異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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メウンサルバ遺跡

 

 気色悪い植物に覆い尽くされた薄暗い森の中心部に、石柱が屹立していた。ところどころ崩れ落ち、イソギンチャクを思わせる奇妙な花を咲かせるツタのような植物に絡み付かれたその石柱には、掠れているが古代文字のようなものが刻まれており、それが遺跡の一部であるということを告げていた。

 

 同じデザインの石柱が、その奥にも何本か並んでいる。中には倒壊してしまっている者もあるようだったが、どうやら俺たちは道に迷わずにここに辿り着く事ができたらしい。

 

「到着したみたいですわね」

 

「注意しろ。魔物がいるかもしれないぞ」

 

「ふにゅ、大丈夫だよ。ソナーには反応はなかったし―――――」

 

 先ほどから、何度もラウラはエコーロケーションを使って敵の索敵を行ってくれていた。探知できる範囲を広げると索敵の制度が落ちるため、定期的に範囲を変えて何度も索敵を繰り返してもらっていたんだが、未だに魔物や他の冒険者と思われる反応はない。

 

 それに、ここは前に教会の兵士たちが魔物を掃討している場所だ。既に生息していた魔物たちは殆ど壊滅しており、遭遇する確率も極めて低いという。事前に管理局の宿泊施設で収集しておいた情報を思い出したが、俺はまだ違和感を感じていた。

 

 もし、先ほどステラが言っていたように街の廃棄物や排煙で突然変異を起こした新種の魔物が、この辺りに生息していたら非常に危険だからだ。当然だが、新種と戦った事例がないのならばその魔物の攻撃手段や弱点などの情報はない。戦いながら自分たちで情報を集め、レポートに書いて提出するしかないのである。

 

 だから新種と戦う羽目になる冒険者は、基本的に貧乏くじを引く運命になるのだ。

 

 俺が危惧しているのはその新種の魔物がいるかもしれないという事なんだが、魔物の中には植物のような姿をした魔物も存在する。植物と同じく地面に生えている巨大な魔物や、ゴブリンのように襲い掛かって来る小型の魔物も存在するんだが、そういった魔物は基本的に森林地帯の最深部に生息している。

 

 その生息している可能性のある場所は、このメウンサルバ遺跡の外も当てはまるのではないだろうか。その仮説が次々に違和感を生み出し、俺の警戒心を守っているようだった。

 

 もし、ラウラの超音波が捉えていたのは魔物ではなく、植物のように擬態した魔物や地面から生えているタイプの魔物だったならば、いきなり奇襲を仕掛けてくる事もあるのだ。だから油断するわけにはいかない。

 

 ランタンで遺跡の外を照らし出しつつ、周囲を警戒する。

 

 遺跡の外には魔物は見当たらない。見当たるならばとっくにラウラが感知している筈だ。擬態しているような奴も見当たらないし、植物といっても石柱に絡み付いているイソギンチャクみたいなグロテスクな植物だけだ。

 

「タクヤ、考え過ぎなんじゃない?」

 

「うーん………でも、まだ違和感が消えないんだよねぇ………」

 

 おかしいな。

 

 そう思いながらAK-12を下げ、首を傾げながら歩き始める。警戒し過ぎていただけだったのだろうかと思いながら、とりあえず遺跡の入口を探す事にした。

 

 石柱はまるで大通りの街路樹のように並んでいるから、この石柱の間を通っていけば入口がある事だろう。ここで天秤のヒントを得る事ができれば、冒険者同士の本格的な争奪戦が始まる前に天秤を探す事ができるのである。

 

 だから、そのアドバンテージを何としても手に入れなければならなかった。

 

「あっ、あそこが入口じゃない?」

 

「ん?」

 

 すると、サイガ12を構えていたナタリアが石柱の列の奥を指差した。相変わらずイソギンチャクのようなグロテスクな植物に絡み付かれた石柱の隊列の向こうには、苔で覆われた階段のようなものがある。それほど高くないその階段の向こうには石で作られた建造物が鎮座していて、石柱や階段のように植物に覆われている。

 

