ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
あれから数分後、一夏は虚に従いていく形で廊下を歩いていた。目的は勿論、生徒会室へと赴き、そこで虚が、楯無と御内に何が遭ったのかを一夏に教える為だった。
虚は一夏の事を知ったのは楯無から教えて貰った事と、一夏にお願いして楯無を励まそうと考えていた。それは未だ言えないが生徒会室に着いたら全てを話すつもりだった。
因みに廊下には他の同級生や上級生が居たが彼女達は一夏の事を知っている。彼女達は皆ひそひそ話をしているが、あんな事をすれば噂が広まるのは目に見えているし、況してや状況が悪化するのも一目瞭然である。
ーー此処ですーー。虚は一夏にそう言いながら立ち止まり、近くにある扉を見る。一夏も立ち止まるが一夏は虚が見ている扉を見る。そこは一件何の変鉄もない扉。
しかし、扉の上部分には『生徒会室』と言うプラスチックの表札があった。恐らく此処が生徒会室なのだろう。一夏はそう思っていると、虚が扉を開ける。
中は教室よりも狭い。室内には細長いテーブルが三つもあり、コの字を描くように置かれ、五、六つの椅子が置かれており、書類とかや本を収めている箪笥が三つぐらいは置かれていた。
「此処が生徒会室……」
一夏と虚は生徒会室へと足を踏み入れると、一夏が周りを見ながらそう言う。一夏は生徒会室へと入るのは初めてだった。普通なら中学にも生徒会室はあっただろうが一夏は中学へと行ってない為、何も言えない。
「織斑さんーー近くの席にどうぞ」
虚は一夏を近くの席に腰掛けるよう促し、一夏は呆れながらも了承すると、近くの席に腰掛ける。その間に虚は扉を閉め、鍵を掛けると一夏と向かい合うように、少し離れた席に着く。
この部屋には一夏と虚しかいない。例え誰か入ってきても、虚が鍵を掛けた為に誰も入る事も出来ない。
それに一夏は今、虚から楯無の事を教えてもらわなければならなかった。一夏は表情を険しくしている。一方、虚は一夏を見て少し哀しそうな表情を浮かべている。
「で、何を言うんだ?」
「あっ……はい、食堂でも言ったように、お嬢様の事です……ですが」
虚は俯く。それを見た一夏は頬杖を突く。少しの間、沈黙が流れていたが虚は軽く頷き、一夏を見据える。その表情は哀しいままだったが虚は何かを決意したかのように口を開いた。
「では教えます……お嬢様と御内に何が遭ったのかを」
虚は一夏に更識家に遭った事を話始めた。
「成る程な……つまり更識の両親や妹さんとは、更識にどう話せば良いのかが解らない、と?」
一夏は虚から更識家に遭った事を全て話され呆れるように納得した。事の発端はあの時だった。
あの時、楯無の両親と虚とその妹は更識姉妹が無事である事に涙していたが、楯無は一夏や止の事を思い出し、捜すも、二人は何処にも居なかった。
あったのは、倉庫には百万円だけが消えた黒い鞄に、生皮を剥がされた男達の死体と、女性議員の死体と、細切れに近かった男の死体と、唯一の生存者と言って良い程の気を失った金髪の女性がいただけだった。
そこまでなら未だ良いだろう。それ以降が問題だった。
楯無は二人の存在や更識家に裏切り者がいる事を伝えるも、両親や従者は驚きを隠せなかった。それにこの件は表沙汰になっていない。更識が手を尽くした為に問題ない。
しかし、楯無は両親に何故、簪の狂言誘拐を提案したのかを問い質すも、両親は娘達姉妹の冷めきった仲を戻そうとした為だった。
これには楯無も泣き叫びなから、両親を罵倒した。彼女が怖い思いをしたのと、一夏に人殺しをさせた事への後悔だった。
その日からだった。楯無はあれ以来、両親や簪とは会話をしなくなった。それどころか、部屋に閉じ籠る事が多くなった。これには両親や簪、従者達も困惑するも、彼等は楯無の言葉にあった一夏と言う青年を思い出す。
彼なら、楯無を救える、と。勿論、彼等は何もしていない訳ではない。彼等も彼等なりで楯無と向き合おうとしたが効果無しだった。
更に状況は悪化の一途を辿る一方だった。その為、一夏に頼むしかなかった。それも運良く、目の前にいる青年が、この学園に入学したのは想定外だった。
ISは女性にしか扱えないが彼は別である。そんなのはどうでもいいーー今は楯無を何とかしなければならなかった。話を戻そう。虚は一夏に楯無や更識家の事を一通り説明した後、哀しそうに瞑目する。
