ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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第113話

 勇人は今、危機的状況に陥っていた。と、言うよりも、今、物凄く不機嫌でいた。

 何故なら勇人は今、小柄で銀髪に紅い瞳かつ、片方は眼帯を付けている少女に殴られそうになったのである。

 何故なら、その少女は勇人に怒りを覚えていた。その怒りは八つ当たりにも近いが少女は、勇人に八つ当たりしたのは仕方ない事だった。

 周りは、真耶や七人目の男性操縦者は固唾を呑む処か、震えていた。しかし、そうなるのも仕方ない事だった。

 そして、少女は口を開き、こう言い放つ。

 

「貴様が、貴様等が教官を!!」と。

 

 

 

 

 時は一日前、此所は止がいる保健室。此所には勇人、止、本音、虚、簪の五人と束がいた。しかし、彼等の表情は戸惑いを見せていた……勇人を除いては。

 

「それでモノレールに乗っていたちーちゃんや箒ちゃんは何者かに連れ去られた……でも、近くには、頭部の無いISを纏った女性の死体が二つあったみたいだよ?」

 

 束の言葉に勇人を除いた者達に動揺が走る。そうだろう? 頭部の無い死体があるとすれば猟奇的殺人と思える上、吐き気をも促す様な物だ。

 それを一般の、しかも未だ成人にも満たない子供から聞けば尚更悪い。その証拠に少女達は少し口を押さえていた。一方で勇人は頭部の無い死体に違和感を感じていた。

 そんな殺し方は……もしかすると、と、勇人は推測した。そして、勇人は束に訊く。

 

「束さん、頭部の無い死体には血は出ていましたか?」

「えっ? 否、血は出ていなかったよ?」

「そうですか……ならいんです」

 

 勇人は少し考える様に俯く。勇人は推測した。頭部の無い死体に血は出ていない――恐らく、だとすれば……。

 ――仕方ない――。勇人は小声で呟くと、頷き、保健室の扉の方へと向かう。

 

「勇人、何処行くの?」

 

 そんな勇人に止が呼び止め、勇人は足を止めると、振り返る。勇人は表情を険しいままにしてい。が、そんな勇人に束や簪達は疑問に思っているのか少し不思議そうに見据えていた。

 

「何処か行くの? トイレ?」

「……否、ちょっと、お手洗いだ」

 

 勇人は表情を緩めると、束の方を見ると、止を頼みます、と言い残し保健室を出た。

 

「…………」

 

 保健室の外――――つまり、廊下には誰もいなかった。恐らく授業中か単に居ないだけかは判らない――それでも、勇人には関係なく、好都合でもなかった。ふと、勇人は歩き始める。

 勇人は、あの推測を、頭部が無死体の謎を解明するべく、ある人物に接触しょうとしていた。

 その人物はエンフォーサープレデター……この学園の森の奥にいるプレデターである。

 そのプレデターは何故学園に居るのかは判らない。が、勇人は、頭部の無い死体を作り、彼女らを殺害したのは他のプレデターではないかと推測していた。

 だとすればエンフォーサーがプラズマキャノン砲を渡してきたのも、エルダーがそう命令したのも、全て、その別の何かのプレデターが居るのではないかと思い、それを渡してきたのだろうか?

