ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 久しぶりの投稿です。実は一時的な仕事関係であまり投稿出来ないのと、軽めの静養に入っていました。読者の皆様、申し訳ありませんでした。


第101話

「落ち着いた……?」

 

 一夏が泣いてから数分後、楯無は心配そうに訊ねる。後ろから抱いた為に一夏がどんな表情をしているのかは判らない。

 否、判るとすれば嗚咽は聴こえず、身体は震えていないーー僅かだが一夏の呟くような言葉が楯無の胸に刺さる。

 

「……ああ」

 

 一夏の言葉を聞いた楯無はぐっと下唇を噛むと、一夏の背中に顔を埋め、両手に力を入れる。

 

「そう……でも私は一夏君が苦しい思いをしているのは私でも判るーー、一夏君の苦しみは友達を喪うかも知れない恐怖を、貴方はそれを恐ろしいと思ってる……それに」

「……っ」

 

 一夏は背中に濡れつつあるのを感じ、目を見開く。

 

「私は……これ以上、貴方が苦しむのを見たくない、貴方が辛い思いをするのを私は見たくない」

 

 楯無は少し泣きながら、一夏に懇願する。

 楯無は想いを寄せる一夏を心配し、そう言えた。すると、一夏は眼を臥せ、両手に力を入れ、身体を震わせる。

 

「…………俺は、もう、何も判らなくなった……」

「えっ?」

 

 一夏の言葉に楯無は惚けるが、一夏は楯無にある事を言った。

 

「更識、俺はもう何も判らなくなった――それだけじゃねぇ、あの人達に何て言えば良いのかが判らなくなった」

「あの人、達?」

 

 一夏は楯無に、ある出来事を言った。自分は最初、ある者と逢った際は他人同士であったものの、修行を重ねていく内に絆を深め、自分は彼を師として慕っていった。

 それだけでなく、勇人や止と言う親友を得、沢山の思い出を得ていった。一夏から見れば辛かったが一夏は弱音を吐かなかった。

 一夏は姉に復讐したいが為、自分は彼やエルダー達の恩に報いる為に頑張って来た。地球に帰還した際も彼等を心配させないのと、勇人や止を部下であり親友として接していた。

 前者は兎も角、後者は一夏には強い理由があった。後者はスカーとチョッパーとの約束があった。彼等は一夏に、こうお願いしたのである。

 あの二人を頼むーー勇人を、止を、と。スカーは勇人を、チョッパーは止を一夏に託したのである。

 彼等は確かにそう言った。だが、彼、チョッパーには何て言えば良いのだろう。一夏はそう思っていた。

 勿論、エルダー達の存在は楯無には伏せるようにしながらあの人達と言った。

 

「俺は彼奴が、止が死ぬのは嫌だ……彼奴は俺の大切な友達だ……彼奴は渡と言う弟とまだ和解して」

 

 刹那、振動音が辺りに響く。一夏は言葉を止めるがその振動音は楯無のポケットに入ってるスマートフォンからだった。

 

「ちょっとごめんね」

 

 楯無はスマートフォンをポケットから取り出すと、それを見た。虚からだった。楯無はスマートフォンを耳に当てる。

 

「どう虚ちゃん……えっ? ……そう、うん、うん、判ったわ、一夏君に伝えとくわ」

 

 楯無は虚と軽いやり取りを済ませると、スマートフォンをポケットにしまい、一夏を見ると、辛そうな表情を浮かべる。

 一夏は楯無の様子に気付くも、楯無は辛そうに口を開いた。

 

「実は虚ちゃんから、学園長達が織斑先生や篠ノ之ちゃんの二人に処罰を言い渡したのよ……でも」

 

