ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「…………」
満月が見えるその夜、此所は更識家の屋敷にある縁側。そこには、一夏が縁側に座りながら寂しそうに夜空を眺めていた。しかし、彼は私服ではない――彼が来ているのは軽い白の浴衣だった。
彼はついさっき、更識の面々と共に食事を済ませ、入浴も済ませたのである。が、その時の一夏は周りには平然を装っていたが内心は震えていた。
千冬や箒の事、傷ついた止や鈴の事、そして未だ連絡が来ない勇人の事もあった。何れも一つずつ片付けるのは難しく、無理にも等しい。
それだけではなく彼はリーダーとしての自身も失いつつあった。何がリーダーだ、自分はリーダーらしい事はしていなく、逆に彼等を傷付けているじゃないか。
一夏はそう思うと、自分に怒りとやるせない気持ちを抑えきれないでいた。最早自分にはリーダーとしての資格は……刹那、一夏は近くから人の気配がし、気配がした方を見ると、そこには楯無が居た。
楯無は白の浴衣を着ているが何処か凛々しく、私服姿とは違い何処か色っぽく何処か可愛らしいが逆に表情は何処か寂しそうで何処か悲しそうに笑っている。
「一夏君、風邪引くよ?」
「楯、刀奈……」
「そこ、隣、良いかな?」
楯無の言葉に一夏は俯くが楯無は許可無く一夏の隣に膝を折る形で座った。楯無の行動に一夏は驚いてはいないが未だ俯いていた。
満月は綺麗だった――周りには雲は無い。まるで、薄暗い地上に光を灯している様にも思えた。楯無は満月を見て、不意に呟いた。
「ねえ一夏君? あなたは平気なの?」
楯無の言葉に一夏は瞠目し、「えっ?」と言いながら顔を上げ、楯無を見る。楯無は満月を見ていたが一夏の方を見ると、言葉を続けた。
「一夏君、あなたは平気なの? それに大丈夫?」
「えっ? 何がだ? それに俺は大丈夫だぜ?」
一夏は少し笑う。が、そんなのは楯無には通用しなく、逆に楯無に不信感と心配を与えてしまい、楯無はそれを一夏に指摘した。
「嘘よ? 貴方はリーダーとしての自覚を失いつつあるわよね?」
「えっ……っ」
楯無に指摘された一夏は少し悔しそうに俯く。楯無の指摘は正解とも言えた。一夏は今、迷いを生んでいた。
リーダーとしてではなく、身内や知り合いの関係で親友達を傷付けられ、更には知らない敵の存在と、自分を育ててくれたプレデター達の真の理由。
どれもリーダーでありながら判らないのと、疲れしかなかった。最早、自分は疲れきっていた。出来る事ならこの現実から目を背けたい――、一夏はそう思ってしまった。その証拠に、一夏は震えていた。
「一夏君……」
刹那、一夏の手を誰かの手が優しく掴む。勿論、その手の主は楯無だった。一夏は楯無を見て驚きはしなかったが力無い声で「刀奈……」と呟いた。
「一夏君……大丈夫よ、貴方は一人じゃないわ……皆が居るし、私も居るわ……それだけじゃない、貴方は勇人君や止君の親友であり、リーダーでもあるのよ?」
「だけど、俺は彼奴らが傷ついたのを自分のせいだと思っている……! そ、それに俺はリーダーじゃない……! お、俺はもう、親友を一人も助ける事も」
「助けてるわ!」
一夏の言いたい事を遮る様に楯無は静かに叫び、それを聞いた一夏は少し驚くが楯無は言葉を続ける。
「一夏君、貴方は助けていないと言ってるけど、貴方は助けているわ……その人達は簪ちゃんや鈴ちゃん、勇人君に止君、篠ノ之博士やクロエちゃん、ビショップさん――それに私も助けたのよ?」
「お、俺が皆を助けた?」
「ええ、貴方は私達を助けたわ――止君は火事で動けなかった彼を貴方は助け、勇人君は判らないけど、篠ノ之博士や鈴ちゃんは貴方が死んだと思っていたけど貴方が生きていた事には喜び、クロエちゃんには料理を教え、そして私と簪ちゃんには……」
刹那、楯無はそこから言葉を噤み、俯く。それを見た一夏は心配そうに見つめるが楯無は顔を上げ、一夏を見る――目には涙を溜めていた。
「私達姉妹の壊れた絆を直してくれた……ううん、それだけじゃない、私が辛い時には少しでも助けてくれた……それに貴方は誰よりも優しく、誰よりも他人を心配する人――――私は、いえ、私は貴方に感謝し、そして惹かれた……」
楯無は泣きながらニッコリと笑う。それは楯無の一夏への想いを綴ったような内容だった。彼は誰一人助けていない訳ではない――彼は既に僅かに沢山の人を助けていた。
