異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
真っ黒な制服に身を包み、AK-15を構えた兵士たちが、両腕を上げている少年や少女たちをタンプル搭の中へと連行していく。時折その”捕虜”たちの列の中から飛び出して逃げようとする少年もいたけれど、すぐに兵士たちに取り押さえられるか、銃を構えた兵士に足を撃ち抜かれ、そのまま兵士たちに両腕を引っ張られて地下へと連れて行かれてしまう。
端末を奪われるだけで、転生者は能力や武器を使う事ができなくなる。それゆえに、彼らから端末を没収して遠ざけてしまえば容易く無力化できるのだ。
地下にある”ラーゲリ”へと連れて行かれる彼らを見送ってから、荷物の入ったカバンを抱えて踵を返す。
ガラハッド隊の容赦のない航空支援によって転生者たちの戦車部隊は壊滅し、生き残った転生者たちは武装解除してテンプル騎士団に降伏した。テンプル騎士団はモリガン・カンパニーのように敵を皆殺しにはしないので、転生者たちを捕虜として受け入れたのだが―――ここから生きて出る事ができるのは、連行されていく転生者たちの2割くらいなのではないだろうか。
彼らはラーゲリに放り込まれた後、シュタージによって取り調べを受け、人体実験に使われる者たちと解放される者たちに”分別”される。特に人々を虐げておらず、輪廻の報酬をもらうために襲撃してきたような奴らは、端末を破壊されてから解放されることだろう。今までのように便利な能力は使えなくなるが、命だけは助かるという事だ。
人々を虐げていたクソ野郎たちはそのままラーゲリに拘束され、少量の飯を与えられながら人体実験に”使用”されるのを待つことになる。人体実験は被験者が
あの転生者たちの大半はシュタージが世界中に送り込んでいるエージェントたちによってある程度は調べてあるらしいので、取り調べはすぐに終わるだろう。
塹壕の中で使っていた寝袋や、近くで捕まえた魔物を調理するのに使っていた小さな鍋の入ったカバンを抱えてラウラと一緒に地下へと戻ろうとしていると、階段の下から黒い制服と略帽を身に着けた金髪の少女が上がってくるのが見えた。
「お帰りなさい、
「ただいま、クラン」
一週間ぶりに戻ってきた俺を出迎えるためではなく、連行されていく転生者たちを確認するためにやって来たのだろう。
「…………投降した転生者の人数は82人よ。人数が多いから”分別”に時間がかかりそうね」
捕虜の尋問や拷問は、基本的にシュタージの仕事だ。だからシュタージのエージェントは潜入や情報収集などの訓練だけではなく、様々な道具を使って標的を痛めつけ、情報を吐かせるための訓練も受けるのである。
なので手の空いているエージェントたちは、これからあの転生者たちの相手をしなければならないという事だ。いくら潜伏していたエージェントがある程度は調べていたとはいえ、82人の転生者たちを殺すべき者と生かすべき者に分別しなければならないのだから、かなり大変だろう。
「でも、あれだけ殺せばタンプル搭が危険に晒されることもないでしょう」
「ああ」
これで、俺を殺そうとする転生者は減った筈だ。
900人の転生者が攻め込んだというのに、俺を殺す事ができなかったのだから。
「で、レベルは上がったのかしら」
「おう」
頷いてから、左手を突き出して蒼いメニュー画面を出現させる。端末を必要としない第二世代型転生者のメニュー画面は、端末を持つ第一世代型転生者と違ってまるで立体映像のようなデザインになっている。これならば端末を紛失して弱体化する恐れはない。
それに、このデザインは結構気に入っている。
SFを思わせるデザインのメニュー画面に映し出されたステータスを目にした瞬間、隣に立っていたラウラと、目の前に立ってメニュー画面を覗き込んだクランが目を見開いた。
「嘘…………!?」
仲間の力を借りることになってしまったが、俺はあの塹壕に一週間ほど立て籠もり、数多の転生者たちを殺し続けた。
そして輪廻の目論見通りに―――――――ステータスとレベルが、飛躍的に向上していたのである。
現在のレベルは、なんと9000まで上がっていた。攻撃力のステータスは87003000まで向上しており、防御力も一気に66340000まで上がっている。一番高かったスピードのステータスは、信じられないことに99000000になっていた。
全てのステータスが”9”の羅列と化すまで、あと少しである。
もしあの転生者を全て俺1人で討伐していたら、ステータスはとっくに9の羅列で埋め尽くされていた筈だ。
残念だなと思ったけれど、いくら転生者を殺すことでレベルが上がっていたとはいえ、900人の転生者たちを単独で返り討ちにするのは不可能だった事だろう。敵は約50両の戦車と数多の転生者たちだけでなく、7機のA-10を投入してきたのだから。
