異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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魔法の天秤と3つの鍵

 

「ぷはっ………。ごちそうさまでした、タクヤ」

 

「お、おう………………」

 

 口の周りについた唾液を拭ったステラは、いつも食事を終えた時のようにうっとりしながらお腹をさすり始める。俺たちと同じ食べ物を食べた後ではなく、彼女にとって本当の食事を終えた後の彼女の癖だ。

 

 魔力を主食とするサキュバスは、人間たちと同じ食べ物を口にすることは出来るんだが、どれだけ食べても満腹感は感じることがないらしい。しかも栄養も接種することができないため、普通の料理を口にするのは彼女たちにとって食事ではなく、料理の味を楽しむ娯楽の1つでしかない。

 

 上にのしかかりながらお腹をさすっていたステラは、ぺろりと俺の頬を小さな舌で舐め回すと、まるでいつもラウラが甘えてくる時のように両手を絡み付かせてしがみついてきた。

 

 ステラも甘い匂いがするけど、ラウラとは違う匂いだ。ラウラは花と石鹸が混じったような匂いがするんだけど、ステラは純粋に花の匂いがする。まるで花畑で横になって昼寝をしている気分だ。

 

「もうお腹いっぱいかな?」

 

 魔力を消耗し過ぎると、全身に全く力が入らなくなる。疲労感と全く同じだ。だからステラに魔力(ご飯)をあげた後は、いつも身体が動かない。この隙に毎回ステラは甘えてくるのだ。

 

 呼吸を整えながらステラに尋ねると、彼女はまだ動けない俺に頬ずりしてから、また親の猫に甘える子猫のように頬を舌で舐めてくる。

 

「ええ、もうお腹いっぱいです。ですから今回はデザートは要りませんね」

 

「そ、そうか」

 

 ちなみに食事の時は、俺がメインディッシュでラウラがデザート扱いらしい。

 

 デザートは要らないって言ったばかりなんだが、彼女が触手のように伸ばしている長い銀髪はラウラに絡み付いたままだ。手足に絡み付いて彼女を押さえつけつつ、ラウラの大きな胸を何度も揉み続けている。

 

「す、ステラちゃん……やめっ………ふにゃあっ!?」

 

「ふふっ………」

 

「で、デザートは要らないんだろ?」

 

「ええ。でも、ラウラも可愛いので………やっぱり、デザートもいただきます」

 

「ふにゃあ!?」

 

 俺の上から静かに下り、自分の唇を人差し指で撫でながらラウラの方にゆっくりと近付いていくステラ。彼女の髪に拘束されているラウラは必死にじたばたするけど、キメラの筋力でも全くステラの髪が解ける様子はない。

 

 魔力を吸われたばかりなので、全く力が入らない。だからお姉ちゃんを助けることは出来ないんだよ。他の仲間たちもステラの体質を知っているから、全く咎める様子はない。ナタリアは顔を赤くしながら襲われるラウラを見守っているし、カノンは「ああ、お姉様が襲われる………!」と興奮しながら凝視している。

 

 まともな奴はナタリアだけかよ。

 

「では、いただきます」

 

「ま、待ってステラちゃん――――――むぐぅっ!?」

 

 顔を赤くしているラウラにしがみつき、そのまま唇を奪うステラ。唇を押し付けながら舌を絡み合わせ、舌に刻まれている刻印からラウラの魔力を吸収していく。

 

 ステラの喉が小刻みに動いている。ラウラから吸収した魔力を飲み込んでいるんだろう。彼女にとってはただの食事なのかもしれないけど、食事の方法が全く違う俺たちから見れば、美少女が幼女に唇を奪われている光景にしか見えない。

 

 すると、ステラはラウラのミニスカートの方へと手を伸ばし始めた。その中から伸びるラウラの尻尾を鷲掴みにすると、そのまま彼女の尻尾を愛撫し始める。

 

 俺の尻尾と違ってラウラの尻尾は外殻に覆われているわけではないため、非常に柔らかい。お姉ちゃんの膝枕も捨てがたいけど、あの尻尾を枕にして眠ったら熟睡できそうだ。今度お願いしてみようかな。

 

 手足が動くまでしばらく呼吸を整えていた俺は、やって腕が痙攣しながらも動くようになったのを確認すると、ゆっくりと起き上がって背伸びしながら窓の外を見つめた。

 

