ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
ここは束のラボの一室にある厨房近くの通路。そこには束と、束の後を従いていくように一夏、勇人、止の四人が通路を歩いていた。
通路の中は広かったが白銀色であり、左右の壁には距離を保つように幾つもの扉があった。しかし、四人が向かっているのは厨房であり、他の部屋ではない。
刹那、四人は何かを臭い、立ち止まる。その臭いは焦げ臭く、まるで何かを焦がしたかのようにも思える。ーー厨房からかな!? ーー。束はそう思い、走る。
束が走った直後に一夏達も走る。四人は通路の中を駆ける。目指す場所は厨房ーーそれも、四人は内心嫌な予感がした為に。
「あそこだよ!」
束がとある方角を指指す。そこはとある青い扉であり、厨房でもあった。扉は自動で開く物だったが四人は厨房へと雪崩れ込む。
ーーうげっ!? ーー厨房へ入るや否や、止が鼻や口元を押さえながら叫ぶ。一夏や勇人も口元を押さえるも、三人は辺りを見渡す。厨房だけあってガスコンロや水道、換気扇や冷蔵庫等が設けられている。
なのに、厨房内が換気扇では無理な程の、黒い煙で支配される意味で充満されている。それはとある料理を作って大失敗してしまった事を物語っていた。
「くーちゃん! くーちゃん!」
そんな中、束は黒い煙が充満する厨房内でとある人物を捜すも直ぐに見付かった。その人物は咳をしながら、一夏達の元へと歩み寄る。
十代後半の少女であり、透き通るような白い肌に美しい白銀色の髪に眼を閉じているのか瞳の色は判らない。服装は上が白く、下が青いゴロスリの服を纏い、胸元には青いスカーフを着用し、黒いストラップシューズを履き、杖を手にしている。
「くーちゃん、どうしたの!?」
束は少女を、くーちゃんに対し肩を掴むと、くーちゃんは軽く頭を下げた。
「申し訳ありません束様、新しい料理に挑戦したら、このような有り様になってしまいました」
くーちゃんは束に訳を話す。すると、一夏が束に訊ねる。
「束さん、その人は?」
一夏に訊ねられた束は「あっそうだ」と何かを思い出し、彼等をくーちゃんに紹介した。
「くーちゃん、自己紹介するね! この子がいっ君こと織斑一夏君! 私が捜していた子だよ!」
束はくーちゃんに一夏の事を自己紹介すると、くーちゃんは一夏を見ながら杖を持ってない方の手を胸に当て微笑む。
「あなたが一夏さんですか、束様からは色々とお伺いしております。私はクロエ、クロエ・クロニクルと申します。訳あって束様の元で保護され、身の回りを世話をしています」
「あっ、そうですかーー束さんからは聞かれていますが俺は一夏、織斑一夏と申しますーーそれにこの二人も紹介しますねーーほら」
一夏は勇人や止の二人に自己紹介するよう促す。そんな一夏を見て二人は互いを見合うと直ぐにクロエを見やり、止から先に自己紹介する。
「俺は止ーー霧崎止ってんだ」
「俺は勇人……名字は訳あって言えない」
「そうですか、宜しくですね」
「そうだよ! 二人はいっ君の親友で、とー君にはやちゃんだよ!」
クロエは納得し頷くが、束は二人のアダ名を言い、それを聞いた勇人は少し怒る。ーーまたか、また「はやちゃん」と言うのかーーと、心の中で呟く。勇人は束のアダ名を未だ気に入らないでいた。
だが、勇人はその事を束に言えばいいものの、束の気持ちを無駄に出来ない。その為、勇人は何も言わず溜め息を吐く。
「それよりもくーちゃん、何を作ろとしていたの?」
そんな中、束はクロエに訊ねると、クロエは哀しそうに俯く。
「実は最近、料理は失敗ばかりで束様に身体に悪い物ばかり食べさせていたので、それで身体に良いと言われる焼き魚を作ろと思いましたが……」
「失敗した、と?」
クロエが言い終わる前に、止が両手を頭の後ろに当てながら答え、それを聞いたクロエはゆっくりと頷いた。
何故なら、クロエは最近、束の為に料理を振る舞っているが何れもこれも失敗ばかりであり、食材を無駄にするどころか焦がした物ばかりしか出来ないでいた。
クロエ自身も何とか上達しょうと努力しているが失敗ばかりであった。しかし、束はクロエの作った料理に文句は言わず、それらを全て胃袋の中に収める。
束自身は腹を満たせばそれで良いのと、クロエには無理をさせている為、何も怒らない。クロエ自身もそんな束に何も言えず日々失敗ばかりだった。