「織斑さん……私は言うのも何ですが、お願いします、お嬢様の為に力を貸してくれませんか?」
虚は目を開け、一夏を見据える。その瞳には楯無を思う従者として、楯無と家族の仲を戻したいと一心がある為の決意が込められていた。しかし、一夏は腕を組み、溜め息を吐いた。
「此方の都合の良すぎるような話だとは理解しています……ですが、私や、更識の前当主様や奥方様や簪お嬢様、私を含めた従者達全員はお嬢様を助けたい……お嬢様と簪お嬢様の仲が戻るのを望んでいます」
一夏は無言で見据えるも、虚は立ち上がり、頭を下げる。
「お願いします織斑さん……お嬢様を助けて下さい。お嬢様を助けられるのは織斑さんをおいて他におりません! お願いします!」
虚は一夏にそうお願いした。彼女を含めた更識家の面々は楯無を助けたかった。彼女を助けられるのは一夏しかいない。例え此方が悪いのは解っている。
それでも、楯無を助けたいのは変わりなかった。そして、一夏は瞑目する。
一夏も一夏で虚の話を馬鹿らしいと思っていた。そんな事を言われても此方にも都合がある。自分は千冬に復讐したいのだ。自分がそんな他人の御内のゴタゴタ事に付き合っている暇はない。
一夏はそう言おうとしたが、虚はある事を話す為に顔を上げ、瞑目する。
「実は、もう一つある出来事が遭ったのです……」
「ある事?」
一夏が言うと虚は小さく頷き、その事を話した。それはあの時、楯無が一夏に人殺しにさせた事を両親に話した時だった。
両親は一夏と言う青年が楯無や簪の姉妹達を助ける為に、絶対に許されない行動をした事に驚きを隠せなかったが、楯無は両親に更なる追い打ちを掛けるように叫んだ。
ーー私は更識家の当主として務めを果たそうと思っていた! 父さんや母さんや簪ちゃんの為に頑張ろうと思っていた! なのに、一夏君を……一夏君を人殺しにさせた……一夏君に何て謝れば良いのかが解らないわよ!! ーーと。
あの時の楯無は泣きながら叫んだ。それには両親や、近くにいた布仏姉妹や他の従者達はたじろぐも、楯無は言葉を続ける。
ーーこんな事になるなら……私は楯無を襲名しなければ良かった……
あの時の楯無は自分の本当の名前を両親に言いながら叫んだのである。
「あの時のお嬢様は貴方を楯無の名を襲名した事を悔やんでいました……それだけではありません、私達もあんな事をした事を悔やんでいます」
虚は再び頭を下げる。
「ですからお願いします織斑さん! お嬢様を助けて下さい!! お嬢様をお救い出来るのは貴方しかいないのです……お願いします! お願いします!」
虚は頭を下げながら、一夏に懇願する。しかし、一夏はそれを聞いて少し虚を睨んでいた。彼女の言ってる事は彼女や更識家の都合が良いだけの話でしかない。だが、楯無をあんな目に遭わせてしまった自分にも責任がある為、何も言えなかったーーそれも、ある人物のせいでもあるが……。
一夏は再び溜め息を吐くも、呆れながらも頷いた。ーー解りましたーー、一夏は虚にそう言うと、それを聞いた虚は顔を上げ瞠目し、直ぐに泣きそうになり。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
虚は目尻に涙を浮かべながら、一夏に感謝の言葉を述べる。これで楯無を助ける事が出来る。一夏なら絶対に楯無を救う事が出来ると。
勿論、それは一夏自身が決める為であるがこの際どうでもいい。楯無を助ける事が出来るのらば何でもいい、と。
「それよりも話は終わりですよね?」
一夏は訪ねると、虚は顔を上げる。虚は目尻に涙を浮かべているも涙は頬を伝っていた。それを見た一夏は呆れるも立ち上がる。
「はい、それよりも織斑さんに、これを差し上げます」
虚は手をポケットに入れながら、一夏に近付き、一夏の近くポケットからある物を取り出し、それを掌の上に置くように、一夏に見せた。
「これは……鍵?」
一夏は虚が見せた物ーー鍵を指差しながら訪ねると、虚は頷いた。その鍵は一つしかなくは名札が着いており、名札には「1052」と書かれていた。虚は一夏の問いに答えた。
「はい、これは寮の鍵です」
「寮の鍵?」
虚は頷く。そして、その鍵は一夏が、これから三年間この学園で生活する為の必要な物であり、そして、とある者と同棲するのを、一夏は知らなかった。
次回、一夏は虚から渡された鍵で、とある者と寮室で同棲する羽目になります。