異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
甲板の上には、テンプル騎士団のエンブレムが描かれたカサートカたちがずらりと並んでいた。塗装は黒や灰色ではなく洋上迷彩となっており、同じく洋上迷彩を施された強襲揚陸艦の甲板の上で整備を受けている。
艦とヘリが洋上迷彩で彩られているせいなのか、まるでヘリと艦が同化しているようにも見えてしまう。
蒼いヘリの兵員室のハッチから覗くのは、すらりとした2本の銃身だ。本来ならマガジンが装着されている筈の場所には7.62mm弾を連ねたベルトが伸びており、左右の銃身の脇に用意された黒い箱の中へと繋がっているのが分かる。
テンプル騎士団で採用されているビラール・ペロサM1915を、ドアガン用に改造した代物だ。歩兵用の60発入りのマガジンでは弾幕を維持することが難しいので、ドアガン用のビラール・ペロサM1915はマガジンではなくベルトを使うのである。
それの整備をしていたダークエルフの整備兵に手を振ってから踵を返し、隣を航行するアドミラル・グリゴロヴィチ級フリゲートが容赦なく海原を踏みつけながら進んでいくのを眺めた。
海原の上を進んでいくのは、洋上迷彩で塗装された1隻のミストラル級強襲揚陸艦。空母にも見えるデザインの艦を護衛するのは、2隻のアドミラル・グリゴロヴィチ級フリゲートと1隻のネウストラシムイ級フリゲートだ。
艦隊が航行しているのは、ウィルバー海峡を南下した先に広がっているラトーニウス海だ。母さんとエリスさんが生まれたラトーニウス王国の周囲に広がる広大な海域で、天秤の鍵を手に入れるためにシーヒドラと激闘を繰り広げた海底神殿のある海域でもある。そしてそのまま更に南下していけば――――”第一次転生者戦争”が繰り広げられたファルリュー島がある。
けれども、俺たちは母親たちの祖国を訪れるためにこの海域を訪れたわけではない。
ミストラル級の前を進むネウストラシムイ級が、ゆっくりと進路を変えていく。左右を進むアドミラル・グリゴロヴィチ級も進路を変えたかと思うと、俺たちの乗るミストラル級も進路を変え始める。
俺たちが目指しているのは―――ラトーニウス海の南西に存在する”アナリア大陸”だ。
アナリア大陸は未だに開拓されていない巨大な大陸で、列強国の騎士団は派遣されていない。カルガニスタンと同じく複数の部族が村や集落で生活をしているらしく、先住民たちの種族の大半はダークエルフやオークであるという。
アナリア大陸の位置は、前世の世界の世界地図で言うとアメリカの位置だろうか。
現時点では、テンプル騎士団の保有する軍港は本部と倭国支部の2ヵ所のみ。支部ならばスオミ支部もあるが、残念ながらスオミ支部は周囲を雪山や雪原に囲まれた場所にあり、海も遠いため海軍は保有していないのである。
つまりテンプル騎士団海軍の艦艇は、河を上った先にあるタンプル搭の軍港か、遠く離れた極東の海にある倭国支部の軍港の2ヵ所にしか停泊することが許されないのだ。
許可を取れば大国の軍港にも停泊できるとは思うんだが―――多分、許可をとっても停泊できないだろう。
―――この世界の艦艇は、前世の世界の艦艇よりも小さいのである。
産業革命によってこの世界の工業も発達したため、フィオナ機関を搭載した戦艦や装甲艦が次々に建造されているのだが―――こっちの世界の戦艦の平均的なサイズは、たった50mなのだ。
ちなみに、改修で船体を延長されたジャック・ド・モレー級戦艦は全長304mである。
だから列強国の将校たちは、テンプル騎士団海軍の駆逐艦やフリゲートを目にすると、その艦よりもはるかに巨大な超弩級戦艦がいるというのに「立派な戦艦ですね」と言うのである。
テンプル騎士団が保有する軍港以外の港では、海軍の保有する艦艇が入港できないのだ。コルベットなら辛うじて入港できるかもしれないが。
というわけで、テンプル騎士団は本部と倭国支部以外の軍港を確保する必要があった。
けれども、勝手に軍港を作るわけにはいかない。フランセンの総督がテンプル騎士団に攻撃を仕掛けてきた事件があったけど、あの事件の原因はテンプル騎士団がフランセンに無許可で拠点を作って活動していた事である。
列強国や先住民たちと対立することは避けなければならない。
そこで、俺たちは新しい軍港を確保するために、先住民たちが住むアナリア大陸へと既に小規模な”先遣隊”を派遣していた。先住民の族長を説得して土地を提供してもらい、そこをテンプル騎士団の軍港にするためである。
派遣した先遣隊からの報告が3日前にタンプル搭へと届いたんだが―――喜ばしい事に、先住民の族長を説得することに成功し、土地を提供してもらうことに成功したらしい。
