6月30日 午後1時47分 駒王学園
「Zzzzz………Zzzzz」
「であるからしてこの方程式は「Zzzzz………!」またか」
昼休みが終わり5時間目の授業。それは学生を束の間の眠りへと誘う時間。そしてここにも大きないびきを立てて眠っている者が一人。この時間担当している教師が彼を起こしにいった。教師は彼を数回揺さぶり起こそうとした。
「山口君起きなさい!山口君!」
「…………ん……もしかして寝てた?」
「もしかしなくても寝てたよ!最近居眠りが増えてるけどアルバイトでもしてるの?」
「アルバイト……いえ特に」
「それじゃあもっとシャキっとして!」
教師は僕を注意し再び授業へと戻った。僕は学校では冴えない高校一年生を装っている。そして、学校を出てグランドシティに戻ると街のヒーロー(自称)スパイダーマンになるんだ。でもその代償は大きかった。友達と遊ぶ時間なんてほとんどないしこうやって勉強にも支障をきたしている。これも仕方のないことだし、今街にはスーパーヴィランが数多く存在している。誰かが街を守らないと。
午後3時25分 駒王学園
今日の授業もやっと終わりようやく家に帰ることができるよ。さてと今日は久しぶりに朱乃と帰ろうかな。あまり話す機会もなかったし。
「……………あのさ今日一緒に帰らな「一緒に帰ろうぜ蓮!!」
僕の声は樹の声によって掻き消された。この子タイミング悪すぎ。
「い、樹暑いから離れ………あ、朱、乃」
朱乃の机を見るがそこにはいなかった。はぁ、またの機会って事で。僕は渋々鞄を持ち樹と共に教室を出た。
「何だ?姫島ちゃんと帰る予定だったわけ?隅に置けないねぇ」
「どっかの誰かさんのせいで帰れなかったけどね」
思いっきり皮肉を込めて言ってやった。僕らが階段を降りようとした時樹の背中をポンポンと叩く女子生徒がいた。見たところどうやら外国の人だ。
「お前のところも終わったのかテア!」
「ええ、久しぶりに一緒に帰ろうと思って」
「蓮紹介するよ、留学生のテア・クイーンだ」
「よろしくね」
「僕は山口蓮だ。ところでもしかしてクイーンてあの」
「そうよ、オリバー・クイーンは私の兄なの」
オリバー・クイーンと言えば海外のスターシティにある大企業クイーン産業のCEOだ。何で樹の周りには金持ちばかり集まるんだ。ちなみにスターシティにはクライムファイターが大勢いる。一人こっちに助っ人としてこないかな。
「彼女とはパーティーで知り合ったんだ…………あの蓮……ちょっと」
樹が必死にアイコンタクトを取ってくる。樹はこの女の子にほの字と見た。人の事は邪魔するくせに自分勝手な。ま、中学からの付き合いだしここは一肌脱いでやるか。
「おっともうこんな時間だ。悪いけど今から行くところがあって。じゃあまた明日ね二人とも」
僕は二人を残しそのままグランドシティに戻った。いつもこんな事ばっかりだ。いい加減嫌になってくるよ。
午後9時49分 グランドシティ グランド博物館
ここ、グランド博物館では数々の貴重な展示品が展示されている。その中でも目玉の展示品がルパン一世が使ったとされるステッキが展示されている。そんな中、警備員の坂田は今日も博物館の警備をしようと懐中電灯を持ち向かおうとした。その坂田の行く手を松葉杖をついた同僚の松田が止めに入った。
「坂田………」
「何だ松田か。今日は非番じゃないのか?」
「展示品をゆっくり見たくてね。今日の見回りは俺がやるよ、お前は仮眠でも取りな」
「お前なんか変だぞ?」
「そうか?仕事中に焼酎2本開けるやつに言われてもな」
「ありゃ、これは一本取られたな!」
松田は警備室の中に転がっている瓶を見ながら言った。坂田は仕事中にも酒を飲む癖がありその事を知っているのは松田だけで坂田は頭が上がらないのだ。
「わーった、わーった!それじゃあお前さんに任せよう、それじゃあおやすみ!」
「ああ………おやすみ」
坂田は面倒な見回りをせずにすみ有頂天だった。しかし坂田は気づかなかった。人のいい松田が浮かべるはずのない不敵な笑みを。
