル搭から持ってきた『異世界で魔術師が禁術を使うとこうなる』の最新刊を開く。
ここにいるのは俺だけだ。―――――――つまり、ラウラたちもいない。
彼女たちは寂しがっていないだろうか。
タンプル搭の部屋にあるベッドで1人で眠るラウラの姿を想像した俺は、ラノベを読むのを止めてOSV-96へと手を伸ばし、整備を始める。
やっぱり、大口径の弾丸は転生者にも有効だ。12.7mm弾から更に大口径の14.5mm弾に変更してあるから、こいつの破壊力は更に獰猛になっている。更に徹甲弾や強装弾も用意してあるから、特殊な能力で防がれても対処することはできる。
無線機もちゃんと用意してあるから支援も要請できるし、いざという時のために信号弾を装填したカンプピストルも持ってきた。ここから迅速に脱出する時のために、バイクも用意してある。
メインアームはOSV-96とAK-15。サイドアームは内ポケットに隠しているPSMと、ロングマガジン、折り畳み式ストック、フォアグリップを装着してフルオート射撃が可能となった”強襲殲滅兵仕様”のPL-14。更に塹壕の中には迫撃砲や重機関銃もあるし、白兵戦のためにナイフだけでなくスコップや棘のついた棍棒も用意してきた。
しばらくはここで生活することになるだろうな。
ラウラやナタリアたちと会えないのは寂しいけれど、仲間を危険に晒すよりはマシだ。
今夜はラジオ・タンプルがある事を思い出した俺は、ラジオも持って来てよかったと思いつつ、ちょっとだけ休む事にした。