異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
偵察部隊の報告では、やはり魔物の数は50体ほどだったという。
群れを構成している魔物は、ゴブリンとサイクロプスの2種類。ゴブリンはオルトバルカに生息しているものとは基本的に変わらないが、体格が一回り大きく、身体にはがっちりした筋肉がついていたという。とはいえ人間の子供程度の身長で動きも他国のゴブリンと大きな変化はなかったらしいので、こっちには対策を用意しておく必要はないだろう。
もう1種類の魔物は、アナリア大陸に生息している”サイクロプス”と呼ばれる大型の魔物だ。
身長はおよそ5m。眉間には、まるで頭蓋骨に穿たれた大穴を思わせる大きな眼球が1つだけ鎮座しており、巨躯はゴーレムよりもがっちりとした筋肉に覆われているという。ゴーレムやアラクネとは違って外殻に覆われているわけではないらしいので、小口径の弾丸でも集中砲火をぶちかませば倒すことは難しくない筈だ。
しかし、知性はゴーレムよりも高いらしく――――――――巨大な倒木を肩に担いでいたという。
おそらく棍棒の代わりのつもりなのだろう。
偵察部隊が撮影した写真を見つめながら、俺は目を細める。
「…………よし、よくやってくれた。では同志諸君も戦闘配置に」
「「「はっ!」」」
魔物の群れを偵察して戻ってきてくれた兵士たちは、敬礼をしてから腰に下げている折り畳み式のスコップを引き抜き、他の兵士たちと共に対戦車地雷を地面に埋め始める。
ゴブリンが踏んでも作動はしないが、頑丈な筋肉に覆われたサイクロプスがこいつを踏みつければ、きっとパーティーが始まるに違いない。戦車を破壊したり擱座させるほどの破壊力があるのだから、装甲で覆われていない魔物が木っ端微塵になるのは想像に難くない。
傍らにいるカノンに白黒の写真を渡し、俺はメニュー画面を開く。迫撃砲の砲弾をいくつか用意した俺は、スコップで穴を掘ってから対戦車地雷と一緒にその迫撃砲の砲弾やC4爆弾を埋め始めた。
「お兄様、迫撃砲の砲弾で何をするおつもりですの?」
「ちょっと地雷をアレンジしようと思いましてね」
「アレンジ?」
地雷を生めておくだけでも、進撃してくるサイクロプスに大打撃を与えることはできるだろう。けれども砲弾を一緒に埋めておけば爆発の範囲はさらに広がり、サイクロプスを確実に始末できる上に周囲のゴブリンにも損害を与える事ができるようになるはずだ。
基本的に、迫撃砲の砲弾は貫通力よりも爆発の範囲を重視して設計されている。なので対戦車地雷と一緒に複数の砲弾を埋めておけば、こいつが起爆すると同時に凄まじい爆発が生じることになる。
ゴーレムのような大型の魔物とゴブリンのような小型の魔物の群れは、密集して進撃してくる事が多い。そのため掃討のために出撃した部隊では、より効率よく魔物の群れを排除するためにこうやって地雷と一緒に榴弾などの砲弾を埋めることが多いという。
実際に、偵察部隊が撮影した写真ではサイクロプスの周囲に5体から8体のゴブリンが、まるで戦車や装甲車を護衛する歩兵のように密集していた。簡単に言うと大型の魔物が戦車で、小型の魔物が随伴歩兵である。
それにC4爆弾を一緒に設置しておけば、仮にサイクロプスが地雷を踏まなくてもこちらで起爆できるので、地雷のすぐ近くを通過した瞬間に起爆して損害を与えることもできる。
「同志、地雷の設置が完了しました」
「よし…………」
