ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
第1話
彼は何の為に生まれたのだろう。彼は何の為に生きて来たのだろう。
彼には姉がいて、姉の為に頑張ってきた。しかし、世間は彼を姉の付属品としか見てくれなかった。そして、今の彼は危機的状況に立たされていた。
ドイツ。ドイツは今、夜であった。ここは、ドイツの街外れにある、周りが森で囲まれている建物。その建物のとある一室。室内はとても黒く、天井の隅には蜘蛛の巣があり、物などが一つも置かれていない。
「……がはっ」
建物には、縄で身体を縛られている一人の中学生にも満たない少年と、三人の、懐に拳銃を隠し持っている全身黒ずくめの男達がいた。
男達は兎も角、少年はさっぱりとした顔立ちに黒い髪と黒い瞳。服は上に黒い長いテイシャツに下には黒いズボンを穿いていて、白いスニーカーを履いていた。
それは良い、少年の顔には殴られた後に出来た痣が幾つもあり、服は少し乱れている。何故、少年は、こんなボロボロなのかは、目の前にいる男達が少年を殴ったからである。
男達は只、少年を殴った訳ではないーー男達は、とある目的で少年を誘拐し、とある目的が失敗した為に少年に暴力を振ったのだ。
証拠に男達の表情は険しく、少年は虚ろな眼をしながら俯いていた。少年は暴力を振るわれた事で俯いていた訳ではない。少年は姉の裏切りで絶望していた。
少年は姉の為に頑張った。しかし、世間は自分を姉の付属品とし見ていなかった。姉も姉で少年の言う事や話しさえも聞いてくれなかった。
少年は姉に助けを求めていた、にも関わらず、姉は少年を助けようとはしなかった。それも今、少年が絶大絶命の危機にも助けようとは、しなかった。
「たく、織斑千冬と言う女、自分の弟を助けようとはしないなんてな?」
男の一人が皮肉ったように言った。それを聞いた、千冬の弟と言う少年・織斑一夏は何も言わず、下唇を噛む。
一夏にとって、姉の裏切りは一夏の心に絶望だけでなく憎悪をも生み出していた。
「そうなんだよな……ところであの二人は?」
今度は別の男がそう言った後、辺りを見渡し、仲間の二人がいない事に気付く。因みに男達は三人ではなく五人である。
「あいつらなら、小便だぜ?」
「小便、全く呆れた奴等だぜ?」
周りを見渡していた男の問いに、別の男が答え、周りを見渡していた男は呆れながら言った。
「ははは、まあ、良いじゃねぇか? 漏らすよりもましだろ?」
「まあ、そうだけだどな……ふっ、ふふふ」
三人の男達は笑うーー男達の笑い声が室内に木霊する。一方、一夏は何も言わず下唇を噛み続けていた。
「ふぅ、さっぱりしたぜ」
建物の外では、二人の全身黒ずくめの男達が小便をしていた。その内の一人が小便を終らせ、チャックを閉じる。
「おいおい、お前は呑気だな?」
「別に良いだろ? 俺達の目的は失敗に終わったんだし、やる事もねぇからよ?」
小便を終らせた男に、別の男も小便を終らせた後、先に小便を終らせた男に訊くと、男は何も言わず笑う。
「何言ってんだよ? 排泄の我慢は身体に良くないだろ?」
「確かにそうだけどよーーん?」
後から小便を終らせた男は何かを言う前に、ある方角を見た。そこには何もない。
「どうしたんだよ?」
先に小便を終らせた男が疑問を抱き、訊ねると、男は首を左右に振る。
「嫌、何でもない、俺の気のせいかもしれないーー戻ろうぜ」
男はそう言うと、小便を終らせた男と共に建物の中へと戻った。
『ナンデモナイ、ナンデモナイ』
「戻ったぜ?」
二人の男達は、一夏や仲間達の元へと戻る。
「おう、それよりもこれからどうする?」
「そんなのは俺に聞かれても困るわ」
男達は話をしている中、一夏は表情を険しくしながら身体を振るわせていた。姉を許さない、姉を殺してやる、と心の中で強く思っていた。
その間に、男達は話を終えたのか、一夏を見やる。
「ボウズ、悪いけど、お前を殺すわ」
男の一人が一夏にそう言うと、一夏の前に歩み寄り、一夏の前に立ち止まると懐から拳銃を取り出し、一夏に向ける。
「じゃあ……」
拳銃を取り出した男が何かを言い終わる前に、男の頭が宙を舞う。
「!?」
そんな男を見た一夏と四人の男達は眼を見開く。一方で男の頭は一夏の近くに転がり落ち、頭のない身体は膝を突き、俯せに倒れる。
そして、顔や身体の周りから血の海が出来る。