 否、その推測は本当かどうかは判らない――判るとすれば、彼に全て接触すれば解決に等しく、そしてその推測を裏付ける理由もあった。

 少し前、この学園に襲撃してきた二人の男性操縦者。一人は止の弟、霧崎渡――もう一人は、月影と言う者。

 何方も装備は違えども、自分達と同じ機体と良く似ている機体を身に纏っていた。

 恐らく、その機体を造ったのは……刹那、勇人の腕から音が聴こえ、勇人は立ち止まり、音が聴こえる方の腕の、制服の腕部分を捲る――コンピューターガントレットがあった。

 音の正体はそれだったがその音は誰かからの連絡をも意味していた。

 勇人は音の正体に驚いてはいなかったが何故か出ようともせず、軽くボタンを押すと、再び歩き始めた。

 勇人は気付いていた、その連絡主は一夏であろう事に――。しかし、勇人はあえて出ない方を選んだ。

 一夏は恐らく、モノレールでの事件に気付いたのであろう。それは事件であり、報道もされている。

 それも千冬や箒が乗っているのと、彼女等が誘拐された形でいなくなったのと、頭部のない死体にも気付いたのかもしれない。

 連絡してきたのもその為だろうが勇人は応答しなかった。否、しなかったのではなく、したくないと言い換えれば良いのかもしれない。

 勇人は一夏に連絡しないのは勇人自身が彼を気遣っていたからだった。

 彼は、一夏は充分と言える程、疲れている。彼は身内や幼馴染の件で傷つき、更には自分や止が傷付いている事でも自分を責めているだろう。

 それに彼は今、楯無と一緒に彼女の屋敷で静養している。それを彼に連絡するのは、彼の静養を、安らぎを奪う様な物だ。

 それだけは絶対にしたくない。彼は自分の親友であり、ライバルでもある。

 彼を使うくらいなら、自分で解決する。彼の手を煩わせるくらいなら、自分が全てを背負おう、と。

 それは間違った選択でもあるが彼は、勇人はそれでも良かった。彼には身内がいないのと、そして自分には名字がないのは、自分は元々、名字その物が無かったからである。

 その為、彼には喪う物はなかった。が、出来る事なら、親友達の為にも、自らを犠牲にもする覚悟はあった。

 そして、勇人は何時の間にか学園を出て、森がある所まで来ていた。

 人は考えている間に何かをし終えているという事は聞いた事があるがそれが本当の様にも思えた。

勇人はその理論的な事を信じるか信じないかは自分でも判らなかったが森の中へと足を踏み入れ、森の中へと消えていった……。

 

 

 

「勇人、勇人!」

 

 その頃、更識家の屋敷では一夏が腕に付けているコンピューターガントレットで学園に居る勇人に連絡を繰り返していた。

 しかし、彼からの応答は無く、無駄にも等しかった。否、勇人自身が彼を、一夏をこの件から遠ざける形で、彼に連絡に応答しない形で無視していた。

 が、一夏は彼、勇人の気持ちを理解していないのではなく、彼自身の思いに気付いていないからだった。そんな彼、一夏を、近くにいた楯無は心配そうに見ていた。

 何故なら彼女は一夏の行動に戸惑いと心配を隠せないでいる。それもその筈、二人はついさっき、モノレール襲撃事件を龍三から聞かされ、知った。

 それだけでなく千冬や箒が何もかに連れ去られ、二人の頭部の無い死体と海では機体を纏った女性達が何者かに殺害された形で水死体となって発見されると言う悍ましくも猟奇的殺人襲撃事件が発生したのだ。

 それは瞬く間に報道され、ネットでも話題となりつつあった。そんな猟奇的でもありながら、千冬と箒と言う有名人が連れ去られた事はマスコミには恰好のネタでもあり、逆にネットでは猟奇的殺人の方を気にしていたのだ。 

 一夏から見れば別の何かが襲撃したのと、一夏は頭部の無い死体に何かに気付いた。それを一夏は、勇人か止に連絡して気をつけるのと、

あまり迂闊な行動をしない様に釘をさすつもりで連絡したのだ。

 止は一夏の命令に頷く一方で、勇人は何故か応答しなかったのだ。一夏は勇人に連絡を入れ続ける一方で、楯無は一夏を見て慌てて止める。

 

「い、一夏君! もう止めて!」

「っ、か、刀奈?」

 

 楯無の言葉に一夏は我に返り、楯無を見る。楯無は辛そうに、そして心配そうに一夏を見ながら口を開いた。

 

「い、一夏君……これ以上は止めて……そ、そんな事をしても、何も変わらない」

「だ、だけど、は、勇人が、それに止は重傷で動けないのに……彼奴らに何か遭ったら……どうなるんだよ!?」

 

 一夏は冷静さを失っていた。何故なら一夏は二人が、勇人と止に何が遭ったら、自分はリーダーとして失格になる……。それに彼等は自分の親友でもあり、それが千冬か箒にな何かをされたら、殺されたら、自分はどうかなってしまう。

 一夏はそう思うと心配と自分の関係している者達が殺されたらどうなる? そうなれば自分は……自分は。

 

「……っ……!」

 

 一夏は俯くと頭を抱えた。一夏は疲れていた。度重なる不運と傷ついていく仲間達――全てとは限らないが全て自分が招いた種。最早、自分が居ればもっと沢山の悲劇が生まれる。

 それも全て自分のせい――彼、一夏はそう思うと、悔しい想いで涙を浮かべ始めた。

 

「う、うぐっ……っ」

「一夏君……」

 

 そんな一夏を楯無は優しく声をかけると、静かに一夏に寄り添う。楯無は気付いた。彼は、一夏は疲れているのと自分を責めている。

 これには楯無も気付くが彼女は暗部の人間。人の気持ちを知る事も教えられた為に、彼の気持ちも理解した。

 それは功を奏したのかは判らない――が、楯無は一夏が泣き止むまで傍にいた。

 そして、楯無の部屋は一夏が泣き止むまで、一夏の泣き声が木霊し続けていた。




 次回、楯無、疲れきった一夏への想い。
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