ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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第117話

「ふぅ……」

 

 あれから数分後、一年一組の教室。周りはざわついているが千冬の件で不安になっていた。が、それ以上に、ある件で更に不安になっていた。

 そんな中、その件に関わり、当の本人でもある勇人は一人、席に着いたまま溜息を漏らしていた。彼はさっきの事で呆れと怒りを感じていた。

 自分は先ほど、ラウラ、否、ラウラ・ボーデヴィッヒに絡まれたのだ。彼女は織斑千冬を崇拝しており、それが理由で自分や一夏、止に憎悪を抱いている。

 仕方のない事とは言え、原因は彼女にあるのだ。彼女は、千冬は一夏を求めているからだ。孤独が故でもあるが一夏は拒絶しているのだ。その結果、最悪の物となったが致し方ないだろう。

 それにラウラは現在、真耶の付き添いの元、医務室にいる。絡まれないだけでも良しとする。同時に勇人はそう思いながらも二人の安否を気にしつつ、視線を走らす。その先には……。

 

「ねえねえ!? フランスはどんな所だったの!?」

「男性操縦者は何時判ったの!?」

「というか、生まれは何所!?」

 

 その先には、数名の女子生徒に囲まれている男子生徒、シャルル・デュノアがいた。彼は周りに対して質問の嵐を受けているが当惑していた。

 

「皆、そんなに言われても困るよ……」

 

 彼は苦笑いしていた。周りの質問は普通でもあるが女子は噂好きかつ、知りたい事は知りたいのだろう。しかし、彼は聖徳太子ではない。彼は一般的な青ね……否、彼はそこまで考えた後、目を細める。

 違和感を覚えていた。嫉妬ではないが彼は本当に男性操縦者なのか? と。もしも見つければ世界が仰天する筈だ。それが伏せられたのは怪しいとしか思えなかった。

 彼を気遣ってか、或いは何か別の目的が有って、この学園に来たのか? 勇人は彼を怪しみつつも彼に話しかける者がいた。

 

「はやはや〜〜」

 

 本音が彼に近づく。彼女の声がした方に視線を走らせると、困惑した表情を浮かべている本音がいた。近くには二人の女子生徒もいた。蒼いボブカットに片方だけピンで止めている少女、鷹月静祢、紫の髪に黒い瞳の少女、相川清香もいた。

 後者は兎も角、前者の彼女は止を発見してくれたのだ。彼女には感謝しているが彼はそれを言わず、敢えて本音に訊ねる。

 

「どうした?」

「あっ、う、うん……はやはやはどう思うの?」

「……何がだ?」

 

 彼の質問返しに本音は戸惑う。彼女はある理由で彼に近づいたのだ。勿論、本音はそれを言った。

 

「彼、シャルルンの事だよ〜〜」

「……何?」

 

 本音は視線をシャルルの方へと走らせる。彼や二人の少女も視線を走らせる。シャルルは周りの質問にひとつひとつ答えている。何時終わるのかは判らないが休み時間中に終わるかどうかも判らない。

 勇人は彼を見ているが本音は。

 

「彼、フランスから来たんだよね〜?」

「ああ。それが何だ?」

 

 勇人がそう言うと、本音は言った。

 

「どうしてっ……う〜〜ん」

 

 本音は考え事をする。彼女も何かに気付いたのだろうか? 勇人はそれに気付いたが彼は言った。

 

「奴は俺に任せろ」

「えっ?」

 

 彼の言葉に本音達は目を見開く。彼を見ると彼は微かに表情を険しくしていた。彼はシャルルを疑惑の目で視ていた。それは後からで良かったのだが彼は別の話題を出す。

 

「それよりも、お前はどう思う?」

「えっ? 何が〜〜?」

 

 本音は彼を見る。が、それは虚しくもチャイムが鳴ってしまった。これには四人も気付くが勇人は本音に対し。

 

「後で話す」

 

 彼は彼女に対し、そう言ったのだった。

 

 

 

「フン! はっ!」

 

 その頃、此処は更識家にある道場。そこはとても広く、多くの者が入るには充分過ぎる程だった。壁には竹刀等が飾られているが練習用でもあるのだろう。

 そんな中、中央には一人の青年がいた。道場着を纏っているが手には独特的な槍を持っていた。彼はそれを使って練習、否、槍術をしていた。

 一つ一つ、無駄な動きはないが汗を沢山掻いていない。表情は険しいが練習の手を緩めない意味でもあった。そして、その青年は一夏だった。

 彼は学園の生徒であるが千冬や箒の件で疲れ果て、更識楯無により、更識家で静養する事になった。が、彼はそれを破る意味で練習をしていた。

 

「たっ! はあっ!」

 

 彼は槍を、スピアーで突き、払い、振り回す。そして、軽く振り下ろした。

 

「……っ」

 