 入口は正面にあるようだが、その入り口にもゴーレムの胴体のように太いツタが絡みついている。まずあれを取り除かないと、遺跡の中には入れそうにない。

 

 調査する前にあんな太いツタを斬りおとさなければならないのかと面倒くさがりながら、アサルトライフルを腰の後ろに下げて大型ワスプナイフを引き抜く。普通ならば俺のナイフよりもラウラの持つトマホークの方が太い木やツタを斬りおとす際は適任なのだが、俺には巨躯解体(ブッチャー・タイム)という強力な能力がある。

 

 高周波によって振動を発生させ、手にした刃物の切れ味を劇的に強化する事ができるこの能力ならば、普通のナイフでも日本刀を上回る切れ味になる。だから何度もトマホークをツタに叩き付けるより、この能力を使って両断した方が速いのだ。

 

 漆黒の刀身を鞘から引き抜き、ツタを切り裂くために巨躯解体(ブッチャー・タイム)を発動させようとしたその時、入り口をふさいでいた邪魔な太いツタが、ぴくりと動いたような気がした。

 

 風で動いたのかと思ったが、風は吹いていない。

 

 すると、先ほど感じた違和感が再び俺を包み込み始めた。このツタは普通のツタなのだろうか? 普通のツタに擬態した魔物なのではないか?

 

 擬態した状態では、ラウラはソナーを使ってそれを探知しても植物に擬態した魔物を植物だと認識してしまう。あくまでもラウラのエコーロケーションは、超音波を使って敵を探知するためのソナーであり、敵の姿を見て探知するような方法ではないのである。

 

 仮説を一瞬で立てた瞬間、俺はナイフを構えながら後へとジャンプした。

 

 その直後、鞭にも似た抹茶色の何かが俺の目の前を通過し、脇に立っていた石柱を打ち据えた。まるで細長いゴムを鉄板に叩き付けたような乾いた音が遺跡中に響き渡り、その鞭の攻撃を喰らった石柱が倒壊していく。

 

「た、タクヤ!?」

 

「気を付けろ、敵だッ!」

 

 着地しつつ左手で大型ソードブレイカーを引き抜きつつ逆手持ちにし、たった今石柱を叩き壊した敵を睨みつける。

 

 俺が睨みつけていたのは、その入り口をふさいでいた巨大なツタだった。ゴーレムの胴体のように太いそのツタは、まるで森の中に生えている巨木のようだ。だがそれから伸びているのは木の枝ではなく同色の細いツタで、下の方には巨木の根を思わせる触手のような物が生えている。

 

 擬態を見破られたうえに攻撃を回避され、もう擬態を続ける意味はないと判断したのだろうか。入口にへばりついていたその植物は遺跡の壁から自分の身体を引き剥がすと、いたる所から生えたツタのような触手を振り上げて威嚇を始めた。

 

 入口の扉にへばりついていたのは、やはり植物型の魔物だった。道を塞いでいた胴体の上には、食虫植物であるハエトリグサを思わせる円盤状の頭があり、巨大な口の中には針のように細い牙が何本も生えている。その巨大な口で魔物や冒険者を捕食すると思いきや、腰の辺りにはまるで人間がポーチを下げているかのように、ウツボカズラのような袋状の物体がぶら下げられている。その袋の中から流れ出ているのは、メープルシロップのような甘い香りだ。

 

 胴体から伸びる2本のひときわ太いツタは先端部のほうで枝分かれしており、無数の抹茶色の触手になっている。そして足元から生えているのは、巨木の根を思わせる太い触手の群れである。

 

 まるで複数の食虫植物を合体させ、それを巨大化させたような植物の魔物が、俺たちの目の前に立ちはだかっていた。

 

「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「き、キモっ………」

 

 スナイパーライフルを構えながら驚愕するラウラ。彼女の傍らでショットガンを構えていたナタリアも、その醜悪な食虫植物の集合体のような魔物を見上げながら顔をしかめる。

 

 大きさは7mくらいだが、触手は非常に長い。おそらく腕のような触手は10mくらいはあるだろう。そしてこいつの主食が昆虫ではなく、人間であることは火を見るよりも明らかだ。

