ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 本当は前当主との話をしたかったのですが、先ずは挨拶が先と思い次回に持越します。


第105話

 あれから一時間後。此処は東京にある静かな住宅街。その場所には一台の黒いリムジンが走っていた。

 

「お二方、もうそろそろ着きますよ?」

 

 リムジンを運転している三浦運転手が一夏と楯無に言う。一夏は軽く頷くと自分の膝で、可愛い寝息を立てながら寝ている楯無の肩を揺らす。

 

「更識、もうずく着くみたいだぞ? そろそろ起きろ」

 

 一夏は楯無の肩を優しく揺らしながら囁く。刹那、楯無の瞼がピクッと動き、ゆっくりと瞼が開く。

 楯無の紅い瞳が見える――楯無は自分を見上げている一夏を見る。

 一夏は微笑んでいたがその笑みは楯無には安堵と同時に、一夏には感謝していた。

 

「一夏、君? 着いたの?」

「ああ、三浦さんがもうずく着くと言ったからお前を起こした」

「そう――ありがとう、起きるわ」

 

 楯無は身体を起こすと、目を擦る。その間に一夏は何も言わずに自分の手提げ鞄を手に取り、楯無も手提げ鞄を手に取る。

 

「着きましたよ」

 

 同時にリムジンも止まり、三浦運転手が二人にそう言うと、エンジンを止め、車から降り、後頭部座席の扉を開けた。

 

 三浦運転手は二人に微笑むと「鞄をお持ちします」と言いながら手を伸ばす。

 二人は三浦運転手の言葉に頷くと、手提げ鞄を渡し、三浦運転手が離れると、二人はリムジンから降りた。

 ――あっ……――。一夏は目の前にある門を見て、瞠目した。その門は和風のような物でとても大きく、一般人が門を潜るのには躊躇するくらいだった。

 その右斜め上には防犯カメラが設置されていて、それが侵入者を見付けると同時に和の雰囲気をぶち壊しにしているようにも思えた。

 門の左右には白い壁と瓦の屋根が左右に伸びていた。しかし、そこが更識本家の正門であり、表札には「更識」と書かれ、その少し下にはインターフォンが設置されていた。

 一夏は門を見て何も言えなくなる中、楯無が一夏の腕を掴む。楯無は心配そうに見ていたが、もう片方の手には自分や一夏の分の手提げ鞄をぶら下げていた。

 恐らく、三浦運転手から渡されたのだろう。

 

「では、私は車を戻してくるので、お二方は先に家の中で待機して下さいね」

 

 三浦はそう言うと、楯無は「ええ」と答え、三浦は頭を下げると、リムジンに乗り込み、リムジンからエンジン音から聴こえ、リムジンはそのまま走り去って行った。

 

「入りましょう、皆が待ってるわ」

 

 楯無は一夏を家の中へ入ろうと促す。一夏は頷くと、楯無は微笑み、楯無はインターフォンを鳴らした。

 

『お嬢様ですか――只今、家の者が門をお開けします』

 

 インターフォンから女性の声が聴こえ、それを聞いた楯無は「ええ」と頷いた後、。

 

「一夏君、緊張してる?」

 

 楯無は困惑しながら、未だ門を見ている一夏に訊ねると、一夏は楯無を見ると首を左右に振る。

 

「嫌、大丈夫だ、俺はな――それよりもお前は」

 

 刹那、門が開く。二人が門の方を見ると、門の少し先には大きな和風の豪邸が建っていた。

 一夏は驚くも、門を開けたのは三十代後半の男性。スーツを身に纏ってるが楯無に微笑む。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま、後藤さん」

 

 楯無は男性を、後藤に言い返す。すると、後藤は一夏に気付き、瞠目する。

 

「貴方は……そうですか」

「後藤さん?」

 

 後藤は表情を曇らせ、楯無は疑問を抱く。後藤は「何でもありません」と言いながら微笑む。が、とても哀しそうな物だった。

 

「それよりもお二方、前当主と奥様、従者達がお待ちです」

 

 後藤はそう言うと「此方です」と先を歩く。

 

「行きましょう、一夏君」

 

 楯無は一夏を促す。一夏は辺りを見渡していたが更識本家の広く、緑豊かな敷地を見ていた。

 

「一夏君、どうしたの?」

 

 楯無が再び訊くと、一夏は無言で頷き、歩き出す。しかし、一夏は未だ辺りを見渡していた。少し先の左側には白い石庭があり、逆に右側には池があり、錦鯉が游いでいていた。更にその右側の奥には離れなのか屋敷が一軒あった。

 更識本家の屋敷は和風だが縁側もあり、かなり豪華だが築何百年なのだろうか、と思ってしまう。

 そうしている内に、屋敷の前に着いた。一夏は改めて見るが一夏は何かを思う。

 