「な、何が起き……」
男の一人が何かを言おうとした直後、その男は突然、何も言わなくなる。
「グフッ!?」
男は口から血を吐く。それを見た三人の男達は表情を恐怖で歪ませるが、口から血を吐いた男はそのまま、前に倒れたーー背中には二本の刺傷の痕があり、黒い服だが血が染まっていた。
「ウワアァァーーーーッ!!!!!」
仲間の死を切っ掛けに、男達は懐から銃を取り出し、辺りを無我夢中で乱射する。
室内に数発、数十発の銃弾が放たれ、数十発の薬莢が床に転がり落ちるが男達は手を止めない。
刹那、何かが一人の男を巻き込みむ形で壁へとめり込むーー何かとは網だったーーそれも鉄製の鋭い網だった。
「アァァ……!」
同時に男も全身が壁へとめり込まれながら悲痛の声を上げるが鉄製の網は男の自由を奪い、男の露になっている肌からは縄目状の傷が出来始める。
それを見た二人の男は悲鳴を上げながら銃の引き金を引き続ける。直後、男の一人の頭が跡形もなく吹っ飛ばされ、頭のない男は銃を落とすと銃の転がり落ちる音が木霊し、同時に頭のない男は膝を突き、そのまま俯せに倒れる。
「ア……アァッ」
一夏は悲鳴を上げようとしたが恐怖で出せないでいた。一瞬で四人の男が死んだーー見えない何か彼等の命を奪ったのだ。
その何かと一夏でも判らない。判るとすれば幽霊が彼等に天の裁きが下したのだろうかーー嫌、そんな事はない。それは直ぐに判った。
「だ、誰だ出てこい!! 出てこいよ!?」
最後に残った男の叫び声から始まった。男は銃を手放してはいない、顔を涙でクシャクシャにし、震えているのか膝を笑わせていた。
男も恐かったのだろう。何かが自分を狙っている、何かが自分を仲間達同様、殺そうとしているのではないのかと思っていた。
「お、お願いだ、こ、殺さないでくれ!」
男は命乞いの言葉を述べる。それは無駄に見えるだろう。突如、扉が勢いよく開き、男は拳銃を扉の方へと向ける。扉の外には何もいなかった。そして、その見えない何かが、一夏や男の前に姿を見せる。
「な、何だよお前は!?」
「あ、ああっ……」
その何かを見た男は恐怖の叫びを上げ、一夏は眼を見開きながら戦慄した。その何かとは男よりも一回りも大きい身体に黄色かがった肌。
甲冑に近い鎧を身に纏っているが腹や脹ら脛などが露出している。右肩には最先端かつ、この地球上の技術とは比べ物にならない小さなプラズマ砲に近い武器を付け、右腕にはガントレットを、腰周りにはブローチに近い物を幾つも着け、背中には小さな槍を着けている。
肩まで掛かる鋭い黒髪に、顔には口元が複雑なヘルメットを着けている。
それはまだ良いだろうがその何かとは誰の目でも明らかのように宇宙人であった。
「な、何だよお前は……っ!?」
男はその何かに銃を向ける引き金を引くが弾は出てこなかった。さっきの乱射で使いきってしまったのだ。
男はそれに気付き慌てて懐から弾倉を取り出そうとした。刹那、男の首元に鋭利な刃物が通り過ぎ、男の頭が宙を舞う。男の首と身体の首部分から血が大量に噴き出て、辺りを真っ赤に染める。
一夏は言葉を失った。男の首は宙を舞った後、床に転がり落ちる。首だけしかない男は眼を開けていた。
それでも、男は絶命していた。やったのは目の前にいる宇宙人ではないーー宇宙人の横から、別の何かを投げたように腕を前に出している宇宙人が姿を現す。
その宇宙人は、口元が複雑なヘルメットの仲間だった。だが、着ている装備は少し違うのと、ヘルメットは口元は複雑ではなかったーー少しさっぱりとしているヘルメットを着けていた。
それだけではない、今度は反対方向の隣から、また別の宇宙人が姿を現す。この宇宙人も二人同様、装備は少し違っていて、着けているヘルメットも少しでこぼこしている。
そして、三体の宇宙人は辺りに見渡すと、口元が複雑なヘルメットの着けている宇宙人が一夏に歩み寄る。
「く、来るな!!」
一夏は逃げようとしたが縄が一夏の自由を奪っている為、逃げる事は出来ない。その間に、一夏に歩み寄る宇宙人は左腕から二本の刀に近い鋭利な刃物を展開し、一夏の前に立ち止まる、左腕を振り上げる。
「や、止めてくれ……」
一夏は宇宙人に懇願した。それとは関係なく、宇宙人は一夏目掛けて左腕を降り下ろす。一夏の悲鳴が辺りに木霊するが、宇宙人は聞く耳を持たなかった。否、宇宙人は耳がなかったのだった。