異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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マルスの里

 この大陸を支配する森の中は、幼少の頃に親父たちと狩りをした森の中にそっくりだった。

 

 巨大な樹の群れと、森の中を埋め尽くす植物たち。屹立する巨人にも似た巨大な幹から伸びる枝には変わった色の鳥たちが止まっていて、緑色の葉の群れを全く違う色で彩る。樹の根元から隆起した太い樹の根の表面は微かに苔で覆われていて、幼い子供や小動物なら潜り抜けられそうな大きさのちょっとしたトンネルを形成している。

 

 アナリア大陸の植物は雪国であるオルトバルカ王国の植物とは全く違う。だから風景は幼少の頃に狩りに行った森とは全然違うんだけど、森の中の雰囲気はそっくりだった。

 

 この大陸は全く開拓されていないため、地面は草や樹の根に覆い尽くされてしまっている。草だけならば戦車で強引に進めるんだけど、地面から隆起する樹の根はまるで装甲車のようにがっちりしている。しかもその巨大な根が森の奥までひたすら連なっているので、戦車で行こうとすればマルス族の村に到着する前にエンジンがぶっ壊れるか、森のど真ん中で擱座する羽目になるだろう。

 

 それに森を破壊することは、アナリアに住む先住民たちを刺激してしまう事を意味する。頑張って彼らの言葉を勉強してからやってきた先遣隊の努力を水の泡にするのは避けなければならない。

 

 というわけで、マルス族の村までは巨大な樹の根や植物が乱立する森の中を歩いて行かなければならない。いつもの装備で未開拓の森の中を警戒しながら進まなければならないので、訓練を受けて体力をつけていない人間がこんなことをしようとすれば途中で歩けなくなってしまうだろう。

 

 俺たちを先導するマルス族の少年はこういう場所を歩くのに慣れているらしく、砂漠しか歩いたことのない数名の兵士が早くも遅れているというのに、お構いなしにすいすいと歩いていく。

 

 ライフルを背負い、親父やラウラと一緒に森に行った時の事を思い出しつつ、嗅覚を駆使して周囲の索敵をする。鼻孔へと流れ込んでくるのは、同行している兵士たちや案内してくれるマルス族の子供の匂いだ。

 

 この嗅覚での索敵の精度は風向きに左右されてしまうので、正確さではラウラの聴覚での索敵―――――――頭の中にあるメロン体から超音波を発するエコーロケーションである―――――――に劣ってしまう。なのでそれほど頼りにはならないが、結構便利な能力である。

 

 今のところ俺たちを魔物が狙っている気配はなさそうだ。先遣隊も定期的に魔物の掃討を実施しているらしいので、数が減ったのかもしれない。

 

 だからといって安全装置(セーフティ)をかけるつもりはないけどな。ラウラの索敵よりも精度が劣る以上、警戒心でカバーしなければならないのだから。

 

「でけえ森だなぁ…………」

 

「こっちは砂漠よりも涼しいんだな」

 

「あ、見て! あそこに鳥がいるわ!」

 

 遠征を経験している兵士は様々な景色を目にしているが、まだ経験の浅い兵士は砂漠での魔物の掃討作戦を担当することが多いので、砂漠意外の景色を目にすることは少ない。もちろん入団する前に他の国にいた兵士は色んな景色を目にしているんだが、中には部族からテンプル騎士団に志願した兵士もいるので、砂漠意外の景色を目にするときょろきょろしてしまう兵士も少なくないのだ。

 

 AN-94を背負ったウラルが「お前ら、しっかり警戒しろ。旅行じゃないんだぞ」と兵士たちを咎めると、後ろを歩いていた兵士たちはすぐに無駄話を止め、索敵を再開し始める。

 

 スペツナズの指揮官でもあるウラル・ブリスカヴィカ大佐は、スペツナズの訓練だけでなく、時折一般の部隊の訓練や教育も担当する。彼が行う訓練は他の教官の訓練よりもかなりきついらしく、普段の訓練に耐えている屈強な兵士でも弱音を吐くことがあるらしい。

 

 こいつは部下にいったいどんな訓練をさせているんだろうか。毎日こいつの訓練に耐えているからこそ、スペツナズの隊員たちはあんなに屈強なんだろう。

 