「着きました――では、開けますね」

 

 後藤は家の玄関を開けると、家の中が露になる。そこは玄関土間だったが僅かに段差があり、通路もある。

 そして、人は何人かはいた。が、五人は居たが男性二人、女性三人だが服は各々違う。

 嫌、一つ共通しているとすれば、彼等の表情は安堵しているのか困惑しているのかが判らなかった。

 

「皆、ただいま」

 

 楯無が彼等に微笑むと、彼等は頭を下げる。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 

 彼等は楯無に言った。楯無も頷く。すると、彼等は頭を上げる。が、彼等の表情は何処か暗い。

 

「皆、どうしたの?」

 

 楯無は彼等の様子に怪訝そうに見る。一方、彼等は楯無の質問に答える事は無かった。

 それどころか、彼等は隣にいる一夏を見て困惑している。彼が更識姉妹を助ける為に手を染めた青年、一夏だと、彼等は気付いた。

 ――何か? ――。一夏は彼等の視線にたじろぐ事はなく、眉間に皺を寄せていた。そんな彼の視線に彼等は背筋が震えるのを感じた。

 一夏の視線には殺気が籠っているのと、彼が自分達を警戒している事にも気付いた。

 自分達も一応、暗部の人間だが彼の方が幾多の修羅場を潜り抜けてきた為、彼の方が何倍も強く、そして優しい。

「皆、彼が」

「刀奈」

 

 楯無が彼を紹介しょうとした時、奥から女性の声が聴こえた。その女性は楯無を刀奈と呼んでいた。

 

「奥様!!」

「御母様!」

 

 後藤を含めた従者達や楯無が女性を見てそう言った。

 その女性は四十代前半の優しそうな顔立ちに肩まで掛かる茶髪に黒い瞳。服は淡いクリーム色の和風を纏っている。

 女性は刀奈や簪の母であり、奥様でもあった。

 

「お帰りなさい刀奈――あっ」

 

 女性は楯無に微笑んでいたが、楯無の隣にいる一夏を見て哀しい表情を浮かべる。

 

「貴方は……一夏君なの?」

 

 女性は一夏を見て恐る恐る訊ねる。すると、一夏は深く頷いた。

 

「そう……一夏君、来てそうそう悪いかも知れないけど、主人に逢ってくれませんか?」

「御母様!?」

 

 女性の言葉に楯無は驚きを隠せない。彼女だけではない、周りの従者達も驚きを隠せないでいた。

 一夏は驚きはしなかったものの警戒はしていた。が、女性は言葉を続ける。

 

「一夏君、私の主人と逢ってくれませんか? 主人は貴方の事で色々と訊きたい事があるのです」

「御母様何を言ってるの!? 一夏君はお客様なのよ!? 休ませるのが先の筈よ!?」

「刀奈、これは主人が決めた事です、主人は一夏君に逢いたがってます――それに一夏君は……ごめんなさい」

 

 女性は一夏に謝る。

 

「一夏君、貴方を巻き込んでしまって」

 

 女性は一夏に謝罪の言葉を述べる。そんな女性に周りの従者達も頭を下げる。

 

「お気になさらないでください、自分は彼等に怒り、死を与えたまでです」

 

 一夏の言葉に周りは驚愕し、頭を上げる。と、同時に、一夏の言葉に戦慄した。彼は人を殺した事を後悔よりも平然と言ったのだ。

 これには彼等も驚くが一夏自身、沢山の者達を殺してきた為何の意味もないだろう。

 

「(一夏君……貴方は辛くないの?)」

 

 一方、楯無は一夏の心配をした。彼は自分や簪を助ける為に手を染めた。

 決して許される事ではないが、彼の表情は無その物だったが内心、彼が何を考えているのかまでは判らなかった。

 

「すみませんが、前当主様に逢わせてくれませんか? そちらの方を何時までも待たせる訳にはいきませんから」

「あっ、ええ、そうね――此方です、私が案内します」

 

 女性はそう言うと、一夏を促す。一夏も頷くと靴を脱ぐ。

 

「一夏君……」

 

 刹那、楯無が不意に呟く。すると、一夏は楯無の方を見ると、手提げ鞄を持ってない方の手を楯無の頭の上に置き、撫でた。

 これには楯無も驚くが一夏は一瞬だけ微笑むと、直ぐに表情を険しくし、女性の後を従いていった。

 

「一夏君……」

 

 楯無は一夏の後ろ姿を見つめ続けていた。しかし、一夏は自分の父と何を話すのかは判らなかった。

 そして、楯無の心は不安に包まれていた……。




 次回、一夏、前当主に楯無への思いを伝える。
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