ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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第38話

 食堂。そこはとても広く、テーブルは二百には満たないが沢山あり、椅子も三百には満たないが沢山置いてあり、奥には厨房が設けられ、食堂を出入り出来る扉近くには食券機が置かれている。

 この学園中にいる者達が食事を摂る為に設けられた場所。食堂は限られた時間でしか開かなく、その時間以外は基本的に閉まっている。

 今の時間帯は昼休みなのか、食堂には沢山の女子生徒が居り、一年から三年の生徒達が談話をしながら食事を摂っている。それは、唯一の安らぎの時間とも言えるだろう。

 

「うわ~~先輩が沢山いるな」

 

 そんな中、一夏達三人もいた。一夏達は上に何かを置いている乗せているトレーを両手で持っている。因みに彼等が頼んだのは一夏がカレーライスに軽めのサラダ、止はシーフードピラフにコンソメスープ、勇人はミートソースのスパゲッティに軽めのサラダである。

 彼等はそれぞれ、頼んだ物は違うが共通する事は水の入ったコップや、一夏と止はスプーンを、勇人はフォークをトレーの上に置いている事あろう。それに自分達が座れる席を捜していた。

 そんな三人に、僅かだが周りの女子生徒達が見やる。彼女達が見ているのは一夏だった。勇人や止もそうたが一夏は違うーー彼は楯無との一件が原因だ。

 楯無が抱き着いた事、そんな楯無を姫様抱っこした事が目撃した生徒達を切っ掛けに広まったのだ。誰から見ても、二人が付き合っていると思うだろう。

 周りは一夏を見てひそひそ話をする中、一夏は身体を震わせている。あれは誤解なのだが一夏はその事を言えない為、この怒りをぶつける事は出来ないでいた。

 

「あそこが良いんじゃねぇか?」

 

 そんな中、止が自分達が座れる席を見つけた。そこはテーブルがある物の、周りには六つの椅子が三つずつ向かい合うように置かれている。

 にも関わらず。そのテーブルには誰も座っていない。ーーあそこに座ろうぜ? ーー。止のたった一言で一夏と勇人は頷き、三人はテーブル近くの椅子に座る。因みに一夏は真ん中、止は一夏の右隣、勇人は一夏と向かい合うように一夏の目の前に座っている。

 

「いっただきます~~」

 

 止はそう言うと、トレーの上にあるスプーンを手に取り、スプーンでピラフを一口分掬い、口に含む。刹那、止は眼を見開く。ーー美味い! ーー。止は口内に広がるピラフが美味である事に驚きを隠せない。

 米一粒一粒がバターと上手く絡まっており、シーフードが御飯との相性が良いのか更に美味さを引き立たせている。止はピラフが美味い事に感動しながらも、ピラフをがっつく。

 

 そんな止に一夏は苦笑いし、勇人は頭を抱える。止は余程、腹が空いていたのだろうか? それとも単にピラフが美味しいからなのだろうか? それは止に聞かなければ解らないが一夏やスプーンを、勇人もフォークを手に取り、昼食を摂り始める。

 ーーここ良いか? ーー。一人の女子生徒が一夏達に訊ねる。と言うよりも、その女子生徒は一夏に訊ねていると言い替えれば良いだろう。

 しかし、その声には見覚えがあった。一夏達は声がした方を見やると、その女子生徒・篠ノ之箒が立っていたーー両手にはトレーを持っているが表情は少し険しい。

 

「何だ篠ノ之? 何かようか?」

 

 一夏は表情を険しくそして呆れながら、箒に訊ね返す。止は箒を見て何も感じていない一方で、勇人は箒を睨む。箒は勇人に気付き歯を食い縛るも直ぐに一夏に対し、口を開く。

 

「隣良いか? 良いだろう、幼馴染みなのだからな?」

 

 箒はそう言うと、勝手に一夏の隣に座る。これには流石の一夏は瞠目するも直ぐに表情を険しくし、今にも箒に文句を言いたかった。しかし、それも一夏の手を煩わせる事はなかった。

 

「貴方が、織斑一夏君ですか?」

 

 刹那、今度は別の女子生徒が一夏に声を掛けるも、勇人はその女子生徒の声に違和感を感じた。それはクラスでは聞き慣れた声ではない。全くの別人である。

 勇人はそう思いながらも、声をした方を見る。勇人だけではない、一夏達も声がした方を見やると、一人の女子生徒が立っていた。

 その女子生徒はリボンの色が違っていた。一夏達一年の物でもなく、楯無や薫子達二年の物でもない。

 そうなれば、目の前にいるのが三年生である同時に、一夏に用があるのも変わりはない。

 ーー貴女は? ーー。一夏はその女子生徒に訊ねる。その女子生徒は長い茶髪を三つ編みにし黄色いヘアバンドを付け、琥珀色の瞳に眼鏡を掛けている。その女子生徒からは固い雰囲気を醸し出されていた。