『ねえねえ、お姉さんも”テンプルの戦士”の1人なの?』

 

 ライフルを持って警戒しながら歩いていると、少年が尋ねてきた。

 

『テンプルの戦士? 俺たちは”テンプル騎士団”っていうんだ』

 

『兵隊さんが”騎士は戦士って意味だ”って言ってたもん』

 

 そうか…………この大陸の人たちは騎士を知らないのだ。

 

 未だに列強国が辿り着いていない未開拓の大陸。それゆえに彼らは、海の向こうの大陸で勃発する戦場で活躍する騎士たちを知らないのだ。

 

 だから先遣隊の兵士は、彼らに分かりやすいように”戦士”という事にしたんだろう。魔物が徘徊する森に村を作っているのだから、奴らから村を守る戦士たちもいるに違いない。騎士ではなく戦士ならば、彼らにも俺たちがどういう存在なのかが伝わる筈だ。

 

『ああ、それで合ってる。ごめんな』

 

『気にしないでよ。…………ところで、手に持ってるのはお姉さんたちの武器?』

 

 マルス族の少年は、そう言いながら興味深そうにAK-15を見上げた。

 

 先遣隊からの報告では、アナリアに住む先住民たちが魔物との戦いに使う武器の素材は、主に骨、木材、石の3つらしい。仕留めた動物の骨や大きな石を削って棍棒を作ったり、豊富な木材を使って弓矢を作って武装するのである。

 

 ―――――――つまり、彼らは”鉄”を知らない。

 

 列強国は産業革命の恩恵で一気に発展しており、鉄を加工して作った武器や兵器が工場で次々に組み立てられ、騎士や冒険者たちと共に活躍している。しかもその金属を加工する技術も段々と発達しており、現代の技術を使えば魔物の外殻すら切り裂ける剣やナイフを作ることもできるらしい。

 

 しかしアナリア大陸では、未だに骨や石で造られた棍棒が戦闘の主役なのだ。

 

 もし列強国が狙いをこの大陸に定め、自慢の騎士団を派遣すれば先住民たちが蹂躙されることになるのは想像に難くない。先進国の騎士団の主役は、スチームライフル―――――――前世の世界で例えるならばマスケットだろうか―――――――で武装した戦列歩兵たちなのだから。

 

 よく見ると、先導してくれている少年も腰に小さな木製の棍棒をぶら下げているようだった。子供用の棍棒なのかなと思いながらよく見てみると、先端部には尖った石がいくつか刺さっていて、殴打された敵の肉を剥ぎ取る凶悪なスパイクと化しているのが分かる。

 

 彼も戦士なのだろうか。

 

『ああ、これは俺たちの武器だ。これで遠くにいる敵をやっつけるんだよ』

 

『弓矢なの? マルス族の戦士のやつとはかなり形が違うね』

 

『そうだな』

 

 弓矢じゃないけどね、これは。

 

「お、お兄様…………何の話をしていましたの?」

 

「武器の話だぞ?」

 

 そう答えると、隣を歩いていたカノンは目を見開きながら、こっちを見て首を傾げるマルス族の少年を見下ろす。

 

「お兄様、習得した言語の数はいくつですの?」

 

「うーん…………そろそろ50だなぁ」

 

「ごっ、50ぅ!?」

 

 幼少の頃に、戦うための訓練だけでなく、先進国で使われる言語も両親から教えられていたのだ。ちなみにラウラも一緒に教えてもらっていたんだけど、途中で覚えきれなくなってしまって脱落している。

 

 冒険者はあらゆるダンジョンを調査するのが仕事である。もちろん母国だけでなく隣国や他の国に行ってダンジョンの調査をすることも少なくないので、この世界の公用語がオルトバルカ語になっているとはいえ、他国の言語も身に着けておいた方がいいのである。

 

 というわけで幼少の頃に先進国の言語は全部習得している。カルガニスタンに到着してからは部族の言語を勉強して習得し、アナリアに来る前は先住民たちの言語も勉強してきた。

 

 一応会話することはできるけれど、若干発音が違うみたいだ。発音は練習するしかないな。

 

「変態ですわね、お兄様」

 

