ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 今回はついに……ついに一夏が!!


第107話

「い、一夏、君?」

 

 一夏の告白とも言える言葉に、龍三は瞠目していた。何故なら、一夏は楯無――刀奈に好意を寄せていた。

 龍三は刀奈の実の父親であり、父親から見れば目の前にいる青年が実の娘に好意を寄せている事を伝えるのは、相当の勇気がいる。

 それを彼は、一夏は平然と言った。普通の家庭なら実の娘が付き合ってる男性を、父親は良い目で見る筈もない。

 龍三が驚いてるのを他所に、一夏は表情を険しくしながら頬を紅くしている。勇気を出して言ったのだ、これには恥ずかしいに決まってるに違いない。

 しかし、それを聞いたのは龍三だけではなかった――襖の外から、誰かの声が聴こえた。

 ――刀奈? ――。女性の声だった。それを聞いた一夏は「えっ!?」と驚く。刹那、襖が開くと、一夏と龍三は目を見開いた。

 そこには、正座しながら顔を真っ赤にしている楯無がいた。近くには、お茶が淹れられてある湯呑みが二つ乗ってるお盆が床に置かれていた。

 そして楯無の近くには女性がいた。楯無と簪の母親であり、襖を開けたのは彼女だった。

 

「か、刀奈? それに喜美江(きみえ)?」

 

 龍三は娘と自分の妻を見て呟く。一方、楯無は驚きの目で一夏を見据え続けているが頬は紅い。

 さっきの言葉を、一夏の告白を聞いてしまったのだろう。お茶は、彼女が運んできた物なのだろう。喜美江は聞いてなかった為に何も知らない。

 

「さ、更識……!?」

 

 一夏は楯無を見て何かを言い出す。が、楯無は突然、立ち上がりその場を離れる。

 足がお盆に少し当たり、湯呑みに淹れられてあるお茶が少し溢れる。

 

「更識!?」

「待っんだ一夏君!!」

 

 一夏が追い掛けようとした時、龍三が呼び止める。一夏は龍三の方を見ると龍三は悲しい表情を浮かべる。

 

「龍三、さん?」

 

 一夏は龍三に訊くと、龍三は口を開いた。

 

「君は、刀奈が好きなのか?」

 

 龍三が訊くと、喜美江は驚き、一夏の方を見る。一夏は頬を紅くしながら頷いた。

 

「はい、自分は彼女が好きです、彼女は俺の為に動いてくれました、だから俺は彼女に惹かれました」

「そうか……では一夏君? 君は刀奈を大事にしたいと言う気持ちは強いか?」

 

 龍三の言葉に、一夏は深く頷く。すると、龍三は腕を組むと目を閉じ溜め息を吐く。

 

「そうか……では、君にお願いがある――彼女を、娘を頼む」

「貴方!?」

 

 龍三の言葉に喜美江は驚く。が、龍三は喜美江を見て首を左右に振る。

 

「良いんだ喜美江……さて、一夏君?」

 

 龍三は再び一夏を見ると、一夏も龍三を見る。

 

「一夏君、私は君の噂を色々と知ってる……君は心ない暴言を受けられていたね?」

「……っ、はい」

 

 一夏の表情は暗い物へと変わる。龍三は一夏を捜している間、一夏の噂を色々と知ってしまった。が、今は龍三は言葉を続けた。

 

「だが君はそれを受けながらも君は誰にも話さなかった……君は何でも一人で背負い込んでいた……だが今は違う、君は娘に頼っている」

「えっ?」

「一夏君――君は刀奈の為に色々としてくれた――父親である私から見れば嬉しい物だった、刀奈が笑顔を少し見せてくれたのも、刀奈と簪が和解したのも君のおかげだ――今改めて礼を言う……ありがとう」

 

 龍三は軽く頭を下げる。そんな龍三に一夏と喜美江は何も言わなかった。そして、龍三は顔を上げると一夏に言った。

 

「一夏君……娘を、刀奈を頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏君……」

 

 その頃、楯無は自分の部屋にいた。楯無の表情は何処か切ない。だが、楯無は今、色んな意味で自分を落ち着かせていた。

 一夏の告白。あれは楯無が一番聞きたかった物だった。自分は一夏に惹かれていた。が、自分は一夏の告白を受け入れる自信はなかった。

 自分は一夏に多大な迷惑を掛けた。そんな自分が、一夏の恋人になれる筈もない。自分よりも簪か鈴の方が良い。

 楯無はそう思うと、胸が苦しくなってくるのを感じた。

 

「更識……」

 

 刹那、扉の方から叩く音が聴こえ、楯無は顔を上げる。

 

 その声の主は一夏だった。幸いな事に鍵は掛けてある為、問題はない。そんな一夏を楯無は扉に近付き、訊いた。

 

「一夏君……貴方はさっき……」

 

「悪い、聞かれてたんだやっぱり」

 

 一夏は苦笑する。しかし、楯無は何も言えなかった。彼女の表情は暗い物へと変わっていた。楯無は、一夏の告白を受け入れる自信が、まだなかったのだった。

 

「更識、さっきの言葉は本気だ……」

 

 刹那、一夏の言葉に楯無は瞠目した。しかし、一夏は扉の向こう側にいる為、彼がどんな表情をしているのかは判らなかった。

 

 

 

「更識、俺はな……」

 