 メウンサルバ遺跡から脱出し、あの狂った吸血鬼から辛うじて逃げ切った俺たちは、アグノバレグにある管理局の宿泊施設で休憩していた。今夜はここで一泊しつつ例の情報を解読することにしている。

 

 アグノバレグは、工場が非常に多い街だ。窓の外には巨大な煙突が3つも鎮座し、街の風景を台無しにしている。だが、もし仮にあの煙突がなかったとしてもあまりいい風景ではなかったことだろう。

 

 工場から排出される排煙で夜空であるというのにし、廃棄物のせいで水路を流れる水はどろどろだ。前世の世界で公害の危険性を知っていた親父は、モリガン・カンパニーの工場を建設する際は必ず公害を防止するためにいくつも規定を用意していたというが、このラトーニウス王国はそんな規定を全く用意していないに違いない。

 

 強大な隣国が更に発展したため、追い付かなければならないと焦っているんだろう。

 

 窓の外を見てうんざりしていると、勝手にメニュー画面が開いた。俺が開こうとしない限り開く事のない能力なんだが、どうして勝手に開いたんだ? バグか?

 

《タクヤ・ハヤカワ様、お疲れ様です。これは能力のアップデートのお知らせでございます》

 

「は? アップデート?」

 

「え? どうしたの?」

 

「いや、俺の能力に新しい機能が追加されるんだってさ」

 

 ナタリアにそう言いながら、俺は目の前に出現したメッセージをタッチする。すると蒼白い枠に表示されたメッセージが消滅し、蒼白い画面に説明文と画像が表示され始めた。

 

《今回のアップデートでは、トレーニングモードに様々な機能が追加されます》

 

 トレーニングモードのアップデートなのか? 

 

 このメニューの中にあるトレーニングモードを選択すると急に眠くなり、眠っている間に夢の中で様々なトレーニングができる。今までは武器の扱いや能力の使い方などのチュートリアルと、今まで倒した敵との模擬戦しか機能がなかった。

 

《アップデート後からは、最大で10人まで仲間と一緒に訓練をする事ができます。どうしても倒せない強敵がいる時等は、仲間と協力して撃破しましょう!》

 

 おお、ついに仲間と一緒にトレーニングモードができるようになるのか!

 

 今までは俺しかトレーニングが出来なかったんだが、今後は仲間を連れてトレーニングモードで訓練する事ができるようになるらしい。

 

 よし。これでトレーニングモードに登録されているクソ親父をボコボコに出来るぜ。ひひひっ。

 

《さらに、戦車や戦闘ヘリなどの操縦方法を訓練できるモードも追加されます!》

 

 兵器の操縦方法も訓練できるようになるのか!

 

 このモードを使えば、ラウラたちと一緒に戦車を操縦する事ができるようになるかもしれない。もし仲間たちが兵器を操縦できるようになったら、誰かに戦闘ヘリで上空から援護してもらったり、自走砲で遠距離から砲撃して支援してもらったりできるようになる。敵の大軍と戦う時や強敵との戦いで重宝する事だろう。

 

 もし戦車を生産するなら………ドイツのティーガーⅠかイギリスのチーフテンに乗ってみたいな。

 

 ティーガーⅠは第二次世界大戦で活躍したドイツの重戦車だ。機動力が低い代わりに非常に強力な主砲と分厚い装甲を持つ強力な重戦車で、戦時中はアメリカのM4シャーマンやソ連のT-34を蹂躙し続けていたという。

 

 チーフテンはイギリスの第二世代型主力戦車(MBT)だ。ティーガーⅠと同じく非常に強力な主砲と堅牢な装甲を持つ戦車で、今ではもう退役してしまっている。

 

 でも、俺たちは旅をしているわけだから、戦車ではなく装甲車を生産して居住性も考えてみるというのもいいかもしれないな。

 

 どちらにせよ、このアップデートは非常にありがたい。今までは銃を使って敵と戦うだけだったけど、これで色んな作戦を立てる事ができるようになる。

 

《そして、17年間も生き残ったあなたに報酬です!》

 

 ん? 報酬?

 

《モリガンの傭兵たちが使用していた装備を無条件で入手できます!》

 

 親父たちが使ってた装備の事か? 無条件で手に入るって事は、条件をクリアしたりレベルを上げて生産する必要はないって事なのか?

