ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「ええ~~ッ」
「ちっ……最悪だな」
通路内に止の驚愕したような声と、勇人の舌打ちした後の勇人自身は怒りに満ちていた。二人は今、千冬への憎悪と旧友達と再会すれば良いかで悩む一夏から一夏自身に遭った事を聞いて胸糞悪くなっていた。因みに三人は通路の壁に寄りかかりながら座っている。
一夏は幼き頃、千冬と共に両親に捨てられ、親の愛情を知らずに千冬に育てられていた。千冬は家計を支える為にバイトで家を空ける事が多く、一夏は独りでいる事が多かった。
それだけならまだ良いだろう。だがその後が問題だった。それはISと言う兵器。それは一夏や千冬にとって大きな亀裂をも生じる。
姉の千冬はISで世界の頂点に立ち、周りから好奇な目で見られている。その一方で弟の一夏は世間から姉の付属品しか見られられなくなった。テストで満点を取っても同然だとしか言われなくなり、満点ではなくても千冬の弟なのか? と言われてしまう。
一夏自身も姉に相談をしても「忙しい」とか、満点を取っても「私の弟だから当然だ」としか見向きもしなかった。それどころか、ISがあるせいで千冬を崇拝するファンからは誹謗中傷を浴びせられ、更には立場も悪くなっていた。
勿論、一夏はそれでも決して挫けはしなかった。それは一夏が家族の温もりを欲していたのと、姉に認められたいが為にーーそれも、全て水の泡と化した。
ドイツで行われた第二回モンド・グロッソ大会。それが一夏が千冬への不信感を爆発させ、千冬への憎悪を決定だにする。
自分は姉の付属品でしかなかった。自身は姉に見てもらえなかった。姉は自分よりも名誉を選んだのだ、と。
それが一夏の心に暗い影を落とし、憎しみを増幅させたのだ。
「俺はその後、計画が狂った事で怒った誘拐犯の男達に暴力を振るわれ、殺されそうになった……でも」
一夏は哀しそうに笑う。
「ケルティック、スカー、チョッパーの三人に助けられた……」
一夏は哀しそうに笑いながら肩を震わせる。あの時、自分は殺されそうになったがプレデター達に助けられた。もしも、自分はあの時、彼等の助けが無かったら殺されていただろう。
そうなれば、両側にいる勇人や止にも逢えなかったし、親友ーー嫌、旧友達にも逢えなくなり、彼等を哀しみのドン底に突き落としていたに違いない。
「俺は怖いんだ……三年間も地球を離れたから
一夏は俯く。青年は復讐の為の地球へと戻ってきた。しかし、旧友達の存在が一夏の心を揺らがし、彼自身に迷いを生み出している。
幾らケルティックから殺しの業を教わり、肉体や精神が成長しても彼は一人の人間。悩みは一つや二つではないのだ。
「俺は怖いんだよ……自分は復讐の為に地球に戻ったのか……親友達に再会する為に地球に戻ったのかを……情けないよな?」
一夏は未だ肩を震わせながら言葉を続ける。そんな一夏に止と勇人は何も言わなかった。彼等も一夏に同情しているのか、止は哀しそうな眼をし、勇人はやるせない思いを隠しきれず舌打ちする。
「逢いに行けば良いだろうが……」
刹那、勇人が口を開きそう言い、それを聞いた一夏は耳を疑い瞠目すると、顔を上げ、勇人を見る。
勇人は視線を目の前へと向けている為、一夏とは目を合わせていない。
「勇人、今何て?」
一夏は勇人に問うも、勇人は瞑目する。
「だから、逢いに行けってんだ」
「えっ……勇人?」
一夏は再び勇人に訊ねるが勇人は目を開け、一夏を見る。
「逢いに行けば良いだろうが……お前がそう思うのならな?」
「勇人、お前何を!?」
一夏は驚くも、勇人は冷静に言葉を続ける。
「一夏、お前は一つ勘違いしていないか?」
「何をだよ?」
一夏の言葉に、勇人は目を細める。
「一夏、お前は俺と止と出逢う以前にそいつ等とは親友だったんだろ? 尚更、お前は逢わなきゃならない」
「そんなのは理由にはならねぇ……第一、逢う理由もねぇよ」
一夏は俯く。
「それは解ってるーーだがな、そいつ等はどう思っている?」
勇人の言葉に一夏は「えっ?」と惚け顔を上げる。何故なら、一夏は自身が旧友に逢いたいと言う気持ちはある。しかし、一夏は旧友達の気持ちを解っていない。
旧友達は一夏が死んだと思い哀しみに暮れている。二度と一夏に逢えないと思っているに違いない。それに旧友達は一夏にとってかけがえのない大切な者達である。