 

『ピュウウウウウウウウウウウウッ!』

 

「………カノン、観賞用にどう?」

 

「い、要りませんわ。………あ、そういえばそろそろリキヤおじさまの誕生日なのでは?」

 

「親父はエリスさんの愛妻弁当でダメージ受けてるし………こいつで追撃するのは可哀想だろ」

 

 カノンに冗談を言っていると、傍らでこの怪物を見上げていたステラが自分の口元を拭い、目を輝かせ始めた。

 

「す、ステラ?」

 

「タクヤ、この植物は食べれるでしょうか?」

 

 ………えっ? 

 

 まさかお前、これ食うつもりなの………?

 

「あ、明らかに食えねえだろ………」

 

「ですが、アロエという植物は食べる事ができると聞いたことがあります」

 

 アロエは食べれるけど、これは明らかに食えないだろ。でっかい口の牙の間からは紫色のよだれが垂れてるし、あの腰のウツボカズラみたいなやつの中に入ってるのって、きっとシロップじゃなくて消化液とか酸だぞ? 

 

 これ食ったら死ぬんじゃないか? 

 

「止めとけ、ステラ。とっとと倒して先に――――――」

 

「――――――いただきます」

 

「す、ステラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 これ食うつもりなのかよ!?

 

 グレネードランチャーとスパイク型銃剣付きのRPK-12を担いだまま走り出したステラは、走りながらスパイク型銃剣を展開しつつよだれを拭い去り、キャリングハンドルを小さな左手で掴んで発砲する。

 

 俺は先に進むためにこの魔物を倒そうとしてたんだが、どうやらステラはこいつを食うために倒そうとしているらしい。………もしかして、調理は俺の仕事なのか?

 

 7.62mm弾が命中した細い触手が弾け飛び、ピンク色の粘液のような血液が噴き上がる。どうやらドラゴンやゴーレムのように外殻は持っていないらしく、防御力は高くないようだ。5.56mm弾を上回る破壊力の7.62mm弾ならば容易く貫通できるだろう。

 

『ピィィィィィィィィィィィィィィィィッ!』

 

 よだれを流しながら絶叫し、接近してくるステラを威嚇する魔物。しかし、このグロテスクな植物の魔物を仕留めて食べようとしているステラにとって、この巨大な魔物はこれから肉食動物に捕食される草食動物でしかない。

 

 7.62mm弾の射撃によって少しずつ触手を引き千切りながら肉薄していくステラは、まるでホワイトタイガーのようだった。

 

 すると、魔物は残っている触手を腰の袋の中へと突っ込んだ。腰についているウツボカズラのような袋の中からどろりとした粘液の塊を取り出した魔物は、まるで手榴弾を投げるかのように触手を振り払い、酸性の粘液をステラに向かってまき散らす。

 

 香りはメープルシロップのようだが、その粘液が付着した地面や石柱は、紫色の気味の悪い煙を発しながら融解していく。甘い香りとは裏腹に、あの粘液は極めて強力な酸らしい。

 

 しかし、その強力な酸を目の当たりにしたステラは飛散した酸性の粘液の散弾をあっさりと回避しつつ、今の一撃を繰り出した直後の魔物に向かって、銃身の下に装着されているグレネードランチャーのトリガーを押した。

 

 ポーランド製グレネードランチャーのwz.1974パラドから放たれた40mmグレネード弾は、振り払われたばかりの触手の群れをすり抜けると、抹茶色のツタのような胴体の左側へと落下し――――――――腰にぶら下がっている消化液の入った袋に着弾した。

 

 薄い袋を突き破り、消化液の中で爆発したグレネード弾が、ウツボカズラを思わせる消化液の袋を内側から吹き飛ばす。体液と消火液が混じった無数の飛沫を至近距離で浴びた魔物は、自分の消化液で身体を溶かされる羽目になり、絶叫しながら触手を振り回す。

 

 グレネードランチャーの一撃で袋を狙い、ステラは敵の消化液を使って逆に大ダメージを与えたのである。巧い戦い方だが、彼女に銃の使い方を教えたのは数週間前だ。何度か実戦を経験しているが、彼女はもう現代兵器を使いこなしているというのか。

