ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 今回は新たなる敵登場。



第102話

「お前達の、家に?」

 

 楯無の言葉に、一夏は目を見開く。だが、一夏は別の意味で驚いていた。

 それは楯無が家に来ないのかと言うお誘い。それも明日と言う突然の事。一夏から見れば驚きしかないのだろう。

 そんな一夏を他所に、楯無は理由を述べた。

 

「一夏君、貴方はもう良いのよ、これ以上、自分を苦しめないで……貴方が二人に怨みを抱いても、それは何の意味もない――逆に貴方を追い詰めるだけよ……」

「な、何だよそ……っ!?」

 

 一夏が何かを言おうとした時、楯無は一夏に抱き着く。一夏は突然の事に戸惑うも、楯無はゆっくりと離れると、頬を紅くしていた。

 

「お願い、私達の家に来て……私は、貴方には安らぎの場所を与えたいのよ……」

「だ、だからって、止はどうするんだよ!? 止が生死の境をさ迷ってるんだぞ!?」

「止君は大丈夫よ……止君なら大丈夫……」

「お前に何が判るんだよ!? 止は……っ、止も一人だったんだぞ……」

 

 一夏は悔しそうに下唇を噛む。そんな一夏に楯無は哀しそうに俯くと、ある事を言った。

 

「一夏君、私ね、辛かったの……」

 

 楯無の言葉に一夏は「はっ?」と惚ける。が、楯無は悔しそうかつ訳を話した。

 実は楯無は一夏に罪悪感を抱いていた。一夏を人殺しにさせた事に後悔していた。

 それだけじゃなく、楯無は犯されそうになったが未遂に終わった物の、それは楯無の心に傷を残していた。

 あれは悪夢のように楯無を追い詰め、楯無を不安にさせ、楯無への自信を無くさせていた。

 幾ら楯無を継いだとは言え、暗部の人間とは言え、楯無は一人の女の子。犯されると言う恐怖は拭え切れないのだ。

 

「私は怖かったの……私を犯そうとした男達の顔は歪んでいた。私は怖かった……怖かった」

 

 楯無は身体を震わせる。恐怖への現れだった。そんな楯無を見た一夏は何も言わず、楯無を心配そうに見ていた。

 刹那、楯無は一夏に抱き着く。一夏は突然の事にまた驚くが楯無は身体を震わせていた。

 ――更識……――。一夏は楯無が震えている訳に気付いた。楯無は怖かったのだろう。それでなく、虚から、楯無が楯無としての自信を無くしている事を聞かされた。

 しかし、現に楯無は確かに自信を無くしている。それだけなら未だしも、一夏は悩んだ。

 彼女の家に行くべきなのか、それは虚が言ったように楯無を頼むように言ってくれた事にも関係し、楯無に自信を取り戻す為にもなる。

 逆にそんな事をすれば止はどうなる? 止は死にかけている。楯無の為に動くか、此処は止の為に動くか。

 一夏は二つの内、一つを取らなければならなかった。

 

「…………っ」

 

 一夏は決心したように頷いた。それは一夏にとって、最悪な決意だった……。

 

 

 

「…………」

 

 その頃、ここは日本のとある廃墟と化した工場。その工場のとある部屋。

 その部屋はとても汚いのか埃が被っているのと物が一つも置かれていない。

 しかし、その部屋には青年と男性が居て、青年は俯いたまま壁に凭れ掛かりながら体育座りしており、男性は青年の前に座りながら、俯いている青年を励ましていた。

 青年の正体は霧崎止の双子の弟であり、先日、学園を襲撃した青年、渡だった。

 一方、男性は渡を心配そうに見ていた。男性は二十代前半の精悍な顔立ちに、肩まで掛かる長い髪に清んだ黒い瞳。

 白いシャツに黒いベスト、黒いズボンを穿き、白いスニーカーを履き、左腕には緑色のコンピューターガントレットを付けていた。

 

「渡、俺はお前が独自の判断で行動を起こした事は咎めたいが、今は、お前が自分の判断を間違っている事を、俺は良く判っている」

 

 男性は渡に優しく言い聞かせると、渡は重い口を開く。

 

「でも半蔵さん……俺は貴方のファルを勝手に持ち出し、貴方の許可なく独断で行動したせいでファルを傷付けてしまいました……」

「それは気にするな――だが、お前は大丈夫か? 兄と逢ってどうだった?」

 

 半蔵と言う男性が渡に訊くと、渡は瞠目し直ぐに下唇を噛みながら顔を上げる。

 渡の表情は苦痛その物だった。止と再会した事は渡から見れば憎しみが増すばかりなのだろう。

 渡の心には止への憎悪しかないのだろうか。そんな渡を見た半蔵は溜め息を吐く。半蔵は渡に呆れるのと同時に、同情をも感じた。

 渡の兄、止は渡のたった一人の家族。そんな彼を渡は拒絶している。別に渡が悪い訳ではないが止も悪い訳でもない。

 渡にそう言いたかったが半蔵はあえて、ある事を指摘する。

 

「渡、俺は別にお前達兄弟の事をとやかく言うつもりはない。だがな、お前はまだ若い――その命を粗末にするな」

「でも半蔵さん、俺は――俺は彼奴を許せない、彼奴は俺を見捨てた――それだけは変わらない」

「確かにあれは見捨てたと思うだろ。だが実際は違う、お前の兄はお前を見捨てた訳じゃないし、お前は今も兄から心配されてるに違い」

「それは違う!!」

 

