ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
ケルティックやスカーがとあるゼノモーフ達を相手にしている丁度その頃、ここは横浜の港。
今の時間帯は夜だった。しかし、港には誰もいない。何故なら、ここは人にあまり使われない港だった。
その港には四つの倉庫が横並びに建てられており、目の前には海が広がり、その奥の向かい側には横浜の街が見える。
逆に此処は灯りはない。それがより一層、不気味さを増し、寂しさを増している。
「…………」
そんな港に、一人の少女がいた。少女は港の海を眺めながら黒い鞄を大事そうに抱えている。
その少女は楯無だった。楯無は妹が誘拐されたのと、妹を拐ったであろう誘拐犯の女性から、この場所へと来る様に電話で連絡され、この港へと来たのである。
そして、近くにはあの二人はいなかった。
「簪ちゃん……」
楯無は妹の名を呟く。その表情は何処か哀しく、楯無自身が罪悪感に苛まれているのを思わせている。
楯無にとって、妹は大事な存在、両親や従者同様、大切に思っていた。だが、自分は妹を傷付けてしまうような事を言い、妹との仲は冷めきっている。
それに今は、もうすぐ約束の時間である七時になる。楯無から見れば、妹ともうすぐ逢えるのと、妹の安否が気になりつつあった。
刹那、二つの足音が聴こえた。一つはハイヒールであり、もう一つはスニーカーか何かの靴の足音だった。それも、どんどんと大きくなっている。
楯無は目を見開き振り返ると、二人の男女がいた。女の方は二十代前半で、金髪のロングヘアーに蒼い瞳、クリムゾンレッドの女性用スーツを纏い、赤いハイヒールを履いている。
男の方は三十代前半ぐらいで、黒の短髪で黒い瞳に無精髭を生やし、全身黒いスーツを纏い、黒いスニーカーを履いている。
二人は、楯無の元へと歩み寄る。その表情は何処か不敵に笑っている。それを見た楯無は再び驚くも表情を険しくする。
楯無は気付いた。彼女達こそが、妹を誘拐した犯人である事に。そして、二人の男女は楯無の前に立ち止まる。
「貴女が、更識楯無ね?」
女性が楯無に問うと、楯無は表情を険しくし頷く。
「そう」
「貴女達、簪ちゃんを拐った犯人でしょ!?」
楯無が問うと、女性は軽く笑う。
「ええ、そうよ?」
女性は答えると、楯無は「ぐっ!」と歯を食い縛り、鞄を持ってる手に力を入れる。この女、絶対に許さない、と。
「フフフ、そう怒らないの、そんな事で怒ったら、妹の命は無いわよ?」
女性の言葉に楯無は下唇を噛み、鞄を持ってる両手に力を入れる。
「まあまあ落ち着きなさいーーそれよりも電話で言ったけど、身代金を持ってきたのかしら?」
女性の言葉に、楯無は瞑目し深く頷く。そんな楯無に女性は口の両角を上げ、勝ち誇った表情を浮かべる。
「そうーーなら話は早いわね?」
女性の言葉に楯無は目を開け、眉間に皺を寄せ、女性を睨む。
「そう睨まないの、そうしたら、妹の命はないわよ?」
女性の言葉に楯無は「グッ!」と言葉を詰まらせる。 一方、女性は楯無を見て不敵な笑みを浮かべる。それはまるで、身内の心配をする者を見下し、尚且つ手玉に取っているようにも思えた。
そんな楯無や二人の男女を、近くの倉庫の屋根から見ている二人の青年がいた。プレデターの防具を纏っている一夏と止である。
二人は顔に着けてるマスクのお陰で、三人の会話を聞いている。しかし、一夏は三人の会話を聞いて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「許せねぇな」
一夏は二人の男女に怒りを覚える。二人の男女は楯無の妹、簪を誘拐しただけでなく、二人の発言が楯無を見下すような発言とも思えていた。勿論、そう思っているのは一夏だけである。一夏は手に力を入れる。
ーー今すぐにでも、あの二人を殺したいーーと。そんな一夏に、隣にいる止が一夏を宥める。
「落ち着けって一夏、今出たら、簪と言う女の子が殺される危険があるぜ?」
止は一夏を宥めながら言葉を述べると、一夏の肩に手を置く。
「だけどよ! ……嫌、解ってるけどよ……」
一夏は俯き、下唇を噛むーー顔にはケルティックのマスクを着けている為、どんな表情をしているのかは止には判らない。それでも、止は溜め息を吐き、再び楯無や二人の男女の方を見る。
「あれ? 移動すんのか?」