防衛ラインの準備もできている。とは言ってもちゃんとした塹壕を掘って機関銃や迫撃砲を設置したわけではなく、ただ単に4人ずつの兵士で臨時の分隊を編成し、他の分隊と適度に距離を置きながら魔物の群れの待ち伏せをしているだけだが。
高い樹が乱立しているせいで砲弾が幹に激突する恐れがあるので、迫撃砲を使うことはできない。しかも周囲には地面から突き出た巨大な根が屹立しているため、戦車に支援して貰ったり、装甲車の機関砲で敵を薙ぎ払う事も不可能だ。頭上の枝も十重二十重に連なっているので、航空機に支援を要請するのも難しい。
要するに、歩兵の装備した武器の火力だけで何とかするしかない。
100体くらいの群れだったら厄介だったかもしれないが、50体くらいなら10分以内で終わるだろう。
カノンと一緒に地面から突き出た巨大な樹の根へと向かう。大人の男性を押し潰してしまえるほど巨大な樹の根のトンネルの下では既にウラルが伏せた状態で待機しており、魔物たちが進撃してくる方向を双眼鏡でひたすら睨みつけていた。
「見えた?」
「まだだ」
ウラルの隣に伏せ、OSV-96の長大な銃身を展開。マガジンを外してコッキングレバーを引き、装填されていた弾丸を排出してから、紅いラインが刻まれたマガジンを装着する。
この紅いラインが刻まれたマガジンは、徹甲弾が装填されたマガジンだ。
バイポッドを展開し、銃床に折り畳んだ状態で取り付けられているモノポッドも展開。スコープは既に調整してあるから、このままでも大丈夫だろう。
カノンも同じく俺の隣に伏せて、SVK-12のバイポッドを展開する。
「サイクロプスは俺が狙う」
「ではわたくしは小物を」
「ウラル、観測手(スポッター)は頼んだ」
「はいよ。…………見えたぞ」
もう魔物の群れがやって来たのか。
全然臭いはしなかったぞ、と思いつつスコープを覗き込んだ俺は、魔物たちが襲撃してくる方向が風下になっていたことに気付いて唇を噛み締めた。この嗅覚は便利な能力だが、こいつの索敵の精度は風向きに左右されてしまう。ラウラのエコーロケーションのように正確に標的の位置を知ることはできない。
スコープを覗き込むと、確かに巨大な樹の向こうからでっかい魔物が進撃してくるのが見えた。
まるで頭蓋骨の前部を一気にくり抜き、そのくり抜いた部分に巨大な眼球をぶち込んだかのような魔物が、2mくらいの長さの倒木を棍棒のように肩に担ぎ、無数のゴブリンたちを引き連れて進撃してくる。屈強そうな筋肉で覆われた身体の表面からは茶色い体毛が伸びており、ゆっくりと前進する度に、その体毛がまるでイソギンチャクの触手のようにたなびいている。
あれがサイクロプスか。
数は4体のみ。その周囲にゴブリンたちがいて、随伴歩兵のようにサイクロプスたちを護衛しているのが見える。
「魔物たちの接近を確認。みんな、見えるか?」
『こちらアルファ1、見えます』
『ブラボー1も確認。でかいッスね』
『チャーリー1、確認』
『デルタ1、確認しました』
『エコー1も確認』
スコープを覗き込みつつ、左手をポケットの中の起爆スイッチへと伸ばす。
あのサイクロプスが地雷を踏んでくれれば不要だが、もし地雷の近くを通過することになったらこいつを起爆させて地雷と砲弾を強制的に爆発させることになるだろう。地雷を埋めた位置も全部暗記しているので、どの起爆スイッチを押せばどこの地雷が爆発するのかは容易に予想できる。
「よし、地雷の爆発と同時に攻撃開始だ。アルファ、ブラボー、チャーリーはゴブリンを薙ぎ払え。デルタ、エコーはサイクロプスを攻撃。対戦車榴弾で抉ってやるんだ」
『『『『『了解(ダー)!』』』』』