 一夏は楯無の部屋を出入り出来る扉の前に立ったまま、ゆっくりと言葉を述べ始めた。

 一夏は最初、楯無と逢った時は彼女が止にぶつかって謝りもしない事に怒りを感じた。

 が、楯無が涙を流したのを見て気になり、妹が誘拐されたと聞かされ、彼女の為に動いた。

 しかし、それは狂言誘拐と知り、怒りはあったものの、楯無を犯そうとした男達を殺し、それを下した女性議員を殺した。

 その後、楯無に謝られたが一夏はそれを気にもせず、彼女の前から姿を消した。

 学園での再会した時、彼女は泣きながら自分に抱き着き、そして自分は彼女をお姫様抱っこし、保健室へと連れていった。

 そこからは色々あったが虚からは鍵を渡され、彼女を箒から守る為に嘘の恋人宣言と言う形でキスをしたり、楯無が食堂で一夏に食べ合いをさせたり、IS没収やロシアの件で一悶着遭ったりもした。

 今思えば、あの時の自分は千冬や箒に怨みがあった筈なのに、楯無がいたおかげでそう言った感情は少しずつだが消えていった。 あの時、学園で起こった出来事は異様な程多く、そして死と隣り合わせのような出来事ばかりだった。

 今思えば、自分が生きてきたのは楯無のおかげであり、楯無に惹かれ、自分は女の子を見捨てる事は出来ない性格だからこそ楯無を助ける思いがあったのかもしれない。

 一夏はそう思うと、楯無といた頃の自分を思い返す。あの時の自分は固かった。親友達以外には心を開こうとは考えていなかった。

 しかし、それを良い意味で壊したのは楯無であった。彼女と再会して、薫子、虚、本音、簪、と言った彼女の知り合い達とその妹とも知り合いになった。

 一夏から見れば淡い思い出であり、彼女達が居なかったら、自分は一生、親友達や知り合いにしか心を開かなかったのかもしれない。

 一夏はそう思うと、改めて楯無に礼を言う。

 

「ありがとな楯無――お前が居なかったら、俺はずっと心を閉ざしていたのかも知れない、最悪な結末を迎えたのかも知れない……」

 

 一夏は悲しそうに、扉の向こうにいる楯無に言った。それを聞いた楯無は瞠目し、口元を両手で押さえる――目尻には涙を浮かべていた。

 一夏が、彼が、想い人が自分に好意を寄せているのを改めて知って、自分は何の為に泣いてるのかを、楯無自身、何も判らなかった。

 判るとすれば、自分は……彼の気持ちが自分に向けられている事に泣いているのだった。

 楯無が泣いてるのを露知らず、一夏は軽く深呼吸すると、軽く頷き、楯無に告白した。

 

「楯無――嫌、刀奈! 俺はお前が好きだ! 俺の言ってる事は嘘じゃない! これは俺の気持ちだ! お前は俺の為に動いてくれた、心配してくれた! 俺はお前のそこに惹かれた! お前が好きだ、刀奈!!」

 

 一夏は楯無に自分の想いを伝える。それは偽りのない、一夏自身の本当の気持ちであった。

 楯無を守りたい、自分のせいで傷付いた楯無の傍にいたい、自分の為に更識家に静養させたいと周りを説得した楯無に恩を返したい。

 一夏は自分の心にそう言い聞かせていた。そんな一夏の、一夏自身の現れとも言える告白の言葉に楯無は強く目を閉じ、そして、扉の鍵を開け、扉を開けた。

 そこにいたのは、自身の想い人である一夏がいた。その表情はとても優しい。リムジンの中で見た一夏の表情も優しかったが今の彼の表情はそれ以上に優しい物だった。

 

「一夏君……っ、ワァァ――ン!!」

 

 楯無は堪え、溜めていた涙を吐き出す形で流しながら、一夏に抱き着いた。

 一夏は楯無の行動に戸惑いながらも軽く抱き止める。一方の楯無は一夏の胸を埋めていた。

 

「一夏君……私も、私も貴方が好き……ひくっ、貴方は私を何度も助けてくれた……本当は私が、うぐっ、えぐっ」

 

 楯無は一夏の胸の中で泣きながら自分の気持ちを伝える。

 本当は望んでいた事だった。一夏の傍に居たかった。彼は自分を何度も助けてくれた。

 自分はそこに惹かれたのかもしれない。だが今は違う――今は一夏が自分を好きと言ってくれた。

 そんな楯無を見た一夏は両手を楯無の後頭部や背中に当て、撫でる。

 

「大丈夫か楯無? そんなに辛いのか?」

「ううん……私は嬉しいの、貴方が私を好きって言ってくれたのを……私も貴方が好きだったの……!」

 

 楯無は泣きながら口にする。すると、楯無は顔を上げ、一夏を見る。一夏はまだ微笑んでいたが楯無の顔は涙でクシャクシャになっていた。

 

「楯無――嫌、刀奈、俺はお前が好きだ――これは嘘じゃない、お前が好きだ」

「……私も好き、貴方が、どんな男性よりも、貴方が一番好き」

「そうか……刀奈、俺と付き合ってくれ」

「……はい!」

 

 二人は頷き合う。そして、二人は互いの顔を近付けると、そのまま唇を重ねた。

 とても長い物だった。が、二人の頬を何処か紅い。

 

 刹那、二人は離れる。息は荒かったが、二人は互いの相手を愛しそうに見つめ合う。

 そして、二人は再び、熱い口付けを交わした。それはさっきよりも長かったが二人には関係なかった。

 

「刀奈……良かったの」

「本当ですね……でも彼なら、一夏君なら彼女を幸せに出来るかも知れないわね……」

 

 そんな二人を、龍三と喜美江は遠くから微笑ましそうに見ていた。しかし、一夏と楯無の二人は二人に気付く事は無く、二人は恋人同士に成れた事に嬉しさを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この時、一夏と楯無は知らなかった――奴等が、とあるプレデター達が自分達を狙っている事を……二人は知らなかった。

 

 




 これで今年最後の投稿ですが、皆さん、良いお年を。
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