ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「と、止……」
一夏は、楯無のスマートフォンを使って、止と会話し始めた。しかし、一夏の表情は暗い物であり、止に掛ける言葉は何処か罪悪感に苛まれているようにも思えた。
それを知ってるのは、近くにいる楯無くらいだろう。嫌、楯無は心配そうに見つめながらもそれを口にはしない。
出来るとすれば、自分は彼の傍にいる事と、彼を落ち着かせる為に手を握る事ぐらいだ。
『一夏、一日振りくらいかな?』
「そうだな……それくらいだろうな――止、お、俺……」
一夏はそれ以上は言えなくなる。すると、止が少し笑う。
『どうしたんだ? 俺と話すのが恥ずかしいのか?』
「嫌、違うんだ――その……ごめん」
一夏は辛そうに目を閉じる。止は、元とは言え自分の姉だった千冬に刺されたのだ。止から見れば、元とは言え自分のせいだ。
さっき、自分と楯無は恋人同士になれたがそれを報告するどころか、自分には止に掛けてやる言葉が見付からない。
彼がどんなに自分を非難しょうが一夏はそれを受け止めるつもりでいた。
『どうしたの一夏? どっか悪いの?』
「あっ……嫌、何処か悪い訳じゃない……その、ごめん……俺の身内がお前を」
『そんなのは気にしないよ?』
一夏が何かを言う前に止がきょとんとしたような口調で言う。それを聞いた一夏は瞠目するが止は言葉を続ける。
『一夏、俺は刺された事は気にしないよ? だってあれはお前がやった訳じゃないし、俺の不注意だからお前が気にする必要ないじゃん?』
「だけどお前は俺の!? ……っ、お、俺はお前に罪悪感があるんだよ!? なのに何でそんなに平気何だよ!? 責めろよ!? 俺を詰れよ!?」
一夏は止に怒る。一夏から見れば身勝手な行動である事は判っていた。だがこうしなければ、止は自分を責める筈だ。
しかし、隣にいる楯無は一夏の様子に戸惑う。が、スマートフォン越しから聞いていた止は一夏の言葉の嵐に耳を傾けていた。
『……確かにそうかも知れない……でも、俺は別にお前を責めるつもりはないよ?』
「と、止、お、お前は何を言ってんだよ!? お前は俺を責める資格が」
『そんな物は無いよ!!』
一夏が何かを言う前に止が叫び、それを聞いた一夏は一瞬だけ怯む。楯無もそうだったが一夏は恐る恐る、止に訊ねた。
「と、止?」
『一夏、俺は責めたいよ? でもそんなのはしたくない……だってお前の俺の、俺の友達だから……友達を責める理由なんてないからだよ!! あっ……つっ』
『トッマ!?』
止は叫んだ。が、止から悲痛の声が聞こえ、近くから本音が止の心配する声が聞こえた。
「と、止!?」
一夏も止の心配をするが楯無も心配しているのか困惑している。
『い、一夏……俺はお前を責めない……お、俺はお前の友達で……お、俺の恩人……だから、それにお前……うぐっ……お前は俺と勇人のリーダーだから、お前がクヨクヨしてたら、俺は、俺はそんなのは嫌だ! お前は本当は優しい奴でとても強い! お前がクヨクヨしているのは見たくない! 俺が知ってる一夏は皆を思いやる強い男だあっ……ああっ!』
止は再び叫ぶと、止はまた悲痛の声を上げる。そんな止を一夏は「止!?」と、楯無は「止君!?」と心配する。
スマートフォンの向こう側からも簪や虚の声がしたがそれらは全て止を心配する声――が、スマートフォンから止が激痛を堪えながら、周りを制止するような声が聞こえた。
『大丈夫だよ……それよりも一夏――胸を張って、お前はリーダーだって事を忘れないで……お前の姉は姉で……お前はお前だから、それだけは判って……先輩、後はお願いします』
止はそう言った後、スマートフォンを虚に渡す。
「止、止!?」
一夏は止からの返事を聞きたかった。が、虚が答えた。
『すみません一夏さん、止君は病み上がりなのです――だから今は止君を安静にさせて上げて下さい、それに止君は貴方を責めてはいません』
「ですが虚さん!? 俺は!」
「一夏君!!」
楯無が叫ぶと、一夏は楯無を見る。楯無は怒りと哀しみが混じったような表情で一夏を見ていた。
怒りは止の事を心配しない一夏に、哀しみは一夏を心配しているようにも思えた。一夏から見ては判らなかったが楯無は一夏に怒りがありながらも心配していた。
「一夏君、今は落ち着いて……今は止君を気遣って、今は止君の気持ちも理解して上げて……今は、今は止君の思いを無駄にしないで」
楯無はそう言った後、一夏の手に重ねている手に力を入れる。楯無自身の気持ちだった。
今の一夏は止の言葉を理解しているよりも心配の方が強い。それは一夏の良い所だったが今は違う。止を心配し過ぎているのだ。
「一夏君……時間はまだ有るわ、止君は死んだ訳じゃないわ……それに今は止君を安静にさせて、それに貴方も、今はゆっくりしていって……お願い」