 

 首を傾げながらもメッセージをタッチすると、いきなり目の前に『ダウンロード中』というメッセージとバーが表示された。ゆっくりと右側へ進んでいくバーを凝視しながら、俺は早くもどんな兵器を作っておくべきか考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ステラ、何て書いてある?」

 

「………これは実験の記録というよりは、フランケンシュタイン氏の日誌です」

 

 ベッドの上に腰を下ろしながら、俺とナタリアが持ち帰った記録を凝視するステラ。ハングルに似た古代文字が何を意味するのか全く分からないが、ステラはその言語を母語としているから、使い慣れた言語の羅列を読んでいるのと全く変わらない事だろう。

 

 すらすらと古代文字の羅列を読み、ページをめくっていくステラ。まるで子供がマンガを読んでいるかのような速度だ。

 

「――――――愛おしいリディア、どうすればお前は帰ってくるのか………? リディア?」

 

「誰だ? リディアって」

 

「………どうやら、ヴィクター・フランケンシュタイン氏の1人娘のようです。幼少期に病死してしまったようですね」

 

 病死か………。そういえば、フィオナちゃんも病死して幽霊になったんだよな………。

 

 死んでしまった彼女は強烈な未練のおかげで幽霊になったらしいけど、フランケンシュタインの娘のリディアは成仏する事ができたのだろうか。

 

「―――――なるほど。フランケンシュタイン氏がホムンクルスを生み出したのは、元々はリディアを蘇らせるための研究だったようです」

 

「それで、実現できたのかな?」

 

 ラウラが尋ねると、ステラはフランケンシュタインの日誌を見下ろしてから首を横に振った。

 

 最愛の娘を蘇らせるためにホムンクルスを生み出し、その失敗作が世界中に認められるとは………。ヴィクター・フランケンシュタイン氏は悲運の錬金術師だったらしい。

 

「―――――私は399体のホムンクルスを生み出して実験したが、どのホムンクルスも我が娘となることはなかった。リディアの記憶をインプットしても欠落があるし、どれもこれも失敗作だ。私は一番最初に造り出したプロトタイプを残し、他の失敗作を廃棄することにした………」

 

 ホムンクルスの事ばかりだな。天秤のヒントはまだないのか? 

 

 日誌を読み上げるステラの声を聞きながら、俺は指の爪を噛んでいた。天秤の在処が他の冒険者たちに知られれば、世界中で天秤の争奪戦が勃発するだろう。その争奪戦が本格化する前にヒントを手に入れる事ができたのは幸運だった。

 

「―――――あ、天秤の事が書いてあります」

 

「読んでくれ」

 

「はい。―――――――何度実験を繰り返しても、ホムンクルスは失敗作となるばかりだ。他の錬金術師たちはこれを素晴らしい発明だと言うが、私にはリディアが蘇らない限り素晴らしい発明には思えない。こうなったら、神秘の力に頼るしかない。あらゆる願いを叶える魔法の天秤を作り出し、それでリディアを生き返らせるのだ」

 

「――――――それのことね、メサイアの天秤って」

 

 何度ホムンクルスを生み出しても、愛娘は生き返らない。だから神秘の力に頼って娘を生き返らせようとしていたのか。

 

 娘を着帰らせるために、ヴィクター・フランケンシュタインはメサイアの天秤を生み出したんだな。

 

「――――――助手のブラスベルグ君と共に、私はついに魔法の天秤を作り上げることに成功した。この神秘の力を持つ魔法の天秤ならば、きっとリディアを蘇らせてくれるに違いない。私たちはこの天秤を『メサイアの天秤』と呼ぶことにした」

 

 日誌の中に登場した助手の名前を聞いた瞬間、猛烈な違和感を感じた俺は反射的にナタリアの方を振り向いていた。確か、今しがた出てきた助手の名前は『ブラスベルグ君』だったよな………?

 

 ナタリアのファミリーネームも『ブラスベルグ』だった筈だぞ………?

