ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「「…………」」
ここはIS学園の教員室。そこは少し広く、教員達が使うであろうデスクや椅子が沢山置かれ、書類等が入っている硝子棚が五、六つは設けられていた。
だが、教員室にいる教員は全員女性であるのと、余り居ない。今は授業中である為、大半の教員が自分の受け持つクラスで教鞭を執っている。
そんな中、千冬と勇人がいた。二人は向かい合う様に椅子に座っているも、両者は表情を険しくしており、会話もない。
あるとすれば、二人の間には各々の思いがあると言う事になる。ーーでは、勇人よ? ーー。先に動いたのは、口を開いたのは千冬だった。千冬の言葉に勇人は眉間をピクッと動かす。
「お前は何故、篠ノ之の手を潰しに掛かるような事をした?」
千冬は勇人にその事を問う。それに、千冬が勇人を此処に連れてきたのも、箒の件での事だった。因みに箒は手の甲に怪我はしてないものの、未だ激痛が走っているのと、幸いな事に骨には異常はなく折れてはいない。
そんな箒に真耶は心配していたが箒は別に良いと言いながらも、激痛に耐えきれず、手を手で押さえていたのは言うまでもない。
一方、勇人は瞑目し、深い溜め息を吐く。何故なら、あれは箒が悪いのだ。箒は、一夏に抱き着いている楯無に怒りを覚え殴ろうとした。
それに勇人は箒が一夏を殴るのかと思い、一夏を守ろうとしただけであるが勇人も悪い為、何も言えない。勇人は目を開くと同時に口を開く。
「ったく、俺は単にあの女が一夏を殴るのかと思ったから、あいつを止めたに過ぎない」
「だからと言って、あれはやり過ぎだーー最悪の場合、手が折れていたのかも知れないのだぞ?」
「大丈夫だよーー俺はちゃんと力を加減したから、激痛だけで済んだじゃねぇか?」
勇人はそう言いながらも腕を組む。その表情は何処か呆れているーー千冬に対してだ。それに勇人が悪い訳ではないが、千冬は頭を抱えながら溜め息を吐く。
「そんなことを言っても、お前が篠ノ之の手を折ろうとしていたのに変わりない……それに、更識も更識で何故、一……織斑に逢うや否や、抱き着いたのだ?」
千冬は箒だけでなく、楯無の行動にも呆れを隠せない。千冬は真耶と共に教室に来た時に見た光景は、手を手で押さえながら勇人を見上げるように睨んでいる箒と、何故か楯無を抱き締めている一夏が眼に移った。
あの時の光景は千冬や真耶には判らないが一夏は楯無とは面識があるからだった。それも、最初は偶然でありながらも、最悪な形で出逢ったのだ……。
そんな千冬に、勇人は鋭い眼差しを向ける。この女が織斑千冬ーーブリュンヒルデにして、名誉の為に一夏を裏切った、一夏のたった一人の肉親にして、一夏の復讐の対象者。
勇人から見ればそう思うだろうがそれは一夏から教えられた事だ。千冬は勇人の姉ではないのと同時に、何の接点もない赤の他人。
それに、勇人は千冬とは話等はするつもりはなかった。何故なら勇人は千冬が、目の前にいる教師が自分に何かを言おうとしているのではないのかを警戒していた。
一つは、束に男性操縦者達の中に一夏が居たのを教えなかった訳を問い質す事。二つ目は、束に連絡出来ない場合、自分か止に一夏の事を教えて貰おうと、千冬自身が考えている事。
恐らく後者の方が強いだろうーー千冬は自分を此処に連れて来たのも、一夏の事を問い質す為であると同時に、箒の件は、この件を訊く為の言い訳にしかならない。
「ところでもう良いか? 俺に訊きたいのは篠ノ之の事だけだろ? それに一夏は更識を連れて何処かに行ったから、教室には止一人しかいねぇからな?」
勇人はそう言いった後に立ち上がると、踵を返して、教員室を出て行こうとした。
ーー待てーー。刹那、千冬が勇人を呼び止める。勇人は歩くのを止め後ろを振り返ると、千冬は怒りと悲しみが混じったかのような表情を浮かべながら、勇人を見据えていた。
恐らく、さっきも考えたように一夏の事だろう。千冬は一夏の事を自分から訊こうとするつもりだろうーー無論、勇人は一夏の事を千冬に教えるつもりはない。
たとえ言ったとしても、一夏を困らせるだけなのだから。勇人はそう思いながらも、ある事を訊いた。
「織斑先生ーーアンタは俺から一夏の事を訊きたいんだろう?」
勇人の言葉に千冬は瞠目した。千冬は自分が言いたかった事を勇人が先に行った事に驚きを隠せないでいた。そうだろうーー千冬は勇人の言う通り、勇人から一夏の事を訊こうとした。