 半蔵が何かを言う前に渡が叫んで遮る。半蔵は突然の事で何も言わなくなるが渡を哀れみの目で見ていた。

 

「彼奴は俺を捨てた。彼奴は俺を……っ」

 

 渡は止への怒りを覚えつつも再び俯く。これには半蔵も流石に何も言えなくなるが渡の頭に手を置く。

 すると、部屋の扉が開き、半蔵が扉の方を向くと、一人の男が部屋に入ってくる。その人物は月影だった。

 月影は渡を見て呆れながら舌打ちする。

 

「チッ、そのガキ、まだ落ち込んでんのかよ? ったく、はた迷惑なクソガキだな?」

 

 月影は渡に嫌悪感を表すも、半蔵は表情を険しくする。

 

「お前のせいだぞ! 渡を連れ戻して来いと行ったのに、勝手に暴れろなんて言ってねぇぞ!?」

「はぁっ? 悪いのはそいつだろうが? そいつが勝手に行動しなきゃ、彼奴等がやってきたから此方は身を守る為に暴れたんだよ?」

「そんなのは当たり前だ! 渡は私怨で動いた! 奴等から見ればお前や渡は敵だ! そんな事も判んないのか!?」

「そんのは判ってるよ!? 大体お前が行けや良いだろうが!? 俺が行かなくても、お前が行けばそのガキも言う事聞くだろうが!?」

「お前が勝手に行動する危険があったからお前を行かせんだろうが!?」

 

 半蔵は月影に怒りながら立ち上がると、月影に指摘した。そんな半蔵に月影は言い返す。

 

「はあっ? 何だよてめえ? リーダーだからって何でも許されんのかよ? だったらリーダーの座を俺に譲れ? そうすればお前も楽に行動出来るだろう?」

 

 月影は半蔵に訊いた。逆に月影の表情は何処か笑っている。まるで半蔵をリーダーの座から引き摺り下ろし、自分が新たにリーダーになろうとしていた。

 しかし、それには理由が二つあった。自分が半蔵よりも年上であり、実力は半蔵の次に強いからだった。

 しかし、それも無駄に終わった。月影の言葉は半蔵の逆鱗に触れる。半蔵は無言で彼を睨むも、ある武器を展開し、手に取る。

 一本の刀だった。その刀は切れ味は良さそうであり、白銀色の刀身が妖しく輝く。

 

「殺ってみろ……お前が居なくなれば俺や渡も気が楽になる――そうすれば、俺達は安心する」

 

 半蔵はそう言うと、手に持ってる刀を月影に向ける。刀の尖端は月影へと向けられていた。

 持ち主である半蔵の眼差しは鋭く、月影を排除する事にも躊躇しない事を意味している。

 そんな半蔵の眼差しを向けられている月影は不気味な笑みを浮かべながら指を鳴らす。

 何時でも来い、相手にしてやる。月影は半蔵の事を快く思っておらず、彼が居なくなれば自分の行動は何でも許される、と。

 半蔵と月影。どちらも譲れなかった。片方はリーダーとしての使命を果たす為に部下を殺し、もう片方はリーダーを殺し、自らリーダーとなろうとする。

 どちらも、互いの利益を得ようとしていた。

 

「止めて下さい!!」

 

 渡の叫び声が部屋に木霊する。半蔵と月影は渡の方を見ると、渡は身体を震わせながら言葉を続けた。

 

「止めて下さい二人共、全て俺のせいなんです。俺が私怨で動かなければ、こんな事になりませんでした。だから半蔵さんと月影さんが互いを殺し合う何て事はしないで下さい……!」

 

 渡は悔しそうに言った。そんな渡に月影は呆れながら指摘した。

 

「ああ、そうだよ! お前が動かなければこんな事にはならなかったんだよ!!」

「月影! 貴様は口を出すな!」

 

 半蔵は月影に怒る。一方、渡は二人に言った。

 

「すみません半蔵さんに月影さん、暫く一人にして下さい……」

「渡? 何故だ?」

「暫く一人になりたいんです、俺は自分のやった事を反省したいんです……」

「……判った、暫く一人になれ、それと何か遭ったらハウを呼べ」

 

 半蔵は刀を下ろし、渡の近くに屈むと、渡の頭を撫でながらそう言った。渡は深く頷く。

 

「ケッ、反省しろクソガキが」

 

 月影は渡に気遣うような言葉を掛けなかった。それを聞いた半蔵は月影を睨むも、月影は舌打ちすると部屋を出ていった。

 扉を乱暴に開け、乱暴に閉めたのである。半蔵は月影に呆れながらも、渡には優しい表情を見せるとそのまま頷き、立ち上がると部屋を出ようとした。

 ふと、扉を開ける前に渡を見る。渡は俯いたままであったが半蔵は渡を哀しそうに見た後、何も言わず部屋を出ていった。

 扉を締めた音が部屋に木霊するも、渡は俯いたまま何も言わず、その場を動かなかった。

 しかし、彼は止を怨みながらも、半蔵と月影の二人に迷惑を掛けた事に後悔していた。

 そして、部屋は薄暗く静寂に包まれていたが、それは渡の心情を物語るようにも、思えた……。




 次回、本音の気持ち。
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