薄桜鬼   作:朝美

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新選組 1ー1

 

(あさみ) ん ?

 

朝?

 

(あさみ) ええと

 

私 どうさたんだっけ ああ

 

(あさみ) そっか

 

朝の光に目が慣れると、昨夜の出来事も一気に思い出された

ここが、私の部屋なら良かったな。ぐるぐると縛り上げた私は、芋虫のように寝転がりながらため息を吐く。叶うことならいつものように、暖かい布団の中で目覚めたかった。

 

(あさみ) 全部、悪い夢なら良かったのに

 

昨日の夜、あの人たちと出会った私が、引きずられるようにして辿りついたこの場所。それが新選組の本拠地だった。

 

(あさみ) 私は、どうかるんだろう

 

私がもう一度ため息を吐いた、そのときゆっくりとふすまが開いて 人の好さそいなおじさんが顔を出した。

 

(???) ああ、目が覚めたかい 

 

優しそうなその人は、井上と名乗った

 

(井上) すまんなあ、こんな扱いで 今、縄を緩めるから少し待ってくれ

 

(あさみ) え ?

 

井上さんは苦笑を浮かべながら、私をぐるぐる巻にした縄を解いてくれる 手を縛る縄までは解いてくれなかったけど

 

(あさみ) えと、あの、ありがとうございます

 

私が頭を下げると、井上さんは少しだけ笑った

 

(井上) ちょっと来てくれるかい

 

(あさみ) え ?

 

(井上) 今朝から幹部連中で、あんたについて話し合ってるんだがあんたが何を見たのか、確かめておきたいってことになってね

 

(あさみ) わかりました

 

私はうなずくと、よろけながらも立ち上がった。井上さんは柔らかい言い方をしたけど、きっと私には断る権利なんて

ないのだろう。強張った私の顔を見て、井上さんは明るく言った  

 

(あさみ) 心配しなくても大丈夫さ なりは怖いが、気のいい奴らだよ

 

(あさみ) はあ

 

そう、なのかな?人斬り新選組のうわさは、私だって何度となく耳にしている。その幹部たちがいい人だなんて、あんまり想像できないんだけれど

 

(あさみ) ●●●●

 

井上さんに、案内された部屋では、新選組の幹部たちが私を待っていた。突き刺すような視線が一斉に向けられて、私は思わず身を固くした

 

(沖田) おはよう 昨日はよく眠れた?

 

(あさみ) あ

 

沖田さん、だっけ 知らない人たちに囲まれているせいか

知っている顔を見ると少しだけ安心した この人がとても怖い人だとはもちろんわかっているつもりなんだけど

 

(あさみ) 寝心地は、あんまり良くなかったです

 

私は言葉を選びながら答えた

 

(沖田) ふうん そうなんだ

 

沖田さんは にやにや笑って私の顔を見る

 

(沖田) さっき僕が声をかけたときには、君、全然起きてくれなかったけど?

 

不覚 がく然とする私を見て、斎藤さんが呆れたようにため息吐く

 

(斎藤) からかわれているだけだ 総司はお前の部屋になんか行っちゃいない

 

私は無言で沖田さんを見やった。彼は微笑んだまま斎藤さんに目を向け わざとらしく茶化すような口調で言う

 

(沖田) もう少し君の反応を見たかったんだけどな 一君もひどいよね 勝手にバラすなんてさ

 

(あさみ) ひどいのは斎藤さんじゃなくて沖田さんのほうだと思いますけど

 

(土方) おい、てめぇら、無駄口ばっか叩いてんじゃねぇよ

 

土方さんの呆れ返った声が響くと沖田さんは肩をすくめてから口をつぐんだ 表情は にこにこ笑顔のままだけれど

 

(???) でさ、土方さん そいつが目撃者?

 

そう言って私をいちべつした人は幹部たちのなかでも特に年若いように見えた 幹部なんて言われるとご年配の方ばかりかと思っていたんだけれど 結構 若い人ばかりみたい 

むしろ なんだか不良っぽい雰囲気 

 

(???)ちっちゃいし細っこいなあ まだガキじゃんこいつ

 

この人は多分藤堂さんかな?この部屋に来るまでの間に、井上さんから少し教えてもらったんだけど 藤堂さんは

新選組最少年の幹部らしい

 

(???) おまえがガキとか言うなよ 平助

 

こちらを観察するように見ていた人が くっくっと笑いながら口を開いた

 

(???) だな 世間様から見りゃおまえもこいつも似たようなもんだろよ

 

その人の向かいに座っていた人も 無駄に神妙な面持ちでうなずいている そういえば井上さんもにぎやかなふたり組がいると言っていた 確か髪の短いほうが永倉で髪が長いほうが原田さんだったかな?

 

(藤堂) うるさいなあ おじさんふたりは黙ってなよ

 

(永倉) ふざけんなよ このお坊ちゃまが!俺らにそんな口きいて良いと思ってんのか?

