異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
夢に、親父が出てきた。
もちろん前世のクソ親父ではなく、こっちの世界で出会った方の親父だ。
その夢の中で、親父は禍々しい深紅の空の下で仰臥しながら、心配そうにこっちを見ていた。多分その夢に出てきた親父は、ガルゴニスではなく本物の親父だと思う。
この世界を救うために、あらゆるパラレルワールドから転生させられるリキヤのうちの1人。99人目のリキヤとなった親父は、12年前のある日にこっそりと家からいなくなり、世界を救うためにレリエル・クロフォードと相討ちになって逝った。
彼の最期を看取ってくれたのは、ガルゴニスだけだったのだろう。
だから俺は分からない。
彼はどのように戦ったのか。
どんな未練を残していったのか。
予想することはできるけれど、その答えを知っている男はもうこの世にはいないのだから、どれだけ可能性の高い仮説を立てることはできても答えには至らない。
けれども、親父は多分心配だったのだろう。
まだ未熟な子供たちを遺してしまうことが。
かつて世界を救うために血まみれになりながら戦ったモリガンの傭兵たちのように、仲間を集めて世界中で戦っている俺たちを見たら、彼は安堵してくれるだろうか。
そう思いながら仰臥している親父を見つめるけれど、彼は心配そうな表情のままだった。
レティクルの向こうに見えていた転生者の頭が、銃声が轟くと同時に弾け飛んだ。かつては対戦車ライフルの弾薬としても使われていた14.5mm弾が強烈な運動エネルギーで容赦なく頭蓋骨を叩き割り、脳味噌を撒き散らしてしまう。
肉片と一緒に飛び散った眼球が砂漠の上に落ちたのを見てから、照準を別の方向へと向ける。つい先ほど腰から下を吹っ飛ばされた哀れな転生者はまだ生きているのだろうかと思いつつ彼に照準を向けるけれど、腰から下を食い千切られ、砂漠の一角を真っ赤に染めて仰臥している。
もう既に絶命してしまったのだろう。
止めを刺す必要はないな、と思いつつ、スコープから目を離す。尻尾を使ってライフルを折り畳みつつ潜望鏡を取り出し、暗くなり始めた周囲を見渡しつつ嗅覚で索敵を始めた。
漂ってくるのは血の臭いのみ。生き残っている敵はいないらしい。
息を吐きながら折り畳んだライフルを肩に担いだ俺は、肩を回しながら穴の中へと戻っていく。木材で補強された天井にぶら下げてあるランタンに自分の蒼い炎を使って明かりをつけ、タンプル搭から持ってきた不要な木材で作った椅子に腰を下ろした。
砂漠の真っ只中に掘られた深い穴は、壁や天井が木材で補強されている上にその隙間から覗く砂が灰色に染まっているせいなのか、砂漠の中に作った塹壕の中というよりは炭鉱の中みたいだ。その炭鉱の中にずらりと並んでいるのは、予備の武器や弾薬の入った箱の群れ。その武器たちのせいで、炭鉱の中を思わせる穴の中がレジスタンスたちの拠点みたいになっている。
食料の入っている木箱の中からライ麦パンを取り出し、一緒に入っていたナイフで切ってから口へと運ぶ。もちろんパンを切るのに使ったのはタンプル搭から持ってきた別のナイフだ。敵を切り刻んだナイフで食事をするわけにはいかない。
ライ麦パンを咀嚼しながらレーションへと手を伸ばし、側へと置いてからラジオをつけた。
『では、次は”こんな奴は粛清だ!”のコーナーです!』
ラジオから聞こえてくるクランとナタリアの声を聞きながら、レーションの缶を開ける。缶の中に入っているのは幼少の頃から何度も食べたウナギゼリーだ。
彼女たちの所へと送られたハガキを読む声を聞きながらフォークでウナギの切り身を串刺しにし、口へと放り込んでから咀嚼する。ナイフで切ったライ麦パンに缶に入っているマーマイトを塗りながら、天井にぶら下がっているランタンを見上げた。
この塹壕で生活を始めてから、もう一週間も経過する。