楯無は一夏に寄り添う。それを見た一夏は何も言えず悔しそうに下唇を噛むと、スマートフォンを楯無に差し出す。
「返すよ――刀奈の言う通り、今の俺には止を責める資格はない……」
「一夏君……それで良いの? 貴方は……いいえ、これ以上はいいわね……判ったわ」
楯無はそう言うとスマートフォンを受け取り、耳に当てる。
「ごめんなさい、今はありがとう虚ちゃん」
『此方こそすいません、貴重な時間を割いてしまって』
「良いのよ、それより止君をお願いね」
『判りました。では』
「ええ、また後でね……」
楯無はそう言った後、スマートフォンを下ろすと、辛そうに一夏を見る。一夏は俯いていたが楯無はそっと一夏の方に頭を置き、大丈夫、大丈夫だからと囁いた。
しかし、一夏は止への罪悪感があるのか、楯無の言葉に耳を傾けながらも後悔していた……。
その頃、IS学園ではモノレールが走っていた。そのモノレールは今、厳重な警戒体制の元の中で走っていた。
周りにはISを纏った女性が五人もいた。まるで囚人を護衛するようにも思えたがそれもその筈、そのモノレールには織斑千冬、篠ノ之箒の二人が拘束される形で乗っていた。
何故、二人は拘束されているのかは、箒が一夏に関わろうとしたのと、千冬は止を刺そうとした事で学園長が彼女達に処分を下したのだ。
二人は反論したが自分達は罪を犯した。その為、拘束される形で護衛されていた。因みに護衛しているのはIS委員会の選りすぐりの精鋭達であり、IS委員会の中ではマトモな方である。
「一夏……何でお前は私を見てくれないのだ……何で私を」
「一夏……お前は私の者だ……私の……」
二人はぶつぶつと何かを呟いている。が、二人は一夏を想っていた。しかし、一夏は二人を嫌っている為、何とも言えない。
そんな二人を近くにいる女性二人が哀れみの目で見ていた。どちらもISを纏っているが、これでも強い方である。
「可哀想よね何か……」
「ええ、でも二人共、一夏君に関わろうとしたから、何とも言えないわ」
「それよりも一夏君は何で、彼女達を嫌ってるのかしら?」
「私にも判らないわよ……でも」
刹那、モノレールの外から大きな音が聴こえた。女性二人は外を見るが、外にいる仲間が何者かと闘っていた。
それも仲間達は一機、また一機と倒されていく。
「な、何が起きてるのよ!?」
「わ、判らないわよ!?」
女性二人は戸惑うが、このモノレールの次の車両へと出入り出来る扉が開く。二人は扉を見る。刹那、扉の方から青白い弾が出てくると、弾は二人の内、一人の女性の頭を吹っ飛ばす。
隣にいた女性は驚くが、今度は隣にいた女性の頭も吹っ飛んだ……。
そして、モノレールは何者かに襲撃され、織斑千冬と篠ノ之箒は何者達かに拉致された……。
モノレールが何者達に襲撃されてから数分後、ここは日本のとある廃墟。
「そうか……織斑千冬と篠ノ之箒を拉致したのか……全く、何を考えてるんだ月影とブラックは!?」
廃墟には半蔵が、とある者と一緒に居ながら憤りを隠せない。何故なら彼は近くにいる者から、部下である月影がとある者と一緒にモノレールを襲撃し、千冬と箒を拉致したと言う話を聞かされた。
それも無断であり、人を拉致までした。それは半蔵にとって怒りしか湧かなかった。
人を拉致する事は捕虜にも使えるが彼はそんな姑息な手を使わない。使ったとしても捕虜相手を気遣う心配もあった。
半蔵は舌打ちすると、とある者を見る。とある者――彼もプレデターだった。が、そのプレデターは軽装だが髪の色は茶色く、顔には鷲を表したマスクを着けている。
左腕にはガントレットを着けているが彼は半蔵を無言で見据えていた。
「ファルコナ―……お前はどう思う? 月影やブラックのやり方を見て」
半蔵はファルコナーに対して冷静に問い掛ける。一方、ファルコナーは首を傾げていたが半蔵は辛そうに目頭を押さえる。
「そうだよな……お前に言っても無駄だよな……だがな、お前には何の罪もない――それに、お前達は殺るつもりなのか?」
半蔵は辛そうに、ファルコナーに訊く。何故なら、半蔵は今、あるプレデターから、ある人物の抹殺命令を下された。
その人物はまだ少女であり、半蔵から見れば辛い任務でもあった。が、そうしなければ、半蔵が大事にしている者の命が危うい。
その為、半蔵はリーダーとしての使命と、部下の勝手な行いに怒りと、大事な者を守る為に動かなければならない。
半蔵はリーダーとして重いとも言える、ある人物の抹殺命令を受け入れる。
「取り敢えず、俺が行く……お前も来るんだろ?」
半蔵の問い掛けにファルコナーは頷くと、半蔵は「そうか」と辛そうに言った後、懐から、ある物を取り出す。
「こんな少女を殺せってのかよ……」
半蔵は辛そうに呟く。それは写真だったがある少女が写っていた。
隠れて撮ったようにも思えるがその少女は――更識楯無だった……。
次回、一夏と楯無、更識家での安らぎの時間。