そんな彼等の気持ちを一夏自身は知らないだろう。だが、これだけは勇人に言えた。
「そいつ等はお前に逢いたがってる……死んだと思っているに違いないーーそれも俺の目の前にいるのは誰だ? お前自身だろ?」
勇人は一夏を指差し、一夏は戸惑うも勇人は言葉を続ける。
「俺の目の前にいるのは一夏、お前だ。現にお前は生きている。交通事故に遭って死んだ訳でもなく、通り魔に殺された訳でもなく、突然死んだ訳でもないーーお前は生きている。それにお前はやる事があるだろうが」
「俺の、やる事?」
勇人は頷く。
「ああ。お前はやる事がある。それは親友達に生きている事を知らせ、逢う事だーーそれがお前自身の親友達へのせめてもの償いだろ?」
「償い……」
一夏は勇人に言われ、再び俯く。確かに勇人の言う通りだったーー自分は生きてる、この通り身体に異変はない。
親友達から見れば驚き半分、喜び半分だろう。しかし、自分が今まで何処へ言ったのかを訊ねて来るに違いない。
自分は宇宙人の弟子として他星で修行していていたーー何て、そんな事は言えないし、信じて貰えないだろう。
何よりケルティックやエルダーと言う恩人達であるプレデター達の存在を世間に知られる訳にはいかない。
世間に知られてしまったら彼等の恩義に背く事になるのだ。一夏はそう思い、身体を震わせる。
刹那、一夏はケルティックの事を思い出す。ケルティックならどうするのだろうか? ケルティックなら自分に何て言うのだろうか? それにケルティックは成人の儀式を突破しているのだろうか? 勿論、そんなのは一夏には判る筈もない。もしケルティックがいたのなら、一夏は彼に相談していたのだろうか。
「逢いに行けば良いんじゃないのかな?」
刹那、今度は止が口を開き、一夏は止を見ると止は微笑んでいた。
「一夏、一夏は友達に逢いたいんでしょ? だったら悩んでないで行ってきなよ!!」
「でも、そんな事をしても……」
躊躇する一夏に、止は一夏の肩に手を置く。
「一夏、俺は俺でお前はお前だーーお前は自分が良いと思った事を信じれば良いんだぜ?」
「自分を信じる?」
一夏の言葉に、止はニカッと笑う。
「そうだよ、一夏は自分が良いと思った事を信じれば良いんだぜ? それに今の一夏がやる事は、勇人の言った通りの友達との再会。友達も一夏が生きてたら喜ぶんじゃないかな?」
止の指摘に一夏は「喜、ぶ?」と言いながら疑問を浮かべる。すると、止は頷く。
「そうだよ! 一夏が逢いに行けば友達は喜ぶし、一夏には安らぎの時間が出来るじゃん!?」
止は笑いながら、一夏に言う。一方、一夏は瞠目していた。一夏は自分自身の悩みを彼等に打ち明け、葛藤している自分にヒントをくれた。
それは、彼等が、悩んでいる一夏に対し彼等なりの答えであり、一夏の背中を押す役目をもしてくれた。
だが、一夏はそんな彼等を見て何も言えずにいた。
「一夏……止の言う通りだ」
未だ悩む一夏に勇人は再び答え、一夏は勇人の方を向くと、勇人は表情を険しくしていた。
「一夏、さっき止も言ったが、お前はお前だーーお前が何をしょうが俺と止は何も言わないし、出来る限りの事は協力する」
「勇人……」
一夏が勇人の名を呟くと、勇人は微笑む。
「そんな顔すんなよ? お前は俺達のリーダーだ。お前がそんなんじゃ示しがつかないだろ?」
「そうだよ一夏!! お前は俺達のリーダーだけどそれ以前に俺達は親友だろ!?」
今度は止が言い、一夏は再び止を見ると止は両手を頭の後ろに当てながら笑っていた。
「止……それに勇人」
一夏は両側にいる勇人と止を交互に見る。彼等は一夏が旧友達に逢う事を許していた。それ以前に、彼等はプレデター達に鍛えられた以前に出逢い、三人は互いに親友として接していた。
彼等の絆は脆くもなく、壊れる危険もない。しかし、一夏は二人の励ましや自分に背中を押してくれた事に思わず、涙を浮かべる。
「二人共……ありがとう」
一夏は涙を浮かべながらも笑って答えた。隣にいる止がからかってきても、勇人は何も言わずに笑いながら瞑目する。
その光景は、彼等が、三本の矢にも思えた。そして一夏は、旧友に逢う為に動く前に彼等と少しだけ一緒にいた。
近くに束とクロエが微笑ましそうに見られても関係なかった。
次回、二人の親友に背中を押された一夏は、とある親友へと逢いに、ある場所へと行きます。