それを勇人が先に言った事に驚きを隠せない中、勇人は呆れて頭を抱えると、口を開いた。
「全く、教師が自分のーー嫌、同じ苗字であるのと同時に、顔立ちも似ているとなれば誰もがそうもうか……」
「っ……そ、それよりも教えてくれ、お前や霧崎は一夏とはどういう関係だ? それに一夏に何が遭ったのかを知っているのか?」
千冬は気を取り直して、勇人に問う。千冬は勇人から一夏の事を訊きたかった。本当なら一夏から訊けば良いいが、千冬は一夏を助けられなかった事を後悔していた。
千冬は弾から一夏の事を聞かされた時、信じられないと思ってしまった。あの一夏が自分の知らない所で苦しんでいたのを、千冬は知らなかった。
それに今まで、急がしいと言って一夏の事を見ようともせず、手を差し伸べようともしなかった。もし、あの時助けたら、それ以前に手を差し伸べたら、と後悔していた。
そして、一夏と再会したものの、一夏になんて声をかけてやれば良いのかは判らなかった。罪悪感があるのと同時に、自分を許してくれる筈はないと思ったからだ。
それならば、勇人か止に訊けば良いと思ったが、箒が馬鹿な事をやらかしたせいで、勇人から一夏の事を訊けるチャンスが出来た。
その為、勇人が此処にいるのも、一夏の事である。しかし、勇人は何も答えなかったが千冬に鋭い眼差しを向けていたが数分間の沈黙の後、こう言い放つ。
「俺から訊こうとしても無駄だ……そんなの本人から訊け」
「そこを何とか頼む……! 私は一夏に嫌われている! 私はあいつの事をちゃんと見てあげられなかったーー私が何を言っても答えてはくれないだろう……だから!」
千冬は勇人に懇願した。しかし、そんな千冬を見た勇人は呆れを通り越して怒りをも覚える。
彼女のやっている事は無駄でしかない。一夏は既に千冬を見限っていると同時に、一夏は千冬とは話をしたくもないのである。
その為、勇人は呆れながらも答えた。
「断る……そんなのは一夏から訊け……」
「しかし……! 私は一夏に」
「見て上げられなかったとしてもそれは言い訳だ」
千冬が何かを言い終わる前に勇人が先に言う。それを聞いた千冬は耳を疑うも、勇人は顔を千冬の顔へと近づけ、こう言い放つ。
「貴方が何を言おうが一夏は貴方の元に戻るつもりはない……それに止にも俺と同じような事は訊くなーーそれに一夏の事を苦しめるな、俺達の過去を詮索するな干渉するな!」
勇人はそう言いながらも、千冬から離れ、腕を組みながら踵を返し教員室を出た。
しかし、勇人の表情はとても険しい。それは千冬への怒りと共に、一夏や止の親友達や、スカー達プレデターの事を気遣い、ああ言ったのだ。
そして、勇人が教員室を出て行く、その間に千冬は青褪めながら俯ていた。
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「取り敢えず、一通りの事は答えた……もう良いか?」
その頃、此処は保健室。保健室には一夏、楯無,薫子の三人がいて、一夏は薫子から色々な事を質問されて、疲れを通り越して呆れていた。
薫子は一夏に色々な事を聞く事が出来たのか嬉しそうに手帳を抱き締めていた。これで特集はなんとかなるからだ。
そんな薫子に一夏は溜め息を吐き、楯無は薫子を見て苦笑いしていた。彼女には感謝はしているが、流石に訊き過ぎだと。勿論、薫子には取材したいと言う記者魂が薫子を動かしたから何も言えない。
すると、一夏は立ち上がる。楯無と薫子は一夏を見やるも一夏は溜め息を吐いた。
「取り敢えず、俺は教室に戻るーーまぁ、後で質問攻めにならない事を祈りたいけどな? それと薫先輩」
「何かしら?」
薫子は首を傾げると、一夏は髪を掻きながら、薫子に言う。
「俺は兎も角、更識を頼む……あんな事が遭ったら、流石に煩い奴がいるからな?」
「煩い奴?」
薫子が言うと、一夏は頷く。
「ああーーそいつは恐らく、更識を襲うかもしれない……だが」
一夏は突然、楯無の頭に手を置き、撫でる。楯無は突然の事で驚きながら徐々に顔を真っ赤にする。
それでも、一夏は関係無しに薫子に対し、言葉を続ける。
「そいつは、更識に手を出さないように俺がなんとかしておくから、何か遭ったら、山田先生に言っといてくれ」
一夏はそう言いながらも、楯無の頭を撫でるのを止め、保健室を出ていった。
そして、保健室に残ったのは楯無と薫子の二人だけだったが、楯無は顔を真っ赤にしながら口をパクパクと開けていて、それを見た薫子はニヤニヤと笑っていたのは言うまでもなかった。
次回、煩い奴登場