ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「う~~ん、やっとゆっくり出来る~~」
「ゆっくり出来るって……お前さっきまで寝ていただろうが?」
クラスの軽い自己紹介と、一夏が千冬と再会してから数十分後、クラスの者達は授業が始まるまでの短い休み時間の間、各々の時間を過ごしていた。
軽い自己紹介だけで足らず、親睦を深めようと近くの生徒に声を掛ける者、一人の時間を過ごしたいのか読書したり、寝たりしている者がいた。
しかし、それは極僅かな人にしか限られていなかった。大半は一夏、勇人、止の三人の男子生徒を見ていた。
興味本意で見ている者達や、彼等がイケメンなのか頬を紅くしている者達に、女尊男卑主義者であるのか彼等を睨む者達に別れていた。
それだけではないーー教室の外には別クラスの生徒や上級生で溢れ返っている。
勿論、三人はそんな者達の各々の思惑が籠った視線にたじろいではいない。彼等もまた、短い休み時間を普通に過ごそうとしていた。
彼等だって健全な学生だ。大半の時間を勉学する為に過ごす中、極僅かしかない休み時間を有意義に過ごしたいのだ。
止は重苦しい事から解放されたのが嬉しかったのか背伸びをし、一夏はそんな止に微笑み、勇人は本を読み終えたのか本を閉じ、ほくそ笑えんでいた。
そんな光景を周りが見れば男子生徒達の何気無い会話に見えるだろうーーだが、彼等は地獄に近い死地を潜り抜いてきた猛者達である事に気付いていない。
「それよりも一夏、あん時殺気立っていたけど、大丈夫なの?」
止が唐突に一夏に訊ね、一夏は目を見開くと同時に直ぐに眉間に皺を寄せ、舌打ちし、両手を拳に変え、力を入れる。
「どったの?」
一夏の様子に止は再び訊ね、勇人は無言で瞑目した。ーーちょっと良いか? ーー刹那、一人の女子生徒が三人に声を掛けてきて、勇人は目を開け視線を声がした方を、止は声がした方へと、一夏は憤怒の形相を浮かべながら声がした方を見る。
そこには、一人の女子生徒が腕を組みながら立っていた。その女子生徒はさっきから一夏を見ていた女子生徒であり、今も一夏を見ている。
しかし、その女子生徒は一夏の表情に少し驚いていた。
「な、何だその顔は……幼馴染みの私に何故そんな顔を向ける!?」
その女子生徒は一夏の顔を見て怒る。そんな女子生徒の言動に、一部を除いた生徒全員が肩を竦める。
勿論、止は怯むたけであり、勇人は無言で瞑目し、一夏は歯軋りする。
一夏はその女子を睨んでいた。その女子も千冬同様嫌いしていた。彼女のお陰で自分が何れ程酷い目に遭ったのかを、彼女は解っていない。
一夏のその女子を睨んだ後、再び舌打ちすると、その女子から目を逸らす。
「おい、一……」
「一夏君!!」
その女子が一夏に怒りを覚え訊ねようとした刹那、別の人物の叫び声がして一夏達やその女子、他の生徒達が声がした方を見る。
そこは教室を出入り出来る扉だった。しかし、一夏と止は叫んだ人の主をよく知っていたのか瞠目する。
その女子は空のようかつ清楚な水色の長い髪に紅い瞳。この学園の生徒なのか白い制服を身に付けており、上級生なのかリボンの色が違う。
その女子生徒は一夏や止とは顔見知りだったーー嫌、その女子生徒が一夏に逢いたかった者と言い換えればいいだろう。
「さ、更識?」
一夏は驚きを隠せない。その女子生徒は、上級生は楯無だった。何故なら彼女は、この学園の生徒であるからだ。
一方、楯無はそんな一夏を哀しい眼で見つめると、一夏に歩み寄り、一夏が座っている席の横に立つ。
一夏は座っている為か楯無に見下ろされている形で見詰められていたーーが、楯無の瞳は揺らいでいた。そんな楯無に一夏は訊ねようとした。
「お……」
刹那、楯無は下唇を噛み締めながら、一夏に抱き着く。
「お、おい!?」
楯無の突然の行動に一夏は驚き、止は顔を紅くし、勇人は瞠目し、他のクラスの女子生徒達は顔を驚き直ぐに顔を紅くしたーーある一人を除いては……。
「お、おい楯無!? な、何をするんだよ!?」
一夏は楯無の突然の行動に戸惑うも、楯無は両腕を一夏の背中に回し、顔を一夏の肩口に埋め、そして、こう言った。
ーーやっと逢えたーー。楯無は小さな声で一夏に呟いた。それを聞いた一夏は眼を見開くと同時に、肩口が濡れている事に気付く。