 

 サキュバスの学習能力は、人間やエルフを遥かに上回っているようだ。

 

「すげえ………」

 

「ふにゃあ………!」

 

 先ほどまでは援護しようと思っていたんだが、ステラが巨大な植物を圧倒しているのを見ていた俺たちは、もう援護する必要はないだろうと判断していた。

 

 消化液を至近距離で浴び、死にかけている魔物に向かって攻撃しても無駄である。だからこのまま、ステラに任せた方が良い。

 

 がむしゃらに振り払い続ける触手たちをすり抜け、ジャンプして魔物の頭の上に降り立ったステラは、左手でもう一度よだれを拭い去ってからスパイク型銃剣を突き刺し、トリガーを引いた。

 

 至近距離で7.62mm弾のフルオート射撃が叩き込まれる。反動が大きな弾丸だが、スパイク型銃剣を突き立てている上に至近距離ならば、反動が大きくても関係ない。猛烈なストッピングパワーと貫通力を魔物の頭に捻じ込み続け、ハエトリグサに似た頭をズタズタに食い破っていく弾丸たち。魔物の頭を弾丸で抉るステラは、マズルフラッシュに照らし出されながら笑っていた。

 

 まるで、小さな子供がおやつを見て喜ぶかのように。

 

 マズルフラッシュが消え、銃弾の連射も終わる。ドラムマガジンの中の弾丸を全て至近距離で叩き込まれた魔物は、口から体液の混じった涎を噴き出すと、足掻くようにもう一度だけ触手を振り回してから、崩れ落ちていった。

 

「やりました」

 

「ひ、1人で倒しやがった………」

 

 ドラムマガジンを交換しながら微笑むステラを見つめながら、俺たちは呆然としていた。

 

 新種と思われる厄介な魔物を、たった1人で倒してしまったのだから。

 

 驚愕している俺たちの前で、ステラは近くに落ちていたさっきの魔物の触手と思われる肉片を拾い上げると、匂いを嗅いでから首を傾げた。彼女はまだあの魔物を食べるつもりなんだろうか?

 

 ピンク色のアロエのような肉片を小さな口へと近付ける。俺やナタリアははっとして止めようとしたが、彼女から肉片を奪い取るよりも先にステラは魔物の肉片を齧り、咀嚼を始めていた。

 

 もしかしたら毒があるかもしれないじゃないか! 新種だぞ!?

 

「は、吐き出せ! ステラ、危ないぞ!」

 

「そうよ! いくらサキュバスでも―――――――」

 

「―――――――タクヤ」

 

 咀嚼を続ける彼女の肩を掴み、吐き出させようとするナタリア。するとステラは傍らにいる俺の顔を見上げ、咀嚼を止めた。

 

「ん?」

 

 先ほどまでは楽しそうに微笑んでいたのだが、今の彼女はまるで子供が嫌いな野菜を口に入れた時のような顔をしている。

 

「―――――これ、美味しくないです」

 

「………」

 

 よだれのついたピンク色の肉片を吐き出す彼女を見下ろしながら、俺とナタリアは再び呆然としてしまった。

 

 

 

 

 おまけ

 

 悩み事

 

ナタリア「キメラの身体って便利よね。硬化できるし、ラウラは索敵ができるんだから」

 

ラウラ「えへへっ。これでタクヤの居場所もすぐに分かるのっ♪」

 

タクヤ「でも、この身体は不便だぞ?」

 

ナタリア「え? なんで?」

 

タクヤ「だって、俺の顔つきって母さんに似てるせいで女っぽいじゃん」

 

ナタリア「ええ」

 

タクヤ「だからトイレに行く時、男子トイレに行くと他の人が滅茶苦茶驚いてるんだよね」

 

ナタリア「………」

 

タクヤ「温泉に行った時も、どっちに入ればいいのか分からないし………」

 

ナタリア(タクヤって大変なのね………)

 

エミリア(すまん、タクヤ………)

 

 

 完

 

 

 

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