松葉杖をつく音が博物館の中に響き渡る。松田はルパン一世のステッキの前で止まった。そして、ポケットから鍵を取り出しケースを開けステッキを取り出した。それも束の間、警報が慌ただしく博物館に鳴り響いた。
「仕事を始めるか」
松田は集中し始めた。すると右手に持っていた松葉杖が変化し始めた。どんどんと形を変えていく松葉杖は何とルパン一世のステッキと瓜二つになった。そして今度はステッキを松葉杖へと変えた。何食わぬ顔で本当は松葉杖のステッキをケースに入れケースを閉めた。
「おい松田!警報がなったが何かあったのか!?」
「…………いや、ただの誤作動だ。それよりも今日は帰らせてもらう。体調がすぐれないんでな」
「お、おう」
呆気にとられている坂田を置き去りにし松田は帰っていった。今の一連の動きが監視カメラで撮られていたので松田は一刻も早くこの場を離れる必要があった。しかしこの光景を見ていたのは監視カメラだけではなかった。天窓からグランドシティの親愛なる隣人スパイダーマンも今の行動を目の当たりにしていた。
「物の姿を変えることができるのか」
松田は裏口から出て路地に入った。僕はクモ糸を伝い松田の後ろに回った。そして足で肩を2度叩き顔を僕の方へ向かした。
「松葉杖をつかないで持って歩くってどうなの?松葉杖マニアとか?」
「ち、蜘蛛野郎か!?」
松田は走って逃げようとしたが僕は松田の行く道に蜘蛛の巣を張り巡らせ通せんぼした。慌てた松田は表通りへと向かった。逃げられるわけないのに往生際が悪いよ。表通りには多くの人が歩いていた。そんな中松田は一人の女性の肩をポンと叩いた。次の瞬間、僕は驚くべき光景を目の当たりにする。何と松田が触った女性と瓜二つの姿になったのだ。
「なっ!?」
「フッ!」
松田?は僕を馬鹿にしたような目で見ていた。そしてその場から走り去り角を曲がった。僕は慌てて追うも既に松田?は人ごみに紛れ込み見つけることが出来なかった。僕とした事が油断するなんて。でも、見た目まで変えるとは予想外だ。
「やっちゃった…………今日はもう帰ろう」
僕はビルに蜘蛛糸を飛ばしそのまま家に帰った。しかしその姿をビルの屋上から見ている女がいた。その女は赤いフードを被り目元には黒いマスクをつけていた。そして手に持っている弓がトレードマークといっても過言ではなかった。
「スパイダーマンも大したことないわね」
7月1日 午前7時56分
この日の新聞にはあの日の事件が大きく取り上げられていた。
『ルパン一世のステッキ盗まれる!犯人は姿を自由自在に変える超人か!?』
「蓮新聞なんか読んでんのか?」
「まあね、この新聞社に写真売ってるからよく新聞をくれるんだよ」
今日は珍しくバスで樹と一緒に学校に行っていた。今日は朝から何の事件もなく久しぶりにゆっくりした朝だよ。でも、あんまりゆっくりはしてられないかな。あの姿が変わる男…………シェイプシフター…………シェイプシフターか!いいニックネームが決まった。後で編集長に送っておこう。ああいうタイプの犯罪者は何度も盗みをやるタイプだ。次も絶対に狙ってくる。その時が勝負だ。
午後8時47分グランドシティ ノースタウン
僕はコスチュームに着替えビルの屋上でスマホを弄りながら事件が起きるのを待っていた。おっ、10コンボ達成と。ゲームをして優越感に浸っていると近くのダイヤ店から警報が鳴った。下の方を見るとスーツを着込んだ男がナップサックを手に慌ただしく店から出てきた。僕は蜘蛛糸をシェイプシフターに飛ばし手繰り寄せた。
「うおっ!?」
「おとなしくしろよな!」
「くっ、こうなったら!!」
シェイプシフターはスーツ姿の男からミニスカートの女性へと変わり叫び始めた。
「た、助けてぇ!!スパイダーマンに襲われてる!!」
「えっ!?いやっちょっと!」
「おいやめろよ!!」
「親愛なる隣人が聞いてあきれるぜ!!」