「私は料理を上達したい……私は束様に美味しい物を食べさせてやりたいのです……っ」
クロエは涙を浮かべる。そんなクロエに束はクロエを慰め、一夏達は何も言えずクロエ自身に哀れみを感じた。刹那、一夏が口を開く。
ーー俺が教えてやるーー。一夏がクロエに言った。これには束達も一夏を見やると、一夏は哀しそうに笑っていた。
「俺が教えてやるよ、こう見えても、俺は料理が出来るから」
「えっ、一夏、料理出来んの?」
一夏の言葉に止は訊ねると、一夏は「出来るけど?」と返答した。
「そうだよ! くーちゃん、いっ君に料理を教えてやったら!? いっ君料理が得意なんだよ!」
「そうなのですか?」
「そうだよ! いっ君はこう見えても料理は得意だけじゃなく、ちーちゃんが居ない間……」
刹那、一夏は眼を見開き「止めろ!!」と叫ぶ。その言葉に束、クロエ、止は肩を竦め、勇人は瞑目する。勇人以外の三人は一夏を見やると、一夏は憤怒の形相をしていた。
「い、いっ君?」
束が恐る恐る訊ねると、一夏は「っ!」と歯を食い縛り、駆け足で厨房を出ていく。後ろから束や止の呼ぶ声が聞こえるが一夏は背中で受け止め、その場から走り去っていた。
ここは、さっき束が一夏達と共に渋谷から脱出する為に束が乗ってきた人参型ロケットが置いてある場所近くの通路。その場所には厨房から走り去った一夏がいた。
「くそっ!!」
一夏は自身の心の中に膨らみつつあるやるせない思いを堪えきれず、それを吐き出せない意味で壁を殴る。そんな事をしても何も変わらないが一夏は八つ当たりと言う意味で壁を殴ったのである。
一夏は壁を何度も殴るが膝を突いた。
「くそっ……くそっ……!」
一夏は肩を震わせる。その理由は、束が言った言葉にあった「ちーちゃん」。その言葉は束が親友であり、一夏の憎むべき姉である千冬を指している。一夏は千冬の名を聞くだけでも、その名を耳にするだけでも怒りが込み上げてくる、復讐したくなるのだ。
それだけではない、一夏はさっきまで、とある親友達の事を思い出していた。しかし、それは口にしなかった。今の自分には彼等と逢う資格はない為に……。刹那、一夏は気配を感じ、気配がした方へと振り返ると、止と勇人がいて、二人は一夏の方へと歩み寄っていた。
一夏は驚いていたが、止は何故か首を傾げ、勇人は細い目をしていた。近くには束とクロエはいなかった。
「一夏、さっき逃げたのは何だったの?」
二人は一夏の近くで立ち止まると、止が訊ねる。だが、一夏は首を左右に振る。
「嫌、何でもない……ちょっとトイレに行きたかったから」
一夏は哀しそうに笑いながら答える。が、そんな一夏の嘘を見破った者がいた。勇人である。ーー嘘だなーー。勇人はそう言った。
それを聞いた一夏は瞠目し、止は「そうなの?」と首を傾げる。そんな二人を他所に勇人は腕を組む。
「一夏、嘘を付くな、あの時のお前は、あの女が言った言葉に怒りを感じていた」
「あ、あれはトイレが我慢出来なかったから……それで」
「トイレが我慢出来なかったのならあの女達に聞けば良いだろ? それに止めろってのは何だ? あれは何の意味で叫んだ?」
勇人の言葉に一夏は「ッ!?」と言葉を詰まらせる。図星だった、それも勇人の的確な事を突くかのような言葉に何も言えなくなる。
そんな二人に止は彼等を交互に見やるも、止は再び一夏に訊ねる。
「そうなの一夏?」
今度は止の二度目の質問に一夏は俯く。もはや言い訳が出来ないと思ったのか、一夏は頷く。
「ああ、そうだよ」
一夏の言葉に止は「そうなの?」と疑問を抱き、勇人は溜め息を吐き瞑目する。
「全く、悩みがあんなら言ってみろ、言えば楽になるからな?」
「でも……」
「言った方が言いと思うよ?」
一夏は拒もうとしたが止が遮り、一夏は止を見る。止は笑っていたが一夏は再び勇人を見ると、勇人は眼を開け、一夏に鋭い眼差しを向けていた。
止の表裏のない笑顔、勇人の鋭い眼差しに一夏は何も言えなくなる。確かに言えば楽になるだろう。しかし、それで楽になるとは思えないし、二人に嘘をつく事も出来ない。
一夏は観念したのか、口を開いた。
「ああ言うよ、俺、悩みがあるんだ……」
一夏は二人に言った。それを聞いた止はヘヘッと笑い、勇人はフッと笑う。そして、一夏は二人に悩みを打ち明けた。
次回、悩みを打ち明けた一夏。そんな一夏に勇人と止は答えます。