デルタチームとエコーチームにはRPG-7を支給している。他の分隊には、使用する弾薬を14.5mm弾に変更したKord重機関銃をついさっき1丁ずつ支給しているので、ゴブリンの群れを薙ぎ払うのは容易いだろう。その気になればサイクロプスへの集中砲火もできる筈だ。
サイクロプスたちが、唸り声を発しながら接近してくる。すると、先頭を進んでいたサイクロプスの内の1体が唐突に棍棒を振り上げたかと思うと、こっちに向かっていきなり走り始めた。
―――――――ゴーレムよりも速いな。
防御力はあまり高くなさそうだが、その代わりにスピードが速いってことか。面倒な奴だ。
隣でスコープを覗き込んでいたカノンが、ぎょっとしながらスコープから目を離す。確かにあんな巨体が予想以上のスピードで動き始めれば、熟練の騎士でも狼狽するだろう。
けれども、俺はそのままスコープを覗き込み続ける。
「お、お兄様、すぐ移動を――――――――」
「狼狽えるな」
ニヤリと笑ったまま、俺は彼女に告げた。
そう、狼狽える必要はない。
いきなりダッシュしたという事は―――――――真っ先に餌食になるという事なのだから。
すると、雄叫びを上げながら走り始めたサイクロプスの足元で―――――――緋色の爆炎が産声を上げた。
戦車を破壊するほどの爆発がサイクロプスの右足を突き上げ、そのまま爆炎で片足を捥ぎ取ってしまう。1個の対戦車地雷と一緒に埋められていた4発の迫撃砲の砲弾を浴びる羽目になったサイクロプスは、身体中を爆炎と破片の奔流でズタズタにされる羽目になった。
いきなり走り始めたサイクロプスに追いつくために走っていたゴブリンたちも、護衛していたサイクロプスと同じ運命を辿る羽目になる。砲弾も一緒に埋めたことによって爆発範囲が一気に広がった対戦車地雷の爆発に巻き込まれて木っ端微塵になったり、弾丸のように飛来した破片に頭を貫かれ、次々に絶命していく。
後続の魔物たちがいきなり生まれた火柱を目の当たりにして驚愕し、動きを止める。
その動きを止めたサイクロプスたちに―――――――デルタチームとエコーチームから放たれたRPG-7の対戦車榴弾が襲い掛かった。
さすがに最新型の対戦車ミサイルや無反動砲と比べると火力は低いが、信頼性が高くて扱いやすい兵器である。それに火力が低いとはいえ、この異世界の魔物にはかなり大きなダメージを与えてくれる。
ソ連で生み出されたロケットランチャーが、アナリア大陸でも猛威を振るった。
対戦車榴弾がサイクロプスの胸板に激突し、メタルジェットと爆炎でがっちりした胸板を抉る。大穴を開けられたサイクロプスは口から血を吐き出しながらもまだ咆哮を発するが、その怒りを俺たちにぶちまけるよりも先に、後続の対戦車榴弾が眉間の巨大な目を直撃していた。
ぐちゅ、と柔らかい眼球が砕け散り、眼球の破片や鮮血が周囲に舞い散る。更にその対戦車榴弾が起爆し、メタルジェットで容赦なく脳味噌を貫く。
びくん、と痙攣してから、そのサイクロプスは仰向けに崩れ落ちていった。
それを確認した他の分隊が、AK-15やKord重機関銃での掃射を開始する。薄暗い森の中で立て続けにマズルフラッシュが煌き始めると、14.5mm弾と7.62mm弾の群れが幹の乱立する森の中を疾駆し、小柄なゴブリンたちの身体を的確に捥ぎ取っていった。
7.62mm弾は5.56mm弾よりも反動が大きく扱いにくい弾丸だが、その分破壊力とストッピングパワーではこっちの方が上だ。対人戦だけでなく魔物との戦いでも猛威を居振るうので、テンプル騎士団だけでなくモリガン・カンパニーでも正式採用している。