無茶をして、ラウラを泣かせるわけにはいかない。それに俺が死亡すれば、テンプル騎士団で運用されている兵器の大半は消滅することになる。クランやケーターたちが生産してくれた武器や、殲虎公司(ジェンフーコンスー)から輸入した兵器は残るかもしれないけれど、テンプル騎士団は間違いなく弱体化してしまうだろう。
だから死ぬわけにはいかない。
「あ、上がり過ぎじゃない?」
「まあな…………。おかげでポイントもたっぷり手に入ったよ」
コストの高い兵器をこれでもかというほど大量に生産し、前哨基地の部隊にも支給するのも悪くないかもしれないが、テンプル騎士団に入団してくれる志願兵は未だに増え続けているので、彼らにも様々な武器を支給しなければならない。
大量にポイントがあるからと言って武器や兵器を生産しまくれば、兵士たちに武器を支給する事ができなくなってしまう恐れがある。さすがにケーターやクランたちに負担をかけるわけにもいかないから、ポイントを使うのは考えてからにしないと。
「それじゃ、一週間ぶりに部屋に戻るとするよ」
「ええ。ゆっくり休みなさい」
メニュー画面を閉じ、クランに敬礼をしてから階段を下りていく。
タンプル搭に戻ってくるのは一週間ぶりだ。あの塹壕で生活し、転生者たちを迎え撃っていた間に志願兵たちも増えているらしい。何人増えたのだろうか。
塹壕で生活している間はタンプル搭から無線で報告を受けていたし、近隣の前哨基地の兵士たちが偵察任務の途中によく遊びに来たから、彼らから色んな情報を聞く事ができた。どうやら遠征に行っている海兵隊の活躍のおかげでテンプル騎士団は更に有名になっており、クライアントの数も増えつつあるという。
更に、そろそろ新しい支部を設立するべきだという意見もあるらしい。
新しい支部に関しては円卓の騎士たちと会議をしなければならないが、新しい支部が誕生すればテンプル騎士団の勢力圏はさらに広がるし、戦力も向上する筈だ。
「タクヤ、質問があるんだけどいいかしら?」
「ん?」
塹壕で使っていた色んなものが入っているカバンを抱えたままエレベーターに乗り込むと、隣を歩いていたラウラが問いかけてきた。
「あの塹壕で生活していた時の事なんだけど、お風呂はどうしたの? 塹壕にシャワーはないわよね?」
「ああ」
「でもいい匂いがするわよ? どうしたの?」
「ええと、近くにあったオアシスの湖で水を汲んで、炎で加熱してお湯にしてから浴びてたんだ。髪とか身体を洗うのには石鹸を使ってた」
「そうなんだ…………安心したわ。もしかしたらお風呂に入ってないんじゃないかって思ってたの」
本当に、このキメラの身体は便利だと思う。炎と雷を自由自在に操れるし、訓練をすれば弾丸を弾けるほどの硬さの外殻を瞬時に生成する事ができるのだから。
戦闘力も高いと思うんだけど、道具を使わずに炎を生み出す事ができるのはダンジョンの中の調査や野宿の際にかなり役に立つ。松明が不要になるし、瞬時に焚火を始めることもできる。それに敵との戦闘ではその炎を使って攻撃することもできるのである。
便利な能力を身に付けることができたのは喜ばしい事だけど、この角は不便だな。勝手に伸びるし。
「よし、今夜は久しぶりに一緒にお風呂に入ろうか」
「ええ♪」
正直に言うとかなり寂しかったからな。たった1人で塹壕の中にいるのは。
左手をぎゅっと握り、そのまましがみついてくるラウラ。ミニスカートの中から伸びた真っ赤な尻尾を左右に振りながら微笑んだ彼女は、歩いたまま頬ずりを始めた。
魔力を伝達する配管やケーブルが突き出た通路を進み、一週間ぶりに自室のドアの前に立つ。木製のドアには部屋の中に住む団員の名前が書かれたプレートが取り付けられていて、そのプレートには3人の名前が縦に並んでいる。
俺とラウラとイリナの3人だ。
多分、イリナはベッドの隣の棺桶の中で眠っている事だろう。吸血鬼にとっては昼間は眠るのが当たり前なのだから。
彼女を起こさないように気を付けようと思いつつ、久しぶりに自室のドアを開けた次の瞬間だった。
「―――――――お兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「―――――――ふぁるくらむっ!?」
ドアの向こうで待ち伏せをしていた1人の少女が、凄まじい速度でドアを開けた直後の俺に突進してきたのである。
回避すれば彼女が壁に激突してしまうので、彼女を守るために咄嗟に回避を中止して敢えて直撃されることにした俺は、左腕にしがみついていたラウラと一緒に吹っ飛ばされ、そのまま押し倒される羽目になった。
俺とラウラを吹っ飛ばしやがった張本人は、そのまま俺たちの上に乗ると、片手を伸ばして何故かラウラの胸を揉みつつ俺の胸板に頬ずりを始める。
「ひっ、久しぶりですわぁ…………! お帰りなさいませ、お兄様っ!」
「た、ただいま、カノン…………」
「カノンちゃん、何で胸を触っ―――――――にゃあぁ!?」