楯無が泣いていたのだ。それは楯無が望んでいた事だった。あの時、一夏は自分達姉妹を助けた後、何処かへと消えてしまった。
勿論、楯無自身も何もしていない訳ではない。楯無も一夏を捜していた。だが、見付からなかったーー彼等は束に保護されていたのと、束が彼等の存在や情報を世間に教えていなかったからだ。
嫌、楯無は今、一夏と再会出来た為、そんな事は関係ないだろう。楯無は一夏との再会を喜んでいるのか少し笑っている。嬉し涙だった。
「一夏君……一夏君……!」
楯無は一夏の背中に回している両腕に力を入れながら一夏の名を呟く。一方、一夏は別の意味で驚いている中、周りも楯無の行動に一部の女子は顔を紅くしている。
「貴様、何時まで一夏に抱き着いているのだ!!」
そんな中、最初に一夏に声を掛けてきた女子生徒が楯無に怒りを覚え、楯無を殴ろとし、手を上げる。
ーーっ!? ーーその女子生徒の行動に一夏は下唇を噛み締めながら、楯無を守る為に抱き締める。刹那、何者かがその女子生徒の手首を掴み、一夏とその女子生徒はその何者かを見やる。
手首を掴んだのは勇人だった。勇人はその女子生徒に呆れているのか眼を細めている。
「止せ、
「何だ貴様は!?」
勇人はその女子生徒を箒と言い、箒は勇人を睨みながら、手首を掴んできた勇人の手を振りほどこうとした。
一方で、勇人は箒の手首を掴む手に力を入れていた。その為、箒がどんなに振りほどこうとしても、勇人には敵わない。
「放せ、このぉ!!」
箒はもう片方の手で勇人を殴ろうとし、手を拳に変え、勇人目掛けて殴る。刹那、勇人は箒の拳を手で包むように防いだ。
ーーぐっ!? ーー。箒は勇人の行動に歯を食い縛る。
一方、勇人は箒の拳を包むように掴んでいる手に力を入れ、五本の指を箒の手の甲に食い込ませる。
「ああーーっ!!」
箒の悲痛の叫び声がクラス内に木霊き、それを聴いたクラス内や廊下にいた女子生徒が「ひっ!?」と恐怖する。
が、勇人は箒の手首や拳を掴んでいる両手に力を入れている為、箒の手首を放す事や、箒から離れる事はしない。
それに、箒を見る勇人の表情は般若のように怒りが籠っており、二つの瞳には別の意味での怒りが宿っている。
ーー俺の仲間に手を出すなーー。勇人は内心そう思った。それに、その事を口に出さず、無言で箒を睨み付ける。
箒は箒で勇人の睨みの籠った視線にたじろぐよりも、手の甲に激痛から逃れたいが為に早く解放されたいが為に身体を激しく動かす。
それでも、勇人は掴んでいる両手を一向に離す気配はない。そんな勇人に止は箒を助けるよりも勇人を止める形で席から立ち上がろうとした。
ーー止せ、勇人!! ーー。一夏が勇人に対し叫び、それを聞いた勇人と止やクラス内や扉近くの廊下にいる女子生徒達は一斉に一夏を見やる。
一夏は箒から守る形で楯無を抱き締め続けていたが一夏はすこし悲しそうに勇人を見つめると、こう言った。
ーー止せ、そんな事をしても何も得はないーーと。勿論、勇人は無言で一夏を見据え、一夏も勇人を見据える。二人の間には重苦しい空気が流れるがそれも直ぐに終わる形で消え、勇人は舌打ちした後、箒の両手を乱暴に放した。
箒はやっと解放されたにも拘わらず、手の甲に激痛が未だ走っているのか手を押さえながら顔を歪めながら膝を突くと、勇人を睨む。
勇人は勇人で箒を見下す形で無言で見据えていた。しかし、それだけでも威圧をも感じさせる。
「これは何の騒ぎだ!?」
刹那、誰かが呼んだのか千冬と真耶が慌ただしく教室へと戻って来た。
「これは何の騒ぎだ? それに」
「篠ノ之さん!?」
真耶は箒の元へと駆け寄る。千冬は千冬で彼等の身に何が遭った事を訊ねようとした。しかし、一夏は千冬を見て舌打ちすると。
「ちっ……仕方ねぇ」
一夏は楯無を横抱きーーつまり、お姫様抱っこした。一夏の行動やその光景を見た女子生徒達は顔を紅くするも、一夏は視線にたじろぐ事はなかった。
そして、一夏は楯無を連れて教室を出ようとした。
「待て織……」
千冬は一夏を呼び止めとした。だが、一夏は千冬をギロリと睨む。
「っ!?」
千冬は一夏の睨みに身体を震わす。そして、一夏は千冬を見て舌打ちすると、楯無を横抱きしながら教室を出ると、上級生にある事を訊ね、それを教えて貰うと同時に軽く感謝の言葉を述べる。
そして、チャイムはなったが一夏は遅刻と言う形で楯無を連れて、ある場所へと向かった。
次回、楯無、一夏への涙の謝罪