今はその土地に仮設の拠点を建築して軍港の準備をしながら、先住民たちと一緒に狩りに行ったり、先住民たちを招いて一緒に夕食を食べて楽しんでいるという。
派遣された兵士たちは、当たり前だけど先住民たちの言語を勉強した兵士たちだけで構成されている。場合によっては俺が彼らの言語を勉強してから直接交渉に行こうかなと思ってたんだけどね。
というわけで俺たちもこれからアナリア大陸へと向かい、土地を提供してくれた先住民たちに挨拶をしに行く予定なのである。もちろん彼らの言語は勉強しているので、先住民たちと会話をすることもできるだろう。ちょっとだけ発音が不安な単語もあるが。
この世界に転生してからかなりの数の言語を習得したけど、何種類の言語を習得する事ができたのだろうか。
甲板でフリゲートを眺めるのを止め、背伸びをしながら甲板を後にする。タラップを降りて艦内へと戻り、アサルトライフルを持って警備している警備兵に敬礼をしてから自室へと戻る。黒い制服に身を包んだ海兵隊の兵士とすれ違って更にタラップを駆け下りて通路を進んでから、”817”と描かれたプレートが付いている扉を開けた。
「…………チェックメイトですわ」
「ぬぅ!? …………ぐうっ、お、俺の負けか」
用意してもらった個室の中でチェスをしていたのは、紅いフリルのついた黒いドレスにも見える制服に身を包んだカノンと、スペツナズの制服に身を包み、黒い軍帽をかぶったウラルの2人だ。どうやら俺が扉を開けると同時に、個室の中にある俺の分の椅子の上で勃発したウラルとカノンの勝負は終結したらしい。
カノンは、かなりチェスが強いのである。
幼少の頃に屋敷で雇っていたメイドの人に教えてもらってからずっと続けているらしく、空いた時間に屋敷の執事やカレンさんと勝負して勝利していたのである。シンヤ叔父さんにだけは勝てなかったらしいが、あのシンヤ叔父さんが冷や汗をかいてしまうほどの実力者らしい。
なので、俺が部屋を後にしようとした時にウラルがチェス盤を椅子の上に置いて彼女に勝負を挑んだのを見てから、カノンが勝つだろうなとずっと思ってたんだけど、やっぱり予想通りだった。
「あら、お帰りなさいませ。潮風はどうでしたの?」
「悪くなかったよ」
コートを脱いで壁にかけ、椅子の上のチェス盤を退けてから腰を下ろす。悔しそうにチェス盤を見下ろしているウラルを見てニヤニヤしながら、俺は言った。
「惨敗ですな、ウラル大佐」
「やかましい」
カノンは結構手強いぞ。普段はド変態だけど。
アナリア大陸へと一緒に向かうのは、カノンとウラルだ。本当だったらラウラとナタリアも一緒に来てくれる予定だったんだが、ラウラはヴリシア大陸にいる過激派の吸血鬼の残党を殲滅するために派遣された海兵隊第一大隊を支援するためにヴリシアに行かなければならなくなってしまったし、ナタリアはその殲滅作戦を指揮するためにタンプル搭へと残らなければならなくなってしまったので、同行できなくなってしまったのだ。
というわけでアナリアに向かうのは、俺とカノンとウラルというかなり珍しい組み合わせである。
ウラルは日光が苦手な吸血鬼なんだが、昼間に遠征して大丈夫なんだろうか。
「ところでさ、お前大丈夫なのか? 昼間だぞ?」
問いかけると、ウラルは腕を組んだまま丸い窓の外に広がる大海原を眺めながら答えた。
「―――いや、結構ヤバいかもしれん」
「お馬鹿さんなのかな???」
よく見ると、強烈な日光に照らされている海原を見ているウラルの顔が青くなっている。
吸血鬼の弱点の1つは日光なんだが、日光で受けてしまうダメージには個人差があるらしい。耐性がある吸血鬼は体調が悪くなったり、再生能力が低下する程度で済むというが、中には日光に照らされるだけで肉体が燃え上がったり消滅してしまう吸血鬼もいる。
幸いイリナとウラルは日光を浴びても体調を崩すだけで済むが、そんな状態で挨拶に行けるわけがない。何でこいつは同行したのだろうか……あ、ついに我慢できず虹を吐きやがったコイツ。
日光のせいでおろろろろと虹を吐き始めたウラルを見上げて呆れながら、俺は苦笑いするのだった。
未だに開拓されていないアナリア大陸は、巨大な樹や見た事のない花で覆われていた。
大地から天空へと伸びる巨大な樹は、それを切り倒して加工するだけで大型の帆船を作ってしまえるほどの木材が手に入るのではないかというほど巨大だ。その幹から伸びる巨人の剛腕みたいな枝から細い枝が無数に伸びていて、その枝の上にはオルトバルカで売られている図鑑には載っていない鳥のような魔物が佇んでいるのが見える。
アナリア大陸へと上陸した俺たちを目にしたその鳥のような魔物たちは、甲高い鳴き声を発して橙色の美しい翼を広げると、隣に止まっていた仲間と一緒に枝から飛び立ち、森の奥へと飛んで行ってしまう。