更に14.5mm弾は、かつては対戦車ライフルの弾薬にも使用されており、第二次世界大戦でドイツの戦車部隊に猛威を振るっている。そんな代物をフルオートでぶちかます事ができるのだから、どれほどの破壊力なのかは言うまでもないだろう。
隣に伏せているカノンも、射程距離内に入ったことを確認して狙撃を開始する。彼女の装備はセミオートマチック式のマークスマンライフルなので、命中精度では劣るがボルトアクション式のライフルよりははるかに連射速度が速い。
だが、彼女の連射速度は尋常ではなかった。
「…………」
エロ本を読んでニヤニヤしているド変態とは思えないほど集中し、スコープの向こうを睨みつけるカノン。カレンさんから受け継いだ中距離狙撃の技術が、ゴブリンたちに牙を剥く。
トリガーを引いたかと思えばすぐにライフルを動かし、別の標的に照準を合わせて発砲。まるで1つの標的にこれでもかというほど弾丸を叩き込んでいるかのように連続で射撃し、ゴブリンたちの頭を正確に射抜いていく。
彼女の餌食になったゴブリンたちは、まるで機関銃に掃射された歩兵の集団のように、次々に7.62mm弾に頭を砕かれて倒れていった。
彼女の母であるカレンさんは、かつてはモリガンで選抜射手(マークスマン)を担当していた。中距離での狙撃の技術はモリガンの傭兵の中でもトップクラスで、親父が言うには『早撃ちと狙撃を融合したかのような射撃』だったという。
カノンは、そんな技術を母親から受け継いだのだ。
立て続けにエジェクション・ポートから排出される弾丸をちらりと見てぞくりとしつつ、それも狙撃を始める。
目標は、サイクロプスの眼球だ。なんか弱点っぽいからな。
というわけで、お構いなしに眼球へと14.5mm徹甲弾をお見舞いする。隣で狙撃するカノンの7.62mm弾よりも巨大な弾丸が猛烈な銃声を轟かせ、マズルフラッシュで薄暗い森を彩る。
弾丸はスコープのレティクルを合わせた通りの場所を直撃すると―――――――眼球に弾丸を叩き込まれたサイクロプスが、苦しそうに絶叫した。
『グォォォォォォォォォォ!?』
「命中」
「やっぱり弱点か」
さすがに眼球は脆いみたいだな。
「各員、サイクロプスの目を狙え。弱点みたいだぞ」
「タクヤ、目標はまだ生きてる」
「はいよ」
左腕で目を押さえつつ、右腕を振り回し始めるサイクロプス。さすがに眼球は狙えないことを確認して舌打ちしてから、レティクルを腕に合わせてからトリガーを引いた。
徹甲弾が腕の筋肉を的確に食い破る。絶叫していたサイクロプスの腕を強制的に退けてから、今度こそ眼球へと照準を合わせて発砲する。
血で真っ赤になっていた眼球に2発目の徹甲弾が喰らい付く。さすがに2発の徹甲弾には耐えられなかったらしく、そのサイクロプスは眼球から血涙を流しながら崩れ落ちていった。
すると、別の分隊がそいつを狙っていたらしく、これから崩れ落ちていくサイクロプスに対戦車榴弾が激突する。既に力尽きていたのに対戦車榴弾をお見舞いされることになったサイクロプスは、呻き声すら上げずに肉片を撒き散らし力尽きてしまった。
「オーバーキルだぞ」
『すいません、やり過ぎですね』
おいおい、対戦車榴弾を無駄使いするなよ…………。
苦笑いしながら、俺は続けて別のサイクロプスを狙撃する。弱点は眼球らしいので、眼球を狙撃すればアンチマテリアルライフルでも仕留められるだろう。仕留め切れなくても視力を奪うことはできる筈だ。
トリガーを引いた直後、レティクルの向こうでまたしてもサイクロプスが苦しそうに咆哮を発した。
殲滅できるのは時間の問題だなと思いつつ、俺はお構いなしに眼球へともう1発徹甲弾をお見舞いするのだった。