 

(原田) 平助におじさん呼ばわりされるほど 年食ってねぇよ 新八はともかく、俺はな

 

(永倉) てめえ 裏切るのか左之

 

(藤堂) へへーん 新八っつぁん 図星さされて怒るって大人げねえよなぁ

 

彼らは冗談のような口調で言い合いながらも 好奇を含んだ視線だけはずっと私に注いでいた でも 興味を装った彼らの眼差しの裏側にとても強い敵意を感じる 何気なく話しているこの人たちもここでの私の存在を気して許してはいないのだ 帰りたい 早く こんなところから逃げ出したい

思わずうつむいてしまった私にその人は穏やかな声音で話しかけた

 

(???) 口さがない方ばかりで申し訳ありません あまり

怖がらないでくださいね

 

(あさみ) あ 

 

優しい言葉をかけられて、私の気持ちは少しだけ楽になった

 

(土方) 何言ってんだ いちばんこわいのはあんただろう

山南さん

 

土方さんは渋い笑みを唇に浮かべて からかうような口調で

言った その言葉に他の人たちも うんうんと大きくうなずいている そ、そんなに怖い人なの?

 

(山南) おや 心外ですね。みなさんはともかく 鬼の副長

まで何を仰るんですか

 

その山南さんという人は 心外といいながらも微笑んだままだった 土方さんも土方さんで 薄く笑ったまま特に何も言おうとしない

 

(???) トシと山南君は 相変わらず仲が良いなあ

 

これ 仲良しって言うのかな?微妙にピリピリした空気を 

感じないでもないのだ。けれど 少なくとも発言したそうだ信じ切っているみたい

 

(近藤) ああ、自己紹介が遅れたな 俺は新選組局長近藤勇だ

 

この人が、新選組でいちばん偉い人

 

(近藤) それから そこのトシが副長で、横にいる山南君は総長を努めて

 

(土方) いや、近藤さん なんで色々教えてやってんだよあんたは

 

(近藤) む?ま、まずいのか?

 

(永倉) 情報を与える必要がないんだったら黙ってるほうが得策なんじゃないですかねえ

 

(藤堂) わざわざ教えてやる義理はないのでないんじゃね? 

うろたえる局長を見て、原田さんはみんなを取り成すように笑った 

 

(原田) ま、知られて困ることもねぇよ

 

近藤さんは少しの間しょんぼりしていたけれど 気を取り直したように居住まい正した その仕草を見ているだけで、この人はみんなに好かれているんだろうなと感じた 人を惹きつける魅力というか なんだか憎めない雰囲気があるもの

 

(近藤) さて、本題に入ろう まずは改めて昨晩の話を聞かせてくれるか 

 

近藤さんに視線を向けられた斎藤さんはかしこまった仕草でうなずくと話し始めた

 

(斎藤) 昨晩、京の都を巡回中に浮浪の浪士と遭遇 相手が刀を抜いたため斬り合いとなりました 隊士らは浪士を

無力化しましたが その折彼らが失敗した様子を目撃されています

 

そう言った斎藤さんは ちらりと私に視線を投げた 私は

思いきって口を開く

 

(あさみ) 私 何も見てません

 

きっぱりと言い切る私に少しだけ土方さんの表情が和らいだ

斎藤さんは無表情のままで沖田さんは笑顔のままだったけど

 

(藤堂) なあ おまえ 本当に何も見てないのか

 

(あさみ) 見てません

 

身を乗り出してきた藤堂さんにも 私は、同じ言葉を繰り返して答えた

 

(藤堂) ふーん 見てないんならいんだけどさ

 

(永倉) あれ?総司の話では、おまえが隊士どもを助けてくれたって話だったが

 

(あさみ) ち、違います!

 

私は思わず沖田さんを見たけれど彼は相変わらず感情の読めない笑顔のまま

 

(あさみ) 私は、その浪士たちから逃げていてそこに新選組の人たちが来てだから、私が助けてもらったようなものです

 

(永倉) じゃ 隊士どもが浪士を斬り殺してる場面はしっかり見ちゃったわけだな?

 

(あさみ) !!!

 

とっさに否定の言葉が出てこなかった。ここで沈黙するなんて

 

(原田) おまえ、根が素直なんだろうな それ自体は悪いことじゃないんだろうが

 

原田さんは あいまいに言葉を切った 新選組にとって私の存在は悪いことだから残念だけど殺さなければならない

原田さんがそう言ってるように思えて私は必死に口を開いて震える声で主張した

 

(あさみ) わ、私 私 誰にも言いませんから!