 学園長と、あの人物は織斑千冬と篠ノ之箒の処分を楯無に言い渡した。

 織斑千冬、彼女には一年間の教師活動の停止処分を言い渡し、篠ノ之箒には退学処分を言い渡したのだ。

 これには二人も怒るが彼女達は知らなかった。それは女尊男卑主義者の女性達が黙っていないからだった。

 千冬は女尊男卑主義者の女性達からは尊敬の眼差しを向けられ、箒は篠ノ之束の妹であり、彼女に何かあれば束は黙ってないだろうと思ったのである。

 が、この処分は余りにも軽すぎる。それを楯無から聞いた一夏は憤りを隠せない。

 

「ふざけんなよ!? 止を刺しといて、お前や鈴にも迷惑を掛けるような奴には軽すぎる処分じゃねえか!?」

 

 一夏は学園長と、あの人物に憤りを隠せないのか叫ぶ。そんな一夏に楯無は一夏を宥める。

 

「落ち着いて一夏君! これは学園長達が決めた事なのよ!?」

「それが何だよ!? そんな処分じゃあ納得しねぇよ!?」

「貴方の気持ちは判るわ! でも落ち着いて! 学園長達だって考えた末の処分を下したのよ!?」

「それが納得出来ねえんだよ!? あの二人は俺を追い詰めたんだ……っ!」

 

 一夏はやるせない思いを吐き出す形で壁を殴る。八つ当たりにしか見えないだろうが一夏なりの八つ当たりだった。

 女子供は殴るな、傷付けるな――兄弟子、ケルティックの教えでもあり、掟でもあった。

 しかし、自分は既に掟を破っている。女性議員やロシアの腐った役人達を沢山殺した。

 最早許されない事を自分は沢山してきた。否、今は違う。一夏は後悔していた。

 自分の御内や関係者――つまり自分のせいで楯無や止、勇人と言った者達を巻き込んでしまった。

 止には何て言えば良いのだろう? 一夏はそう思い身体を震わせると、そのまま膝を突く。

 

「一夏君? どうしたの?」

 

 楯無は心配して声を掛ける。が、一夏は哀しそうに俯き、両手を絡める。

 

「まさか……一夏君、大丈夫よ」

 

 楯無は直ぐに気付き哀しそうに笑いながら、一夏の隣に屈むと、肩を抱き寄せ、もう片方の手を一夏の絡んでいる両手に重ねる。

 楯無は一夏が何かに怯えている。恐らく、一夏は親友達が再び危害を加えられるのではないのかと思っていた。

 もしそうなれば、最悪の場合、親友達の中に死者が出てしまえば彼は後悔の念に駆られるだろう。

 楯無が一夏の肩を抱き寄せたのも、手を重ねたのも、一夏を落ち着かせる為だった。

 

「一夏君、辛いのは判るわ……でも元気出して、貴方がそんなんじゃ、止君が哀しむわ……」

「……っ」

「貴方の気持ちは判るわ……貴方はずっと、ううん、今は落ち着いて」

 

 楯無は一夏を励ます。しかし、一夏は俯いたまま何も言わなかった。

 

「一夏君……」

 

 楯無は再び思った。彼はもう充分に傷付いている。これ以上、彼には辛い思いをさせたくない。

 彼には――否、思い人には静養が必要だ。こんな場所にいるよりも、彼には物静かな場所で安らぎを与えてやりたい。

 静養出来る場所は一応ある。自分や簪、布仏姉妹の帰るべき場所、更識家。

 彼処なら一夏を咎める者は居なく、彼処なら一夏に安らぎを与えてくれる。

 勿論、それは楯無から見れば嬉しいが今はそんな事を言ってる場合じゃない。

 彼は病み上がりであり何時またやられても可笑しくなく、命を落としかねない。

 それだけは避けたい。楯無は決意したように頷くと、一夏に訊ねた。

 

「ねぇ一夏君……急で悪いかも知れないけど、明日、私や簪ちゃん、虚ちゃんや本音ちゃんの帰るべき家――つまり、私達の家、更識家に来ない?」

 

 楯無は一夏にそう言った。それを聞いた一夏は驚き瞠目しながら、楯無を見ると、楯無は少し哀しそうに笑いながら頷いたのだった……。




 次回、一夏の決意と渡達のやり取り。
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