近くにいた市民に責め立てられ僕はおもわず蜘蛛糸を話してしまう。その隙をついてシェイプシフターは蜘蛛糸を外し路地に逃げ込んだ。怒りくるう市民を飛んで避け僕はシェイプシフターを追った。路地に行くとシェイプシフターの姿はなく泣きじゃくる小さな少女しかいなかった。
「君!今ここに変な女の人が通らなかったかい?」
「ひっぐ…………知らないわ………パパとママはどこお?」
まいったな。シェイプシフターを追わなきゃいけないのに。でも女の子優先だな。僕はこの子の両親を探すため路地を出ようとした。その少女がナイフで狙っているとも知らずに。少女がナイフでスパイダーマンを狙った時スパイダーセンスが反応した。ソルと同時に緑色の矢が何処からともなく飛んできて女の子のナイフを持った手に突き刺さった。
「きやぁぁぁぁぁぁ!!!」
女の子はあまりの痛さにナイフを落としのたうち回った。僕は慌てて女の子の方に駆け寄る。
『近寄らないほうがいいわよ』
「誰だ!?」
暗闇から出てきた声の主は赤いフードのマスク女だった。その姿からロビンフッドを連想させた。そして彼女は明らかに変声機を使っていた。自分の正体を徹底的に隠してるわけか。
「君、誰?」
フードの女は弓を構え矢をこちらに向かって放った。スパイダーセンスが反応していない事を見ると僕を狙ったわけじゃない。となると、女の子か!?その矢は女の子の足を貫き女の子は地面に倒れた。
「おいなんてことするんだ!?」
『よく見てみなよ』
女の子の姿が徐々に変わっていき最後には顔にタオルを巻きつけサングラスをかけた男の姿になった。シェイプシフターがばけていたのか。シェイプシフターはあまりの痛さに気絶していた。
「シェイプシフター!?」
『シェイプシフター?そのまんまじゃない?』
「何で元の姿に」
『こいつは集中力が切れると元の姿に戻るの。だから、矢で射抜いた方が早く片付くわけ』
「それはわかったけどきみは一体誰?見たところグリーンアローに似てるけど」
『私はスピーディよ。この街に来た時からずっとこいつをマークしてたの。それと、はいこれ』
スピーディは大きな袋を僕に投げてきた。袋の中には盗まれたステッキとダイヤが入ってあった。
『シェイプシフターのアジトで見つけたの。これも警察に返しといてね』
スピーディはグラップルアローを筒から取り出しビルの最上階に向け放った。僕は立ち去ろうとするスピーディを引き止めた。
「ねぇちょっと待ってよ!言っとくけどもうちょっと手加減してやったら?それと、君のこともう少し知りたいんだけど?」
『悪いけどこの街に来たばかりで加減が分からないのよ。それにもう少し口説き方が上手くなったら話してあげてもいいわよ』
スピーディはそう言い残しビルの闇に消えていった。で、この後始末は僕か。気絶したシェイプシフターと盗まれていた物を持ち僕は警察署へと向かった。本当に彼女は何なんだ。
午後11時50分グランドシティ 某マンション559号室
一仕事終え帰ってきたスピーディは筒と弓を置きベッドに倒れこんだ。スピーディはマスクを外し素顔となった。そして彼女はある所に電話をかけた。
「もしもしオリー?私よ…………ええ、元気にしてるわ。こっちにも悪党は大勢いるから…………勉強もちゃんとしてるって…………ありがとう、お兄ちゃんも気おつけて…………じゃあね、愛してる」
彼女は電話を切り鏡の前に立った。ヒーローと学生の二足のわらじを履いて生活しているのは蓮だけではない。テア・クイーンも学校に追われ悪党を追う者なのだ。
ヴィランファイル2シェイプシフター/武
自分の名前は下の名前しか覚えておらず生まれた時から姿や身の回りの物を変えることができた。両親はその能力を恐れ孤児院に預けた。孤児院に預けられるも同年代の子供は怖がり拒絶された。やがて心を病み犯罪に手を出し始めた。他人に変わりすぎたせいで、今では自分の顔を思い出すことができずタオルを取ればのっぺらぼうだ。
ヒーローファイル1スピーディ/テア・クイーン
スターシティから来た留学生でオリバー・クイーン/グリーンアローの妹。勉強、スポーツ共に万能である彼女がこの街に来た理由は不明だ。
次回、過去の後悔