ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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第42話

「「…………」」

 

 あれからどのくらい経ったのだろうか、二人の間には色んな意味での重苦しい空気が流れていた。それは良い意味でもあり、悪い意味での空気でもあった。

 ことの発端は一夏が楯無にキスした事から始まったのだ。その為、一夏は表情を険しくしながらも頬を赤くし腕を組み、楯無は両手を自分の両頬に当てながら頬を赤くしており、二人は互いの相手に対し背を向けている。

 誰から見ても、二人に何が遭ったのかを気にするだろう。幸いな事にその事を目撃したのは誰もいない。居たとしても、二人に更なる誤解を生み出し、更には煩い奴が木刀片手に楯無に襲い掛かるに違いない。

 話を戻そう。二人は互いの相手に対し、掛けてやる言葉が見つからないでいて、時間だけが過ぎて行く。この状況を打開出来るのはどちらかが声を掛けるか、誰かが部屋に入ってくるのを祈るしかない。

 勿論、後者の方が当たった。それは、誰かが部屋の扉をノックしたのだ。二人は扉の方を見やると同時に扉が開き、ある人物達が部屋の中へと入ってきたーー勇人と止の二人だった。

 

「勇人、止……?」

 

 一夏は部屋に入ってきたのが勇人と止の二人だと気付くも、少し驚いていた。何故なら、二人は何か嫌な事が遭ったのかが判るように表情は何処か怒りに満ちている。

 勇人は眉間に皺を寄せながら腕を組み、止は頬を膨らましながら両手を頭の後ろに当てていた。

 二人の表情は何が遭ったのかか誰から見ても判る。現に一夏は瞠目しており、楯無は二人を見るも、不意に一夏を見て慌てて顔を逸らし、恥ずかしそうに両手の人差し指と人差し指を当てながらモジモジする。

 しかし、そんな楯無を他所に一夏は二人に訊ねる。

 

「どうした二人共? 何か遭ったのか?」

 

 一夏が訊ねると、勇人は片方の眉をピクッと動かし、止は止でその間に扉を締め鍵を掛けるが一夏の言葉に何も言わず更に頬を膨らます。

 何が遭ったのは本当だった。それでも、一夏は首を再び訊ねる。

 

「嫌な事でも遭ったのか? それに止が何かやらかしたのか?」

 

 一夏の言葉に止は思わずズッコケそうになるも、勇人は首を左右に振ると、勇人は一夏に鋭い眼差しを向ける。それを見た一夏は首を傾げるも、勇人は自分や止に遭った出来事を一夏に話そうとするも、楯無に気付く。

 

「それよりも、あの女はどうしたんだ?」

 

 勇人は、頬を紅くしながらモジモジしている楯無を見ながら指差す。一夏と止も楯無を見やるも、楯無は三人に背を向けていた。

 

「嫌……あの、更識はちょっと……それよりもどうしたんだ?」

 

 一夏は楯無の事を二人に話そうとしたが、二人が部屋に来た事を訊ねる。それを聞いた二人は互いを見ると軽く頷き、直ぐに一夏を見るや否や、勇人が口を開き、ある事を話した。

 

 

 

 

 

「何だと……あのクソ女がぁ……!」

 

 一夏は勇人から、勇人と止自身の身に起こった出来事を聞かされ、千冬への怒りが込み上げてくるのと同時に千冬への憎悪が込み上げてくるのを感じ歯を食い縛る。

 実は勇人は、千冬が自分や止から一夏の事を訊き出そうとしたのだ。それは一夏にとって一生消える事のないトラウマを思い出させ、ケルティックとの思い出を汚すような物。

 それを愚問とも言える事を千冬はしたのだ。一夏から見れば下らないと言うよりも、初めからと言うよりも全くと言って良い程無いが、千冬とはよりを戻し、仲直りしようと言う考えは完全に無くなった。

 そんな一夏に勇人は悲しい目で見つめ、止は一夏と勇人の話が長かったのかデスク近くにある椅子に座りながら、一夏を見て何も言わなかった。

 

「え、えっ?」

 

 一方、楯無だけは違っていた。

楯無は三人の会話を聞いて何も解らないでいた。

 そうだろう、楯無は三人の身に遭った事を知らないと言うよりも、知らない方が良いからだ。勇人が話したのは一夏と千冬との事であり、プレデターの話をしてはいない。

 話したら話したで余計ややこしくなるのと、いくら外からの干渉は出来ないIS学園でも全世界かIS委員会から何をされるかは解らないからだ。

 

「俺達はお前の事を訊かれたが、俺達は何も言わなかった」

「そうだぜ? 幾ら身内とは言え、身内の事を聞くのはどうかしているからな?」

 

