ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「束さん、落ち着きましたか?」
束が一夏に抱き着き押し倒しながら泣いてから数分後、一夏は束に訊ねる。束からは泣き声は聞こえなかったが一夏はあえて訊ねたのだ。すると、束はゆっくりと起き上がり、一夏を見据える。
束の目尻には涙の痕は残っているものの、束は何処か吹っ切れたかように安堵の表情を浮かべているが静かに頷く。それを見た一夏は軽く微笑むも少し苦笑いする。
「そうですか……それよりも退いてくれませんか? 起き上がれませんよ?」
「あっ、そうだったね!!」
束は子供のようにニッコリと笑い、一夏を自由にする為に立ち上がり、一夏に手を差し伸べる。一夏は束の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
「いっ君、生きてたんだね? 良かったよぉ……」
束は再び泣きそうになるも、一夏は軽く頷いた。
「はい、この通り生きています」
「そうなんだ……それにお帰りなさい、いっ君!」
束は笑いながら良い、一夏は再び頷いた後に軽く言い返した。ーーただいま、束さんーーと。
彼女の名は
彼女は世間から千冬の付属品しか見ない一夏を励まし、時に一夏を気遣い様子を身に来ていた。一夏が心身ボロボロになっても、彼女なりに支えていた。
しかし、三年前、あのモンド・グロッソの大会の時、一夏は誘拐され、行方不明になった際、彼女はこの世が終わったかのように絶望し、血眼になって世界中を捜した。
周り一夏が死んだのではないかと思っていても、彼女だけは諦めなかった。生きてる、絶対に生きている、と。
そして今、束は一夏と再会した。それはISを動かしたと言う青年達の存在。それが束を動かし、束自身はそれが一夏ではないかと賭け、そしてその賭けが当たったのである。
束から見れば嬉しかったのだろう。だが、そんな悠長な事を言ってる場合ではなかった。それは、勇人のたった一言から始まった。
「おい二人共、今は再会を喜び合い、浸っている場合ではない」
勇人は二人に言った。その理由は今の現状をどうにかしなければならない為に、それに警察の魔の手から逃げられる場所を探さなければならないのだ。
勇人自身、二人の再会に水を差すつもりはなかったがあえて、勇人は訊ねたのだった。刹那、束は先と変わって、勇人と止に対し軽蔑な視線を向け、邪険な表情を浮かべる。
「誰だよお前等? 折角の感動の再会を邪魔するなよ?」
束の威圧かつ邪険が込もっている事を言われた止は「えっ!?」と肩を震わせ、勇人はスカーのマスクを着けているが細い目を束に向ける。
二人は知らないだろうが束は自分が認めた者や親密な関係の者以外の者には邪険に扱い、汚物を見るかのような目で話すのだ。言わば、二人は束とは顔見知りではないのと、対象外である為仕方ない事である。
そんな束に、一夏は宥める。
「落ち着いて下さい束さん、彼等は俺の仲間であり、俺と同じ死地を生き抜いてきた親友です」
「そうなの?」
束は一夏を見ると、一夏は軽く頷き、そして二人を見る。
「二人共、自己紹介してやってーー後、マスクはちゃんと取ってからな?」
一夏は二人に言うと、止と勇人は互いを見やり、直ぐに一夏を見るが一夏は軽く頷く。そんな一夏を見て、二人は再び互いを見やると止は首を傾げシミターブレイドを戻し、顔に着けているチョッパーのマスクを両手で取る。その間に勇人はリストブレイドを戻し、顔に着けているスカーのマスクを片手で取る。
そして、二人は同時にマスクを外し、束に素顔を晒した。それでも、二人は束に自己紹介した。
「俺は止、
「俺は勇人……訳あって名字は言えないが勇人で良い」
止と勇人は束に自分の名を言うと、束は「フ~~ン……」と怪訝な表情を浮かべながらそう言った後、直ぐに笑う。
「じゃあ、とー君にはやちゃんね! 私は篠ノ之束!! よろしくね〜〜っ」
束は止と勇人に手を振りながらあだ名で呼び自身も自己紹介した。言それを聞いた止は惚け、勇人は瞠目した。束の素早い変わりようと、束のアダ名で呼ばれた事に驚いていたのだ。