 

「偶然なのか………?」

 

「わ、分からないわよ。私の家系に錬金術師なんて………」

 

 まあ、この世界には何人もブラスベルグというファミリーネームの人物はいるだろうからな。きっとこの助手の子孫と思われる人物はその中にいるんだろう。ナタリアは違うようだが。

 

「すまん、ステラ。続けてくれ」

 

「はい。――――――天秤にあらゆる願いを叶える力があると知った他の者たちが、私の天秤を狙い始めた。危機感を感じた私とブラスベルグ君は、この天秤を隠すことにした。3つの鍵を別々の場所に隠し、天秤を異次元空間へと保管することにしたのだ。3つの鍵は異次元空間をこじ開け、天秤を呼び寄せる媒体である」

 

「………やはり、天秤の争奪戦が起きていましたのね………」

 

「当然だ。願いを叶える力があるんだからな」

 

 その日誌には隠した場所は載っているんだろうか。もし載っていなかったら、世界中を虱潰(しらみつぶ)しに探すしかないぞ。

 

 日誌に乗っていますようにと祈りながら耳を傾けていると、ステラが再び日誌の朗読を続行した。

 

「鍵を保管した場所が載っています」

 

「ラッキーだな。………それで、鍵はどこにある?」

 

「はい。1つ目はラトーニウス海の海底にある海底神殿です」

 

「なっ………!?」

 

「か、海底神殿って………!」

 

「――――――はい、ダンジョンの中でも極めて危険なダンジョンとして管理局が指定している場所です」

 

 冒険者として登録する前から、俺は危険なダンジョンについても調べていた。ステラが言った海底神殿は、その危険なダンジョンの中でもモリガンの傭兵たちのような猛者でなければ生還することは不可能だと言われるほどのダンジョンとして知られている。

 

 古代の人々が建設した海底の神殿で、危険な魔物が大量に徘徊しているため未だに内部の構造が判明していないというダンジョンである。しかも神殿の中に入るには、極めて高度な光属性の魔術である転移を使うか、フィオナちゃんが発明した高価な潜水艇を使わなければならない。

 

 転移は大量の魔力を消費する代わりに、好きな場所に瞬間移動できる便利な魔術だ。だが習得は極めて難しい上に、消費する魔力の量が一般的な人間が体内に持つ魔力では足りないため、生まれつき魔力を大量に蓄積できる体質の者でなければ習得どころか使うことも出来ない。

 

 潜水艇はフィオナちゃんが開発したもので、動力源が魔力という以外は前世の世界の潜水艇と変わらない。でも非常に高価で、貴族や大型企業の社長でなければ購入するのは難しいという。

 

 しかも、そのどちらかの方法で中に入っても危険な魔物だらけだ。

 

「ふにゅう……厄介なところに隠されちゃったね………」

 

「ええ……。ちなみに、他の2つはどこにありますの?」

 

「他の2つは………倭国のエゾという場所にある『九稜城(くりょうじょう)』の中に1つ保管されています。もう1つは、ヴリシア帝国の帝都サン・クヴァントのシンボルであるホワイト・クロックの地下です」

 

 倭国とは、東の海の向こうにある島国だ。周囲の海域がダンジョンに指定されていることと、昔から鎖国していたせいで全くどんな国なのか不明だったらしいが、現在はオルトバルカ王国海軍の活躍で開国し友好条約を結んでいるという。しかし鎖国の維持を主張する旧幕府軍と、開国して国を発展させるべきだと主張する新政府軍の間で戦争が勃発しており、オルトバルカ王国は新政府軍を後押しするために騎士団を派遣する予定らしい。

 

 何だか幕末の日本みたいな国だ。

 

 そしてもう片方の鍵があるのは、ヴリシア帝国の帝都サン・クヴァントにある巨大な時計塔のホワイト・クロックの地下か。親父たちはその帝都であのレリエル・クロフォードと戦い、辛うじて撃退している。その戦闘でホワイト・クロックが倒壊してしまったらしいが、鍵は地下にあったから無事だったんだろうか。

 

「なるほど」

 

「どうします? ここから一番近いのは海底神殿ですが………」

 

 やっと天秤の鍵の在処が分かった。その3つを手に入れれば、天秤を手に入れる事が出来るのだ。

 

 人々が虐げられることのない平和な世界を作るために、必ず天秤を手に入れなければならない。

 

 ランタンの明かりの中で笑った俺は、こっちを見つめてくる仲間たちに向かって宣言した。

 

「―――――――まず、海底遺跡に向かおう」

 

 

 第五章 完

 

 第六章に続く

 

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