 勇人は腕を組みながら言い、止はふてくされながらそう言った。二人は一夏の部下であっても仲間であり親友でもある。

 それを、一夏の姉である千冬が一夏の事を訊ねてきたのは許さなかった。今更後悔しても、一夏は千冬の元へと戻る気はないし、本人の気持ちも尊重しなければならないのだ。

 しかし、二人から話をされた一夏は俯き、両手を拳に変え力を入れる。

 

「ごめん二人共……俺のせいで……」

 

 一夏は怒りを抑えつつそう言った。本当なら怒りをぶつけたかったが二人は何も悪くない。悪いのは千冬である。一夏は自分の姉のせいで二人にまで迷惑を掛けた。

 それは一夏にとって何よりの二人への罪悪感を生み出す。そんな一夏に、勇人は悲しそうに見つめ瞑目し、止も止で一夏の気持ちを理解しているのか何も言えず、慰める言葉が見付からず声を詰まらせている。

 三人の間には重苦しい空気が流れ始める。刹那、止が楯無に気付き、一夏に訊ねる。

 

「そう言えば、更識……さんは何故此処にいるの?」

 

 止は楯無を手で指す。そんな止に訊かれた一夏は顔を上げ、止を見た後に楯無を見る。

 

「あっ……」

 

 楯無は一夏が自分を見た直後に声を上げ頬を紅くしながら、一夏から背を向け、モジモジする。そんな楯無に一夏は頬を紅く、頬を掻く。

 

「嫌、ちょっと……そのぉ……彼女は俺の……そのぉ」

 

 一夏は二人に掛けてやる言葉が見付からない。言えば言えばでややこしくなるのは目に見えるし、何より同室である事を話せば二人にからかわれる心配は無いものの、止は羨ましがるし、勇人は自分を見て不敵に笑うだろう。

 嫌、女子達の噂になっているから無理に等しい。一夏は何て言えば言いかで悩む一方、止は首を傾げ、勇人は瞑目している。

 

 止は兎も角、勇人は一夏と楯無が同室である事は知っていた。それも黙っていたのは一夏が自分から言うのを待っていたのだ。そして、一夏は観念したのか、恐る恐る話した。

 

 

 

 

「同室ーーーーッ!!!?」

 

 止は驚きの余り叫び、勇人は止の叫び声に瞠目し、一夏と楯無はたじろぐ。そんな三人とは裏腹に止は体を震わせながら、一夏を指した。

 

「い、一夏君? き、君はさ、更識さんとは、ど、同室なの?」

 

 止は震える指を一夏に指しながらそう言った。その言葉に反応したのか一夏は恥ずかしそうに頷き、楯無は両手で顔を覆い隠すも耳も真っ赤にしていた。

 それは二人が当たりとも言える行動にも思えた。しかし、止は顔を青褪めながら苦笑いする。

 

「そ、そうなんだ……う、羨ましい~~っ!!」

 

 止は顔を両手で覆い隠しながらそう言った。しかし、一夏と楯無が同室になったのは止のせいである。何故なら、止はIS学園に入学する前に一夏に更識姉妹の話をしたのだった。

 止は更識姉妹が心配だったのだ。幾ら二人の前から消えたと言っても、彼女達を心配させているのでは、と一夏に言った。

 一夏は一夏で気にするなとは言ったが、それを束が聞いてしまい、束はIS学園入学当日、この学園の学園長に頼んで一夏と同室にするように頼んだのだ。

 虚と束とでは束の方が偉く、理事長は束の意見を尊重し、一夏と楯無を同室にしたのである。それも楯無には別の理由があるものの、それを一夏達は知らない。

 そして、一夏がその事を知ったら、止に何て言うのかも、一夏や止自身も判らないだろう。

 

「取り敢えず、今はそんなのはどうでも良い……今は、そのぉ」

 

 一夏は言葉を詰まらせる。刹那、扉の方から大きな音が聴こえた。三人は突然の事で驚くも、勇人は何も動じず、ゆっくりと扉の方を見やる。

 扉の外から叩く音が聴こえるもそれは大きくなっていく。それは、とある人物が扉を強く叩いているからだった。

 それは一夏や楯無に用があるか、勇人か止に用があるのかは判らないが、一夏は嫌な予感がし、楯無の元へと歩み寄り、楯無を背中に隠す。

 楯無は一夏の行動に瞠目するも、扉の外から女性の声が聴こえた。

 ーー、一夏! この扉を開けろ!! ーーと。




 次回、再びあの煩い奴が一夏を問いつめる。
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