輪廻があのメールを転生者共に送信したせいで、俺は毎日この小ぢんまりとした塹壕で俺を殺そうとするバカ共を毎日返り討ちにしていた。時折俺よりもレベルが高い転生者が混じっていることもあるけれど、未だにこの塹壕の中に転生者の侵入を許したことはない。だから白兵戦用に持ってきたナイフや棍棒は未だに未使用である。
自分たちには圧倒的な力があるのだから勝てるだろうと高を括っている連中ばかりだから、いつも戦いはOSV-96や迫撃砲をぶっ放すだけで終わってしまう。大量の転生者が攻め込んできても迎え撃てるように重機関銃も持ってきたんだが、あれを使う必要はなさそうだ。
強化された身体能力と剣を組み合わせれば銃よりも強いと勘違いしている連中ばかりなので、かなり戦いやすい。きっとあいつらはなぜ剣や槍が廃れて銃に取って代わられたのかを理解していないのだろう。
確かに転生者の身体能力と剣を組み合わせれば強いだろう。だが、その身体能力と銃を組み合わせた方が遥かに強いのだ。どれだけ切れ味が鋭い剣でも、標的に肉薄して振り下ろさなければならないのだから。
転生者の連中が襲撃してくるのは昼間ばかり。稀に夜襲を仕掛けてくる嫌な奴もいるけれど、すぐに撃退できるので睡眠時間に影響はない。
おかげでレベルはどんどん上がっており、ついに5000を突破している。
俺は輪廻の目論見通りに転生者共を次々に返り討ちにし、レベルをすさまじい速さで上げているのである。
ポニーテールにしている髪を下ろし、ラウラから貰ったリボンを細い指でそっと撫でる。今頃ラウラは寂しがっているのだろうか。
いつも甘えてくるお姉ちゃんの事を思い出した俺は、唇を噛み締めた。
彼女を巻き込まないためとはいえ、タンプル搭に置き去りにしてしまっているのは申し訳ないと思う。転生者の数が減ってきたらタンプル搭に戻って、一緒にデートでもしよう。きっと彼女は喜んでくれるに違いない。
設置してあるSマインもまだまだ残っているから、新しいSマインを埋めに行く必要もないだろう。そう思いながら寝袋の方に向かって歩き出そうとした瞬間、穴の外から誰かが塹壕の中へと降りてくるような音が聞こえてきた。
反射的に強襲殲滅兵仕様のPL-14を引き抜き、左手でフォアグリップを握る。銃口を穴の入口へと向けると、その入り口から塹壕の中へとやってきた人物が姿を現した。
「タクヤ?」
「…………ラウラ? どうしてここに?」
砂漠のど真ん中に作られた小さな塹壕を訪れたのは、黒い制服と赤いミニスカートに身を包み、深紅の羽根のついた黒いベレー帽をかぶった赤毛の少女だった。彼女は砂漠のど真ん中に用意されたこの小ぢんまりとした塹壕を見渡すと、ニコニコ笑いながら話しかけてくる。
「へえ、こんなところに住んでるんだ」
「ああ」
そう言いながらPL-14の銃口を下して踵を返し、ストックを折り畳んでホルスターの中へと放り込む。後ろで塹壕の中を興味深そうに眺めているラウラをちらりと見てから、木材で補強された壁に立てかけられているKS-23を手に取る。
若干銃身を切り詰められ、AK-15のピストルグリップと銃床が装着された”テンプル騎士団仕様”のショットガンを手に取った俺は、チューブマガジンの中に散弾が装填されているのを確認してから―――――――後ろで塹壕を眺めていたラウラに銃口を向け、トリガーを引いた。
ズドン、と銃声が響くと同時にランタンの光を上回る明るさのマズルフラッシュが煌き、23mmの散弾たちが塹壕の中で荒れ狂う。
一般的なショットガンよりも大口径の散弾たちが、彼女の肉体を食い破る。真っ白な腕が千切れ飛び、太腿や腹の肉が抉られていく。数発の散弾に身体を抉られた彼女は、がくん、と身体を大きく後ろに揺らすと、鮮血を周囲にばら撒きながらそのまま崩れ落ちていった。
「…………」
フォアエンドを引き、エジェクション・ポートからでっかい薬莢を排出する。フォアエンドから左手を離し、銃身の右斜め上に折り畳まれているスパイク型の銃剣を掴んで展開した俺は、びくりと痙攣しているラウラを見下ろしながら、そのままスパイク型銃剣を彼女の心臓に突き立てた。