 そして、その女子生徒は一夏に対し、自分の胸に手を当てながら自己紹介した。

 

「申し遅れましたーー私は虚、布仏虚(のほとけうつほ)ーー更識楯無に仕える者です」

 

 

 その女子生徒・虚は一夏に軽い自己紹介をする。そんな虚の自己紹介に一夏と勇人は違和感を感じた。一夏は虚の口から『更識楯無』の名が出てきた事、勇人は虚の自己紹介である疑問を抱いていた。

 勿論、今はそんな事を考えている場合 ではなかった。勇人は兎も角、一夏は虚にある事を訊ねた。

 

「貴女は、更識の知り合いなのですか?」

「はいーー私はお嬢様に仕える者です。それに、生徒会の会計をも務めています」

 虚の言葉に一夏は眉間に皺を寄せる。

 

「会計? 生徒会? それが俺と何の関係があるんだ?」

「いえ、生徒会は関係ありませんーーですが、お嬢様には関係する事です」

「更識に?」

 

 一夏の言葉に虚は頷く。

 

「はい……ですが今は昼休みですーー差し出がましいかも知れませんが生徒会室まで来てくれませんか? お嬢様の事で色々とお伺いしたい事がありますのでーーご迷惑かも知れませんがお願いします」

 

 虚は言葉を述べた後、軽く頭を下げた。それを見た一夏は少し考える。理由は、楯無の事だった。虚は自分や楯無との事を訊きたいに違いない。無論、無理に等しいのと同時に気になっていた。

 自分が止と共に楯無の前から姿を消した後の、楯無とその身内の出来事までは知らない。あの時、楯無と共に保健室にいた時には、楯無は自分にはあの後の出来事までを語らなかった。

 言うなれば、虚から話を聞く事が出来る。それに、楯無には悪いだろうが虚は楯無を思っての事だった。楯無があんな状態では学園の安全に支障を来す。

 それには一夏の力が必要なのである。一夏から楯無と何が遭ったのか聞けば、楯無は立ち直れるのではと賭けていた。

 

「お願いします……お嬢様があのままではお嬢様は可哀想でたまりません……だから!」

 

 虚は顔を上げ、一夏を見る。虚の表情は何処か哀しい。楯無を思っての事だろう。そんな虚を見た一夏は呆れるように溜め息を吐き、頷く。

 

「解りましたよ……俺も更識に用があるし、何より誤解も解きたいからな」

 

 一夏は周りを見渡す。周りの殆どが一夏と虚のやり取りを見ていた。しかし、それも楯無との関係となれば更に変な噂が流れるに違いない。一夏はそう思いながらも再び溜め息を吐き、勇人と止を交互に見る。

 

「山田先生に俺は授業に遅れるから、最悪の場合、五時間目は出られないと言ってくれーーカレーは食っていいから」

 

 一夏はそう言った後、立ち上がる。ーー待てっ! ーー。箒がそう叫びながら、一夏の手を掴む。

 

「何だ篠ノ之? お前には用はない?」

 一夏はそう言いながら、箒の掴んできた手を振り解き、虚を見る。

 

「先輩、生徒会室へと案内して下さい」

「解りました。そちらの方は良いのですか?」

 

 虚は箒の事を訊ねるも、一夏は首を左右に振る。

 

「良いんですーーどうせ赤の他人ですから」

 

 一夏の言葉に箒は「なっ!?」と驚く。それでも、一夏は虚にそう言った後、虚と共に食堂へと出ていこうとし、虚の後を従いて行く。

 箒が呼び止めようとしたが一夏は聞く耳を持たす、箒は怒りを感じて追い掛けようとしたが、勇人がテーブルの下から箒の足を踏んで箒を止める。

 

「うぐっ!?」

 

 箒は足を踏まれて激痛を感じた。箒は自分の足を踏んだ者に気付き、その者・勇人を睨む。勇人も箒を睨むが両者の間には重苦しい空気が流れていた。そして、止はそんな二人を見て少したじろいでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。ここは二年の教室。教室には余り人はいないが、その中には楯無がいた。

 

「一夏君……」

 

 楯無は自分の席に着きながら頬杖を突いていた。そして、一夏の名を呟いた後、もう片方の手で自分の頭を触る。

 そこは一夏が撫でてくれた場所だったが楯無はあの事を思い出したのか、哀しそうかつ、何処か愛おしい目をしながら頬を紅くしていた。




 次回、一夏は虚からある事を聞かされ、楯無の為に嫌々ながらも動く。
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