勇人、止、鈴、束、布仏姉妹、クロエ、簪、そして――楯無を助けていたのだ。彼が彼等彼女らを助けたのは彼が優しいのと、彼自身が復讐に駆られながらも人としての情を忘れていなかったのだ。
簪が誘拐され、楯無が犯されそうになった時も彼は怒りを隠しきれなかった……。クロエが束の為に美味しい料理を作りたいと言った時も、彼は彼女の為に料理を教えてくれた。
止が火事に巻き込まれ死にかけた時も助け、渡との件で困った時も気にかけ、セシリアを助けたと言う強い気持ちにも賛同してくれた。
鈴に再会したのも彼女の為に逢ったのだ。
楯無――刀奈には一夏を人殺しにしてしまった時やロシアの件で弱気になった時も少し嫌そうにしながらも気にかけ、助けてくれたのだ。
一夏は誰も助けていない訳ではない――彼は既に、沢山の人を助けている。彼自身が気付いていなかっただけであり、そして彼自身が何時の間にか行っていたからであった。
そしてもう一つ、彼の目の前に居る少女、楯無は一夏にある事を言った。
「一夏君……貴方がリーダーじゃなきゃダメよ……勇人君や止君のリーダーは貴方だけ、それに貴方が弱気になったら二人は心配するし、貴方がリーダーの座を降りても、他の二人に譲っても、二人はこう言うわ――「リーダーは一夏、お前だけだ」って」
「二人が……そう言うのか?」
楯無は深く頷く。
「ええ……二人ならそう言うわ……リーダーは貴方だけ……そ、それに私は貴方が必要、なのよ……」
楯無はそう言うと、一夏の肩に頭を置く――僅かだが彼女の表情は少し悲しそうだった。
「それに私はあなたが好きなのは事実だけど、私はこうしたい……」
「楯無……ふっ」
一夏は楯無の行動に戸惑うが直ぐに悲しそうに笑うと、開いた方の手で楯無の頭を撫でる。彼女の髪からはいい匂いがした。それだけでも一夏の行動に楯無は嬉しそうにしていた。
が、彼女は少し震えていた。これには一夏は気付かない訳ではなかった。
「どうした?」
「怖いのよ……?」
「えっ?」
楯無の言葉に一夏は驚くが楯無は言葉を続けた。
「怖いのよ……貴方がこれ以上、自分を責めるのは……それに今は、この時間を、この時だけは忘れて……」
「刀奈……」
「お願い一夏君、今は私が居るから、今は、この時だけは……!」
「刀奈……」
一夏は戸惑うが楯無は引かなかった。楯無は一夏が好きであり、彼とは恋人同士であり、恋人である彼がこれ以上辛い出来事ばかり遭う事が楯無には許せなかった。
出来る事なら彼の傍に居たい……更識楯無ではなく、更識刀奈として……少女は淡い気持ちを彼、一夏に願っていた。
そんな彼女に一夏は戸惑うが彼は少女の切なる願いを聞き入れる形で横抱きするが彼の表情は晴れなかった。
今の彼にはリーダーとしての自身だけでなく、彼女の辛い思いや彼女の女心を理解出来なかった……そして、彼はますます判らなくなっていくのを、彼自身も気付いていた……。
地上が闇夜に包まれる中、たった一つの希望の光とも言える満月が照らされる中、二人の影は一つになっていた。
「…………」
その頃、学園近くの学生寮の勇人と止が共同して生活している部屋では、勇人が自分が使っているベットに腰掛けながら険しい表情を浮かべていた。
が、彼が険しい表情を浮かべていたのは、彼が数時間前――森の奥でエンフォーサーに逢い、そして彼から全ての話しを教えられ、それを聞いた勇人は怒りしか沸かなかった。
プレズマキャノン砲を渡してきたエルダーの目的、エンフォーサーが地球に来た目的、そしてその二つが意味する事は、自分や一夏、止に関わる重大な事。
それは絶望を与え、世界を震撼させる様な出来事、それが世間に知られれば、自分達は立場や命さえも危うい――勇人は、この事実を先に知った事に怒りと後悔を覚えながらも彼は、この事実を一夏や止には言えなかった。
言えば彼等は絶望するだろう――それだけはしたくなかった……。
「ちっ……」
勇人は舌打ちすると、そのままに転がる。最早逃げ道は無い……勇人はそう思ってしまうと同時に、目を閉じた。
何故なら彼は今日の出来事を忘れたいのと同時に、早く寝るつもりだった。
寝る理由としては彼は夜で行動する事が多いのと、彼がこの事を誰にも話さない理由としてだった。
そして彼は知らない――翌日、銀髪の少女に怨まれ、金髪の生徒にはやましい事をする事に……。
次回、金髪と銀髪の二人の転校生。