しかし、止は兎も角、勇人は自分だけ「はやちゃん」と言われた事に驚いている。勿論、束も悪気ではないが束が親密な関係者にはアダ名を付ける為仕方ない。
「二人はいっ君の友達だし、それにいっ君が認めたのなら悪い人じゃないよ」
「良かったな二人共、アダ名を付けて貰って」
一夏は二人を見て笑うも、勇人は納得していないのか少し怒っているが溜め息を吐くと、スカーのマスクを持ったまま腕を組む。
「まあ良い、それよりも早く此処を離れようぜ? 此処も何時警官が踏み込んでくるかは解らねぇからな?」
「確かにそうだな……此処も何れは警察が踏み込んでくるだろう、二人共、準備しろ」
一夏の言葉に、勇人と止は「ああ」と答えながら頷き、止はチョッパーのマスクを、勇人はスカーのマスクを被ろうとした。その間に一夏は束に抱き着かれ押し倒された時に落としたケルティックのマスクを拾う。
「大丈夫、そんのは私に任せて!!」
三人を他所に、束が自分の胸に手を当てながら叫び、三人は一斉に束を見やると、束は三人を見ながらニヤニヤしていた。その表情は自信に満ちているが束には、この状況を打開出来る方法があるのだった。
それも、彼女がこのビルへと来たのも、彼等の後ろから現れたのも、全てを物語っていた。
そして、束が考えた、この状況からの、警察による大包囲網を脱出と、彼等を救う為に作戦である事も。
一夏達がいるビル周辺の上空。そこには何機かのヘリが飛んでいた。全てが警察の物ではない。テレビ局が派遣したヘリコプターもあり、上空から渋谷の様子を確認していた。
勿論、ヘリコプターは一夏達がいるビルの事を気にしてはいないーーそれも、一夏達のいるビルの屋上から何かが一瞬で上空を通り過ぎた事をも知る由もなかった。
ここは、渋谷から離れた、とある場所。そこは街の中だったが、誰一人、上空から何かが降ってくる事に気付いていない。
そして、その何かはとある場所へと落下するが地面が穴が開くように開き、その何かは穴の中へと落ちるように突き進み、そして穴は何事もなかったかのように閉じられた。
穴の中は広かった。建物に近く、辺りは鉄で出来た壁に、色んな物が置かれている。それは全てロボットだったが数機しか置かれていなく、一機や二機しか動いていない。
すると、中央にはその何かが姿を現すーー人参だった。それも人参を模した乗り物だった。その乗り物は地面に浮くように着地すると、人参か割れるように開き、そこから一人の女性と三人の青年が降りてきた。
束、一夏、勇人、止の三人だった。束は兎も角、一夏達は束とは違い、辺りを見渡す。束から見れば違うだろうが三人は初めて此処に来たからだっだ。街の地下にこんな場所があった事に驚きを隠せないでいた。勿論、止が興奮していたのは言うまでもない。
それに、彼等が此処に来たのは束のお陰である。束は、世間がISを動かしたとされる青年達を捜している事に気付き、彼女自身も人参型ロケットで捜し、そこで一夏と再会したからである。
因みにロケットはステルスモードで姿を消して屋上に置き、泥棒気分で扉からではなく、窓から入ったのである。
「驚いたでしょ? でもラボは他にもあるし、ここよりも数倍も良いラボがあるよーー」
束は笑いながら自慢する。しかし、一夏達はラボの方に興味がある為、聞いていない。そんな彼等を見た束は頬を膨らますも、ある人物を思い出し、言った。
「それよりもいっ君、とー君にはやちゃん、くーちゃんを紹介したいからこっちへ来てくれないかな?」
束の言葉に三人は束を見やり、止は「くーちゃん?」と聞き返す。
「そうだよ、くーちゃんは今、夕食の準備をしているから、厨房へと行こう」
束は踵を返し、通路の方へと歩く、そんな束に一夏達は互いを見やるが直ぐに束の後を従いて行った。
(束さん……元気で良かったな…………っ)
刹那、一夏は束を見て、ある事を思い出す。それは三年間逢えなかった者達の存在だった。一夏から見れば逢いたいだろうが今は無理であるのと、今の自分は彼等よりも止や勇人を選ぶからだった。
(ごめん……)
一夏は彼等に謝ると、勇人や止と共に、束の後を従いていった。
次回、とある人物達と再会するかを悩む一夏に勇人と止が聞きます。