「お前には言われたくねえよ」

 

 努力しただけです。

 

 苦笑いしながら、周囲を警戒しつつ歩き続ける。俺やウラルのスタミナにはまだまだ余裕があるが、森の中や密林を歩いた経験のない兵士たちの歩く速度がちょっとずつ落ち始めている。

 

 大丈夫だろうか。もし無理ならば、少年に頼んで休憩させてもらった方がいいかもしれない。

 

「ウラル、前を頼む」

 

「おう」

 

 森を歩いた経験がない上に危険な魔物が徘徊しているのだから、こんなところで脱落してはぐれたら命はない。兵士の脱落は何としても防ぐ必要がある。

 

 先頭をウラルとカノンに任せ、俺はAK-15を抱えたまま隊列の最後尾へと向かう。後ろの方を歩いていた兵士たちは仲間たちについていこうと歩き続けていたけれど、数名の兵士は息を切らしたり、ヘルメットの中から流れてくる汗を拭い去りながら呼吸を整えようとしていた。

 

「ほらほら、しっかりしろ。だらしないぞ」

 

「だ、団長…………」

 

 無理そうだったら休憩させるが、兵士を甘えさせるのもよくない。

 

 兵士たちの後ろを歩き、歩く速度が落ちてきた兵士たちを励ましながら進む。歯を食いしばりながら巨大な樹の根を乗り越える兵士たちを見守りつつ、戻ったらもっと訓練を厳しくした方が良さそうだな、と思った俺は、巨大な倒木をジャンプで飛び越えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アナリア大陸を覆うのは、未だに開拓されていない広大な森である。巨大な樹や美しい植物に支配された幻想的な森の中を獰猛な獣や魔物が徘徊し、哀れな獲物を捕食していく”狩り場”だ。もし列強国の連中がここにやってきたら、真っ先にこの大陸そのものを危険なダンジョンに指定することだろう。

 

 マルス族の村は、その危険地帯(ダンジョン)の真っ只中に鎮座していた。

 

 村の周囲には魔物の侵入を防ぐためなのか、木材で作られた防壁が屹立している。その防壁の上に設けられた見張り台の上には毛皮で作った服を身に纏い、頭に獣や魔物の骨をかぶって弓矢を手にした屈強な男たちが、少年に案内されてやって来たテンプル騎士団の兵士たちを睨みつけていた。

 

 中には塗料を使って、顔や肩に古代文字のような複雑な模様を描いている戦士もいる。

 

 AK-15の安全装置(セーフティ)をかけ、マガジンを外す。コッキングレバーを引いて装填されていた弾丸を排出し、それをポケットに放り込んで、”絶対に銃口から銃弾が出ない”状態にしておく。

 

 彼らと戦うためにやって来たわけではないのだから、うっかり弾丸をぶっ放してしまわないようにしておかなければならない。

 

 俺がそうやってマガジンを外したのを目にした兵士たちが、訓練通りに安全装置(セーフティ)をかけ、マガジンを外してから弾丸を排出する。防壁の上の戦士たちは俺たちが戦う準備を目の前で始めたと思ったらしく、数名の戦士たちが素早く弓矢を構える。けれども得物を背中にすぐに背負ったのを見ると、弓矢を降ろして警戒するのを止めてくれた。

 

『トト、そいつらは何者だ!?』

 

『おじさん、この人たちはテンプルの戦士たちだよ!』

 

『なに?』

 

 指揮官らしきダークエルフの男性がちらりとこっちを見る。俺はライフルを背中に背負い、武器を手に持っていないことをアピールするために両手を上げながら門の前へと歩いた。たちまち防壁の上の戦士たちが俺1人を睨みつけつつ、警戒心の集中砲火をぶちかましてくる。

 

 彼らを刺激すれば、先遣隊が築いた信頼関係が台無しになる。

 

『あなた方の族長に挨拶に来た。戦うつもりはない』

 

『ほう…………我らの言葉を話せるのか』

 

 発音は自信ないけどね。

 

『…………よかろう。おい、門を開けてやれ』

 

『いいのか?』

 

『ああ。それに、テンプルの戦士が”俺たちの長が挨拶に来る”と言っていた。確か、”蒼い髪の女”らしい』

 

 …………ちょっと待て、先遣隊の奴らまで俺の性別を間違えたのか!?