止の言葉に、一夏は頭を上げ、楯無達を見るーー確かに、楯無達は移動を始めていた。 しかし、楯無達は一夏や止が屋根の上にいるこの倉庫や他の倉庫の中へと入るどころか、別のーーこの港の近くにある別の港の方へと歩いていた。
勿論、一夏や止はその事を知らない、訳ではない。それは、二人が顔に着けているマスクには録音機能が備えられており、三人のやり取りを良く解っていた。
「追い掛けるぞ」
一夏は止に楯無達の後を追い掛けようと言い、止と共にその場から離れようとした。
ーーなぁ、一応、勇人に連絡を入れた方が良いんじゃねぇか? ーー
刹那、止が唐突な発言をし、一夏は止を見る。
「な、何を言ってんだ?」
「嫌、一応、勇人に連絡を入れた方が言いかな~~って思ってさ?」
止は一夏を見ながら髪を掻く。勿論、それは止の判断でありながら、止はその判断を一応、一夏に訪ねて決めて貰おうとした。
そして、一夏の判断は「ああ、その方が良いかもな」と、止の判断を受け入れた。
「止、お前は勇人に連絡してくれーー俺は更識の後を追うから、お前は勇人に連絡したら、俺と合流してくれ」
一夏は止にそう命令し、止は「解った」と言いながら頷くと、一夏は頷き返した直後に楯無達の後を従ける為にその場を離れる。
「さてと、連絡するか」
止は一夏は居なくなったのを確認した後、右腕にあるコンピューターガントレットを操作し始める。
勇人に連絡する為であるのと、勇人の様子を訊ねる為や自分達がいる場所を教え、この街の何処かで合流しょうと伝える為でもあった。
止はコンピューターガントレットを操作し続ける。刹那、コンピューターガントレットから声が聴こえた。
「……あっ、勇人?」
止はその声の主に気付き、答えた。そして、止は勇人に連絡を入れた。
ここは、一夏、止、楯無、二人の男女がいる港の少し離れた場所にある港。そこはさっきの港と同じような場所だが、建物は五つも建てられている。
そんな中、五つもの倉庫の内、一つの倉庫の、倉庫を出入りできる大きな扉。その扉の前には、楯無や二人の男女がいた。
「着いたわよ」
二人の男女の内、金髪の女性が口を開く。男は兎も角、それを聞いた楯無は瞠目し、直ぐに下唇を噛み、手に持ってる鞄に力を入れる。
ーーこの倉庫の中に妹がいるーー。楯無から見れば喜ぶと言うよりも、楯無自身が罪悪感を感じていた。
妹はどうしているのか、妹は無事なのだろうか、妹は助けに来てくれたのが自分だった場合ガッカリするのか、と。
それらは全て、楯無の思ってる事だが金髪の女性や黒いスーツを着た男には関係ない事である。
すると、女性は楯無に「入るわよ?」と命令し、楯無は頷き、女性が先に入り、楯無、男が後から入る。
倉庫の中は少し暗かった。人の気配はするものの、それは何人かは判らない。だが、そこには簪がいるだろうかーー嫌、いた。
それは、唐突に判った。その妹は、倉庫の真ん中の真上で、身体を縄で縛られながらぶら下がっていた。
「簪ちゃん!!?」
楯無は、身体を縄で縛られ身動きが取れない少女を見て戦慄する。
その少女は楯無と同じ、少し長めの水色の髪だが毛先が内側に跳ねているのが特徴的かつ、楯無と同じ赤い瞳であるが眼鏡を掛けている。
服は、上は薄水色の半袖にその上に薄い白いベストを羽織い、下には膝まである青いスカートを穿き、白い靴下に黒のドレスシューズを履いている。
しかし、その少女は気を失っているのか項垂れている。そして、少女の真下には一人の女性と、三人の黒いスーツを着ている男達がいた。
「簪ちゃん、簪ちゃん!!」
楯無は簪を呼び掛けると、簪を助けようと思い鞄を放り捨て、簪の元へと駆け寄よろうとした。刹那、何者かに背中から体当たりされ、俯せに倒れた直後にその何者かに押さえつけられてしまう。
その何者の正体はさっきの男だった。
「放して、放してよ!?」
楯無は男にそう叫ぶ。しかし、男はニヤニヤと笑い、女性は楯無が放り捨てた鞄の元へと歩み寄り、拾った。
「フフッ、アハハハハハ!!」
女性は鞄の中を見る為にチャックを開け、中に入っている物を見て笑う。中にはお金が入っていたーーそれも一千万円もあり、全て本物である。
女性はそれを見て笑っていた。
「簪ちゃん、簪ちゃん!!」
一方、楯無は押さえつけられながらも簪の名を叫ぶながら簪に手を伸ばす。だが、簪は気を失っている為、楯無の叫びは無駄に近かった。
近くには女性の笑う声や、男達の笑う声が耳に届いても、楯無には簪を助けたいという思いがある為、楯無には届いていなかった。
「簪ちゃーーん!!」
そして、楯無の何度も簪を呼ぶ声が倉庫内に木霊し続ける。