びくん、と身体を揺らし、口から血を流しながら動かなくなるラウラ。彼女の心臓を貫いたスパイク型の銃剣が引き抜かれる頃には、彼女はもう痙攣しなくなっていた。
すると、まるで彼女が絶命したことを俺に告げるかのように、彼女の身体から紅い六角形の小さな光が剥離して、弱々しい光で周囲を照らしながら天井へと上って消えていく。動かなくなった彼女の身体から立て続けに剥がれ落ちた紅い鱗のような光が、ランタンの中で俺と死体を見守る蒼い炎の光を凌駕するほどの明るさになった頃には、ラウラの死体が変貌していた。
髪の色は炎や鮮血のような赤毛ではなく、前世の世界で何度も目にした黒髪である。胸はラウラよりも小さいだろうか。身に纏っている服はテンプル騎士団の制服ではなく私服だし、身長はラウラよりも小さい。
別人に変貌してしまった死体を見下ろし、俺は溜息をつく。
お姉ちゃんが遊びに来てくれたのかと期待したのに…………。
血まみれの服にあるポケットに手を突っ込んでみると、中に端末らしき物体が入っているのが分かった。それを掴んでポケットの外へと引っ張り出してみると、やっぱりそれは全ての第一世代型転生者に支給される便利な端末だった。
こいつも転生者だったのだろう。
ラウラの姿に化けていたのは、端末で生産した能力なのだろうか。確か、親父の”前任者”だったスティーブン―――――――正確には98番目のリキヤである―――――――も端末で姿を変える能力を生産し、それを使って”勇者”の追っ手から逃げたり、鉄パイプを使う変なエルフに化けてテンプル騎士団に紛れ込んでいた。
だから俺は、端末で姿を変える能力があるという事を以前から知っていたのである。
それに、俺はこの女の転生者がラウラの姿になって目の前に姿を現した瞬間に、このラウラは偽物だという事を見破っていた。
確かに容姿はショットガンで吹っ飛ばすことを躊躇ってしまうほど同じだった。テンプル騎士団を作る前の俺だったら、きっと惑わされてそのまま暗殺されていた事だろう。
けれども口調が違うし、彼女の行動に違和感があった。この塹壕を訪れた時に興味深そうに塹壕の中を見渡していたけれど、もし本物のラウラだったら真っ先に俺に抱き着いてくる筈である。
一週間も彼女と会っていないのだから。
それに匂いも全然違う。本物のラウラからは石鹸と花の香りを混ぜ合わせたような匂いがするんだけど、彼女からは香水の匂いがした。
本物のラウラは、あまり香水をつけないのだ。
多分この転生者はラウラの姿ならば惑わされるだろうと思って彼女の姿に化けたのかもしれないけど、18年間もずっと一緒にいたのだから、彼女の特徴や仕草は全て把握している。
「はぁ…………」
休む前に、この死体を片付けないと。こいつの血の臭いに刺激された魔物が塹壕に入り込んできたら面倒なことになる。
《レベルが上がりました》
メッセージを確認してレベルやステータスが向上したことを確認してから、俺は転生者の死体の足を掴むと、そのまま塹壕の外へと引っ張り始めた。魔物が集まってくる恐れのある地域では、こういう死体はちゃんと焼いておくのが理想なんだけど、死体を敢えてそのまま捨てておけば転生者共への見せしめになるだろう。
塹壕から少し離れたところに置けば、魔物が塹壕の中に入り込んでくることはない筈だ。
死体を引っ張ったまま塹壕から上がろうとした俺は、風上の方から死体たちが発する血の臭いと共に別の臭いが流れてきたのを感知し、ぴたりと足を止めつつ、腰の後ろにあるホルダーに収まっていたAK-15に手を伸ばした。
金属の臭いと香水の匂いだ。金属の臭いを発しているのは身につけている武器だろう。香水の匂いは、この女の転生者が付けていたものと同じだ。こいつと一緒に行動していた仲間が確認に来たのだろうか。
距離が思ったよりも近い事を確認しつつ、セレクターレバーをセミオートからフルオートに切り替える。レベルに差があり過ぎる場合は通用しない可能性があるが、レベルが俺よりも少し上の場合ならば7.62mm弾は相手の肉体を容赦なくズタズタにしてくれる。対人戦でも魔物との戦いでも猛威を振るってくれる頼もしい弾丸である。
