ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「落ち着いたか、鈴?」
数分後、一夏は鈴に訊ねる。鈴は徐々に落ち着きを取り戻しつつあるものの、微かに涙を残しているが一夏の問いに答える意味で小さく頷き、一夏を見据える。
鈴の表情は何処か吹っ切れたかのように安心している。そうだろう、鈴は一夏が幼き頃の約束を覚えていた事。死んだと思っていた初恋の人が生きていた事。
それが鈴にとって、何よりの喜びであり、彼女の心に空いた大きな穴を塞ぐのには十分だった。しかし、鈴は、ある事を一夏に訊ねる。
「それよりも一夏、今まで何処に行ってたのよ? 心配したじゃない?」
「それは悪かった……でも、それは聞かないでくれ……」
一夏は表情を曇らせる。それを見た鈴は思わず「ごめん」と呟く。
「嫌、良いんだ……それよりも鈴は何故、この基地に?」
「私は一応、ISの適正能力が高かったから、ここでISを使った訓練をしながら日々を過ごしているわ。勿論、ちゃんと休みの日には出掛けたり、家に帰ってるわよ?」
「そうか、それよりも鈴の両親は元気か?」
一夏の問いに鈴は瞠目し、直ぐに哀しそうに眼を逸らす。ーー鈴? ーー。
一夏は鈴の様子に疑問を抱く。が、鈴は顔を上げ、一夏に笑うーーそれは作り笑顔だった。
「な、何でもないわ! それよりも一夏、身体に纏ってる防具みたいなのは何よ?」
鈴は一夏の身体に纏っている防具を指差し、それを指摘された一夏は戸惑う。
「これは……」
一夏は戸惑いながら言葉を探す。そうだろう、これはプレデター達の装備だ。この地球の科学以上の、嫌、それ以上の脅威ともなるのだ。
勿論、一夏は彼等の存在を知らせるつもりはない。例え目の前にいる幼馴染みである彼女にでも、口を割ってでも言えない。一夏は戸惑いながらもこう答えた。
「これは何も言えない……嫌、聞かないでくれ」
一夏は俯く。そんな一夏を見た鈴は何かを思ったのか何も言わない。
「ごめん……でも、一夏は何で中国へ来たの? それに
鈴は自分や一夏の友人達の事を教える。その友人達とは五反田弾とその妹・五反田
彼等は一夏の唯一と言って良い程の友人達である。一夏が辛い時に支え、良く一緒に遊んでいた。しかし、自分が三年前に突然いなくなった事に怒っているのだろうか? ーー嫌、一夏は自分が他星で修行していた三年間、彼等は何をしていたのかは判らない。
それに一夏は弾達ではなく、鈴に逢うのを選んだのにも理由があったのだが今は鈴に逢ってない事を伝える為に首を左右に振った後に言った。
「嫌、逢ってない……弾達がどうしたんだ?」
一夏は鈴に弾達の事を訊ねるも、鈴は何処かソワソワしていた。まるで疚しい事があるみたいなのを物語っている。一方、一夏が弾達に逢わなかったのには理由があった。
それは勇人からの一言から始まった。一夏は最初、弾達に逢おうとしたが勇人はそれを否定する。何故なら、勇人は一夏に。
『お前は今追われている身だ、日本は今お前や止を見つける為に血眼になって捜している……だとすれば、お前は鈴と言う女に逢いに行けーーその女は中国にいるのなら、日本は海外に行ってまで捜す事はしない』
勇人の言い分は正論に近かったが確かに日本が海外にまで行く事はないのと、自分達が未だに日本にいると思っているからだ。
そうなれば、鈴に逢える事が出来る中国ならば彼等の捜査の手は伸びないし、束に頼べば世界中を飛ぶ事が出来、尚且つ誰にも判らないように中国へと行ける。
因みに一夏は勇人と止の二人に自分達の友人を教えた為に、鈴が中国にいる事まで教えた。
それに一夏がどうやって中国へ来たのかは束のロケットであり、鈴がいる場所を特定できたのも束に頼んで住所を特定してもらい、この基地に侵入できたのもプレデターの科学を使って侵入したからだった。
話を戻そう。一夏は鈴に訊ねるも、鈴は未だソワソワしていた。鈴は気まずそうに、一夏に、蘭から、自分達兄妹や数馬や千冬の身に起きた事を語り始める。