「うふふふっ、やっぱりお姉様のおっぱいは大きいですわ…………♪」
このド変態め…………。
一週間ぶりにここに帰ってくる事ができて油断していたから、嗅覚を使って索敵をするのを忘れていた。本拠地のど真ん中で索敵をするのはおかしいかもしれないけど、テンプル騎士団にはド変態が多いので、ちゃんと索敵をしておかなければ。
反省しつつ、胸板に頬ずりを継続するカノンを一旦引き剥がしてから立ち上がる。ラウラに手を貸して彼女を立たせると、すぐに反対の腕にカノンがしがみついてきた。
そんなに寂しかったのだろうか。
荷物の入ったカバンをとりあえずベッドの上に置いておく。中身を片付けるのは後にしておこう。
ベッドの隣に居座る古めかしい棺の中からは、やっぱり寝息が聞こえてくる。彼女は起こさないようにした方が良さそうだ。
「ほら、2人とも。一旦離れてくれ。シュタージの手伝いに行く前にシャワー浴びるから」
「いやっ!」
「嫌ですわっ!」
困るんですが。
左腕にしがみついているラウラは逃がさないと言わんばかりに尻尾まで巻き付けてくるし、右腕にしがみついているカノンは両腕に思い切り力を入れ始める。多分、この2人は簡単には離れてくれないだろう。
ちなみにカノンは人間という事になっているけれど、人間とハーフエルフの混血なので常人よりも力は強い。思い切り頭をぶん殴れば、成人男性を昏倒させることもできるだろう。
貴族のお嬢様―――――――テンプル騎士団でトップクラスのド変態だ―――――――とは思えないほどの力でしがみついてくるカノンを見下ろし、俺は溜息をつく。
「あのな、シュタージの奴らも大変だから俺も手伝わないと…………」
「では一緒にシャワーを浴びましょう! わたくしが背中を流して差し上げますわ!」
「じゃあお姉ちゃんも身体を洗ってあげるっ♪」
絶対搾り取る気だろ。
「今夜にしてくれ。今は急がないといけないんだ」
「ふにゅー…………分かった。それじゃあ今夜ね♪」
「では、今夜シャワーを終えたら抱いてくださいな♪」
「なんでやねん」
久しぶりにツッコミをしながら、苦笑いする。
やっぱり仲間と一緒にいる時が一番だ。1人で戦えば仲間を失うことはないかもしれないけれど、塹壕の中で1人で過ごすのはかなり寂しかった。
話し相手はいないし、一緒に戦ってくれる仲間はいない。仲間を巻き込む恐れがない代わりに全ての負担を引き受けなければならないのである。
今回の戦いで、それを学ぶことができた。
仲間がどれほど大切な存在なのかという事を。
「んー…………合格ね。仲間の手を借りちゃったけど」
目の前に映し出されている立体映像を眺めつつ、バターを塗ったトーストを口へと運ぶ。
900人の転生者を1人で打ち破るのが理想だったんだけど、数多の転生者を抹殺したことによって彼のレベルは飛躍的に向上し、ついに9000に達した。レベルの上限である9999になったわけではないけれど、転生者たちの犠牲のおかげで”ツヴァイ”は十分に成長してくれた。
仲間の手を借りてしまったけれど、レベルやステータスは十分そうね。戦闘経験もかなり積んでいるから、今の彼は”
レベルやステータスに頼った転生者ではなく、自分で身に着けた技術をフル活用する転生者の数は非常に少ない。その稀有な転生者の中で、間違いなく”ツヴァイ”は最強クラスの転生者でしょう。
リキヤ・ハヤカワは既にレベルが上限に達しているけれど―――――――”あれ”は彼の紛い物に過ぎない。
紛い物には、絶対に守護者の代役は務まらない。
しかもその紛い物は、彼を生き返らせるためにメサイアの天秤を狙っているみたい。リキヤを生き返らせてくれるのは喜ばしい事だけど、もしかしたら守護者の代役を生み出す計画の邪魔になるかもしれない。
「消した方がいいのかな」
呟きながら、食べかけのトーストを口の中に放り込んで噛み砕く。
”ドライ”を派遣して暗殺させようかなと思ったけど、ドライはツヴァイを完成させるための最終試験に必要な転生者なのだから、失うわけにはいかない。
ツヴァイは十分に成長した。
若き日の彼の父親も、レリエルを撃退し、この世界の転生者を絶滅寸前まで追い詰めた。
第二世代型転生者は成長するまで時間がかかるという欠点があるけれど、端末の機能を能力として習得しているから紛失する恐れがないし、両親の遺伝子と素質を受け継いで生まれるから一般的な転生者よりも強くなることができる。
ツヴァイが強いのは、
宿敵であるレリエルの遺伝子を受け継いだアインスを守護者の代役にするのも面白そうだったけどね。
「…………私も準備をしておかないと」
天空都市ネイリンゲンが姿を現す”災禍の紅月”まであと一ヵ月。世界を滅亡させかねない100年に一度の呪いの夜に、この計画は終着点へと辿り着く。
必ずこの計画を成功させ、守護者の代役を生み出してみせる。
この世界に転生させられ、戦死していった哀れなリキヤたちのために。