塹壕の外へと銃口を向けて待ち構えていると―――――――冷たい風が吹いている砂漠の向こうから、刀を手にした黒髪の少年がゆっくりとやって来た。
銃を向けられていることに気付いたらしく、その少年はぎょっとして刀を構えたが―――――――俺のすぐ後ろに転がっている死体を見下ろした彼の顔が、あっという間に憤怒に支配されていった。
「美咲(みさき)…………!」
「…………知り合いか。可哀そうに」
やっぱり、この女は彼の知り合いだったのか。
おそらく彼女に変装させ、彼女をラウラだと思い込んで油断した隙に暗殺するつもりだったのだろう。後ろで待機していた彼まで前に出てきてしまったのは、彼女の帰りが遅かったからだろうか。それとも、さっきのショットガンの銃声を聞いてしまったからだろうか。
自分の仲間―――――――多分恋人だろう―――――――の死体をちらりと見下ろすと、転生者の少年が叫んだ。
「お前…………よくも美咲を…………ッ!」
大切な仲間を殺されたのだから、怒るのは当然だ。そして彼女の仇を討つために、目の前にいる怨敵に敵意をぶちまけるのも当たり前である。
実際に、俺も戦場で何度もそういう経験をしてきた。きっと若き日の親父もそういう経験をしている筈だ。敵の銃弾で倒れた仲間の兵士の死体を見て、激昂したことがある筈だ。
だからその怒りは、否定しない。
けれども、受け入れるつもりもなかった。
彼女が死んだのは俺を殺そうとしたからだ。そして俺が殺されそうになった原因は、輪廻が全ての転生者に発したメールを見て、報酬を手に入れるために俺を殺しにやって来たからである。
彼の復讐心は否定しないが、それを受け入れるつもりはない。
確かに大切な仲間が殺されるのは悲しい事だ。だが、俺も殺されないために戦っているのである。
―――――――弱いのが悪いのだ。
仲間の死体を目の当たりにして怒り狂った少年が、日本刀を振り上げながらジャンプする。スパイク型銃剣で受け止められるだろうか、と思ったが、あの日本刀の切れ味や敵のレベルは未知数だし、落下する勢いも乗せた強烈な剣戟である。下手をすれば銃剣もろともAK-15の銃身を切断される恐れもあるので、俺はすぐに後ろへとジャンプして回避することを選択する。
敵が日本刀を空振りし、刀身を地面に叩きつけたのを確認すると同時に、今度は逆に前へと姿勢を低くしながら移動する。転生者は慌てて振り下ろしたばかりの日本刀を引き戻し、一旦後ろに引いてから体重を乗せて突き出してきたが―――――――その刀身が突き出される頃には、すでに俺はくるりと時計回りに回転しつつやや右へと移動し、回転した勢いを乗せて銃床を思い切り突き出していた。
脇腹の脇を掠める日本刀の刀身。その上を通過し、転生者の顎を打ち据えたのは、AK-15の漆黒の銃床であった。
「ぶっ―――――――」
がくん、と転生者の頭が大きく後ろに揺れる。すぐに歯を食いしばりながらこちらを睨みつけてくる転生者だったが、彼が日本刀を振り払って攻撃するよりも、こっちが喉にスパイク型銃剣を突き立てる方が速かった。
左手で銃身を掴み、呻き声を発しながら銃剣を引き抜こうとする転生者。反対の手を痙攣させながら日本刀を振り上げ、死ぬ前に一矢報いようとしているようだが、彼の右手にもう力はないっていないらしく、いつ日本刀を地面に落としてしまってもおかしくはない。
「…………俺も死ぬわけにはいかないんだ」
あんな下らん報酬を手に入れようとして、ここにきてしまったお前らが悪い。
セレクターレバーをセミオートに戻し、1発の7.62mm弾と共に引導を渡す。マズルフラッシュの代わりに至近距離で鮮血が弾け飛び、俺の顔やコートの一部を紅い雫で彩る。
からん、と手にしていた日本刀が地面に落下したかと思うと、彼が手にしていた日本刀がゆっくりと消え始めた。