 

(山南さん) 偶然、浪士に絡まれていたという君が敵側の 

人間だとまでは言いませんが 君に言うつもりがなくとも相手の指導に乗せられる可能性はある

 

(あさみ) う

 

山南さんは優しい声音のまま 私にとって厳しい現実を静かに語った

 

(斎藤) 話さないというのは簡単だがこいつが新選組に義理立てする理由もない

 

(沖田) 約束を破らない保証なんてないですし やっぱり

開放するのは難しいよねえ

 

確かにそうなんだけど でも

 

(沖田) ほら、殺しちゃいましょうよ 口封じするなら

それがいちばんじゃないですか

 

(あさみ) そんな

 

私が悲鳴じみた声を上げると 近藤さんがたしなめるように

沖田さんを見た

 

(近藤) 総司 物騒なことを言うな お上の民を無闇に

殺して何とする

 

その言葉を聞いた沖田さんは笑みを消すと困ったように目を伏せた

 

(沖田) そんな顔しないでくださいよ 今のはただの冗談ですから

 

(斎藤) 冗談に聞こえる冗談を言え

 

斎藤さんの言葉に 沖田さんは照れたような笑みを浮かべる

 

(井上) しかし 何とかならんのかね まだこんな子供だろう

 

(山南) 私も何とかしてあげたいとは思いますがうっかり

洩らされでもしたら一大事でしょう

 

山南さんは困ったように眉を寄せると さてと言葉を切ってから土方さんを見た

 

(山南) 私は 復調のご意見をうかがいたいのですが 

 

山南さんに役職名でうながされて 土方さんは小さく息を吐きだした

 

(土方) 俺たちは昨晩 士道に背いた隊士を粛清した

こいつはその現場に居合わせた

 

(山南) それだけだ と仰りたいんですか

 

(土方) 実際、このガキの認識なんざ その程度のもんだと思うんだが

 

(永倉) けどよ こればっかりは大義のためにも内密にしなきゃなんねぇことなんだろ?新選組の隊士は血に狂ってるなんてうわさが立ちゃ俺らの隊務にだって支障が出るぜ

 

 

筋の通った永倉さんの指摘に 土方さんの表情が渋くなる

 

(原田) 総司の意見も一理あると思うけどな ま、俺は土方さんや近藤さんの決定に従う

 

(藤堂) オレは逃がしてやってもいいと思う

 

藤堂さんは困ったような顔をしていた

 

(藤堂) こいつは別に あいつらが血に狂った理由を知っちまったわけでもないんだしさ

 

理由 なにか、特別な理由があるの 目を瞬いた私を見て、

土方さんはいまいましそうに舌打ちした

 

(藤堂) 平助 余計な情報をくれてやるな

 

失言に気づいた藤堂さんは あわてたように両手で口をふさぐ

 

(沖田) あーあ これでますます君の無罪放免が難しくなっちゃったね

 

(あさみ) うぅ

 

(永倉) 男子たるもの 死ぬ覚悟くらいできてんだろ

おまえも諦めて腹くくっちまいな

 

男子? 

 

(あさみ) あ

 

私 男だと思われているんだ 自分が男装しているんだって

今更のように思い出していた

 

(原田) 確かに 潔く死ぬのも男の道だな 俺も若い頃は切腹したし

 

(永倉) 左之の場合 まだ生きてるけどな

 

なんだか 物騒な台詞が聞こえたような 楽しげに笑うふたりの話がひと段落したところで 今度は斎藤さんが口を開いた

 

(斎藤) 土方さん 結論も出ないし一旦 こいつを部屋に戻して構いませんか

 

そう言って彼が私に目を向ける

 

(斎藤) 同席させた状態で誰かが機密を洩らせば 処分もなにも殺す他なくなる

 

(あさみ) つ!

 

斎藤さんの言うとおりだ このまま部屋にいれば また

余計なこと聞いてしまうかもしれない 斎藤さんは私のために発言したんじゃなくて ただ新選組の最善を模索しているのだとそうだとしても 彼の発言はありがたかった

 

(土方) そうだな 頼めるか

 

土方さんの言葉に 斎藤さんがうなずいた

 

(山南) 私もその判断には賛成しますよ ここにはうかつな方も多いいですしね

 

(永倉) うっわ 山南さん わざわざこっち見て言うとかキツイよ

 

(原田) ま、仕方ねえよ うかつなのは俺らの担当だろ

主に平助

 

(藤堂) そ、そんな責めるなよ オレだって悪気はなかったんだからさ

 

さり気なく視線を向けられた藤堂さんは少しムキになって声を荒げる それから私の顔色をうかがうように見て もごもごと何事か呟いた

 

(藤堂) ご、ごめんな

 

(あさみ) えっと

 

自分の命がかかっていることだし さすがに気にしないでとは言えないけど 彼が本心から謝ってくれているように見えて私はぎこちなくうなずいた

 

(斎藤) 行くぞ

 

(あさみ) は、はいっ

 

部屋に戻された私は 縛られた手首をを見下ろしながら考え込む

 

(あさみ) うーん

 

ちまたで聞く評判のわりには 人間味がある人たちみたいだけれど 新選組の人たちは私を殺していまいたいんだ

 

(あさみ) できれば殺さないであげたいけど 殺すしかなさそうだって空気だったもの

 

黙って待っていればきっと殺されてしまう

 

(あさみ) 和解は難しいよね

 

あの人たちは私の事情なんかより 新選組の都合を優先するに決まっているもの

 

(あさみ) そういえば

 

ここの人たちはみんな 私のことを男だと勘違いしているんだっけ 実は女ですって素直に言えばこの状況は少しは変わるかな?でも 何の意味もないかもしれないし余計に立場が悪化してしまうかもしれないどうしよう

                        続く!

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