 一夏は軽く歯を食い縛った。彼はある事を思い出していた。それは少し前に学園に襲撃して来た者達である。一人は兎も角、もう一人が問題だった。

 霧崎渡、霧崎止の双子の弟にして敵でもある人物だ。彼はどうするのかは勿論、此方側……否、現時点では難しいだろう。彼は止を憎み……刹那、この道場の出入り出来る横開きの扉から音が聴こえた。ガラガラと言う音が聴こえるが一夏は扉の方を見る。

 そこには、タオルを片手に持っている少女、楯無がいた。

 

「刀奈……」

 

 一夏は思わず笑みを零す。最愛でもあるが今の彼に取って、心の拠り所でもある。

 

「一夏君……此処にいたの?」

 

 楯無はそう言いながら扉を閉めると、彼に近づく。その間に一夏はスピアーを片手に持つ。

 

「一夏君、静養してなかったの?」

 

 楯無は彼にタオルを差し出しながら訊ねる。一夏はタオルを手に取る。

 

「否、身体を動かしたくて、つい……ああ、龍三さんには許可を貰ったぜ?」

「そうなの? お父さんったら」

 

 楯無は父の行動かつ、許可した事に呆れるが一夏は軽く笑う。

 

「別に良いだろ? 俺は……」

 

 一夏は不意に暗い表情を浮かべる。彼の様子に楯無は気付く。

 

「一夏君?」

 

 楯無は彼に尋ねる。すると、一夏は辛そうに話した。

 

「あいつ等は……俺がいない間に何かなければ良いんだ……」

「えっ……あっ」

 

 楯無は何かに気付いた。彼は、一夏は二人の事を考えていた。霧崎止と勇人の二人をだ。彼等は一夏不在の間、学園にいるのだ。しかし、止は静養しており、今は勇人独りなのだ。

 彼等は大丈夫か? 何かされていないのか、と。一夏は彼等を心配しているが楯無は哀しい笑みを浮かべる。

 

「大丈夫よ……彼等は」

「…………」

 

 楯無は彼に気遣いの言葉を掛ける。その言葉に一夏は何の反応を示さないが彼は自分の立場に疑問を感じているのだ。自分のせいで彼等が傷付いた。

 それは紛れもない事実であり、リーダー失格でもあった。しかし、楯無はそれを気にもしなかった。否、彼の気持ちを痛い程理解しているからだった。

 

「……一夏君」

 

 楯無は彼に優しく抱き着く。せめてもの慰めだった。そんな楯無に彼は何もしなかった、否、自分を追い詰めていたからだった……。

 

 

「ふぅ……色々遭ったな」

「ハハハ、そうだね?」

 

 その頃、学園にあるアリーナ。その建物内にある着替え室では勇人とシャルルの二人がいた。彼等はISの実技の為にスーツに着替えているが彼等はその前に色々と追い掛けられていたのだ。

 主に女子生徒であるがそれは置いといて、彼等は授業の為に着替えているが二人共、着替え終えていた。勿論、この場所を案内したのは勇人である。

 

「それにしても、君は凄いね?」

「……何がだ?」

 

 シャルルの言葉に勇人は彼の方を視る。紺色の青いスーツを纏っているが華奢であった。身惚れる訳ではないが彼は不信感を抱いていた。彼は……勇人は彼を見続けていたがシャルルは言葉を続ける。

 

「だって君は周りに女子生徒がいる中で生活していたんでしょう? それって凄い事じゃないか」

「……俺だけだと思っているのか?」

 

 勇人は目を細めるがシャルルは気付く。

 

「あっ、い、否、そう言ってる訳じゃないんだ! 僕はただ……」

「……ただ?」

 

 勇人は舌打ちする。彼の様子がオドオドしく感じたからだ。しかし、シャルは彼を見て微かに困惑する。彼を怒らせた、そう思っていた。

 が、勇人はロッカーを閉めると、身を翻す。

 

「おい……貴様は何者だ?」

「えっ?」

 

 勇人の言葉にシャルルは瞠目した。が、勇人は彼に近づく。シャルルは彼の様子に気付くが慌てて後退ろうとした。しかし、それは無駄だった。後ろはロッカーだからだ。

 シャルルはそれに気付くが既に遅かった。勇人は直ぐ近くまで迫っていたからだ。そして、勇人は彼のスーツに手を伸ばし、そして……。

 

「っ!?」

 

 シャルルは目を見開いた。否、突然の事で戸惑い、恥辱していた。何故なら勇人の行動にだった。彼はとんでもない事をしたのだった。

 彼は、勇人は力一杯、シャルルのスーツの胸部分を引き裂いたのだった。。

 シャルルは目を見開いたままだったが頬を真っ赤にさせている。彼女の、胸部分には白い肌が露出するが乳房も露になってしまう。しかも、薄いのではなく豊満であった。

 男である筈の彼女とは思えない程、大きいのだった。それだけではない、シャルルは顔を真っ赤にしているのも恥じらっているからだった。

 

「貴様……嘘をついたな?」

 

 勇人は舌打ちした。彼は……否、彼女だったのだ。勇人は最初から気付いた訳ではない。彼女に対し、不信感を抱いたのは、この事だった。


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