転生者が死亡すると、その転生者が生産した全ての装備は消滅してしまうのである。これは第二世代型転生者も同じらしく、春季攻勢(カイザーシュラハト)ではブラドが死亡したことによって、抵抗を続けていた吸血鬼たちが瞬く間に丸腰になってしまったという。
転生者が死亡したかは、この装備の消滅によって見分ける事ができるのだ。
なので俺が死亡すれば、テンプル騎士団の兵士たちは強制的に丸腰になってしまうというわけである。だから組織のためにも死ぬわけにはいかない。テンプル騎士団の兵器が消失するという事は、クレイドル計画の頓挫を意味するのだから。
「…………片付ける死体が増えちまったな」
喉元からスパイク型銃剣を引き抜きながら呟いた俺は、ポケットから取り出したハンカチでスパイク型銃剣に付着した鮮血を拭き取ると、ライフルを腰の後ろに下げてから2人分の死体の足を引っ張り、塹壕の外へと向かうのだった。
魔物の掃討作戦は、順調に進んでいた。
今回は集落の近くに出現した魔物の群れの掃討作戦なんだけど、思ったよりも規模が大きいらしく、装甲列車と虎の子のシャール2Cの19号車『フェルディナン・フォッシュ』を投入した大規模な掃討作戦になっている。
場合によっては増援部隊の派遣も考えていたんだけど、むしろ戦力を投入し過ぎちゃったんじゃないかなと思ってしまうくらい魔物の数は凄まじい勢いで減っているみたい。
指令室のモニターで前線のフェルディナン・フォッシュに搭載されたカメラから送られてくる映像を見ていた私は、溜息をつきながら髪を結んでいるリボンへと手を伸ばした。
タクヤが私たちを危険に晒さないためにタンプル搭を出て行ってから、一週間も経過している。できるなら会いに行きたいんだけど、彼の代わりに陸軍や海兵隊の指揮を執らなければならないし、狙撃手部隊の訓練もしなければならないからタンプル搭を離れる時間が全くない。
いつになったら会えるのかな、と思いながらモニターを見上げていると、後ろの扉が開いてシュタージの制服に身を包んだダークエルフの男性が指令室へと入ってきた。
「同志副団長、緊急事態です!」
「どうしたの? ブライアン大尉」
彼の名はブライアン大尉。シュタージに所属している指揮官の1人で、元々はフランセン共和国騎士団の諜報部隊にいたらしいの。エージェントとして他国に派遣されていたんだけど、その潜入作戦が明るみに出そうになった際に本国に切り捨てられ、実質的にフランセンから追放されてしまったみたい。
現在では、当時の経験とテンプル騎士団の設備を使って彼の培った技術を存分に発揮してもらっているわ。
彼は持っていた書類を私に渡すと、私がそれを確認している間に呼吸を整え、報告した。
「各国に潜伏していた転生者たちが、一斉に動き出しました。カルガニスタンへと集結しつつあります」
「数は?」
「―――――――おそらく、約900人かと。エージェントの情報では、平均的なレベルは4000から5000とのことです」
「…………!」
タクヤと同等のレベルの転生者が900人も…………!?
あの子は1人で相手にするって言ってたけど、さすがに900人も転生者を相手にするのは無茶だわ…………! 今のところは転生者を討伐してレベルをどんどん上げてるみたいだけど、もし彼と同等のレベルの転生者が大規模な攻勢を仕掛けてくれば、あの子では絶対に食い止められなくなってしまう。
私腹を肥やすことを優先する転生者たちが連携できるとは思えないけれど、高を括れば今まで殺してきた獲物と同じようにやられてしまう。すぐに兵力を派遣してあの子を守らないと。
「…………ナタリアちゃん。掃討作戦が終わり次第、部隊をそのままタクヤの所に派遣して防衛ラインを構築させて」
「分かったわ。あと、付近で別の掃討作戦に参加してる『シャルル・ド・ゴール』も派遣するわよ」
「ありがと。私はすぐにタクヤの所に行くわ」
シャール2Cが2両もあれば、900人の転生者を迎え撃つこともできるかもしれない。
あの子だけは、絶対に守らなければならない。
私の命を救ってくれた、大切な恋人なんだから。