 

 兵士たちが間違ったことを教えていたことにぎょっとしているうちに、分厚い木製の門がゆっくりと開き始めた。周囲の巨大な樹を切り倒して加工した木製の門を内側へと引っ張っていくのは、がっちりした筋肉で覆われたオークの巨漢たち。彼らの肩や頭には白い塗料で古代文字らしき模様が描かれているのが見える。

 

 同志にまで性別を間違えられていた事にショックを受けてたんだが―――――――完全に開いた門の向こうから溢れてきた甘い香りを嗅いだ途端、俺や兵士たちは一斉に目を見開いた。

 

「!」

 

「おお…………!」

 

 マルス族の村は、防壁の外から見れば武骨な城郭都市にしか見えない。分厚い木製の防壁で守られている上に、その上には接近してくる敵を威圧し、その威嚇を無視した敵を無慈悲に射抜く戦士たちがいるのだから、まるで巨大な要塞にも似た威圧感を放っている。

 

 しかし防壁の内側は―――――――真逆の光景が広がっていた。

 

 てっきり木材で作った戦士たちの宿舎のような建物がずらりと並び、住民たちの家や家畜小屋が連なる光景を想像してたんだが、防壁の中は思ったよりも華やかだったのである。

 

 木製の建物の周囲に設けられた花壇から伸びるのは、様々な色の美しい花たち。豊富な木材で作られた家の窓際にも小さな植木鉢が置かれており、そこからは甘い香りを放つコバルトブルーの小さな花が顔を出している。

 

 村の中にも小さめの樹が植えられており、その根元では毛皮の服に身を包んだオークやダークエルフの子供たちが楽しそうに駆け回っていた。

 

 美しい花や植物に彩られた楽園である。

 

「綺麗だ…………」

 

 カメラを持ってくればよかったと思ったけど、この世界のカメラはまだ白黒写真だからなぁ…………。早くカラーのカメラを発明してほしいものである。

 

 写真撮影を諦めた俺の近くに、防壁の上から飛び降りた中年の男性が着地する。人間だったら40代後半くらいに見えるけれど、肌が浅黒く手耳が長いから彼はダークエルフなのだろう。ダークエルフの寿命は人間よりもはるかに長いので、100歳だというのに一見すると人間の若者と変わらない容姿の者も多いという。

 

 老いているのだから、この戦士はダークエルフの中では歳をとっている方なのだろう。

 

『ようこそ、”マルスの里”へ』

 

『迎え入れてくれてありがとう。俺はテンプルの戦士の長のタクヤ・ハヤカワだ』

 

『俺は”ダルダ”。警備隊長をやってる』

 

 そう言いながらでっかい手を差し出してくるダルダ。でっかい棍棒を長年振るっているからなのか、彼の浅黒い手のひらはかなりがっちりしていた。手のひらに複合装甲でも搭載しているのではないだろうか。

 

『さっきは悪かったな、見たこともない服装だったから…………』

 

『いや、こっちもややこしい事をしてしまった。謝罪する』

 

『気にしないでくれよ。それより、族長と話があるんだって?』

 

『ああ、挨拶に来た。土地を与えてもらったんだから、ちゃんと挨拶しておかないと失礼だからな』

 

 礼節は大切だ。もちろん、そういうマナーについても幼少の頃に両親から教わっているし、貴族のパーティーに何度も出席したから身についている。

 

『分かった、では族長の所へ案内する』

 

『ありがとう』

 

 そう言いながら歩き始めるダルダ。防壁の上にいた戦士たちも俺たちが味方だという事を理解してくれたらしく、警戒心を向けるのを止めてこっちに手を振ってくれている。

 

 よし、これで族長に会えるな。失礼なことを言わないように気を付けると。

 

 なんだか緊張してきた……女王陛下と話をする時は緊張しないのに。

 

 拳を握り締めて呼吸を整え、ダルダの後ろを歩き続ける。

 

 隣を歩いているカノンは俺が緊張しているという事を見抜いたのか、こっちを見ながら微笑んでいた。

 

 

 

 

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