落ちてきた橙色の綺麗な羽を拾い上げた俺は、それをポーチの中へと静かにしまっておく。こいつを冒険者管理局にレポートと一緒に提出すれば報酬を貰えそうだが、金には余裕があるからそんなことはしなくていいだろう。結構綺麗だから、ナタリアやラウラにプレゼントしたら喜ぶかもしれない。
そんなことを考えつつ、森の向こうに居座る木造の建物を見据えた。
周囲には木造の塀のようなものも用意されているし、塀の内側には畑があるのが見える。傍から見ればそれなりに大きな住宅に見えるかもしれないけど、その建物を囲む塀の外にはちょっとした塹壕のような穴も掘られており、塹壕から突き出たKord重機関銃の銃身が、それを目にした俺たちにここは危険地帯だという事を告げている。
確かにアナリア大陸は未だに開拓されていない大陸だ。どのような環境なのかはまだ不明だし、危険な魔物も生息している。列強国がここにやってくれば九分九厘危険度の高いダンジョンに指定しそうな場所である。
ダンジョンに指定されたら大勢の冒険者がここにやってくるのだろうかと思いつつ、建物の周囲に用意されているテントをちらりと見る。オリーブグリーンのテントにはテンプル騎士団のエンブレムがこれ見よがしに描かれており、そのテントの傍らでは動物の毛皮で作られた服に身を包んだダークエルフやハーフエルフの子供たちが、ダークグリーンの迷彩服に身を包んだテンプル騎士団の兵士と遊んでいるようだった。
背の高いオークの兵士に肩車をしてもらっている先住民の子供が、楽しそうに大きな声で笑う。その近くで数名の子供たちに追いかけ回されている女性の兵士(白い腕章を付けているので衛生兵なのだろう)は、子供たちと鬼ごっこでもしているのだろうか。
テントの近くでは、狼の頭骨を頭にかぶった先住民の男性と一緒に、兵士たちが弓矢の手入れをしているのが見える。すぐ後ろにあるテントの中では先住民の女性と数名の衛生兵が、見た事のない薬草を磨り潰して調合しているところだった。回復アイテムでも作っているのだろうか。
上陸した兵士たちと一緒に歩いていくと、迷彩服の上着を脱ぎ、がっちりした上半身の筋肉をあらわにしながらトマホークで薪を割っていたハーフエルフの兵士が、俺たちに気付いて慌てて敬礼をした。
「お久しぶりです、同志団長!」
「お疲れ様。調子はどうだ?」
「ええ、先住民たちと仲良くやってますよ。戦士たちの狩りの技術は参考になりますし、子供たちも元気いっぱいです」
確かに、子供たちは元気いっぱいだな。
子供たちを逆に追いかけ回しているオークの兵士を見守っていると、薪割りをしている兵士の手伝いをしていたのか、薪を抱えているハーフエルフの子供が俺たちの顔を見上げていた。腰に下げている骨はゴブリンの頭蓋骨だろうか。
『お姉さんたち、誰?』
先住民の子供にも女って間違われた…………。
ショックを受けつつ、幼い少年の言語がどの部族の言葉なのかを判別する。他の部族の言語と比べると発音が特徴的だったから、多分”マルス族”の言語だろう。
アナリア大陸には複数の部族が住んでおり、集落や村で生活している。彼らの言語は似ているけれど、部族によっては一部の単語の意味が違ったり、発音が全く違う事もあるという。
言語の特徴ではないけど、部族のうちの1つであるマルス族には”仕留めた魔物の骨を身に付けることで、その魔物の力を借りる事ができる”という言い伝えがあるという。言語の発音と身に着けている骨でマルス族だと判断した俺は、勉強した彼らの言語を思い出しながら声をかける。
『初めまして。君はマルス族の子かな?』
『うん、そうだよ。ところでお姉さん、代わった発音だね。どこの部族の人?』
『ええと…………外国から来たんだ。これから族長に挨拶に行くところなんだけど、もしよければ案内してくれるかな?』
『いいよ。兵隊さん、このお姉さんたちを村まで案内してくる』
『おう、気を付けるんだぞ!』
先住民たちと話をしているうちに慣れてしまったのか、ハーフエルフの兵士の発音はマルス族の言語の発音に結構近かった。俺も彼らと話をしていれば上達するだろうか。
結構練習したつもりなんだが、どうやらこの発音には違和感があるらしい。
「お兄様、何の話をしていましたの?」
「ん? これからあの子に族長のところまで案内してもらうんだ」
カノンに説明してから、背中に背負っていたAK-15の安全装置(セーフティ)を解除する。
先住民たちから与えてもらった土地の周囲にある森は、魔物たちの生息地である。ここから先住民たちの住んでいる村までその危険地帯を徒歩で移動しなければならない。
場合によっては途中で捕まえた虫や蛇を喰う必要がありそうだな、と思いつつ、俺は仲間を連れて先住民の子供の後を追い始めた。