彼女達は知らないだろうが三年前のあの日、千冬はモンドグロッソ二連覇と言う偉業を成し遂げた代償として一夏を失った。千冬から見れば名誉よりも、たった一人の肉親である一夏を失った事が大きかったのか、千冬は心に大きな傷を負いながら帰国した。
しかし、帰国したその日、千冬は家の前に五反田兄妹や数馬がいる事に気付く。だが、弾は憤怒の形相、数馬と蘭は哀しいと怒りが混じったかのような表情を浮かべていた。
千冬は彼等に一夏が死んだ事を伝えるがそれを聞いた弾は怒り狂い、千冬を殴ると、千冬にこう叫んだ。何故見てやらなかったんだよ!? 何故一夏の事を心配しなかったんだよ!? と。
勿論、千冬は何も反論もせず、やり返しもしなかった。千冬は千冬で一夏の気持ちを蔑ろにした後悔と、一夏を失った悲しみで一杯の為、弾の言い事を聞いてはいない。
そんな弾に、数馬は弾を落ち着かせているが弾は未だ怒りで我を忘れており、落ち着くまで数分は掛かった。あの光景は今でも、弾の妹である蘭には苦い思い出だろう。
蘭は一夏に想いを寄せていた。彼女も彼女なりで一夏を失った事は辛いのだろう。嫌、蘭は一夏に想いを告げていないのと、それが一生出来ないと知って泣いていた。
勿論、その時には鈴は居なかった。鈴は親の都合で中国にいる為、その出来事を蘭に電話で教えて貰ったのである。
「あの時の蘭は泣きながら、私に教えてくれた……でも、弾達も弾達なりで後悔していたわ……」
鈴は哀しそうに俯いた後、一夏を見る。
「一夏……弾達は今でもあなたを助けてやれなかった事を悔やんでるわ……だから」
鈴は一夏の手を両手で包むように掴む。
「だから一夏お願い……弾達に逢って。弾達に逢って励まして上げて!」
鈴は一夏に懇願した。それは鈴が弾達を心配し、弾達を思っての願いだった。一夏が生きてると知れば彼等は喜ぶだろう、と。
一方、一夏は哀しそうに瞑目した。一夏だって彼等に逢いたかった。嫌、今はそれは出来なかった。
今の自分は追われている身ーー自分から逢いに行けば彼等に迷惑を掛け、千冬の元へと帰らされるだろう。だから今は、一夏は鈴に行動で答えたーー首を振って……。
「な、何でなの? 貴方から逢いに行けば弾達は……」
鈴が何かを言い掛けるも、一夏は手刀で鈴の首元を叩く。刹那、鈴は瞠目した後、目の前が真っ暗になると共に気を失った。
「おっと……」
一夏は、気を失った鈴を支える。鈴は気を失っているが数時間は気が付かないだろう。一夏はそう思いながら、鈴を横抱きし、ベッドに寝かす。
鈴を見る一夏の表情は何処か哀しかった。勿論、一夏は中国に来たのは鈴に逢いに来たのと、長時間、鈴と一緒にいるのは危険だった。
ここは軍事基地であり自分は侵入者。見付かったら何をされるかは判らないのと、束が乗ってきたロケットを待たせる訳にもいかないからである。
それに鈴の意識を奪ったのは、彼女がもう少しだけ此処に居てくれといいそうなのでそれを危険と感じたからだった。
一夏はそう思いながらも、鈴に「すまない」と言い残すと、此処を出る為にケルティックのマスクを着け、コンピューターガントレットを操作する。
刹那、一夏は身体を透明にしてその場から消え、中国を脱出する為に束に連絡した。
そして数分後、束は衛星をハッキングし、テレビを伝えて全世界に警告した。
ISを動かしたと言う男性操縦者達は、この束さんが預かったから何もするなーー何かしてきたら、全世界のISを止める、と。
これには全世界の人々は驚くも、束は一夏や止の安否を気にし、彼等がどっかの国々で実験台にされる事を恐れたのである。
それに勇人から『とある物』を見た事で検問所の解体や、自分も一夏や止が防犯カメラに映ってるかもしれない為、迂闊に外に出られないと言ったのだ。
その為、束はその事を伝え、その後、彼等の安全を約束する見返りとして彼等には、この春IS学園に通って貰う事をも約束した。
そして、一夏はラボに戻ってくると同時に、束が勇人もISを動かせる事をも教えて貰ったのは言うまでもない。
次回でIS学園入学編(前編)は終わります。